万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

無意味な日中首脳の‘一致’

2022年11月18日 10時47分30秒 | 国際政治
日本国の岸田文雄首相は、昨日11月17日にタイの首都バンコクにおいて中国の習近平国家主席と初の首脳会談を行ないました。今朝方、両首脳が‘核兵器の不使用で一致’とするニュースが速報として伝えられると共に、‘基本的考え方においても習主席と一致した’と報じられています。‘一致’という文字が並び、どこか、情報統制されている気配があるのですが(一致を使うように‘上部’から指令?)、この一致、無意味なのではないかと思うのです。

例えば、‘核兵器の不使用で一致’という見出しを目にした多くの人々は、中国が、自らの核兵器不使用を決断したものと錯覚したかもしれません。しかしながら、同記事を読みますと、日中両首脳は、ロシアはウクライナに対して核兵器を使用すべきではない、とする見解において一致したのであって、中国が核の不使用を約束したわけではありません。もちろん、日本国に対して核を使用しないとする確約を与えたわけでもないのです。習主席は、台湾併合という目的を達成するためには武力行使も辞さないとする方針を明言していますので、必要とあれば、通常兵器のみならず、核兵器も躊躇なく使用することでしょう。しかも、ロシアは当会談において部外者、すなわち、第三国であるため、両首脳の合意に拘束されるはずもなく、ロシア限定の核兵器不使用の‘一致’は、全くもって無意味なのです。

また、基本的な考え方の一致についても、一体、具体的な内容が明らかにされていません。首相の言葉をつなぎ合わせ、かつ言葉を補えば、おそらく、‘地域と国際社会の平和と繁栄のために、アジアの責任ある大国である両国は、建設的かつ安定的な日中関係を構築してゆくという方向性を共有し、これを双方の努力で実現してゆく‘ことで一致したということなのでしょう。しかしながら、そもそも中国にとりましての’平和と繁栄‘とは、台湾併合によって大中華帝国を建設し、かつ、一帯一路構想を実現して大中華圏をユーラシア大陸一体に広げることであるのかもしれません。否、この認識以外にはあり得ないことでしょう。

このため、この先、中国側が、首相の言質を取ったとばかりに日本国に対して広域中華圏への参加を求める事態も想定されます。あるいは、平和と繁栄の名の下で、内外からの対日攻略作戦を強化するかもしれません。中国も二重思考の国ですので、中国の言う平和とは戦争であり、繁栄とは搾取であると疑って然るべきです。平和と繁栄の実現という誰もが否定し得ない理想において両首脳が一致したとしても、両者が描く未来像が全く違っていれば、これもまた無意味となりましょう。

なお、日本メディアの報道とは異なり、中国外務省は、習主席は、尖閣諸島問題について「互いの「食い違い」に適切に対処するべきだとも訴え」、台湾問題や人権問題についても、「いかなる者のいかなる口実による内政干渉も受け入れない」と述べたとしています。同方針は以前のものと何らの変わりもありませんので、結局、今般の日中首脳会談の‘成果’はなかったと言うことになります。

さらに、より本質的な意味において両首脳の‘一致’が無意味と言える理由は、中国が、習主席独裁体制を敷く人治の国であるところにあります。上述したように、メディアの表現の多くは、中国政府ではなく「習主席と一致した」というものです。同国の独裁体制からすれば当然のことなのですが、人の支配には、決定者が代われば政策も変わるという不安定性が付きまといます。また、たとえ同一の人物であっても、決定者の気が変わっても、政策は変化します。言い換えますと、人治の国との間に安定的な関係を構築することは不可能に近いのです。この意味においても、今般の日中首脳による一致が無意味であることが理解されるのです。

以上に述べてきましたように、岸田首相と習主席による日中首脳会は、メディアが騒ぐほどの両国間における合意が形成されたわけではなく、むしろ、中国側から自国の立場に日本国側が‘一致’させるように求められたというのが真相なのかももしれません。中国は、‘不一致は一致なり’という二重思考を日本国側に強要しているとなりますと、日本国は、全体主義体制に飲み込まれないよう、いち早く中国から離れるべきではないかと思うのです。

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