万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イランは何故アメリカを敵視するのか?-イランの挙動不審

2019年06月22日 14時57分56秒 | その他

イランが秘かに核・ミサイル開発に乗り出した理由は、中東におけるイスラエルとの対立にあります。しかしながら、よく考えてもみますと、イランには直接的にイスラエルを敵視する合理的な理由は見当たりません。イランの対イスラエル、並びに、対米姿勢には、どこか腑に落ちない点があるのです。

敢えてその主因を探すならば、イスラエル建国、並びにその後のパレスチナ紛争に端を発したユダヤ対アラブの中東戦争にあり、アラブ側に与したイランは、同対立軸においてイスラエルを敵国認定したこととなります。つまり、‘味方の敵は敵’という間接的な関係に過ぎず、イランは、第一次から第4次中東戦争に至るまでアラブ連合軍に参加してはいません。パレスチナ領やゴラン高原の入植地とは異なり、国境を接していないイランはイスラエル軍によって領域を占領されることもなかったのです。イランによるイスラエル敵視政策は中東和平の動きに水を差し、むしろ、戦線を拡大する方向に作用しているのです。

それともイランは、イスラエルのみが核を保有する現状に不満を抱き、ペルシャ帝国の再来を夢見て核・ミサイル開発を試みようとしたのでしょうか。仮に同地域における核のバランスを考慮したのならば、自らがNPT条約違反の行為に手を染めるよりも、イスラエルに対して核放棄を迫るのが筋なはずです(イランは、公式には宗教上の理由から核開発を否定している…)。この方法であれば、国際的な支持を受けることもできますし(ICANも支援?)、厳しい制裁も受けずに済んだはずなのです。中東の覇者となることが核・ミサイル開発に着手した真の動機であるならば、イスラエルの脅威は言い訳に過ぎないのですが、曲がりなりにも国際法が存在する今日にあって、イランが覇者となるために周辺諸国との核戦争に訴える、あるいは、核で脅迫するというシナリオは、得るものも殆どなく非現実的なように思えます。

 それでは、イランのイスラエル敵視は、安全保障上の理由ではなく、合理性を越えた宗教的信条に基づいているのでしょうか。歴史的にみますと、イスラム教とユダヤ教とがかくも激しく敵対するのはイスラエル建国以降となります。『コーラン』にあって、ユダヤ教徒はイスラム教に改宗すべき聖典の民ですが、ユーラシア大陸の大半の地域では両者は共存しており、むしろ協力関係を築いていた場合も少なくありません。キリスト教と比較すれば、ユダヤ教の方がイスラム教との間に親和性が高く、食事にタブーを設ける等の生活習慣や戒律等においても共通性を見出すことができるのです。また、イラン国以内にもユダヤ教徒が居住しておりますので(何故か、ホメイニ師の親族にもユダヤ人がいる?…)、イランがユダヤ人をとりわけ敵視する理由も薄いと言わざるを得ないのです。

 もっとも、イランのイスラム教徒の多くはシーア派であるものの、イランの現体制はイスラム原理主義に近いため、ユダヤ教のみならず、他の一切の宗教や宗派に対して攻撃的なのかもしれません。サウジアラビアに対する敵視も同国がスンナ派の分派であるワッハーブ主義を国教とする国であるからなのでしょう。双方ともが原理主義故に両国は火花を散らすことになるのでしょうが、イランとサウジアラビアとの対立は、イスラエルを主目的としたイランの核・ミサイル開発に対してサウジアラビアが強固に反対する構図となっています。奇妙なことに、イランの核開発は、宗教的に対立していたはずのイスラエルとサウジアラビアとの間に共闘関係をもたらしており、イランは、イスラム教国の結束を打ち砕く役割を果たしてしまっているのです(上述した‘味方の敵は敵’論も成り立たなくなる…)。

 そして、イランがアメリカを敵視する理由となりますと、さらに訳がわからなくなります。イランにとりましてのアメリカとは、ユダヤ系人口が多く、そのロビー活動が政策決定に多大な影響を与えている故のイスラエルとの同一視にあります。確かに、イスラエルはアメリカの事実上の同盟国ではありますが、ここでアメリカとイランが開戦に至るとなりますと、アメリカは代理戦争を戦うと言うことになりましょう。そしてイランは、自ら世界屈指の軍事大国を挑発して戦争に望むという愚を犯していることともなるのです。

