先日、ポーランドに着弾したミサイルは、ロシアではなくウクライナ軍による迎撃ミサイルの流れ弾である可能性が濃厚となってきたようです。事の真相はポーランドによる調査の結果を待つしかないのですが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、当初よりロシアによる攻撃であると強く主張していました。同発言を信じ込んでNATO諸国が反応すれば戦火は瞬く間に広がり、今頃、全世界は第三次世界大戦に巻き込まれていたことでしょう。日本国内でも、ロシアによるミサイル攻撃を警戒してJアラートが発動される事態へと発展したかもしれないのですが、同事件は、一先ず事なきを得ています。
ミサイル着弾が大事に至らなかった理由は、ひとえに多くの諸国がゼレンスキー大統領の主張を鵜呑みにせず、慎重姿勢に徹したところにあります。第二次世界大戦時における日本軍による真珠湾攻撃のように、奇襲作戦が、本格的な戦争の戦端を開く事例は歴史にあっては珍しくはありません。攻撃を受けた側は、応戦せざるを得なくなるからです(それ故に、奇襲作戦にはしばしば陰謀説が付きまとう・・・)。ところが、今般の事件に限っては、アメリカのバイデン大統領は、即座にロシア攻撃説に疑問を投げかけ、逸るゼレンスキー大統領との間に一定の距離を置きました。NATOもまた一息置いて事態を見守る冷静さを見せる共に、着弾地であるポーランドも、NATO加盟国に対して集団的自衛権の発動を求めることは控えたのです。当のロシアも自国による意図的な発射ではないと明言したため、今般の事件が連鎖的に第三次世界大戦を引き起こす可能性は殆どなくなりました。
着弾したミサイルがウクライナ軍によるものであったとしても、同国は、ロシアによる激しいミサイル攻撃に晒されているために、誤爆も致し方ないとする擁護論もあります。また、獰猛で狡猾なロシアならば奇襲攻撃もあり得るとして、ゼレンスキー大統領の誤認を容認する見方もありましょう。しかしながら、第三次世界大戦に発展しかねない極めて危険な発言であったのですから、不問に付してよいとも思えません。上述したように、最悪の事態を回避できたのは、周囲の関係諸国が賢明に振る舞ったからに他ならないからです。
戦争においてはプロパガンダも戦略の一環であり、双方とも、真偽が入り交じる情報戦を繰り広げるものです。戦時下における政府は、他国に諜報部員や協力者を忍ばせて情報収集に努めると共に、入手した情報を正確に分析して真偽を確かめると共に、可能な限り情報を自らに有利に用いようとするのです。そして、しばしば、内外拘わらず虚偽の情報を流すという詐術的な行為も行なうのです。
この点に鑑みますと、先ずもって疑問となるのは、ゼレンスキー大統領は、どのような根拠からロシア製のミサイルであると判断したのか、という点です。仮に根拠があるとすれば、その情報源は、ポーランド国内にウクライナが張り巡らした情報網からということになりましょう。あるいは、スパイ衛星による軌道の画像解析といった可能性もありますが、アメリカがいち早くロシア攻撃説に疑問を呈していますので、この説は、信憑性に薄いと言わざるを得ません(むしろ、アメリカは、着弾点の付近のウクライナ側国境地帯にあってウクライナ軍がミサイル迎撃体制を整えていた様子を確認している・・・)。となりますと、ゼレンスキー大統領は、確たる証拠もないままにロシア攻撃説を主張し、故意に第三次世界大戦への道を開こうとしたこととなりましょう(ポーランドに着弾したミサイルがどちらの側のミサイルなのかは調査中ですが、迎撃ミサイルに敢えて‘ロシア製’のミサイルを使用し、偽装作戦を行なった可能性も・・・)。
同大統領が、意図的に戦争拡大のためにロシア攻撃説を主張したとしますと、その罪は重いと言わざるを得ません。ウクライナにとりましてはNATOの援軍を得て有利とはなっても、全世界において多数の尊い命が失われ、人々の生活も無残なまでに破壊されるからです。しかも、戦時体制への転換は、自由で民主的な諸国をも、全国民を統制し得る全体主義体制へと変えることでしょう。第三次世界大戦という未曾有のリスクを考慮すれば、それが意図的ではなかったにせよ、ゼレンスキー大統領の発言はあまりにも人類に対して無責任なのです。
そして、もう一つ、懸念されるべきは、日本国内の世論のように思えます。アメリカでは、民主党のバイデン大統領に加え、議会下院で多数派となった共和党内でもゼレンスキー大統領の言動に対する批判が強まっています。また、ここに来て、ゼレンスキー大統領自身も発言を修正してきています。ところが、日本国内では、僅かでも同大統領を批判しようものなら、激しいバッシングが起きかねない状況があります。積極的にウクライナを支援しているアメリカ以上に熱狂的に‘ネット世論’がゼレンスキー大統領を応援しているのです。
森元首相のように発言者の信頼性に問題がある場合もあるのですが、仮に、同大統領の主張を信じたばかりに第三次世界大戦が発生する事態を招き、日本国にもミサイルが飛来する状況に至ったとしても、擁護論者の人々は全く構わないのでしょうか。日本国内にもアゾフ連隊のような極右、新興宗教団体、あるいは、海外の組織が暗躍しており、ネットへの大量書き込み作戦に動員されている可能性もあるものの、冷静さや公平性を欠いた‘ゼレンスキー大統領無誤謬’のスタンスにはカルトに通じる危うさを感じます。戦争は人災の最たるものですので、如何なる国の為政者も国民も、最優先事項としてその阻止や拡大防止にこそ努力を傾けるべきではないかと思うのです。