報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「これは仏罰か?罪障消滅か?」

2014-11-15 19:41:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月17日00:50.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]

 魔道師見習(魔法を悪用した廉により、免許皆伝を取消)のマリアから一方的に電話を切られたカンジは、しばし唖然としていた。
「おい、カンジ。何やってるんだ?」
 そこへ寝間着姿の威吹がやってきた。
「あっ、先生。今、魔道師見習のマリアンナ助師から電話があったのですが、一方的に切られてしまいまして……」
「なに?どういうことだ?」
 威吹が眉を潜めた。
「はァ……。稲生さんにご用があったようなんですが、オレがここにはいない、恐らく京浜東北線のどこかにいるだろうと話したら、思いっ切り切られました」
「随分と無礼なヤツだな」
「如何な抗議を致しましょう?」
「カンジならどうする?」
「聞けば助師は人間時代、幾度か強姦並びに輪姦の憂き目に遭い、処女を既に逸失しているとのこと。されば今一度その記憶を蘇らせ、我ら妖狐族に対する無礼な行いの結果を体に刻み込ませるべきかと」
「ユタの前で、それをそのまま言える自信があれば許可する」
「……(長い沈黙)……」
「オレからあいつの師匠に抗議しておくよ。まあ、上手くはぐらかされるだろうがな」
「……よろしくお願い致します」
「ちょっと着替えてくる。お前も着替えろ」
「は?」
「お前はバカか。こんな時間にユタに用事だなんて、ただ事じゃない」
「と、申しますと?」
「ただ単に愛欲で会いたいだけなら、ここに電話するわけないだろうが」
「しかし、稲生さんは公共交通機関では電話に出られません。それを踏まえた上で、ここに掛けられたのでは?」
「だったら、“めーる”でも“ついったー”でもいいだろうが」
「まあ、確かに稲生さんはラインをされませんからね。『魔道師の魔法で、既にリアルラインだ』と申されてましたが……」
「とにかく、ユタを迎えに行った方がいい」
「は、ハイ」
「ユタはさいたま新都心駅ではなく、大宮駅まで乗って、そこから“たくしー”で帰ると言った。大宮駅で合流するぞ」
「はい!」

[同日01:30.埼玉県さいたま市大宮区吉敷町(きしきちょう)1丁目JR線上空 マリアンナ・スカーレット&エレーナ・マーロン]

「こ、これは……!?」
「!!!」

 

 先頭車から数両、電車が横転していた。
 救助活動の為、多くの関係各所の車で付近のガードは閉鎖されている。
「これがGPSから消えた原因だったのね!」
 エレーナは納得したように言った。
「下に降りて!」
「ちょっと待って!直接降りたら大騒ぎになるでしょ!近くの建物の上に降りるから、そこから歩いて行きましょう!」
 エレーナは旧中山道の吉敷町交差点付近にあるマンションの屋上に降り立った。
 マンション住民達も何事かと、ベランダから外の様子を見ているため、マリア達の動向には気づかなかった。
 屋上から最上階のフロアに階段で下りると、そこからエレベーターで1階まで下りる。
 マンションから出て、線路を目指すと、警察によって封鎖されているガードへ向かう交差点の前に着いた。
「ここから先は立ち入り禁止です!」
 バリケードに近づくと、その前に立っている警察官に注意された。
「あっちゃあ……。こりゃ冥鉄の臨時列車が走るかもね」
 エレーナは完全に他人事である。
「あの電車に乗ってる人達は……」
「今、懸命な救助作業を行っているところです」
 マリアがやっと絞り出した声に答える警察官。
「はい、どいてどいて!」
「1名、心肺停止!」
 今、電車の中から1人の乗客が救助された。
 それは血だらけで、とても意識があるようには見えない。
 ユタではなさそうだった。
「ここにいても邪魔なだけだね。ズラかるか。ん?」
 エレーナがマリアに言うが、マリアは答えない。
「おーい、どうした?」
 ポンとマリアの肩を叩くエレーナ。
 へなへなと力無く座り込むマリア。
「ちょっと、大丈夫?」
「な……んで……!こんな……ことに……っ!」
「マリアンナ!ストップ!ストップ!」
 マリアの慟哭を予見したエレーナは、そうなる前にマリアの制止に入った。
「泣くのは本当に死んだのを確認してからにしな!早く行こう!」
 エレーナはマリアを引きずるように、規制線を後にした。

