[11月17日00:50.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]
魔道師見習(魔法を悪用した廉により、免許皆伝を取消)のマリアから一方的に電話を切られたカンジは、しばし唖然としていた。
「おい、カンジ。何やってるんだ?」
そこへ寝間着姿の威吹がやってきた。
「あっ、先生。今、魔道師見習のマリアンナ助師から電話があったのですが、一方的に切られてしまいまして……」
「なに?どういうことだ?」
威吹が眉を潜めた。
「はァ……。稲生さんにご用があったようなんですが、オレがここにはいない、恐らく京浜東北線のどこかにいるだろうと話したら、思いっ切り切られました」
「随分と無礼なヤツだな」
「如何な抗議を致しましょう?」
「カンジならどうする?」
「聞けば助師は人間時代、幾度か強姦並びに輪姦の憂き目に遭い、処女を既に逸失しているとのこと。されば今一度その記憶を蘇らせ、我ら妖狐族に対する無礼な行いの結果を体に刻み込ませるべきかと」
「ユタの前で、それをそのまま言える自信があれば許可する」
「……(長い沈黙)……」
「オレからあいつの師匠に抗議しておくよ。まあ、上手くはぐらかされるだろうがな」
「……よろしくお願い致します」
「ちょっと着替えてくる。お前も着替えろ」
「は?」
「お前はバカか。こんな時間にユタに用事だなんて、ただ事じゃない」
「と、申しますと?」
「ただ単に愛欲で会いたいだけなら、ここに電話するわけないだろうが」
「しかし、稲生さんは公共交通機関では電話に出られません。それを踏まえた上で、ここに掛けられたのでは?」
「だったら、“めーる”でも“ついったー”でもいいだろうが」
「まあ、確かに稲生さんはラインをされませんからね。『魔道師の魔法で、既にリアルラインだ』と申されてましたが……」
「とにかく、ユタを迎えに行った方がいい」
「は、ハイ」
「ユタはさいたま新都心駅ではなく、大宮駅まで乗って、そこから“たくしー”で帰ると言った。大宮駅で合流するぞ」
「はい!」
[同日01:30.埼玉県さいたま市大宮区吉敷町(きしきちょう)1丁目JR線上空 マリアンナ・スカーレット&エレーナ・マーロン]
「こ、これは……!?」
「!!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/72/c0b1c487c5c176d8a9a89b7729e3173d.jpg)
先頭車から数両、電車が横転していた。
救助活動の為、多くの関係各所の車で付近のガードは閉鎖されている。
「これがGPSから消えた原因だったのね!」
エレーナは納得したように言った。
「下に降りて!」
「ちょっと待って!直接降りたら大騒ぎになるでしょ!近くの建物の上に降りるから、そこから歩いて行きましょう!」
エレーナは旧中山道の吉敷町交差点付近にあるマンションの屋上に降り立った。
マンション住民達も何事かと、ベランダから外の様子を見ているため、マリア達の動向には気づかなかった。
屋上から最上階のフロアに階段で下りると、そこからエレベーターで1階まで下りる。
マンションから出て、線路を目指すと、警察によって封鎖されているガードへ向かう交差点の前に着いた。
「ここから先は立ち入り禁止です!」
バリケードに近づくと、その前に立っている警察官に注意された。
「あっちゃあ……。こりゃ冥鉄の臨時列車が走るかもね」
エレーナは完全に他人事である。
「あの電車に乗ってる人達は……」
「今、懸命な救助作業を行っているところです」
マリアがやっと絞り出した声に答える警察官。
「はい、どいてどいて!」
「1名、心肺停止!」
今、電車の中から1人の乗客が救助された。
それは血だらけで、とても意識があるようには見えない。
ユタではなさそうだった。
「ここにいても邪魔なだけだね。ズラかるか。ん?」
エレーナがマリアに言うが、マリアは答えない。
「おーい、どうした?」
ポンとマリアの肩を叩くエレーナ。
へなへなと力無く座り込むマリア。
「ちょっと、大丈夫?」
「な……んで……!こんな……ことに……っ!」
「マリアンナ!ストップ!ストップ!」
マリアの慟哭を予見したエレーナは、そうなる前にマリアの制止に入った。
