万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ベラルーシの動きに注目を

2023年06月28日 13時00分38秒 | 国際政治
 今般の‘プリゴジンの反乱’については、様々な情報や見解が錯綜しているため、その真相は未だにはっきりとはしません。その一方で、ここに来て注目されるのは、ベラルーシのルカシェンコ大統領です。同大統領は、反乱の行方を一変させるような重要な役割を果たしており、いわば、キーパーソンの一人として数えることができるからです。

 ベラルーシと言えば、先日、プーチン大統領と核配備を約束したばかりであり、ロシアにとりましては盟友、否、忠実な家臣の如き存在です。プリゴジンの反乱に際しても、同氏に対して進軍停止を説得したのはルカシェンコ大統領であったとされます。プーチン大統領のために仲介したとも推測されるのですが、ベラルーシの国営メディアが報じるところによりますと、ベラルーシ政府は、一時、行方不明とされたプリゴジン氏がベラーシに入国・滞在していることを認めたそうです。

 このことは、一体、何を意味するのでしょうか。報道が事実であれば、プーチン大統領は、既に反旗を翻したプリゴジン氏に対する殺害命令を発しており、追われる身のプリゴジン氏を匿ったとなれば、ロシア、ベラルーシ両国の大統領の関係は微妙となります。そして、ここに、二つの可能性が浮き上がるように思えます。

 第一の可能性は、ベラルーシは、あくまでもプーチン大統領に対する忠誠を貫き、今後とも、ロシアと共にウクライナに対して共闘するというものです。最近、ウクライナとの国境付近にあってベラルーシ軍の動きが活発化してきており、ウクライナ紛争に直接に加わる可能性も否定はできません。この場合、プーチン大統領が求めれば、プリゴジン氏の首を差し出すことでしょう(ただし、このように考えると、プリゴジン氏は、プーチン政権寄りのベラルーシに敢えて入国したことになり、その理由を説明できない・・・)。

もっとも、仮にプリゴジンの反乱がロシア、あるいは、世界権力が仕組んだ‘茶番’であるとすれば、反乱騒動と見せかけて、ワグネルの兵力をベラルーシに移されたこととなります。ロシアとベラルーシの両方面からの挟撃を受ければ、兵力を割かなければならなくなったウクライナ軍は窮地に陥ります。その一方で、当然にベラルーシも戦場となりますし、同国にはロシアの戦術核が配備されますので、仮にウクライナ紛争が核戦争に発展した場合、核のボタン、つまり、自立的な核の抑止力を持たないベラルーシが人類史上第三番目の被爆地となるかもしれません。

 第二に推測されるのは、ベラルーシが、プリゴジン氏と共にロシアに対して謀反を起こす可能性です。ルカシェンコ大統領は、就任以来、必ずしも親ロ派路線一辺倒というわけではありませんでした。むしろ、威圧的なプーチン大統領に屈してきた感もあり、上述した核配備にしても、ベラルーシにとりましてはリスク含みです。何度も煮え湯を飲まされてきたとも言えますので、プリゴジン氏の受け入れを機に、反ロ路線に転じる可能性もないわけではありません。

 第2の推測にあっても、裏ではNATO陣営、あるいは、世界権力が暗躍している可能性もあります。傭兵部隊であるワグネルは、潤沢な資金力さえあれば寝返らせることは難しくありません。また、プーチン大統領に対する不満が鬱積しているルカシェンコ大統領を自陣営に引き込むことも、然程にハードルの高いわけでもないのでしょう。歴史を振り返りますと、‘昨日の友は今日の敵’、あるいは、‘昨日の敵は今日の友’といった現象は珍しくはないのです。そして、この推測の先には、CSTO 並びにロシア連邦解体の未来も見えてくるのです(つづく)。

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