万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

東京都火葬場の中国系企業独占は独禁法違反では?

2022年10月14日 12時31分26秒 | 日本政治
 人は必ず死を迎えますので、誰もが火葬や埋葬を避けて通ることができません。このため、公益性が高く、いわば、社会インフラと言っても過言ではないのですが、東京都では、目下、思わぬ事態が発生しているそうです。それは、9カ所ある火葬場のうちの6カ所が、中国系資本の手に握られてしまったというものです。しかも、全9カ所のうちの7カ所が民営であり、そのうちの6カ所というのですから、民営部分がほぼ中国系に独占された状況となるのです。

 それでは、何故、このような事態が発生してしまったのでしょうか。中国系企業の独占は、日本企業の株式取得によって生じています。六カ所の火葬場は、これまで広済堂ホールディングスを親会社とする東京博善という会社によって運営されてきました。‘初代東京博善’は、明治20年に民間の実業家によって設立されものの大正期に一端解散となり、再出発後は僧侶による経営が戦争を挟んでおよそ60年間続いたそうです(株主の多くも寺院や僧侶・・・)。ところが、1983年には広済堂(旧名廣済堂)のオーナーの櫻井氏が株式を取得して筆頭株主となり、1994年には大規模な増資を経て東京博善を子会社化します。桜井氏の死後は廣済堂の経営は傾くものの、独占的事業による優良企業であったことから、ここに同社株の買い取り合戦が始まります。同合戦劇の舞台を見ますと、三井住友銀行、米ベインキャピタル系ファンド、村上ファンド、麻生グループなど、そうそうたる事業者の名が連なっています(なお、2019年には東京博善は完全子会社化される・・・)。

麻生グループが一歩リードする中、2019年7月に、一族から買い受けて同社株の12%を保有していた「エイチ・アイ・エス」澤田秀雄会長は、羅怡文氏をトップとするラオックス・グループの傘下にある人材派遣会社「グローバルワーカー派遣」に保有株のすべてを売却します。その後、同社は、麻生グループが手放した株を買い取るなど買い増しを続け、2022年1月には、広済堂グループが羅氏関連の投資会社に対して第三者割当増資を実施したことにより、遂に保有率は40%を越えるに至るのです。中国企業による買収の背景には、同社が有する高い火葬技術の獲得にあるとする指摘もあります(人口問題を抱える中国共産党は、古来の土葬から火葬へと転換を図る方針を示している・・・)。

 かくして、東京都の火葬場全体の凡そ3分の2、民間部門の7分の6が中国系企業によって占められることとなったのですが、問題はこれに留まりません。東京博善は、今年の7月から自らエンディング(葬儀)事業にも乗り出すこととなったからです。新規参入の理由は、火葬場の経営よりも葬儀事業の方が利益率が高いからなそうです。エンディング事業への参入は2019年における完全子会社化に際して既に決定されていたのですが、これに伴い、同社は、他の葬儀社に対して、'東京博善の斎場をウェブでの宣伝に用いることを禁じた'というのです。この結果、他の葬儀社の売り上げが激減するという危機を招いているのです。以上の経緯から、幾つかの問題点が見えてきます。

第1に、社会インフラとも言える火葬業は民営でもよいのか、という問題があります。全国の火葬場の99%は公営であり、東京都の民営維持には有力政治家や政治的利権の介在も指摘されています。火葬事業の高い公益性を考慮しますと、公営化した方が望ましいかもしれません。

第2に、民営事業には事業者間において競争が働くという利点がありますが、民間火葬市場が東京博善によって独占されている現状では、競争のメカニズムは殆ど働いていません。市場の占有率からしますと、市場を独占している東京博善は、独占禁止法に違反している疑いがあるのです。しかも、上述したように、東京博善は、自らエンディング事業を手がけ、かつ、競争関係にある他の事業者に対して不利な条件を課しています。これは、本来、不可欠施設(火葬場)を保有する事業者による、ライバル企業に対する排除行為に当たります(プラットフォームを有するIT大手による自社サービス事業の優遇による排除行為と同じ・・・)。つまり、東京博善は、水平並びに垂直の両者において、私的独占行為並びに優越的地位の濫用が問われることとなりましょう。

そして、第3に指摘すべきは、外資によるインフラ事業の独占問題です。テレビ局等のマスメディアにありましても、法律によって株式保有率を制限する外資規制がかけられています。東京都のような民間火葬業者の存在自体が極めて例外的な事例であるために法規制が遅れた側面もあるのでしょうが、日本国民、特に東京都民の多くは、中国資本による‘乗っ取り’を防ぐ法的措置を求めているのではないでしょうか。

第1と第3については具体的な立法措置を講じるには時間がかかりましょうから、即応を求めるならば、公正取引委員会の対応に期待すべきかもしれません(公営化、あるいは、法規制に関する議論も同時進行・・・)。排除措置命令によって、同委員会は、東京博善に対して事業分割やエンディング事業の切り離し等を命じることもできましょう。多死社会の到来が予測される中、日本人の死が中国のビジネスチャンスとなり、利益が国外に流れる現状は、何としても改善されなければならないと思うのです。

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