万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナの核武装は正当化できるのか?

2023年07月24日 12時03分19秒 | 国際政治
 ‘ウクライナに対して核兵器を供与すべき’とでも主張しようものなら、平和主義者のみならず、‘世界’というものから強い反発を受けそうです。大手メディアをはじめ、各国政府もからもウクライナの核武装はあり得ない、として即座に却下することでしょう。しかしながら、軍事大国に対しても抑止力を発揮する核の効果を考慮しますと、ウクライナの核武装は、最初から選択肢から外すのは早計であるように思えます。それでは、ウクライナの核武装は論理的に正当化できるのでしょうか。

第1に、NPTのように戦争当事国の一方に対してのみ兵器に関する制約を課すことは、ナンセンスの極みです。かつて、チンギス・ハーンが世界帝国を建設し得たのはモンゴルの機動力に優れた騎馬部隊に追うところが大きく、銃火器の発明とその使用が世界史を大きく変えたことはよく知られています。第二次世界大戦末にあっても、連合国並びに枢軸国の両陣営とも核兵器開発競争に鎬を削ったように、古今東西を問わず、戦争の勝敗は兵器の能力によって左右されたのです。戦争という行為が、対等な立場にある当事国による兵器保有・開発競争を伴う以上、一方側の制約は、戦争が始まる前から勝敗を決めているようなものです。常識的に考えれば、戦争当事国によるNPTの遵守はあり得ないことと言えましょう。しかも、仮にロシアを国際法に違反する‘侵略国’と見なすならば、なおさらに理不尽です。

第2に、NPTでは、核兵器国に対して核の拡散は禁じ、核軍縮交渉を義務化してはいても、その使用については無言を貫いています。このため、ウクライナ紛争の激化を前にして、国際社会では核兵器の使用禁止が訴えられることにもなったのですが、使用禁止の明文を欠くのは、使用まで禁止しますと相互確証破壊の論理が働かないとする判断が働いたからなのかもしれません。しかしながら、禁止条項が設けられていない以上、ロシアであれ、中国であれ、核兵器国は、自国の核兵器の使用について合法性を主張することができるのです。NPT体制の現状は、核保有国のみが核兵器の保有も使用も可能であり、かつ、核の抑止力の恩恵にも与っていることとなりましょう。この現実は、主権平等の原則に照らしてもあまりにも不平等です。

そして第3に指摘すべきは、NPTには、核兵器国に対して軍事同盟国に対する核の傘の提供、並びに、核兵器の配備を禁じていない点です。仮に、これらの行為が条約上の禁止行為であるならば、同盟国への核配備を伴うニュークリア・シェアリングも違法行為と言うことになります。しかしながら、現実には、NATOにあってはベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの五カ国にはアメリカの核が配備されています。ロシアも、先日、NPT加盟国であるベラルーシに対して核配備を完了させました。これらの事例は、軍事同盟国に対する核配備は同条約によって禁じられている‘核拡散’としては見なされず、合法的な行為とされていることを示しています。もっとも、ベラルーシのルカシェンコ大統領が主張するように、同大統領がロシア供与の核兵器の‘核のボタン’を単独で押すことができるならば、その合法性については議論が起きるかもしれません。

それでは、正式にアメリカと軍事同盟を結んでおらず、NATOの加盟国でもないウクライナの場合はどうなのでしょうか。2022年5月9日には、アメリカにあって対ウクライナ武器貸与法(ウクライナ民主主義防衛・レンドリース法)が成立しており、先日、注目されることとなったクラスター爆弾の供与も同法に基づいています。そして、法文を読む限り、‘支援兵器から核兵器を除外する’と明記するパラグラフは見当たらないのです。

以上の諸点を考え合わせますと、ウクライナの核武装という選択肢は、頭から否定はできないように思えます(正当性を主張できる・・・)。ウクライナには、NPTからの正式の手続きを経た脱退、並びに、アメリカによる供与の何れであれ、核保有もしくは核配備の道が閉ざされているわけではないようです。もっとも、後者の場合には、いざという時になってアメリカの判断次第で核の傘が開かない可能性もありますので、ウクライナとしては、前者の方がより望ましい選択肢かもしれません。何れにしましても、ロシアに核使用を躊躇させ、かつ、戦闘のエスカレーションを押さえる抑止力として働くならば、ウクライナの核武装は、紛争を沈静化に向かわせる可能性を秘めていると思うのです。

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