万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカが北朝鮮に譲歩した理由とは?-米朝首脳会談の思惑

2019年07月01日 16時12分00秒 | 国際政治
6月の最後の日は、朝鮮戦争の休戦協定から66年を経て初めてアメリカの大統領が北朝鮮の地を踏んだ記念すべき日となりました。トランプ米大統領のツイッターによる呼びかけに金正恩委員長が応じるという異例の展開となったのですが、‘歴史的対面’と評価する向きがあるものの、両国の行く先を不安視する声の方がやや強いようにも思えます。

 同会談後の記者団への説明においてトランプ大統領は今後のアメリカ政府の対北交渉の基本方針を示しております。中でも特に注目されるのは、非核化交渉の進展を急がない、並びに、アメリカが問題視しているのは長距離弾道ミサイルとする2点です。同情報が事実であれば、アメリカは、北朝鮮に対して強くCVID方式の核放棄を迫ったわけでもなく、また、短中距離ミサイルの開発・保持については黙認したことにもなります。いわば、アメリカ側が北朝鮮に対して大きく譲歩しているのです。北朝鮮側も、早々に米朝交渉の再開に言及し、今後の対米交渉に向けた期待感を表しており、今後、両国が組織する実務担当の交渉チームによって、詳細が詰められることとなりましょう。

 アメリカが態度を軟化させた主たる理由として第一に推測されるのは、先の習近平国家主席による訪朝です。米中対立がエスカレートする中、習主席が敢えて自ら北朝鮮に出向き、同国を自陣営に取り込もうとしたため、焦ったトランプ大統領が急遽予定を変更して北朝鮮を電撃訪問し、上記の‘譲歩’を手土産に北朝鮮をアメリカ側に引き寄せたとする説です。この説では、北朝鮮は、米中対立を自国に有利な方向に巧みに利用し、中国さえも手玉に取ったことになります。厳しい経済制裁下にあって高まっていた北朝鮮国民の金委員長に対する不満も提言するでしょうし、何よりも、アメリカと対等に渡り合う偉大な姿を国民に披露することもできたのですから、金委員長にとりましては、トランプ大統領の訪朝は渡りに船であったはずです。

それでは、北朝鮮の‘蝙蝠外交’は、当事国、並びに、周辺諸国にどのような影響を当てるのでしょうか。中国からしますと予想外の‘裏切り’あるいは米陣営への‘寝返り’となりますので、北朝鮮に対する態度は硬化せざるを得なくなるでしょう。また、アメリカの対北妥協は、北朝鮮の核や中短距離ミサイルの脅威に晒されている日本国にあっては、アメリカから‘置き去りにされた’とする感を強めます。日米同盟破棄発言が報じられた矢先であるため、安全保障に対する不安感とアメリカに対する不信感は高まるかもしれません。そして北朝鮮を翻意させたアメリカもまた、自国の利益にさえなればどちら側にも靡くと言う北朝鮮の‘主体思想’は長期的にはリスク含みとなりましょう。

 第一の推測は、米中対立を前提とした時系列的な流れから導き出されるのですが、トランプ大統領は、G20の席にあっては、習国家主席との友好をアピールすると共に、ファウェイ問題等でも妥協を見せています。アメリカの対中譲歩からしますと、第一の推測と現実は辻褄が合いません。そこで考えられる第二の推測は、対立を装いながら、実のところ、世界の指導者と称される各国首脳が裏で繋がっている‘共謀の推測’です。

 ‘共謀の推測’、あるいは、‘共謀仮説’とは、各国の国民を騙すための手法であり、国家間の対立は、国民に尤もらしい理由を説明するための演出や見せかけに過ぎません。外部的な対立が存在していれば、同対立を解決するため、あるいは、平和のためとして、自国の主権喪失となる政策や国民にとりまして望ましくない政策を国内からの抵抗なく実行できるからです。例えば、G20では中国はアメリカに譲歩する形で自国の市場開放を約束していますし、アメリカも上述したように対中制裁を控えています。米中朝の三国関係も、それぞれが予め振られている役割を果たしたに過ぎず、何れの国の国民も不利益を被ることになるのです。乃ち、アメリカ国民は、安価な中国製品の輸出攻勢と産業の空洞化による失業問題等が放置される一方で、中国と北朝鮮は共に独裁体制をアメリカから保障されますので、国民の民主化や自由化の望みが遠のきます(経済的利権は独裁者とその取り巻きが独占…)。このシナリオで最も利益を得るのは、各国首脳にシナリオを与えつつ、グローバル化を影から強力に推進していると推定される国際金融組織と云うことになりましょう。