  以上に述べましたように、イランの行動は国際社会に混乱と戦争のリスクをもたらすのみであり、自らの首を自らの手で絞めているようにも見えます。イランの指導者が愚かではないとしますと、あり得るシナリオは、イスラム革命以来、イランが何らかの国際勢力によって操られているという可能性です(一種の‘八百長’?)。一見、合理性を欠いた行動でも表向きとは異なる目的を想定すれば理解の範疇に入ることは多々ありますので、イランの挙動不審な言動については、その背景こそ見極めるべきではないかと思うのです。

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6 コメント

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イランが反米なのではなく (Unknown)
2019-06-23 04:30:35
 アメリカが反イランなのだ。英の対ロシア百年戦争とかイスラエルの反イランに引きずられて。
 カスピ海に面しているだろう?あの方面からロシアを破壊したいわけだ。イギリスは。カスピ海にロシアは小さな軍艦の艦隊を持っている。これが内水面を通して黒海にもバルト海にも出てこられる。
 アメリカにはクリスチャンシオニストが巨大な勢力を持っている。だからイランを攻撃したのだ。
 アメリカは閉店して。イギリス、イスラエル、そしてナチズムをウクライナに復活させるドイツを放り出して内政に集中すればすぐ再び偉大な国になる。
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Unknownさま (kuranishi masako)
2019-06-23 09:43:55
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 ご説に拠りますと、真犯人はロシアということになるのではないでしょうか。他国を対立させてその隙に自国の利益を確保することにかけては、ロシア、あるいは、そのバックより右に出る国はありません。この線で洗ってみる必要はあるように思えます。
返信する
Unknown (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2019-06-23 11:50:19
今回の命題ですが、、、、
イランの反米感情の理由については、私にも、さっぱりわかりませんね。
イスラム教が、その原因だという意見もありますが、それだけでは説明できません。
イスラム教がイラン(ペルシャ)に布教されたのは、もう、随分、古代のことだと思いますが、
ペルシャ人が、それほど狂信的だったわけではないようです。

中世イスラム教ペルシャの詩人、ハ-フィズとかハ-ディーの著作を見ましても、
いかにも良識を備えた賢者の書物という印象で、偏固な感じは全くしません。

やはり、イランがおかしくなった大きな原因は、イランの皇帝制が打倒された時の異様な風潮が蔓延し、
ある種の圧搾空気のようにイランの社会に絶大な圧力を及ぼしたからでしょう。

私たち日本人が中東(西アジア)の問題で、いろいろ口を挟むことは困難です。
しかし、私たち日本人が、この問題で、何ができるかと言うことは、真摯に
考える事も必要だと思います。

日本は、日露戦争以来、アラビアやペルシャの人々からは、おおむね、尊敬されています。
そういう無形の資産を生かす道はないものかと、つくづくかんがえるのですが、、、、、、????
、、、、難しいでしょうかねぇ??

◎日の本の 先人たちが 培いし
       西域びととの 友愛思えば
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櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2019-06-23 17:23:08
 コメントをいただきまして、ありががとうございました。

 イランのイスラム革命につきましては、その国際的な背景を考えるべきではないかと考えております。イランに全体主義体制を樹立するために、何か、大きな国際的な力が働いたのでは、と…。

  天空を すさぶあらしと 見ゆれども 雲にかくるる ひとぞありなむ 
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不思議 (Bystrouska.Vixen)
2019-06-24 20:11:42
イラン(ペルシャ)という国はわたしにとって興味のある国でした。
どっちかといえば、イメージとは裏腹に『緩い』宗教と思っていたイスラム教が、急に合衆国のファンダメンタリストみたいに過激になったのは、とても不思議でしたが。
くらにし先生にもわかりませんか・・・。
なら、私には尚更わからないです。
しかし、あのあたりの歴史や文化に興味はありますので、今後も注視していきたいと考えます。
今後とも、国際政治の勉強にちょくちょく参りますね。
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Bystrouska.Vixenさま (kuranishi masako)
2019-06-24 21:51:03
 コメントをお寄せくださいまして、ありがとうございました。

 もしかいたしますと、イランのイスラム革命は、本来のイスラム教を起源としているのではなく、イスラム教を装った別種の全体主義勢力によって計画・実行されたのではないかと疑っております。確証はないのですが…。イスラム革命は、現代史における謎の一つであると思うのです。
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