64【( )亡びて歯寒し】……身近な存在がいなくなれば、本人そのものも頼りなくなること。アタマが薄くなれば心までとげとげしくなる。まつげがはっきりしないと、目が小さく見える。そういうのと同じですね。歯の近くにあるものは?
さて、趙の使者である張申談の姿を見てピンと来た智伯さんの一族の智過さんは、もう真実を確かめないと気が済みません。そして、はっきりと自分たちのピンチをみんなにわからせたかったのでした。韓と魏の2人の王様のところへいくことにしました。
2人の王様が一緒にいるというのがすでにあぶないのに、そこに乗り込んで2人の様子を観察しようとした。2人もたぶんそんなに智伯側の人には会いたくないけれども、疑われてはならないので、一応会うことにしたのだと思われます。
そこから戻ってきた智過さんは智伯さんを説得するために言います。
「二人の王は顔色を変え、気持ちが変わっています。きっと裏切ることでしょう。2人の王様を殺してしまった方がいいでしょう。いかがなさいますか」と。
智伯さんは答えます。
「軍隊が晋陽を攻めることになって3年の歳月が過ぎたのだ。そして、あともう少しのところで趙を倒して私たちに利益がもたらされるのだ。どうして彼らに心変わりがあるはずがない。お前は言葉を慎んで二度とそんなことを言ってはならない」と。
智過さんは引き下がりません。
「2人を殺さないというのならば、もっと相手をこちらに取り込まないといけないと思います。どうぞ、お願いします」と。
智伯さんは訊ねます。「それはどういうことかな」と。
智過さんは提案します。
「魏の宣子(せんし)の謀臣(参謀・アドバイザー)は趙葭(ちょうか)といい、韓の康氏の謀臣は段規といいます。彼らは自分の君主の計画を変えることができる人たちです。
わが君よ、二人の王と約束をしてください。趙を破ったならば、趙葭と段規の二人にそれぞれ戸数一万の県を与えようと。こうすれば、韓と魏の心変わりを防ぐことができ、王が欲しい土地を得ることができましょう」と。
智伯さんは最後の言葉を述べます。
「趙を破ってその土地を三分割したうえに、さらに2人の謀臣に戸数一万の県を与えたら、私の取り分が少なくなってしまうではないか。それはだめだ。認められない」と。
智過さんは自分の君主がどういうわけか、言うことを聞いてくれないのを見ました。そして、智伯さんのもとから出て行くことにして、姓を変えて輔氏(ほし)となって、そのまま戻りませんでした。
前回も書きました。それなりに計算の立つ人だったと思われる智伯さんなのに、どういうわけか、このときは間が差したのか、滅亡する運命だったのか、智過さんの再三の助言を聞き入れませんでした。
いや、歴史って生き残った人のことばで作られていくモノですから、智過さんのことばだけが際だち、智伯さんはアホーに見えます。実際は、智過さんがただ気にくわないと思ったから、ガミガミ言っただけかもしれない。それで気に入らないから悪口を言うヤツの雰囲気って、だいたいどこでも同じだから、そんなにムキになるなよ、人を好き嫌いで判断するな、というのは私たちのよく言うことばだから、智伯さんもそのパターンを踏んだだけだったのかもしれない。
たまたま2人は裏切ってしまうんですが、たまたま智過さんはそれを見破ったことになっていますが、本当にそうだったんだろうか。それはわかりません。そして、智伯さんはエアーポケットに入り込んでいて、2人の王様を信じてしまった。3年間攻城戦をともにした仲間を信じてしまった。
本当なら、自分の心に素直に向き合わねばならなかったでしょう。彼はやがて韓氏も魏氏も亡ぼすつもりではありませんでしたか。今は仲間だけど、やがては機会を見つけて倒してやろうと考えている自分の心のウラを知っていたなら、他人だって裏切ることもあり得ると考えられたでしょう。
そうか、いよいよ趙を亡ぼすことができるという、得意の絶頂だったから、まわりが見えなくなっていたのかもしれない。
さて、趙のお城の内部、張孟談さんはお殿様の襄子さんに言います。
「私は智過に軍門の外で会いました。智過の目を見ると、私を疑う心があります。
智過は(軍門の中に)入っていき、智伯に別れの挨拶をしたあとで、姓を変えて出奔したということです。
今すぐ智を攻撃しなければ、きっと手遅れになってしまうでしょう。」
襄子さんは覚悟します。「よろしい」と、言い放ちます。
張孟談さんを再び韓と魏の王様のところへ送り出します。「今夜に決行しよう。」と伝えました。
水攻めしている堤防を守る兵士たちを殺し、堤防を決壊させて智伯の軍の方へ大量の水を放出します。
智伯さんの軍は大量の水に気を取られて混乱に陥ります。韓と魏はこれを挟み撃ちにし、襄子さんの軍は前面から突入し、智伯の軍に大勝し、智伯を捕らえます。
智伯さんは殺され、智伯さんの国は滅びてしまいます。その領土は趙・韓・魏に分割され、ものすごい勢いであった智伯さんは歴史から消えてしまうのでした。あまりにあっけない最後でした。
このエピソードに出てくる智伯さん。そんなにひどいヤツには見えません。貪欲でとんでもない人という評価ですけど、それは生き残った側からのものであり、本当はそうではなかったのではないか。
そう思えたりしますが、世の中って、冷たいから、表面だけ、勝者サイドでものを言うような気がします。
ほら、昨日、選挙が終わりましたが、まるで国民が安定を望み、アベさんを支持しているかのようで、憲法改正に必要な三分の二の勢力を与えた。国民は約六割がアベさんを支持している、というふうに言われています。
本当にそうなのか。国民は四割の人々が選挙どころではなくて、そんなのどっちだっていいと思っていて、残りの六割のうちの半分くらいが自民党支持で、あとの半分の人たちがどこかに投票しなくちゃと投票しただけじゃないのだろうか。
四割の国民は選挙に行きませんでした。まあ、きっとこれからもずっとそうなんでしょう。その四割の人たちを選挙に参加できるアイデアが必要です。
国民全体の結局三割の人々の支持する自公政権が、これからもやりたいようにやるでしょう。私たちは、なるべく政治に関わりたくないし、自分のことは自分で守れるようにしていきたい。空から見えない放射能が落ちてくるときもあるだろうけど、それを少しでも減らしたい。
年金や国の借金、あまり考えたくないけど、そういうシステムにお世話にならないように生きていきたい。
アルツハイマーになったり、介護が必要になるときもあるだろうけど、自助努力で生きていけるようにしていきたい。
選挙なんて、やる前から結果はわかっていました。テレビの解説員は、「政治は一寸先は闇」とか知ったかぶりで言っているけれど、見え見えだったのです。
イシンなんてまやかしでした。キボウなんて空手形でした。その他はみんなうたかたでした。ああ、ザンネンです。これが私の住んでいるクニなんですね。それでも私は生きて行かなくてはならない。
私は何を望んでいたんだろう。とりあえず原発のない、まわりの国となかよくできる、しっかり外交のチャンネルを作れる、アメリカに追随しない、独立独歩の国に住みたかったけれど、そんなのは無理だったんですね。独立独歩なら、軍隊はどうするんだよ、とすぐなりますもんね。そこが自分でも決着の付かないところでした。
これから、私たちは、個々の国民は大事にされない、とくに年寄りは切り捨てられる、というか死ぬまで働かされる、生活に保障のない、自己責任の国に住まなくてはならない。
自分のことだけを考えていくことにします。
答え 64 唇(くちびる)