[3月末夜 JR埼京線各駅停車E233系10号車内 稲生ユウタ&威吹邪甲]
「これでやっと帰れるよ……」
「全く。威吹、お疲れさん」
「いやいや……」
新宿から埼京線に乗り換えたユタと威吹。
威吹は緑色の座席に腰掛けていた。
「カンジ君が北与野駅まで迎えに来てくれるみたいだね」
「おっ、そうか。あいつも律儀だな」
「『弟子として当然です』って言うだろうね」
ユタはニッと笑った。
「ちょうどいい。荷物もデカいし、少し持ってもらうか……」
「まさかマリアさんが、自作の人形をくれるなんてねぇ……」
奇しくも近くには、ミッキーマウスのぬいぐるみが入っているであろうペーパーバッグを持った家族連れがいた。
ポロロロン♪ポロロロン♪
「ん?」
ドアの上からチャイムが聞こえて来た。
「運行情報だね。えー、東武野田線、運転見合わせだって」
「ほお」
「ふーん……大宮公園駅で人身事故ね。こりゃまたとんでもない駅で事故ったなぁ……」
「とんでもないって?」
威吹が金色の瞳をユタに向けた。
「顕正会の本部会館があるじゃないか」
「ああ」
「ま、顕正会員が飛び込んだわけじゃないだろうけどね」
ピピピピピピピピ!
「防護無線!?」
〔急停車します。ご注意ください。お立ちのお客様は、お近くの吊革、手すりにお掴まりください〕
車掌が乗務している乗務員室から、目覚まし時計のタイマーのようなアラームが聞こえた。
「何が起きたんだい?」
威吹は訝し気だった。
「近くで事故があったみたいだ」
「あれのこと?」
威吹はドアの上のモニタを指さした。
そこでは東武野田線運転見合わせの情報を流している。
「いや、鉄道会社が違うから、それは無いよ」
〔「お客様にお知らせ致します。先ほど北与野駅で人身事故が発生しました。只今、負傷者の救助作業を行っているとの情報が入っております。……」〕
「ええーっ!?」
「北与野駅だぁ?」
その時、ユタのケータイに着信があった。
「も、もしもし?」
相手はカンジだった。
{「電車に乗車中、申し訳ありません」}
「本当はマナー違反だけど、緊急だからね。でも、手短に頼むよ。一体、何があったの?」
{「どうも、オレ達の知らない所で何か事が起きてるようです」}
「だから何が?」
{「女子高生が電車に轢かれました」}
「そ、そうなの?」
{「東武野田線でも同じ事故が起きたんですが、どちらも同じ学校の生徒です」}
「ふ、ふーん……」
大変なことだが、まあ、まだ有り得ない話ではない。
{「しかもその学校、栗原江蓮女史の所です」}
「そうなんだ……」
まだ大丈夫。まだ、有り得なくはない話だ。
しかし次の瞬間、威吹がユタのケータイを引っ手繰った。
「カンジ!いい加減、結論を言え!結局、最後に何があった!?」
{「北与野駅で事故を起こした電車の先頭車に、栗原氏とキノがいます」}
「はいーっ!?」
やっと運転再開した時には、もうそろそろ日付も変わろうかという頃だった。
「栗原さん、大丈夫?」
「キノ、何があった?」
江蓮は駅のベンチに座って、うなだれていた。
ユタが江蓮に駆け寄り、威吹はキノに問い詰めるように聞いた。
キノは大げさに肩を竦めて答えた。
「どうもこうも無ェよ。江蓮の学校でトラブルがあったって聞いて、新学期が始まる前に解決しようって動いたんだが、このザマだ。一気に2人に死にやがった。ワケわかんねーよ」
忌々しそうな感じで答えたキノ。
無論威吹に対してではなく、この事態に対してだ。
「栗原さん、これは一体……」
「先生、稲生さん。ここは引いた方がよろしいかと」
