安野光雅さんの『絵のある自伝』(2011 文芸春秋)というのを読んでいます。そこから二つだけ抜き書きして、今日は寝ようと思います。なかなか胸がキュンとなる(オッサンだけ)お話です。
安野さんのお子さんが四歳の時、安野さんのお母さん(息子さんにはおばあさんに当たります)と口論されてたそうです。すると、
その子が「おばあちゃんもすきだよー、お父ちゃんもすきだよー」といって泣いた。この子の涙に、わたしは、深く反省し、そのとき以来、喧嘩はしていない。
長女がまだ三歳のころ、指圧師に来てもらった。肩を強く指圧してもらい、顔をしかめて痛みに耐えていたところ、その子は物差しを見つけてきて、指圧師の頭をぶつのだった。あわてて子どもをよそへ連れだした。
どこの家でもありそうなエピソードなのかなと思ったんです。つづきは?
自分の子どもの、四歳までのありようは、そこを支点とし、その後の子どもがするであろうあらゆることとの釣り合いがとれているというのが、本当にそうだとおもう。この子どもたちのしてくれたことに、わたしは一生かけて報いたいとおもっている。
この安野さんのことばは貴重でした。私はうちの子にどれだけ報いられたのか、どれだけ真剣に向き合ったのか、今が終わりではないのだから、これからも何かしてあげなきゃいけないな、そう思わされた文章でした。
安野さんは津和野生まれだそうですが、育ったのは宇部とか、徳山とか、山口県の南をあちらこちら親戚の家または進学先などで移動したこともあって、韓国系の友人たちもたくさんいたそうです。そして、憶えた歌が「トラジの歌」だったそうで、その安野さん版の日本語訳が載っています。
四番まであるうちの四番だけ抜き書きしてみます。
トラジ トラジ 白い桔梗
岩場のかげに 人目をさけて
せっかく咲いた トラジの花を
カケスよ お願い みのがしておくれ
岩場のかげに 人目をさけて
せっかく咲いた トラジの花を
カケスよ お願い みのがしておくれ
韓国の歌って、こんな優しい歌もあるんですね。歌が優しいのか、訳した安野さんが優しいのか、そういう歌を記憶した安野さんのセンスなのか、紫ではない、白い桔梗を見たくなりました。私の知らない世界は、それはもうたくさんあるんですね。