ごく最近になって、自分に乱視傾向があるということに気づきました。半信半疑ながら、そうではないだろうかと思っています。
というのは、妻と夕食後、お片付けも済んで少しご近所を散歩しようと歩いていると、まん丸の月だとあまり自覚できないのですが、たまに半分のお月さんを見ることがあって、そんな時には月が二重に見えるのです。
「あれっ、月が変に重なっている。おかしな現象だな」と、大気のせいでそのように見えるのだと思っていました。
妻に話すと、それは大気のせいではなくて、私の目がそのように見ているのだと教えてくれました。少しショックでしたが、生活する分には問題ないので放置しています。これが進んだとしても、まあ、どうなるんでしょうね。
月が2つに見えるというのは、「1Q84」の世界のお話しでした。
主人公の青豆さんがそれを気にかけているのに、まわりの人に話せないし、話してもだれもそんなことはないというパターンでした。私はたまたま妻がいてくれて、2つが微妙にずれて見えたのを指摘され、そういうことかと納得して、新しい小説の世界は起こりませんでしたが、村上春樹さんの世界は、いろんな仕掛けがあって、それが何なのか、なかなかわからないのだけれど、そんなことよりもそういう世界を見せてもらえるのが楽しくて、ついつい読んでしまいます。何となく旅してる感覚ですね。つまらないものかもしれないけど、ここをしばらく行くと、何か発見があって、それが次から次と重なっていく……。
主人公と周囲のギャップ、見ているモノ・見えているモノ、そういうテーマがどこかにあったなあと思っていましたが、今ごろ気づきました。短編の「青が消える」でした。
アイロンをかけているときに、青が消えた。青はだんだんかすんで薄くなっていって、それからすっかり消えてしまった。ちょうど機械のバッテリーがあがってしまったときみたいに。あるいはまるでオーケストラの指揮者が演奏の途中で気を変えて、突然指揮棒を振るのをやめてしまったみたいに。メロディーが中断したあとも、いくつかの楽器はまだ名残惜しそうに断片的な音を出していたが、それもやがて力なく消えて、あとには居心地の悪い沈黙だけが残った――という風に。
そのときアイロンをかけていたのはたまたま青とオレンジのストライプのシャツだったので、青が消えたことに僕はすぐに気づいた。最初は――同じ立場に置かれたら誰だってきっとそう思うはずだ――自分の目がどうかしてしまったのだろうと思った。神経を集中してじっとひとつのところを見ていたせいで、視力が一時的に狂ってしまったのだろうと。僕はアイロンのスイッチを切り、そのシャツを持ってもっと明るい部屋に移動した。そしてソファーに腰をおろしてしばらく目を閉じ、何度か深呼吸をし、それから目を開けてシャツをもう一度よく見てみた。でも同じことだった。そこにはもう青は存在しなかった。僕が手にしているのは、オレンジと白のストライプのシャツだった。かつて青であった部分は、棍棒で殴られて記憶を失ってしまったようなとりとめのない白にとって換わられていた。
そのときアイロンをかけていたのはたまたま青とオレンジのストライプのシャツだったので、青が消えたことに僕はすぐに気づいた。最初は――同じ立場に置かれたら誰だってきっとそう思うはずだ――自分の目がどうかしてしまったのだろうと思った。神経を集中してじっとひとつのところを見ていたせいで、視力が一時的に狂ってしまったのだろうと。僕はアイロンのスイッチを切り、そのシャツを持ってもっと明るい部屋に移動した。そしてソファーに腰をおろしてしばらく目を閉じ、何度か深呼吸をし、それから目を開けてシャツをもう一度よく見てみた。でも同じことだった。そこにはもう青は存在しなかった。僕が手にしているのは、オレンジと白のストライプのシャツだった。かつて青であった部分は、棍棒で殴られて記憶を失ってしまったようなとりとめのない白にとって換わられていた。
それから主人公の岡田くんは家のあらゆる青を探してみるのですが、青はすべて白色になっていました。まわりの人に相談してみても同じことです。
青が消えてしまったのだ。
でもそれに対してどう対処すればいいのか、僕には見当もつかなかった。僕はひとりぼっちだった。
でもそれに対してどう対処すればいいのか、僕には見当もつかなかった。僕はひとりぼっちだった。
こうして主人公の青探しはつづきますが、とうとう見つからずじまいになります。そして、一部の読者は思います。何だよ、青が消えたって、それの何が面白いのか? わけがわからんじゃないかと。
また、別の読者は思います。青が判別できないというアイデアだけで小説を作り上げるなんてすごいなあ。そして、この青探しの1つ1つがおかしいし、私がその人なら、こうして青を求めて、ウロチョロするんだろうな、こんなことは現実には起こらないはずだけど、この青探しは妙にリアリティがあるなあとか、思うでしょう。
私たちは、自分の変なこだわりで、自分の見える世界を信じてあちらこちらを探し回るものなのかもしれません。春樹さんの世界と同じなのかもしれません。それを上手に小説世界にしているから、読者は楽しめるけど、私なんかがあれこれ探し回っているものは、特にテーマもないし、特別な世界もないし、見たのをそのままでおもしろみがないですね。まあ、みんなだいたい似たり寄ったりですけど……。
というわけで、私は何を探しているのだろう、というつまらないオチになりました。
でも、村上春樹さんを読むヒントを見つけた気になっていたんですけど、うまくそれを解説できてないです。
また、出直します。台風が近づいているせいなのか、それとも右耳の耳そうじをしすぎたためなのか、昨夜からめまいがして、今も少し調子がわるいです。
雨が強くなってきました。今日から明日にかけて、どんな時間を過ごすことになるのでしょう。できれば、じっと家で閉じこもっていたいです。台風なんだから……。
★ 写真はフィリピンの座礁した戦艦でした。
★ そして、1年が経過して、またもノーベル賞ウイークになりました。月曜から23人目のノーベル賞が出たというニュースです。ようやく日本も欧米並みになってきたのだと思います。
私も、今からでも遅くないから、英会話でもしなくちゃダメですね。うちの奥さんなんか英語の大学行ってたみたいですけど、もう彼女の英語もサビサビになっているかも。やはり、ブラッシュアップが必要です。それで、私は基礎から始めなきゃいけないかも……。少し気の長い作業です。でも、そういうのがやりたいなあ。
私の友人で、英語を理論的に解明しようという人がいますけど、彼はどれくらいしゃべれるのかなあ。私も元気なウチに海外に飛び出てみたいです。……ああ、ないものねだりかも。(2015.10.5)