カンジが言う。
「どういうことだ?」
キノも言う。
「ああ。さすがにこの問題はオレ達のことだからな。逆に首突っ込まれると、却って面倒になる。ムシがいいかもしれねーが、どうしようも無くなったら手伝ってくれ」
「ムシがいいな」
「だからそう言ってんだろ」
「確かに栗原さんの学校で何かがあったんだろう。確かに、ボク達は関係無いかもしれない。栗原さん、それは妖怪のしわざなの?」
「いや、妖気は感じなかった」
江蓮の代わりにキノが答えた。
「お前、女子校に行ったのか?」
「鬼族のエリートをナメんじゃねぇぞ?」
「何がだ。堕ちた……フガガッ!?」
威吹が何かを言おうとしたのをユタが口を塞いだ。
「威吹、今はケンカはやめとけ!」
「妖気が無いってことは幽霊かな?」
幽霊は妖気ではなく、霊気である。
「分かんない……。私も何が起きてるのか……。でも……でも……誰も死んで欲しくなかったのに……!」
そう言って、泣き出す江蓮。
「おい、エレン泣かすんじゃねぇよ、ユタ!」
キノが抗議した。
「ご、ゴメン……」
「こら!ユタは悪くないだろ!」
威吹は言い返した。
「とにかく、先生。オレ達は引いた方がいいですって。さすがに相手が幽霊だと、分が悪い」
カンジは相変わらずポーカーフェイスだったが、額には汗が浮かんでいた。
「確かにな……」
威吹もフムと頷いた。
「えっ、何が?」
ユタだけが意味が分からない。
「ユタ、仏教では幽霊はどんな立場?」
威吹が聞いてくる。
「ど、どんなって……。えー……」
ユタは答えに窮した。
「そんなの御書で見たことがない……」
「それもそのはずです。仏教では、幽霊の存在を認めていないはずです」
カンジが言った。
「そう、なのか……」
「それが悪さしている。オレ達も幽霊には手は出せません。そして、仏教徒たる稲生さんでも対応できない。オレ達ができることは、何も無いはずです。……蓬莱山鬼之助以外は」
「おう、そうだぜ」
キノは自信満々に頷いた。
「こちとら地獄界の獄卒だからな、亡者の扱いには長けている」
「何がだ。2人も死人出したくせによ」
威吹は毒づいた。
「死んだのは亡者じゃなくて、生きてる人間だぜ?それはオレは知らん」
「まあ、せいぜい頑張んな」
「失礼」
威吹とカンジはユタを引っ張って、ユタの家に向かった。
「あ、あの、もし良かったら、塔婆供養でも……」
「いいから、ユタ!余計なことはしない!」
「これでやっと帰れるよ……」
「全く。威吹、お疲れさん」
「いやいや……」
新宿から埼京線に乗り換えたユタと威吹。
威吹は緑色の座席に腰掛けていた。
「カンジ君が北与野駅まで迎えに来てくれるみたいだね」
「おっ、そうか。あいつも律儀だな」
「『弟子として当然です』って言うだろうね」
ユタはニッと笑った。
「ちょうどいい。荷物もデカいし、少し持ってもらうか……」
「まさかマリアさんが、自作の人形をくれるなんてねぇ……」
奇しくも近くには、ミッキーマウスのぬいぐるみが入っているであろうペーパーバッグを持った家族連れがいた。
ポロロロン♪ポロロロン♪
「ん?」
ドアの上からチャイムが聞こえて来た。
「運行情報だね。えー、東武野田線、運転見合わせだって」
「ほお」
「ふーん……大宮公園駅で人身事故ね。こりゃまたとんでもない駅で事故ったなぁ……」
「とんでもないって?」
威吹が金色の瞳をユタに向けた。
「顕正会の本部会館があるじゃないか」
「ああ」
「ま、顕正会員が飛び込んだわけじゃないだろうけどね」
ピピピピピピピピ!
