万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

農地獲得は戦争の目的であった-農地法は売国法

2025年03月13日 11時56分15秒 | 日本政治
 今日の日本国を見ておりますと、人類が、農地の獲得を目的としてしばしば戦争を行なってきた歴史が忘却されているように思えます。農業が主要な産業であった時代や地域では、農地の獲得と領土の拡大はほぼ同義でした。古くは、古代ローマ帝国が、征服した辺境の地を退役兵士に与えて耕作させることで、農地と領土を同時に広げています。また、広い視野からすれば、昨日の記事でも述べたように、大航海時代の幕開けと共に始まった西欧列強によるアジア・アフリカの植民地化も、交易商品としての特産物を独占的に生産させるための農地獲得が目的であったとも言えましょう。そして、それは遠い過去のお話ではなく、近現代史にありましても、むしろ主要な戦争要因の一つに数えることもできるのです。

 第二次世界大戦もまた、農地獲得とは無縁ではありません。戦後、ドイツにあって禁書扱いされてきた『我が闘争』には、ヒトラーが、何故、イギリス型の金融・通商国家の路線に背を向けて、ロシアに向けての東方拡張政策を選んだのか、その理由が記されています。それは、ドイツを農業を産業の中心に据えた農業国家とするためであり、同目的を達成するためには、ドイツ人が入植すべき広大な農地を要したからです。‘生存圏’も、食料の自給自足を含む豊かな農業国家としてのドイツをイメージしての発想かも知れません(ただし、生存圏という言葉は、中世における東方植民活動の文脈から、1901年に、フリードリヒ・ラッツェルによって初めて使用された・・・)。もちろん、同記述を鵜呑みにするわけにもいかず、農地獲得の目的は、真の目的をカモフラージュし、ドイツ国民を鼓舞するための‘もっともらしい理由’であったのかもしれません。それが口実に過ぎないとしても、農地の獲得は、ヒトラーがソ連邦にまで攻め入った主要な理由でもあるのです。

 農地獲得と戦争との関係は、日本国も無縁ではありません。満州事変から二.二六事件、日中戦争へと続く昭和の時代の流れの背景には、権藤成卿、橘孝三郎、加藤完治、那須皓等の農本主義者の影響が指摘されています。実際に、満州事変後の1931年から戦争が終結する1945年までの凡そ14年間に亘って満州移民政策が実施され、多くの日本人が満州、内蒙古、華北の地に渡っています。同移民政策は、昭和恐慌の煽りで困窮化した農村の救済策として始まりましたが、対ソ国境を防備するための屯田兵の役割をも担っており、戦時にあっては満蒙開拓青少年義勇軍も結成されたのです。同開拓団の入植地の凡そ6割程度は開拓を要する荒蕪地ではなく、現地の中国人や朝鮮人から買い取ったとされていますので、売買による農地取得が大半を占めていたことになりましょう(仮に、安値での買取であれば、不満が残ったのでは?)。

 当時の日本国政府、並びに、満州国の関東軍の計画では‘100万戸’の移住を目標としいたものの(満洲農業移民百万戸移住計画や二十カ年百万戸送出計画など・・・)、実際には、満蒙開拓移民として凡そ27万人が彼の地に移住し、終戦時に同地に残されたのは凡そ155万人とされます。戦争末期のソ連参戦により20万人もの日本人が命を落とし、全ての開拓地や家財産を投げ捨てて帰還せざるを得ない状況に至ったのですから、国策に従って移民した満蒙開拓団は、日本人にとりましては悲劇の歴史であったとも言えましょう。

 因みに、2024年の時点で、日本国に住んでいる中国人の人口は84万人を越え、そのうち、永住者が凡そ27万人ですので、この数は、既に満州開拓移民の数とほぼ同数です。日本国の場合、敗戦をもって同移住政策は終了したのですが、中国人の日本国への移住がこのまま進むとしますと、将来的には、日本国内には相当数の中国人が居住する状態となりましょう。そして、中国人によって所有される農地の面積も増加するものと推測されるのです(マネー・パワーと人口パワーに圧倒される・・・)。

 過去にあって武力をもって農地を獲得しようとしたのが人類の歴史なのですが、今日の日本国では、お金があれば、外国人でも外国法人でも農地を取得することができます。日本国の水田は、遠い祖先が田を開き、代々、精魂を込めて耕してきた土地です。既に開墾済みであり、農業に必要となる様々な設備や施設や居住環境も整っているのですから、‘お買い得’なはずなのです。外国人や法人の農地買取を許す日本国の農地法は、まさしく歴史を忘れた‘売国法’なのかも知れません。

 そして、近年の日本国内における中国人人口の急増からしますと、中国政府による対日‘百万戸移住計画’の存在さえも疑われましょう。満州と言えばユダヤ系や共産主義の影響力が強く、戦前の日本国にも同勢力のコントロールが及んでいたものと推測されるのですが、今日の中国も、グローバリストの配下にあるとしますと、同様の手法を用いても不思議はありません。実際に、習近平独裁体制の下で、「農業強国」を目標に掲げて農業重視へのシフトが起きていますので、グローバリストの視点からすれば、米先物市場の開設を含めて日本国をも含む全世界の農産物市場の再編とその掌握が真の目的であるとも推測されます。何れにしましても、日本国の農地は、国内にありながら‘事実上の外国の農地’となりかねず、直接であれ、日本国政府を介してであれ、外国やグローバリストの支配力も及ぶのですから、その侵略性への対応を真剣に講じるべき段階に至っているのではないかと思うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 外国人・法人による農地取得... | トップ |   
最新の画像もっと見る

日本政治」カテゴリの最新記事