世界経済フォーラムは、国家の主権を侵害する存在として大いに警戒すべきなのですが、同フォーラムが奪おうとしているのは、国家の主権のみではありません。民主主義国家では、それは、同時に国民の参政権の侵害を意味します。
同フォーラムは静かなる侵略を実行しているとしか言いようがないにも拘わらず、なおも、どちらかと申しますと好印象をもたれてきました。その理由は、積極的にグローバル・イシューに対応する姿勢を示すのみならず、人権問題に対する積極的取り組みを宣伝してきたからです。同フォーラムの報告書などにも、‘持続可能な成長’と並んで‘人権’の文字が散らばっています。
しかしながら、チベットやウイグル等における‘ジェノサイド’を知りながら、同フォーラムは中国の取り込みには余念がなく、ヤング・グローバル・リーダーズに選ばれた中国人も少なくありません。2023年のダボス会議にも、副首相の劉鶴氏が出席しており、中国市場の開放継続と同市場への海外からの投資を呼びかけています(もっとも、同年3月11日に第14期全国人民代表大会にて退任・・・)。また、本年度にあってヤング・グローバル・リーダーズの一人に選ばれた成田悠輔氏は、高齢者集団自決説や安楽死システムを提案したことで知られています。仮に同フォーラムが、人権の尊重を最優先に位置づけるならば、こうした矛盾した人選は行なわれなかったはずです。何れにしましても、人権問題に対して真摯に取り組むと言うよりも、同フォーラムのイメージ戦略、あるいは、二重思考における価値の先取りとして、人権問題の改善を表看板に掲げている節があるのです。
そして、同フォーラムが人権を持ち出した際に注意を要する点は、擁護の対象はあくまでも人々の生命、身体、人格等を意味する基本的人権であって、政治に参加する権利については看過している点です。2030年を達成目標年に掲げ、国連が推進しているSDGsにつきましても、17のターゲットには民主主義という表現が見当たりません。最も近いのが16番目に挙げられている“平和でだれもが受け入れられ、すべての人が法や制度で守られる社会をつくろう”であり、同ターゲットの16-7には「あらゆるレベルでものごとが決められるときには、実際に必要とされていることにこたえ、取り残される人がないように、また、人びとが参加しながら、さまざまな人の立場を代表する形でなされるようにする。」と謳われています。
しかしながら、そもそもSDGs自体が一部の人々によって決定され、その他大多数の人類は決定プロセスから排除されたのですから、これほど矛盾に満ちたターゲットはないとも言えましょう。そして、民主主義が国家の枠組みから離れますと、容易に外部者による支配が成立してしまう点を考慮しますと、同ターゲットは、むしろ、世界経済フォーラムやその背後に潜む世界権力による支配を実現するための詐術的な作戦である疑いも浮上してくるのです。
なお、昨今、日本企業でも導入が進んでいる「ジョブ型雇用」も、社員を決定プロセスから排除する点において、上述したSDGsの16-7の目標に反しているように思えます。また、派遣事業等とは中間搾取の一種とも考えられますので、人権の尊重を掲げるならば、少子化の原因ともされる不安定な雇用形態についても撲滅ターゲットとすべきなのではないでしょうか。実際には、理事に竹中平蔵氏の顔が見えるように、新自由主義者の集まりである世界経済フォーラムは、規制緩和政策の先導者でもありました。世界経済フォーラムは、これらの自己矛盾についても頬被りをしているのです(つづく)。