甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

牧水の草鞋 その1

2023年07月04日 18時01分11秒 | 本読んであれこれ

 わたしの専門の(?)近世文学にしようかと思いましたが、メモがありませんでした。

 仕方がないので、「青空文庫」から借りてきました。これでしばらくやってみます!

 若山牧水さん(1885~1928)の「草鞋の話 旅の話」という旅日記らしいです。うちの岩波文庫には載ってないお話のようでした。旅したい気持ちがあるのに、どこにも行けないですからね。旅する人の話を聞かせてもらうしかありません。

 私は草鞋(わらじ)を愛する、あの、枯れた藁(わら)で、柔らかにまた巧みに、作られた草鞋を。

 あの草鞋を程よく両足に穿(は)きしめて大地の上に立つと、急に五体の締まるのを感ずる。身体の重みをしつかりと地の上に感じ、そこから発した筋肉の動きがまた実に快く四肢五体に伝わってゆくのを覚ゆる。
 呼吸は安らかに、やがて手足は順序よく動き出す。そして自分の身体のために動かされた四辺(あたり)の空気が、いかにも心地よく自分の身体に触れて来る。

 何かと一体になりながら、あたりを着々と移動していく。ほんの一日しか持たない草鞋(わらじ)を、自分の体になじませながら、足なのか、それとも履き物なのかわからなくなる瞬間を味わいながら、牧水さんは歩いていたようです。



 机上の為事(しごと)に労(つか)れた時、世間のいざこざの煩わしさに耐へきれなくなった時、私はよく用もないのに草鞋を穿いて見る。
 二三度土を踏みしめていると、急に新しい血が身体に湧いて、そのまま玄関を出かけてゆく。実は、そうするまではよそに出かけてゆくにも億劫(おっくう)なほど、疲れ果てていた時なのである。

 そして二里なり三里なりの道をせっせと歩いて来ると、もう玄関口から子供の名を呼び立てるほど元気になつているのが常だ。

 すごいですね。わらじを履いたら、旅人間モードになり何キロか歩いてしまう。そうすると、新しい人格になってしまうんだから、そりゃいいですね。

 私も、そういう一体化できるもの、持っているかな? 思い当たらないですね。気に入った靴下がありましたね。オッサンなのに白い靴下、でも、これもくたびれてきていますし、ああ、大事なものはすぐにくたびれてしまう。

 気に入ったわらじでも、数日でダウンになるらしいです。



 身体をこごめて、よく足に合うように紐(ひも)の具合を考えながら結ぶ時の新しい草鞋の味も忘れられない。足袋を通してしっくりと足の甲を締めつけるあの心持ち、立ち上った時、じんなりと土から受取る時のあの心持ち。

 と同時に、よく自分の足に馴れて來て、穿いてゐるのだかゐないのだか解らぬほどになった時の古びた草鞋も難有(ありがた)い。実をいうと、そうなった時が最も足を痛めず、身体を労(つか)れしめぬ時なのである。

 やはり、一体化できる何か、私にはないのかなあ。靴はすべてくたびれています。服もそうです。スーツなんて、一着しかありません。すべて虫に食われてしまった。ペン、これは毎日使っているものがありますけど、私は浮気しますからね。大事にしすぎて、他のを使ってしまうと、そっちばかりになってしまう。ああ、ないなあ。



 ところが、私はその程度を越すことが屡々(しばしば)ある。いい草鞋だ、捨てるのが惜しい、と思うと、二日も三日も、時とすると四五日にかけて一足の草鞋を穿こうとする。そして間々(まま)足を痛める。もうそうなるとよほどよくできたものでも、何処(いづこ)にか破れができているのだ。従って足に無理がゆくのである。
 そうなつた草鞋を捨てる時がまたあわれである。いかにもここまで道づれになって来た友人にでも別れるようなうら淋しい離別の心が湧く。
『では、さようなら!』
 よくそう声に出して言いながら私はその古草鞋(ふるわらじ)を道ばたの草むらの中に捨てる。独り旅の時はことにそうである。

 こんなに愛されて、惜しまれながら草むらに放置される草鞋、それで十分だし、ゴミにならないで土に還っていくなんて、ものすごくエコですし、何だかステキです。履けなくなった靴は、ゴミとして出すしかないし、プラやらゴミが気になりつつ捨てるのもよりも、はるかに優れています。でも、私は草鞋は履けないしなあ。



 私は九文半の足袋を穿く。そうした足に合うように小さな草鞋が田舍には極めて少ないだけに(都会には大小ほとんど無くなっているし)一層そうして捨て惜しむのかも知れない。
 で、これはよさそうな草鞋だと見ると二三足一度に買って、あとの一二足をば幾日(いくにち)となく腰に結びつけて歩くのである。もっともこれは幾日とない野越え山越えの旅の時の話であるが。

 そうした旅をツイこの間私はやって来た。〈若山牧水「樹木とその葉」 草鞋の話 旅の話〉


 もう慌てて岩波文庫を取り出しました。今夜、少し読もうと思います。すぐに倒れてしまうけれど、少しずつ読みます。でも、どこへ向かう旅なんだろうな。

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