「泣くのは本当に死んだのを確認してからにしな!早く行こう!」
エレーナはマリアを引きずるように、規制線を後にした。
[同日同時刻 同場所 威吹&カンジ]
マリア達がガードの東側なら、一方で威吹達は西側にいた。
京浜東北線は数多ある大宮以南の路線のうち、1番東側を走行するため、ガード西側からは電車が見えなかった。
「ここは立ち入り禁止です!入ってはいけません!」
当然ながら、西側も封鎖されている。
威吹達は徒歩で大宮駅に向かっていたが、途中で数多の緊急車両が通過していったのを見て、カンジが様子を見に行こうとした。
威吹は当初渋ったが、結局ついてきた。
「やはり京浜東北線が事故に遭ったようです。それも、乗員乗客にケガ人が出るような事態です」
「ユタはそれに乗ってるのか!?」
「大宮行きの最終電車ということですから、間違い無いでしょう」
「ユタの安否は!?」
「稲生さんのケータイに何回か掛けているのですが、相変わらずマナーモードになっているだけです」
「むむ……」
「先生、ここは1度家に戻り、状況の把握に勤めた方がよろしいかと」
「ま、待て。何とか向こう側に回れないのか?」
「全てのガードが封鎖されているわけではないでしょう。大栄橋とか、さいたま新都心の陸橋とかでしたら封鎖はされていないはずです」
「分かった。ならば、せめて電車の様子を見てからにしておきたい」
「分かりました。ここから近い陸橋は、さいたま新都心側です。急ぎましょう」
と、その時だった。
ガードの上をけたたましい汽笛を上げて、湘南新宿ラインの線路の上をSL列車が通過していった。
「あれは……冥界鉄道?」
カンジが目を見開いた。
妖怪2人の目には見えるが、霊感の無い普通の人間には汽車の姿はもちろん、今の汽笛の音や走行音も聞こえない。
「おい、どうなってるんだよ?」
「冥鉄が出動するほどの大きな事故のようです……ね」
「はあ?!」
それからしばらくして、ユタは1番被害の大きな先頭車から救助された。
事故当時、どのようにしていたかは別として、とにかく運転室の近くにいたらしく、運転室と客室の間のガラスを突き破って、運転室に飛び込んだようであり、そこから運転士と共に発見され、救助された。
死亡はまだ確認されていない。
魔道師見習(魔法を悪用した廉により、免許皆伝を取消)のマリアから一方的に電話を切られたカンジは、しばし唖然としていた。
「おい、カンジ。何やってるんだ?」
そこへ寝間着姿の威吹がやってきた。
「あっ、先生。今、魔道師見習のマリアンナ助師から電話があったのですが、一方的に切られてしまいまして……」
「なに?どういうことだ?」
威吹が眉を潜めた。
「はァ……。稲生さんにご用があったようなんですが、オレがここにはいない、恐らく京浜東北線のどこかにいるだろうと話したら、思いっ切り切られました」
「随分と無礼なヤツだな」
「如何な抗議を致しましょう?」
「カンジならどうする?」
「聞けば助師は人間時代、幾度か強姦並びに輪姦の憂き目に遭い、処女を既に逸失しているとのこと。されば今一度その記憶を蘇らせ、我ら妖狐族に対する無礼な行いの結果を体に刻み込ませるべきかと」
「ユタの前で、それをそのまま言える自信があれば許可する」
「……(長い沈黙)……」
「オレからあいつの師匠に抗議しておくよ。まあ、上手くはぐらかされるだろうがな」
「……よろしくお願い致します」
「ちょっと着替えてくる。お前も着替えろ」
「は?」
「お前はバカか。こんな時間にユタに用事だなんて、ただ事じゃない」
「と、申しますと?」
「ただ単に愛欲で会いたいだけなら、ここに電話するわけないだろうが」
「しかし、稲生さんは公共交通機関では電話に出られません。それを踏まえた上で、ここに掛けられたのでは?」
「だったら、“めーる”でも“ついったー”でもいいだろうが」
「まあ、確かに稲生さんはラインをされませんからね。『魔道師の魔法で、既にリアルラインだ』と申されてましたが……」
「とにかく、ユタを迎えに行った方がいい」
「は、ハイ」
「ユタはさいたま新都心駅ではなく、大宮駅まで乗って、そこから“たくしー”で帰ると言った。大宮駅で合流するぞ」
「はい!」
[同日01:30.埼玉県さいたま市大宮区吉敷町(きしきちょう)1丁目JR線上空 マリアンナ・スカーレット&エレーナ・マーロン]
