北壽老仙(ほくじゅ・ろうせん)という人がいたそうです。どんな人なんでしょう?
このお名前の「北壽」とは、下総結城郡本郷の俳人・早見晋我(しんが)さんの隠居後の号なんだそうです。「老仙」は老仙人の意味で、蕪村さんがつけた敬称みたいなものになりますか。
晋我さんは通称治郎左衛門、善久。代々酒造家で、初めは俳諧を其角(きかく)さんに学び、のち佐保介我(さほかいが)という人についたとか。その晋我さんは、延享2(1745)年正月28日に75歳で没したということでした。
当時この地方に住んでいて晋我さんに愛されていた蕪村さん(当時30歳)が、悲しみにたえず作詩した、といわれているのが、この挽歌なんだそうです。
蕪村さんは、晋我さんが亡くなった時には30歳なのですが、晋我さんの三十三回忌に記念の作品集を出すということで、この詩がつくられたという話もあるそうで、30いくつで作ったのか、60過ぎで作ったのか? どっちなんでしょう?
わりと落ち着いた感じもあるから、60過ぎが正しいのかもしれない。でも、気持ちがあふれている気もするし、30歳のころの詩なんだろうか? とにかく、追悼する気持ちをこめた「詩」ではあるのです。
北壽老仙(ほくじゅろうせん)をいたむ
君あしたに去ぬ(さり)ゆふべのこゝろ千々(ちゞ)に
何(なん)ぞはるかなる
何(なん)ぞはるかなる
あなたは突然に、今朝この世を去ってしまわれた。今宵わたしの心はビリビリに引き裂かれているのです。本当に、あなたは遠く隔たってしまわれたのですね。
君をおもふて岡のべに行(ゆき)つ遊ぶ
をかのべ何ぞかくかなしき
をかのべ何ぞかくかなしき
あなたのことを思って、近所の野山を歩きました。いても立ってもいられなかったからです。でも、野山は、ムチャクチャに悲しいのです。私を慰めてくれるものではありませんでした。
蒲公(たんぽぽ)の黄(き)に薺(なづな)のしろう咲(さき)たる
見る人ぞなき
見る人ぞなき
春の野山にはタンポポが黄色く咲き、ナズナは白く咲いています。
でも、だれもそんなのを気にも留めません。
雉子(きぎす)のあるかひたなきに鳴(なく)を聞(きけ)ば
友ありき河をへだてゝ住(すみ)にき
友ありき河をへだてゝ住(すみ)にき
キジがいるのか、一生懸命に鳴いているみたいです。
そして、それを聞いてて思うのです。
私にもかつて友がいて、その友は川の向こうに住んでいた。
その人と私は、親しく付き合っていたことなどを思い出すのです。
へげのけぶりのはと打(うち)ちれば西吹風(にしふくかぜ)の
はげしくて小竹原(をざさはら)眞(ま)すげはら
のがるべきかたぞなき
はげしくて小竹原(をざさはら)眞(ま)すげはら
のがるべきかたぞなき
変化していく煙というものは、ぱっと散ってしまい、西から吹く風はとても激しくて、低い笹原や菅原のどこにも潜みようがなく、はかなく大空に消えてしまいます。
この煙というのは、火葬するときの煙なのか、それとも、かまどの煙なのか。
状況から行くと、「変化(へんげ)」の煙と解釈する方がよくて、亡くなった人を荼毘に付せば、その煙はもう少し未練がありそうなものだけど、風にかき消されてしまったということでしようか。
友ありき河をへだてゝ住(すみ)にきけふは
ほろゝともなかぬ
ほろゝともなかぬ
かつて友がいて、川の向こうに住んでいた。君のことを思い出させてくれた草むらのキジたちは、ほろろという鳴き声も出さない。
君あしたに去(さり)ぬゆふべのこゝろ千々に
何ぞはるかなる
何ぞはるかなる
あなたは突然に、今朝この世を去ってしまわれた。今宵わたしの心はビリビリに引き裂かれているのです。本当に、あなたは遠く隔たってしまわれたのですね。
我庵(わがいほ)のあみだ仏ともし火もものせず
花もまいらせずすごすごと彳(たたず)める今宵は
ことにたうとき
花もまいらせずすごすごと彳(たたず)める今宵は
ことにたうとき
わが庵の阿弥陀仏に、お灯明も差し上げず、花もお供えせず、こうして暗い中でひとりしょんぼり拝んでいる今宵は、人の世のはかなさが身にしみて、ことに尊く仰がれる。
釋蕪村百拜書
出家した蕪村としてうやうやしく書きました。
★ ずっと取り上げたいとは思っていました。下書きもしました。それでも、中途半端な私が、いい加減なことを書いていいものか、自分でダメだと反省したり、あれこれしてきました。
でも、もう、何でも、どんなことでも起こりうるのだと思い、載せてみます。
とにかく、静かに祈ろうと思います。そんな気持ち、毎日毎晩持っていたいけど、私は日常に流されているだけです。だからこそ、「キミ、あしたに去りぬ」なのです。
心は砕け散るのです。涙はあんまり出ません。ただどうしたらいいのかわからないし、コントロール不能で、モヤモヤした気持ちがいつまでも続きます。
そう、少し落ち着いたらいい。そうします。みなさん、コロナに気をつけましょう!