昨日、長谷寺に行ってきました。ボタンで有名なお寺ですけど、サクラも花盛りでした。
朝、松阪駅を出るとき、奮発して三百いくらのサンドイッチとオニギリ一つを買いました。長谷寺で食べるつもりでしたが、どこで食べるのか、あまりはっきりとした当てはありませんでした。
お寺の中をグルグルしましたが、休憩するところがありませんでした。
でも、さっき五重の塔からのぞいてたら、ベンチがあったと思い出して、わざわざ階段をふたたび登って、そちらに行ってみました。
大きなモクレンが、ものすごく高いところから、私たちの顔の高さまで花をいっぱいつけていました。いくつかは散っていて、ボタボタと階段の上に大きな花弁も散らかっています。
小柄な女の子が、顔のあたりにあるモクレンに顔を隠して、カメラを構える男の子と何か話しているようでした。そんなことより私はサンドイッチを食べなきゃいけない。
たまたまその二人に近いベンチが空きました。どれ座ってみようと座りました。
他のベンチはみんな埋まっていて、たまたま目の前で座ってた人たちが出ていったところでした。すぐにサンドイッチを食べます。お弁当を食べている人たち、母娘二人とも一眼レフのカメラの人たち、親子連れ、いろいろいる中にポツンと私一人です。
ザンネンながら、今回は奥さんはいませんでした。仕方がないと、モグモグと食べる。一人のお客は私くらいで、たいていのお客さんは何人かでいるようでした。
私がサンドイッチを食べ終わっても、さっきの二人はまだ写真を撮っていました。というのか、女の子はモデルさん気取りです。
笑っている口だけが見えます。緑のウインドブレーカーを着ている男の子は声はしますが、顔はよくわかりません。というか、ずっと彼女の方しか見ていません。恋する男の子としては正当な行動というべきでしょうか。
「胸キュンやわあ」「惚れてしまいそう」とか、カメラマンがよく言うセリフを続けています。
女の子は、そんなことばを当然のこととして受け止めて、顔が見えるといい? 目だけ? 髪はどう? モクレンの花がついた枝を握ってあれこれしています。
確かに顔が見えないのは神秘的であり、チラリズムということなんだろうけど、同じところでずっと会話しながら、たくさんの休憩する人々なんか関係ないよとばかりに二人の世界に入っていました。
そんなに盛り上がってるみたいだけど、どんな女の子?
関係ない私まで興味が出てきます。でも、全くそういう好奇の目があろうがなかろうが、全く不変です。そして、お顔はモクレンの影に隠れている。ほほ笑んだ口もとはまあまあかわいらしい。少し小柄な感じで、モデルさんではないみたい。男の子の友だちであるようです。
会話からすると、ご夫婦ではないようです。別々のところからここに来ていて、これからまた別々のところに帰るということでした。
「絶対プリントしてね」「するする。めっちゃいいでー」とかなんとか……。
もういいや、好きにして! 二人でステキな写真を撮って、お互いの記念にしたらいいや。今日はたまたまその二人の楽しいひととき、そのおすそ分けみたいなものをたまたま私はもらったということなんでしょう。
それにしても、オッチャンはオニギリも食べたよ。でも、何オニギリだったかな。味もわかんないよ。サンドイッチもただ食べたというだけで、ハムがいつもより少し高級というだけで、あんまり味わえなかった。
それより何より、永遠に続く二人の楽しい撮影にあてられてしまった。
もうさすがに耐えられないと、帰路に就きましたけど、あたたかだし、桜吹雪は舞うし、サクラにも少しあきれてしまって、何だかフワフワと駅まで歩きました。参りました。