クリミア橋爆破事件を機に、ウクライナ紛争はエスカレーションの危機に直面しています。双方の応酬が続く中、ロシアによる核兵器の使用やアメリカによる核の報復の可能性も指摘されており、人類は、第三次世界大戦の瀬戸際に立たされている感があります。ロシアは、高さ500メートルもの巨大津波を起こし、沿岸都市を破壊する威力を有するとされる魚雷型核兵器ポセイドンの使用も厭わないとする指摘もあり(仮に完成させていたとすれば・・・)、ウクライナで始まった危機は、人類を滅亡させかねないのです。それでは、どのような考え方をもって対処すれば、核戦争を意味しかねない第三次世界大戦への拡大を回避することができるのでしょうか。
二度も悲惨極まりない世界大戦を経験しながらそれを三度も繰り返すようでは、人類の愚かさを証明するようなものとなりましょう(もっとも、‘最終戦争’を想定している勢力にとりましては第三次世界大戦は既定路線かもしれない・・・)。歴史に学ぼうとはしないのですから。そこで、本日は、ウクライナ問題が第三次世界大戦に発展させないためのロジックを考えてみようと思います。その鍵となるのは、国際紛争における政治問題と法律問題との明確な峻別です。
それでは、何故、政治問題と法律問題を区別する必要があるのでしょうか。その理由は、ウクライナ問題の根本的な原因が政治問題である一方で、法律問題として問われているのは、ロシアによる軍事介入という手段や戦争法に反する行為であるからです。言い換えますと、特定地域の帰属や独立をめぐる政治問題(なお、‘歴政学’即ちヒストロポリティークHistro-politic‘という用語も必要では・・・)’であれば、軍事同盟は集団的自衛権を発動する要件を失い、法律問題であれば、軍事同盟の枠外にあって別途、国際社会が対応を講じるべき問題となるのです。
なかなか説明が難しいのですが、政治問題とは、当事国の双方が歴史的並びに法的根拠を有し、全面的ではないにせよ、当事国の相互に相手国の言い分を認めている問題です。クリミア並びにウクライナ東部・南部は何れも定住民族とは言えない多民族混住地帯であり、このため、これらの地域では分離・独立運動が起きる歴史的な土壌があります。今日の国際社会には、多民族混住問題を解決する万能な方法は未だに考案されておらず、その帰属や法的立場の変更については、住民に自決の権利を認め(地域的法人格の承認)、住民投票に基づいて決定するのが基本的な原則とされています。最近でも、スコットランドにあってイギリスからの独立を問う住民投票が実施されたことは記憶に新しいところです。2014年9月に調印されたミンスク合意では、ドネツク代表とルガンスク代表が署名しておりますので、ウクライナ政府も少なくとも両州の国際法上の主体性は黙示的であれ承認しています。
もっとも、中央政府は、概して自国地域の分離・独立や他国への帰属を望まないため、住民投票実施のハードルは高く(憲法において殆ど克服が困難な障害を設けている国も・・・)、自治権の拡大等をもって分離・独立の要求を押さえ込もうとする傾向にあります。ウクライナの場合も、これらの地域に対して幅広い自治権を認めました。しかしながら、完全なる独立を目指す同地域の親ロ派勢力は、自治権拡大では満足せずに武力闘争に訴えることとなるのです。この時点ではウクライナ国内の内乱なのですが、今般、ロシアが軍事介入に踏み込む一方で、ウクライナがロシアの行為を国際犯罪である侵略として糾弾したため、事実上、アメリカをはじめNATO諸国をも巻き込む国際紛争へと発展したと言えましょう。
以上に述べたように、ウクライナ問題とは多民族混地域における分離・独立問題ですので、ここに、ウクライナ側の軍事行動は自衛権の行使であるのか、という問題が生じます。国連憲章においては、個別的自衛権であれ、集団的自衛権であれ、加盟国による武力の行使は自衛目的に限定しています。言い換えますと、侵略といった明らかに国際法に違反する国際犯罪ではない場合、即ち、政治問題である場合には(日本国内では、政治問題は‘領土問題’として認識されており、尖閣諸島問題では、中国の言い分を認めることとなる領土問題化は忌避されている・・・)、自衛権の発動要件を満たしていないこととなりましょう。実際に、1982年の3月にイギリスとアルゼンチンとの間で発生したフォークランド紛争では、同諸島をめぐる領有権問題を政治問題と見なしたアメリカもNATOも、当事国の一方であるイギリスはと軍事同盟関係にありながら集団的自衛権の発動を控えています。
ウクライナ紛争を政治問題と見なす上記のロジックは、仮にアメリカが直接的な軍事行動に踏み切った場合に予想される軍事同盟の連鎖的発動によるドミノ倒し的な第三次世界大戦への拡大を防ぐというメリットがあります。ロシアの軍事介入を侵略と見なす当事国のウクライナやアメリカ等のNATO諸国、そして、日本国政府からしますと‘ロシアの悪行を容認するのか’という批判もありましょうが、政治問題と法律問題とを分けて対処すれば、戦場で行なわれた非人道的な行為やロシアの軍事行動によってもたらされた損害については、ロシアに対して法律問題として賠償や補償等を請求することはできましょう(ロシアが無罪放免というわけではない・・・)。
本ロジックは、中立・公平な立場に立脚していますので、両当事国による拒絶が予測されるものの、早期に停戦を実現し、国際的な監視・管理の下での住民投票の再実施がやはり最も平和的な解決方法であるのかもしれません。何れにしましても、人類を核戦争による滅亡の淵から救うという至高の目的からしますと、同ロジックは、極めて有効な考え方なのではないかと思うのです。