万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イギリス女性議員暗殺事件-何故現地は冷静なのか?

2016年06月17日 10時06分22秒 | ヨーロッパ
残留派女性議員、撃たれ死亡=国民投票に影響の可能性―英中部
 今朝方、EUからの離脱を問う国民投票を前にしたイギリスから、労働党に所属し、EU残留派であったジョー・コックス議員の暗殺を伝える衝撃的なニュースが飛び込んできました。ネット上では、第一次世界大戦の引き金となった”サラエボの一発の銃声”に譬える意見が見られる一方で、BBCの報道を見る限り、現地は予想外に冷静さを保っているようです。

 それでは、何故、歴史的国民投票を控えた時期に、政治的暗殺という忌まわしい事件が発生しながら、現地はかくも落ち着いているのでしょうか。犯人は既に逮捕されていますが、居合わせた目撃者の証言によりますと、暗殺に際してこの犯人は、”ブリテン・ファースト”と叫んだそうです。”ブリテン・ファースト”とは、EU離脱を主張するイギリスの”極右団体”の名称ですが、同団体は、早々に犯行を否認しています。表面的には残留派が離脱派に対して政治的テロを仕掛けた構図となりますので、一昔前であるならば、国民世論は離脱派批判で激高したことでしょう。しかしながら、この事件は、国民投票の行方にも影響を与えるとされながら、今のところ、イギリスにおいて感情的な反応は見られないのです。その理由として推測されることは、国民の多くが、表面的な構図を素直には信じなくなってきていることです。例えば、離脱派が優勢にある中、犯人が”ブリテン・ファースト”と叫んだ点も疑問の一つです。優勢にある側が、敢えて自らに不利になるような行動をとるとは思えないからです。イギリスは、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロなど、名探偵が数多く誕生した国でもありますが、推理小説好きのイギリス人の多くは、事件の裏には別の思惑が働いている可能性を敏感に感じ取っているのかもしれません。

 情報に乏しく、事件の真相が不明な段階では、国民としても、判断のしようがないのでしょう。もっとも、こうした国民の警戒心と用心深さこそ、国民が”政治的テクニック”のリスクを熟知した民主主義国家の姿であるのかもしれません。

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4 コメント

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Unknown (北極熊)
2016-06-20 10:41:41
ブリテンファーストという背景には、きっとイギリスはヨーロッパ(大陸)ではないという考え方があるんですよね。 
事の是非は別として、心情としては分かるんですよ。 私は、日本をアジアの一部と捉えられるのは嫌ですもの。 
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北極熊さま (kuranishi masako)
2016-06-20 12:58:21
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 おそらく、イギリスのみならず、多かれ少なかれ、いづれの国の国民も自国への愛着があるのでしょうが、特にイギリスは、歴史的にヨーロッパ大陸とは距離を置いてきましたので、今般の国民投票は、死活問題となってしまったのではないでしょうか。こうした国民感情を軽視したところに、今日の混乱があるのではないかと思うのです。日本国も、政府側が、単純労働者を含めた移民政策を推進しようとしているようですが、国民の大半は危機感を抱いているのではないでしょうか。
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無題 (二流記者)
2016-06-28 19:17:25
この議員が殺された事により投票が拮抗した。殺される前は、離脱派が大半を占めていた・・・
残留派がこうなることを想定して身内を殺害したともとられかねないよね・・・この冷静っぷりを見ると・・・
ニュース放映時から、どうもそーいう違和感を感じてならなかった
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二流記者さま (kuranishi masako)
2016-06-28 21:13:52
 コメントをお寄せくださいまして、ありがとうございました。
 おそらく、国民の大半がその可能性を薄々感じ取っていたからこそ、離脱派が勝利する結果となったのではないでしょうか。この国民投票によって、いままで水面下に蠢いていたものが、表面化しそうな気配を感じます。
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