万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

現代の政治制度に欠けている理系思考-強度設計への無関心

2022年11月25日 11時10分31秒 | 統治制度論
 今日の政治の世界は、不条理かつ筋の通らない出来事が多々見受けられ、しかも政治家による利己的欲望が目に余る腐敗をもたらしています。国際社会にあっては紛争や戦争が後を絶たず、外部から迫り来る安全保障上の脅威は、自由や権利の制限並びに増税といった形で国民をも圧迫しています。加えて、世界権力によるデジタル全体主義の影も忍び寄っており、状況は悪化する一途を辿っているかのようなのです。こうした状況を目の当たりにしますと、現代の政治には、決定的に欠けているものがあるのではないかと、ふと、思うようになりました。欠けているもの、それは、理系思考です。

 例えば、民主主義という価値を具体化する制度について考えてみましょう。前回のアメリカ大統領選挙のみならず、今般のアメリカの中間選挙でも、不正選挙疑惑が持ち上がることとなりました。政権の正当性を揺るがす大問題に発展したのですが、デジタル技術の有無に拘わらず、民主的選挙制度が極めて脆弱であり、十分に民主主義を具現化していないことは疑いようもありません。従来型の買収や組織票の問題もありますし、地割りとなる選挙区自体がそもそも適切であるのか、といった根本的な疑問もあります。この結果、政治と民意との間には真逆ほどの相違が生じる事態を招いています。つまり、制度設計上に重大な欠陥があるにも拘わらず、政治家の誰もが、自らの損得勘定ばかりに関心を向けてそれを是正しようとしないのです。

 例えば、構造力学的な視点から見ますと、重大な欠陥を放置したままに設計図どおりに建設し、それを運営することはあり得ないことです。デザイン画が如何にすばらしく描かれた橋や建物でも、強度計算を怠ったり、それを無視しますと、橋はあえなく落下してしまい、建物も崩れてしまうからです。崩壊しない建造物を造るためには、極めて緻密に強度の計算をし、安全基準を満たさなければならないのです。

 構造物に作用する荷重は一つではなく、主荷重、従荷重、特殊荷重などを合わせると20以上にも及びます。加えて、力学、地質学、土質工学、水理学、振動学、地震学などの幅広い知識をも要します。建造物はこれらの全てに耐えなければならず、強度設計は、それを用いる人々の命を守るために必要不可欠となる極めて基礎的な作業なのです。普段は意識されないのですが、あらゆるインフラストラクチャーも、強度計算があってこそ初めて人々が安心して使うことができるのです。

 こうした観点からしますと、今日の民主的選挙制度とは、デザイン画の段階に過ぎないようにも思えてきます(イデオロギーに至っては、その最たるもの・・・)。選挙に際して内部、並びに、外部から加わるあらゆる‘荷重’について、それらに耐えるための工夫が十分になされているとは言い難いからです。力学的発想を加えれば、民主的選挙制度は、金融・財閥からのマネー・パワー、各種利益団体のロビイング、メディアの世論操作、外国からの政治・軍事的圧力といった外部荷重に耐えるよう設計されなければなりませんし、近年のデジタル技術の発展については、それが選挙に与える負の作用についても強度計算に加える必要がありましょう。また、新興宗教団体の動員パワーなども、国民と政治との繋がりを絶ちかねない危険な荷重となります。政治では、様々な要因が、民主的制度を脆弱化する荷重として働きますので、これら全てのマイナス影響をゼロ、あるいは、最小化し得る制度設計が望ましいと言うことになるのです。選挙の結果に対して疑いが生じている現行の選挙制度は、既に民主的制度としては崩壊しているとも言えましょう。

 こうした理系思考の欠如は、政治のみではなく、経済や社会においても見られます。度々バブル崩壊を起こす金融の世界も、‘水流’や‘水圧’が調整されておらず、‘治水システム’が未整備であるからなのでしょう。バブルを未然に防ぐためには、金融システムの設計に際しては、様々な荷重に関する複雑な計算を行なう必要があるのかもしれません。

 もっとも、理系の世界は基本的には物理的法則に従いますので、普遍的な計算式を導き出すことができますが、文系の世界では、人々の意思が決定要因となりますので、感情による制御不能や予測不可能性、並びに、情報の正確性や充足性の確保など、それ固有の問題があります。言い換えますと、民主的制度には、どのような人物が公職に就いたとしても(そもそも、不適格者が就任できないシステム設計が望ましい・・・)、また、様々な方面から破壊的な作用を及ぼす多様な荷重が加えられたとしても、決して制度崩壊が起こらず、国民と政治とを結ぶ機能を果たし続けられ得る強度計算が要とされるとも言えましょう(スーパーコンピューターなども活用できるのでは・・・)。民主的制度の強度強化には、従来の制度に拘らない新たなアイディアも必要かもしれず、理系思考に基づく発想の転換こそ、現代という時代にあって、民主主義を崩壊の危機から救い出すのではないかと思うのです。

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