「こ、これは……!?」
「!!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/72/c0b1c487c5c176d8a9a89b7729e3173d.jpg)
先頭車から数両、電車が横転していた。
救助活動の為、多くの関係各所の車で付近のガードは閉鎖されている。
「これがGPSから消えた原因だったのね!」
エレーナは納得したように言った。
「下に降りて!」
「ちょっと待って!直接降りたら大騒ぎになるでしょ!近くの建物の上に降りるから、そこから歩いて行きましょう!」
エレーナは旧中山道の吉敷町交差点付近にあるマンションの屋上に降り立った。
マンション住民達も何事かと、ベランダから外の様子を見ているため、マリア達の動向には気づかなかった。
屋上から最上階のフロアに階段で下りると、そこからエレベーターで1階まで下りる。
マンションから出て、線路を目指すと、警察によって封鎖されているガードへ向かう交差点の前に着いた。
「ここから先は立ち入り禁止です!」
バリケードに近づくと、その前に立っている警察官に注意された。
「あっちゃあ……。こりゃ冥鉄の臨時列車が走るかもね」
エレーナは完全に他人事である。
「あの電車に乗ってる人達は……」
「今、懸命な救助作業を行っているところです」
マリアがやっと絞り出した声に答える警察官。
「はい、どいてどいて!」
「1名、心肺停止!」
今、電車の中から1人の乗客が救助された。
それは血だらけで、とても意識があるようには見えない。
ユタではなさそうだった。
「ここにいても邪魔なだけだね。ズラかるか。ん?」
エレーナがマリアに言うが、マリアは答えない。
「おーい、どうした?」
ポンとマリアの肩を叩くエレーナ。
へなへなと力無く座り込むマリア。
「ちょっと、大丈夫?」
「な……んで……!こんな……ことに……っ!」
「マリアンナ!ストップ!ストップ!」
マリアの慟哭を予見したエレーナは、そうなる前にマリアの制止に入った。
「泣くのは本当に死んだのを確認してからにしな!早く行こう!」
エレーナはマリアを引きずるように、規制線を後にした。
[同日同時刻 同場所 威吹&カンジ]
マリア達がガードの東側なら、一方で威吹達は西側にいた。
京浜東北線は数多ある大宮以南の路線のうち、1番東側を走行するため、ガード西側からは電車が見えなかった。
「ここは立ち入り禁止です!入ってはいけません!」
当然ながら、西側も封鎖されている。
威吹達は徒歩で大宮駅に向かっていたが、途中で数多の緊急車両が通過していったのを見て、カンジが様子を見に行こうとした。
威吹は当初渋ったが、結局ついてきた。
「やはり京浜東北線が事故に遭ったようです。それも、乗員乗客にケガ人が出るような事態です」
「ユタはそれに乗ってるのか!?」
「大宮行きの最終電車ということですから、間違い無いでしょう」
「ユタの安否は!?」
「稲生さんのケータイに何回か掛けているのですが、相変わらずマナーモードになっているだけです」
「むむ……」
「先生、ここは1度家に戻り、状況の把握に勤めた方がよろしいかと」
「ま、待て。何とか向こう側に回れないのか?」
「全てのガードが封鎖されているわけではないでしょう。大栄橋とか、さいたま新都心の陸橋とかでしたら封鎖はされていないはずです」
「分かった。ならば、せめて電車の様子を見てからにしておきたい」
「分かりました。ここから近い陸橋は、さいたま新都心側です。急ぎましょう」
と、その時だった。
ガードの上をけたたましい汽笛を上げて、湘南新宿ラインの線路の上をSL列車が通過していった。
「あれは……冥界鉄道?」
カンジが目を見開いた。
妖怪2人の目には見えるが、霊感の無い普通の人間には汽車の姿はもちろん、今の汽笛の音や走行音も聞こえない。
「おい、どうなってるんだよ?」
「冥鉄が出動するほどの大きな事故のようです……ね」
「はあ?!」
それからしばらくして、ユタは1番被害の大きな先頭車から救助された。
事故当時、どのようにしていたかは別として、とにかく運転室の近くにいたらしく、運転室と客室の間のガラスを突き破って、運転室に飛び込んだようであり、そこから運転士と共に発見され、救助された。
死亡はまだ確認されていない。