 果たして、真実はどこにあるのでしょうか。‘共謀の推測’では、日本国政府は共謀の一味と云うことになり、中国や北朝鮮の軍事的脅威を名目に防衛費やアメリカからの兵器輸入を増額させざるを得なくなるのですが、このシナリオを完全に否定できないのが悲しいところです。仮に共謀シナリオが実在するならば、騙されている側の各国の国民、即ち、一般の人々が賢く協力し、世界支配、あるいは、人類支配の魔の手から逃れるべきではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (15)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 情報通信と金融は切り離すべ... | トップ | 日本国の対韓制裁について考える »
最新の画像もっと見る

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2019-07-01 18:32:54
今回のアメリカのトランプ大統領の北朝鮮領域への訪問ですが、
以前から予想されていたことであり、それほどの感慨はありません。
それにしても、テレビ放送で、何度も何度も、トランプ大統領と金正恩の
握手の画面を執拗に反復して放映しており、むしろ、そのほうが鬱陶しく
思いました。

今回の事をみましても、つくづく国際社会の権謀術数や駆け引きを思い知らされ、
日本は、、もっと、しっかりしないとイケない、と思うばかりです。

倉西様は、今回の状況につきまして、さまざまな角度から、精密な分析をなさって
おられますが、私には、そこまでの判断はできません。
ただ、今回のトランプ大統領の北朝鮮接近で、いったい、どの国が最大の受益者に
なるのか、??、、、それは興味深いです。

ただ、日本としては、軽挙盲動は、すべきではないと思います。

★★あるいは、そのうち、
『ほら、ほら、トランプ大統領でさえ、北朝鮮と直接会談をしてるじゃないか?
日本は、置いてきぼりにされてるぞ。日本も、至急、北朝鮮と直接交渉すべきだ』
、、、、などと言う馬鹿者が出てきそうですが、政府はそんな愚挙にでるべきでは
ないでしょう。★★

私が、今回のことで、つくづく自覚したのは、先日のトランプの日米安保破棄論と
重ね合わせて、
☆【結局、日本の国防や外交を決めるのは、あくまでも日本人である】と
言うことを思い知りました。☆

◎知られざる はかりごと多き この世界 清きヤマトは 如何に行くべき。

◆付記◆
ところで、良識派の保守主義者のペンス副大統領は、今回の北朝鮮接近や
先日の日米安保解消論について、内心、どう思われてるんでしょうか??
返信する
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2019-07-01 21:15:28
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 国際社会が謀略に満ちているのは今に始まったわけではなく、もしかしますと、映像技術やIT技術等のテクノロジーの発展により、より巧妙になっているとも言えるかもしれません。この点、我が国は極めてナイーブであり、他の諸国よりも数倍騙されやすいのではないかと懸念しております。

