76年の2月に出た本を、3月に買っています。私は、この本を買おうと思ってたわけではなくて、たぶん、本屋さんに行って、旅をしている本をとにかく何でもいいから買ってみようと、タイトルに一目ぼれして買った本でした。
色川大吉さんって、全然知らない人でした。でも、読んでみたら、ものすごくインパクトがあって、こんなに行動しながらいろんなものを見て、いろんな人と関わって、時代と世界と世の流れと格闘している感じで、しかも観光コースは全く行かない、一生懸命に人に出会おうとする旅の記録の本に、その姿勢に感動して読み終えたはずでした。
旅そのものは、1971年の6月にポルトガルのリスボンからスタートして、国境を越えて、ヨーロッパ大陸を東に進み、まだ一つの国だったユーゴースラビアからプルガリア、トルコ、イラン、アフガニスタン、パキスタン、インドまで、ずっとキャンピングカーで走り続けていきました。
細かい内容は何も憶えていないけれど、とにかく何でも見てやろう、人にとにかく触れてみよう精神には感心して、自分もそんなのの一端でも担えたらとか思ったはずですけど、どうだったかなあ。
ただの遊びではなくて、学問というのでもなくて、チームとしてクルマに乗りこんだメンバーとで、当然起こる問題を解決しつつ進んでいく旅でした。
人々の活動を近代史の中で考えていくのが専門の先生は、希望を持ったり、落胆したりしつつ進むのです。
印象に残っているのは、パレスチナとイスラエルの問題では、今は対立があるけれども、当事者たちに取材する中で将来的には解決するのではないか、と希望を語っておられたところ、これは前半の方にありましたけど、読んだ当時の私も同じように、中東の戦争もいつかなくなるのかと鵜呑みにしていたはずなんですが、あれから四十数年経っても、まだ解決しておらず、事態はイスラエルによる力の圧迫だけが続いている。
他にも、シリア、イラク、イラン、今回のアフガニスタン、分裂したユーゴー、色川大吉さんがあれこれ走れながら考えた土地は、今も不安を抱えたまま、希望を見つけられない状況が続いています。
当時の色川さんが楽観的だったのではなくて、あれこれ不満を抱えながらも、そこに住む人々は自分たちの住むべき土地を落ち着かせようと努力している様子を見てこられて、それをそのまま記録されてたんでしょうか。
当時と今、1970年頃は世界では「パンドラの箱」は開けられてなかったのでしょう。みんなが希望しかないから、思想信条の違いはあるけれど、戦争はしないで、とにかく国づくりをやっていこうとしていた時代だったのかなあ。
それが冷戦が終結し、社会主義は敗北したということで、今まで全体主義で抑えられてた国は崩壊し、無秩序が生まれ、東欧は大混乱しました。今もその流れの中で、ベラルーシ、ロシア、旧ソ連の国々は独裁的な政治家がずっと居座り続けていたりする。アラブの春が来た後、シリア、エジプト、イラク、アフガニスタンなどの国々も一度政治体制が変わったのはいいけれど、不安定なまま今に至っている。
すべて混乱したままの現在があって、色川さんたちはたまたま落ち着いてた時期に旅することができた、とても幸運だったのではないかとさえ思えます。
その、若い頃に感動させられた本の著者の色川大吉さんが亡くなられたそうです。96歳だったそうです。うちの奥さんのお父さんよりひとつ上、うちの父よりは五つ上の方でしたか。
一度、生でお話を聞けたら、私の人生は変わったかな。いや、もう直接教えてもらおうと、東京経済大学に行けばよかったんだろうけど、そういうアイデアがありませんでした。チャンス逃しまくりでした。
これから、先生の書かれた本はうちにもたくさんあるから、少しずつ読ませてもらおうと思います。
「ユーラシア大陸」も、もう一度読んでみたいです。