万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

軍事的脅威に直面する国はNPTから脱退できる-中国の対日恫喝

2022年08月05日 12時24分18秒 | 国際政治
中国軍関係者の談として報じられたところによりますと、今般、ペロシ下院議長の訪台に対する‘報復’として中国が実施した軍事演習の対象には、日本国も含まれるそうです。実際に、日本国のEEZ内にある沖縄県周辺の海域にも、中国軍が発射した11発のミサイルのうち5発が落下しております。否が応でも米中間のみならず、日中間の緊張も高まっているのですが、戦争に発展する事態が想定されるからこそ、改めて考えてみるべき点があります。

8月1日より、ニューヨークにおいてNPT再検討会議が開催されていますが、西のウクライナ危機に続き、東の台湾危機が発生している今であるからこそ考えてみる点とは、NPTの条文です。同条約の第10条には、脱退に関する以下の条文が記されています。

「各締約国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する・・・」

以下に、国連安保理に対する3ヶ月前の通知という脱退手続きが記されているのですが、この条文から理解されることは、NPTは平時における条約であって有事、あるいは、軍事的衝突が懸念される状況下における適用は想定されていないという点です。考えても見ますと、同脱退条項は、当たり前と言えば当たり前です。何故ならば、物理的な力によって勝敗を決する戦争にあっては、兵器の能力が最大の勝利要因となりますので、一方にのみ絶対的な優位性を約束する兵器の保有、並びに、使用を認めると言うことは、合理的に考えればあり得ません。たとえ通常兵器において勝利を目前にしていたとしても、核保有国が非核保有国に対して核兵器を使用すれば、戦局はいとも簡単に逆転してしまうからです。勝利まで至らなくとも、少なくとも‘相打ち’まで持ち込むことはできましょう。現代に登場した核兵器は、古代ヒッタイトの鉄製武器、アレキサンダーのプランクス戦法、モンゴル帝国の騎兵そして近世の鉄砲や大砲の登場に勝る威力があるのです。

NPTの条文を丁寧に読みますと、戦時あるいは戦争リスクが強く認識される状況下においては、何れの締約国も核兵器の保有が国際法において許されているとしか解釈のしようがありません。この点を考慮しますと、ロシアによる軍事介入に直面しながら核保有という選択を怠ったウクライナの行動の方が、余程、不可思議なのです。あたかも、戦時にあってもNPTは厳格に遵守しなければならず、核兵器は保有できない、という条約上の拘束があるかのようにウクライナは振る舞っているのです。

同国がNPTからの脱退する正当な権利がありながらこれを行使しなかった理由としては、三次元戦争の視点から推理しますと、あえてNPT体制を維持するために同オプションを無視したのかもしれません。超国家権力体にとりましては、世界支配のためには、安保理理事国にして軍事大国でもある五カ国のみならず、イスラエルや北朝鮮(脅迫要員?)のみに核を独占させる方が好都合なのでしょう。ウクライナの非合理的な対応は、ウクライナ危機もまた、裏から操られた、あるいは、演出された可能性を示唆しているのです。

そして、台湾危機が中国による攻撃の可能性を高めている今日、日本国もまた、現状を‘この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしている’として、NPT第10条に基づいて同条約から脱退することができるはずです(なお、NPTでは、3ヶ月前の通告を義務づけていますが、奇襲攻撃を受けるリスクが高い場合には、正当防衛権の行使として事後的であれICJ等に対して脱退の合法性を主張できるはず・・・)。中国の脅威に対抗するために、NPT再検討会議における議論の如何に拘わらず、日本国政府は、早急にNPTからの脱退に舵を切り替えるべきなのではないでしょうか。仮に、ウクライナと同様に、日本国もまた核保有に二の足を踏むならば、台湾危機にも超国家権力体が準備したシナリオがあるとする疑いがより一層濃くなるのではないかと思うのです。

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