万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「ミヤネ屋」放送の火災映像はフェイク?

2024年12月24日 12時20分50秒 | 日本政治
 先月11月27日に東京都文京区にて発生した猪口邦子参議院議員宅の火災に際し、日本テレビ系の情報番組「情報ライブミヤネ屋」が火災直後の様子を撮影したとされる映像を報じたことから、SNS等で批判を浴びることとなりました。BPO(放送倫理・番組向上機構)にも、12月19日までに250件の苦情が寄せられたと報じられております。

 同映像に関する批判の多くは、映像があまりにもショッキングであるため、ご遺族への配慮を欠いているというものです。同火災では、ご家族となるお二人の方が亡くなられたことが既に確認されており、動画に映されていた炎を前にしたベランダの女性もその内のお一人である可能性があるからです。逃げ遅れた方の様子を放送するのは無神経で残酷であり、放送倫理に反するということなのでしょう。確かに同主張には一理も二理もあるように思えるのですが、全く疑問がないわけではありません。何故ならば、これらの批判は、映像が‘本物’であることを前提としているからです。仮にこの前提が崩れますと、同火災事件は、全く別の様相を呈してくることとなりましょう。

 先ずもって、同動画には、加工が加わっている疑いがあります。火災の現場をリアルタイムで撮影したものであるならば、途中で画面やアングルの切り替えがあるはずもありません。ところが、同動画は少なくとも3つのパートから構成されており、しかもカメラの位置にも違いが見られるのです(その一つには木の枝が映っており、ベランダの内側から撮影したとしか思えない・・・)。また、ベランダの女性は轟々と燃えさかる炎を前にしているのですが、衣服には全く引火していない点にも不自然さがあります。仮に、あたかも中世の火あぶりのような悲惨な状況が映し出されていたとしますと、同番組に対する批判は、今日の程度では済まされなかったことでしょう。むしろ、動画の最後のパーツでは、女性は、画面右の方向に小走りで逃げており、同動画の見た人々の多くは、この女性は無事に避難したものと信じたかも知れません。 ‘ご遺族への配慮が欠けている’とする批判は、映像に映っていた女性が長女であるとする前提において、はじめて成り立つのです。

 これらの他にも、火災の被害状況に関する情報にも齟齬が見られます。玄関付近で倒れているところを発見され、病院に搬送されたとされる第三の女性の存在は、その後、何故か、消されてしまっています(初期の放送では、搬送されるシーンも報じていたらしい・・・)。こうした同火災に関する不審点をも考慮しますと、同番組に対する批判点は、放送倫理の欠如ではなく、動画の真偽を確認する作業を怠ったところにあるように思えます。今日は、生成AIの技術を用いればフェイク動画は素人での簡単に造れる時代でもあります。一般の視聴者提供とは言え、同動画もフェイクである可能性について十分に留意すべきであったと言えましょう。また、逆に本物であるのならば、ベランダ沿いに逃げていた女性が、なぜ、屋内に戻って台所でなくなったのか(映像の猛火では、屋内に入ることすら不可能では・・・)、搬出されたという女性は、いったい誰であるのか、などの多くの謎が残ることになります。

 そして、このことは、BPOの報告をもって同動画の問題が解決したわけではないことを意味しています。否、同動画を‘本物’と決めつけた上で、倫理問題に閉じ込める形で幕引きが意図されているとすれば、やはり、同火災には何らかの事件性があったものと推測せざるを得ないのです。しかも、火災の現場検証等に際して警察も同動画を入手しているはずですので、映像の真偽については、公的な鑑定に付されるべきものでもありましょう。事実を突き止めるには、すり込まれた最初の前提を疑ってみることこそ、大事なように思えます。マスメディアも、SNSにも、世論誘導のプロは潜んでいるものです。放送倫理を問う前に、先ずもって、映像の真偽を問うべきではないかと思うのです。

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