万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

欧州議会選挙の行方-イギリス離脱問題にも影響?

2019年05月27日 14時50分55秒 | ヨーロッパ
親EU二大会派、半数割れ 欧州議会選、懐疑派は拡大
イギリスでは、メイ首相が辞任の意向を表明するなど、EU離脱問題をめぐる混迷は深まるばかりです。泥沼状態が続く中、EUでは、今月26日を投票の締切日として欧州議会選挙が実施され、その行方に関心が集まっています。

 EUの統合推進の旗振り役を務めているマクロン大統領のお膝元であるフランスでは、既に選挙結果が判明しており、与党の共和国前進は僅差ながらもマリー・ルペン氏率いる国民連合に敗北を喫しています。黄色いベスト運動を引き起こしたように、強引に新自由主義的政策を推し進めるマクロン大統領に対する失望が逆風となったのでしょう。その一方で、伸び悩みが指摘されてはいるものの、その他の諸国でも、EUへの権力集中に抵抗し、移民政策にも反対の立場にある懐疑派の政党が議席数を増やすものと予測されています。

加盟国代表によって構成される理事会を‘上院’に見立てると、欧州議会は欧州市民を代表する下院とも称されており、理事会と対等の立法上の権限を付与されています。このため、仮に懐疑派が相当数の議席を確保するとしますと、メルケル独首相とマクロン仏大統領が手を結んで進めている統合推進路線の行方も怪しくなります。議席の全体数からすれば懐疑派は過半数を下回ってはいても、中道右派の動き次第では、統合推進法案に対するブレーキ役となる可能性があるからです(法案は原則として欧州委員会が提出…)。中道右派もまた各国の保守層を主たる支持基盤としており、必ずしも主権のEUへの一層の委譲や移民政策の一元化には賛成していないからです。

 そして、仮に、欧州議会の勢力図が懐疑派を含めて右方向に移動するとなりますと、その影響は、イギリスの離脱問題にも及ぶかもしれません。そもそも、イギリスが国民投票によってEUからの離脱を決意した主な理由は、国家の主権的権限である国境管理の政策権限をEUに奪われるとする危機感が国民に広く共有されたところにあります。離脱派の政治家の人々は口々に‘イギリスの主権を取り戻そう’と叫んだのであり、このスローガンには、EUに対する財政移転に関する国民の不満の解消のみならず、主権奪還による移民流入の抑制も含意されていたとも言えます。

こうしたイギリスの立場は、‘人の自由移動’の原則をあくまでも貫く姿勢を崩さなかったEU側とは相いれず、両者が妥協の余地なく対立する要因となったのですが、欧州議会における右派勢力の拡大は、EUの側からイギリスに歩み寄る可能性をもたらします。言い換えますと、イギリスが変わるのではなく、EUが変わるかもしれないのです。国境管理の権限を加盟国に戻す方向で改革が行われ、それが、イギリス側が満足するレベルであるならば、イギリスは離脱を思い止まるかもしれません。あるいは、EU側の変化を理由に、前提条件が崩れたとして、イギリスは、国民投票の再実施を以って再度EUからの離脱の是非を国民に問うかもしれないのです(もっとも、それでも、必ずしも残留票が多数となるとは限らない…)。

従来、欧州議会選挙は、EUに対する親近感が薄いために一般国民からの関心が低く、その投票率も低迷を続けておりました。しかしながら、移民問題といった一般国民の日常生活にまで関わる領域にその権限が広がった結果、加盟国の一般国民も同選挙に対して無関心ではいられなくなっています。欧州議会内の勢力図の変化は、EUのみならず、イギリスの将来をも左右するのではないかと思うのです。

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