 われひとり 清きにまして ねがふるは あまねく清き この世なるかな
返信する
Unknown (mobilis-in-mobili)
2019-07-01 21:47:16
【思惑はあるだろうが】今回のトランプ大頭領と金委員長の会談は、基本的に『選挙に向けたトランプ大頭領のパフォーマンス』と考えて良いと思う。『北朝鮮を訪問した最初の大頭領』となり再選に向けて強力な一手を打ったのだろう。
『選挙のためならそこまでやるか』というのが正直な感想だ。 
返信する
Unknown (mobilis-in-mobili)
2019-07-01 21:52:48
【予想としては】
交渉は再開されるだろうが北朝鮮が具体的な核廃絶に動かない限り経済制裁の解除はないだろう。ただ中距離ミサイルには言及しなかったように『アメリカに影響のない範囲ならご自由に』との譲歩はありえるだろう。
返信する
謀略とは何だか狂乱しているね (Unknown)
2019-07-02 03:19:25
 北朝鮮と言う国は敵役もしていた。後ろ盾のソ連を失い、中国がまだ弱い時期に、アメリカの一大勢力の指示通り敵役をすることで糊口をしのいだのだろう。敵役をさせることで中露を威圧する軍を日韓に駐留させたのだ。武器も日韓に売りつけて大いに儲かったね。若大将の父は敵役をやめようとして殺されたのであろう。若大将はチャンスをうかがっていた。ハノイの会談でおそらくスーパーノートのことを持ち出したのだ。さらにミサイルは核搭載できないと正直に言ったのだろう。じゃ、インドやパキスタンの核と同じだから無視することにした。ま、ハノイ会談は決裂のふりをしてスーパーノートのことを調べたのだろう。
 ま、板門店の会談で朝鮮戦争は終わった。中野学校の卒業生が北の建国に関わっていたとするなら太平洋戦争も終わった。気候変動のせいでアメリカの農業はピンチとなった。南北アメリカに引きこもるのだろう。ユーラシアは中露などの上海協力機構が平和を維持することになる。安倍ちゃんも流れはわかっている。中国のことを永遠の隣国という言葉を使いだした。安倍ちゃんもアメリカの一大勢力の一員を続けるなら追い払うぞと恫喝されたのさ。重工などの軍需産業、およびゼネコンはリストラの嵐になる。一方、日本海は平和と繁栄の海となるので新たな産業が生じる。石油が存在するだろうから産油国になるかもね。
返信する
mobilis-in-mobileさま (kuranishi masako)
2019-07-02 19:30:19
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 突然の米中首脳会談がトランプ大統領の大統領選挙向けのパフォーマンスといたしましても、独裁者との握手のシーンが票に結び付くとも思えず、また、中短距離のミサイル保有を許しますと、日米同盟に亀裂が入ることでしょう。私には、トランプ大統領は、国際経済組織に妥協したように思えるのですが、いかがでしょうか…。
返信する
Unknownさま (kuranishi masako)
2019-07-02 19:34:54
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 核を搭載し得るミサイルを保有しなければ、核兵器を保有できるのであれば、我が国を含め、全ての諸国が核保有が可能ということになりましょう。つまり、NPT体制は崩壊することになります。また、仮に安倍首相が中ロに接近しようとすれば、安倍政権は、国民の信頼を失って瓦解するのではないでしょうか。中ロの平和とは、’奴隷の平和’に過ぎませんし、たとえ、東シナ海や日本海に石油が埋蔵されていたとしても、これらを中ロに奪われたのでは、何の意味もないのではないでしょうか。
返信する
核もミサイルも大した技術ではなくなっている (Unknown)
2019-07-03 04:23:16
 ミサイルなどホリエモンの会社でも打ち上げられる程度の技術。核もそう。だからNPT体制は持たない。別の仕組みが必要な時代だ。
 安倍政権が中ロに接近したら崩壊する・それはあなたの見解。そんなことはわからない。どのみち強いものになびく国だから、中ロ側が強くなれば、国民は特に財界は歓迎する。中国との貿易が米国よりはるかに大きくなれば当然そうなる。
 ネトウヨも今はアメリカのほうが強いと思っているから反中だが誰の目にも中国の方が強いとなれば、コロット親中派になること間違いなし。何しろ強いものを助け弱きを挫く国民だから。強いアメリカにはぺーこら、弱い韓国には「おら、こら、輸出禁止だ!」と息巻いているものね。
返信する
Unknownさま (kuranishi masako)
2019-07-03 09:30:43
 ご返事をいただきまして、ありがとうございました。

 何度も申し上げましたように、日本国民の多くは、倫理や道徳を基準に判断をしております。たとえ軍事力において中国が最強となったとしても、中国に靡くことはないでしょう。仮に財界が親中となるとすれば、それは、軍事力の強さではなく、利益ということになりましょう。そして、このメンタリティーは、日本国のみならず、全世界のグローバル企業に共通しているのではないでしょうか。

 それでは、Unknownさは、何処の国の国民なのでしょうか。中国が最強とみて中国に味方しているとしますと、Unknownさまの定義では、’日本人’ということになります。一方、先のコメント等を拝読しますと、アメリカを最強と見ておりますので、Unknownさまの定義では、’日本人’ではないこととなります。果たして、どちらなのでしょうか。
返信する
私の目には・・・。 (mobile)
2019-07-03 11:28:24
やはりパフォーマンスとしか映りませんでした。
-------🌟🌟🌟-------
アメリカといえばマンハッタンやウォール街のような大都会をイメージしますが、それはホンの一部。大部分のアメリカ人はアイダホとかアイオワとかでイモなんぞを作っているド田舎モンです。
-------🌟🌟🌟-------
特にトランプの支持層はそれで「強いアメリカ」なんて謳い文句に引っ掛かるのです。
-------🌟🌟🌟-------
こうした単純なアタマしか持たないトランプ支持層には、一人で国境線を超えたトランプ大統領が、「真昼の決闘」に向かうゲーリー・クーパーのように見えたに違いナイと思うのです。
-------🌟🌟🌟-------
結果は、今まで「でんでん虫」だった北朝鮮を、再び交渉のテーブルに載せたのですから大成功です。
-------🌟🌟🌟-------
時あたかもアメリカ国内では民主党候補たちによるディベートの真っ最中。これは強力な対抗する一手となったはずです。
返信する

国際政治」カテゴリの最新記事