100年前の関東大震災に際して、日韓併合を機に日本国内に居住するようになった多くの朝鮮半島出身の人々が殺害された事件は、今日、日韓関係において新たな火種になる気配があります。韓国のみならず日本国内のメディアの大半も、6000千人にも及ぶ大量虐殺があったとする韓国・北朝鮮系の人々の「肯定派」の主張と、それを否定する右翼系、即ち、「否定派」の主張との対立として描き、後者に対してのみファクトチェックをかけて歴史修正主義者音レッテルを貼っているようです。しかしながら、関東大震災という一つの出来事のみを切り取り、かつ、日本国＝絶対悪という朝鮮半島の歴史認識のフィルターを通したのでは、歴史の教訓を導き出すことはできないのではないかと思うのです。
関東大震災朝鮮人虐殺を完全に否定しているとされる右翼系の人々も、事件そのものが存在しておらず、被害者も一人もいなかったと主張しているわけではありません。後に殺人の罪を問われて起訴された、公式文書に記録された233人については虐殺の事実を認めていますので、「否定派」という表現自体が‘ファクト’とは異なる誇張とも言えます。事実としては、6000人なのか233人なのかという、人数や規模が争われているのであり、あったか、なかったのか、という存在そのものの有無を問う存否の問題ではないのです。「否定派」という表現に既にマスメディアによるイメージ操作が疑われるのですが、この手法は、‘陰謀論’とも通じるかもしれません。極端な説を敢えて持ち出すことで、事実までも陰謀論として葬り去ってしまう手法です（この点、「否定派」の組織的な活動も‘偽旗’かもしれない･･･）。
マスメディアによるイメージ操作からしますと、関東大震災朝鮮人虐殺問題にも相当の外部圧力がかかっているものと推測されるのですが、少なくとも、本当のところの数字は、「肯定派」も立証できていないことは確かです。言い換えますと、所謂「肯定派」も「否定派」も、DNA鑑定や当時の朝鮮半島出身者の居住記録などについて大規模な調査を実施しない限り自らの主張を立証できず、議論は平行線を辿るのみとなりましょう。
もっとも、当時の状況からしますと、福田村事件のような被害者の数も検挙された加害者も確定できるような虐殺は、むしろ、首都近郊の農村地帯で散発的に発生したのではないかと推測されます。直下型ともされる関東大震災にあって、火災のみならず建物の倒壊など、首都東京は壊滅的な被害を受けており、誰もが自らの命を守ることで精一杯であったからです。しかも、迫り来る猛火から逃げまどう中で、外見からは日本人も韓国・朝鮮系の人も区別が付きませんので、後者を見分けて虐殺を行なうことは極めて困難です。また、焼け野原となった地域では、自警団の結成も困難であったことでしょうから、都市部において組織的な大量虐殺があったとは考え難いのです。一方、比較的被害が少なく、大震災の影響を受けずに日常の生活を維持できた千葉県や群馬県などの諸県であれば、昔ながらの共同体意識の下で自警団を結成し、不審者と見なした人に対して組織的に尋問等を行なう時間も余裕もあったことでしょう。記録に残る福田村事件や藤岡事件等は、農村であったからこその起きた悲劇であったのかもしれません。
このように考えますと、「肯定派」が主張する6000人という数字には、おそらく虐殺ではなく震災による被害者が含まれているのでしょう。ファクトチェックを「否定派」のみならず、「肯定派」にもかけますと、‘アウト’という結果になるとも十分に予測されるのです。この点、マスメディアの態度には偏りがあり、アンフェアと言わざるを得ないのです。
そしてもう一つ、ファクトチェックに関するアンフェアがあります。それは、韓国・朝鮮系の人々や左派の人々が‘デマ’と決めつけている災害時における朝鮮半島出身者による日本人に対する虐殺、暴行、略奪、放火、あるいは、テロなどに関する真偽です。上から目線でファクトチェックを振りかざす人々は、‘日本人による朝鮮人の虐殺’のみを問題視し、その逆の‘朝鮮人による日本人虐殺’については、チェックの対象から外しています（ダブルスタンダード･･･）。関東大震災朝鮮人虐殺問題を正確に理解するためには、関連する前後二つのファクトチェックが必要不可欠であるにも拘わらず･･･。そして、後者のファクトチェックは、実のところ、戦争末期から終戦後にかけての混乱期における朝鮮半島出身者の人々の行動をも問うこととなるのです（つづく）。