「防護無線!?」
〔急停車します。ご注意ください。お立ちのお客様は、お近くの吊革、手すりにお掴まりください〕
車掌が乗務している乗務員室から、目覚まし時計のタイマーのようなアラームが聞こえた。
「何が起きたんだい?」
威吹は訝し気だった。
「近くで事故があったみたいだ」
「あれのこと?」
威吹はドアの上のモニタを指さした。
そこでは東武野田線運転見合わせの情報を流している。
「いや、鉄道会社が違うから、それは無いよ」
〔「お客様にお知らせ致します。先ほど北与野駅で人身事故が発生しました。只今、負傷者の救助作業を行っているとの情報が入っております。……」〕
「ええーっ!?」
「北与野駅だぁ?」
その時、ユタのケータイに着信があった。
「も、もしもし?」
相手はカンジだった。
{「電車に乗車中、申し訳ありません」}
「本当はマナー違反だけど、緊急だからね。でも、手短に頼むよ。一体、何があったの?」
{「どうも、オレ達の知らない所で何か事が起きてるようです」}
「だから何が?」
{「女子高生が電車に轢かれました」}
「そ、そうなの?」
{「東武野田線でも同じ事故が起きたんですが、どちらも同じ学校の生徒です」}
「ふ、ふーん……」
大変なことだが、まあ、まだ有り得ない話ではない。
{「しかもその学校、栗原江蓮女史の所です」}
「そうなんだ……」
まだ大丈夫。まだ、有り得なくはない話だ。
しかし次の瞬間、威吹がユタのケータイを引っ手繰った。
「カンジ!いい加減、結論を言え!結局、最後に何があった!?」
{「北与野駅で事故を起こした電車の先頭車に、栗原氏とキノがいます」}
「はいーっ!?」
やっと運転再開した時には、もうそろそろ日付も変わろうかという頃だった。
「栗原さん、大丈夫?」
「キノ、何があった?」
江蓮は駅のベンチに座って、うなだれていた。
ユタが江蓮に駆け寄り、威吹はキノに問い詰めるように聞いた。
キノは大げさに肩を竦めて答えた。
「どうもこうも無ェよ。江蓮の学校でトラブルがあったって聞いて、新学期が始まる前に解決しようって動いたんだが、このザマだ。一気に2人に死にやがった。ワケわかんねーよ」
忌々しそうな感じで答えたキノ。
無論威吹に対してではなく、この事態に対してだ。
「栗原さん、これは一体……」
「先生、稲生さん。ここは引いた方がよろしいかと」
カンジが言う。
「どういうことだ?」
キノも言う。
「ああ。さすがにこの問題はオレ達のことだからな。逆に首突っ込まれると、却って面倒になる。ムシがいいかもしれねーが、どうしようも無くなったら手伝ってくれ」
「ムシがいいな」
「だからそう言ってんだろ」
「確かに栗原さんの学校で何かがあったんだろう。確かに、ボク達は関係無いかもしれない。栗原さん、それは妖怪のしわざなの?」
「いや、妖気は感じなかった」
江蓮の代わりにキノが答えた。
「お前、女子校に行ったのか?」
「鬼族のエリートをナメんじゃねぇぞ?」
「何がだ。堕ちた……フガガッ!?」
威吹が何かを言おうとしたのをユタが口を塞いだ。
「威吹、今はケンカはやめとけ!」
「妖気が無いってことは幽霊かな?」
幽霊は妖気ではなく、霊気である。
「分かんない……。私も何が起きてるのか……。でも……でも……誰も死んで欲しくなかったのに……!」
そう言って、泣き出す江蓮。
「おい、エレン泣かすんじゃねぇよ、ユタ!」
キノが抗議した。
「ご、ゴメン……」
「こら!ユタは悪くないだろ!」
威吹は言い返した。
「とにかく、先生。オレ達は引いた方がいいですって。さすがに相手が幽霊だと、分が悪い」
カンジは相変わらずポーカーフェイスだったが、額には汗が浮かんでいた。
「確かにな……」
威吹もフムと頷いた。
「えっ、何が?」
ユタだけが意味が分からない。
「ユタ、仏教では幽霊はどんな立場?」
威吹が聞いてくる。
「ど、どんなって……。えー……」
ユタは答えに窮した。
「そんなの御書で見たことがない……」
「それもそのはずです。仏教では、幽霊の存在を認めていないはずです」
カンジが言った。
「そう、なのか……」
「それが悪さしている。オレ達も幽霊には手は出せません。そして、仏教徒たる稲生さんでも対応できない。オレ達ができることは、何も無いはずです。……蓬莱山鬼之助以外は」
「おう、そうだぜ」
キノは自信満々に頷いた。
「こちとら地獄界の獄卒だからな、亡者の扱いには長けている」
「何がだ。2人も死人出したくせによ」
威吹は毒づいた。
「死んだのは亡者じゃなくて、生きてる人間だぜ?それはオレは知らん」
「まあ、せいぜい頑張んな」
「失礼」
威吹とカンジはユタを引っ張って、ユタの家に向かった。
「あ、あの、もし良かったら、塔婆供養でも……」
「いいから、ユタ!余計なことはしない!」