[同日同時刻 同場所 威吹&カンジ]

 マリア達がガードの東側なら、一方で威吹達は西側にいた。
 京浜東北線は数多ある大宮以南の路線のうち、1番東側を走行するため、ガード西側からは電車が見えなかった。
「ここは立ち入り禁止です!入ってはいけません!」
 当然ながら、西側も封鎖されている。
 威吹達は徒歩で大宮駅に向かっていたが、途中で数多の緊急車両が通過していったのを見て、カンジが様子を見に行こうとした。
 威吹は当初渋ったが、結局ついてきた。
「やはり京浜東北線が事故に遭ったようです。それも、乗員乗客にケガ人が出るような事態です」
「ユタはそれに乗ってるのか!?」
「大宮行きの最終電車ということですから、間違い無いでしょう」
「ユタの安否は!?」
「稲生さんのケータイに何回か掛けているのですが、相変わらずマナーモードになっているだけです」
「むむ……」
「先生、ここは1度家に戻り、状況の把握に勤めた方がよろしいかと」
「ま、待て。何とか向こう側に回れないのか?」
「全てのガードが封鎖されているわけではないでしょう。大栄橋とか、さいたま新都心の陸橋とかでしたら封鎖はされていないはずです」
「分かった。ならば、せめて電車の様子を見てからにしておきたい」
「分かりました。ここから近い陸橋は、さいたま新都心側です。急ぎましょう」
 と、その時だった。
 ガードの上をけたたましい汽笛を上げて、湘南新宿ラインの線路の上をSL列車が通過していった。
「あれは……冥界鉄道?」
 カンジが目を見開いた。
 妖怪2人の目には見えるが、霊感の無い普通の人間には汽車の姿はもちろん、今の汽笛の音や走行音も聞こえない。
「おい、どうなってるんだよ?」
「冥鉄が出動するほどの大きな事故のようです……ね」
「はあ?!」

 それからしばらくして、ユタは1番被害の大きな先頭車から救助された。
 事故当時、どのようにしていたかは別として、とにかく運転室の近くにいたらしく、運転室と客室の間のガラスを突き破って、運転室に飛び込んだようであり、そこから運転士と共に発見され、救助された。

 死亡はまだ確認されていない。
コメント (10)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「最悪の予知夢」

2014-11-15 16:22:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月16日23:12.JR大船駅・根岸線ホーム 稲生ユウタ]

「あっ、もしもし、威吹?……ああ。やっと、折伏終わったよ。いやあ、わざわざ神奈川まで行くことになるとはねぇ……。でも、終電で何とか帰れそうだ」
 ユタはホームに降りて、手持ちのスマホで威吹に電話していた。
「迎え?いやあ、別にいいよ。どうせ終点まで降りるし、藤谷班長、タクシー代融通してくれたから」

〔「お待たせ致しました。まもなく10番線から、23時12分発、根岸線、京浜東北線直通、各駅停車、大宮行きが発車致します。本日、大宮行きの最終電車です。赤羽から先へおいでのお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

「おっと。もう発車時間だ。じゃあ、また後で。……うん。それじゃ」
 ユタは電話を切ると、最終電車に乗り込んだ。
 もちろん、乗車車両は先頭車。
 鉄ヲタの、乗り鉄の哀しい性。

〔10番線の、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ユタを乗せた最終電車は、南の終点駅を発車すると、北の終点駅を目指した。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は京浜東北線、各駅停車、大宮行きです。次は、本郷台です。……〕

 23時以降に大船駅を発車する電車で、大宮まで行く電車は、この京浜東北線しか無い。
 湘南新宿ラインはもっと遠くまで行く関係からか、遅くても22時台には大船駅を発車してしまっている。

 あいにくと御受誡までは行くことができなかったが、それでも折伏によって大きな功徳がある。
 それは宗門に限らず、異流儀団体でも言われていることだ。

 しかし……。

[11月17日00:45.長野県北部某所 マリアの屋敷 マリアンナ・スカーレット]

〔「……京浜東北線は、東京駅におきまして急病人発生の為、ただいま運転を……」〕
〔「……ただいま、電車は10分遅れでの運転で……」〕
〔「こちら現場です!御覧の通り、京浜東北線は……ザザ……で、現在……ザー……」〕

「……はっ!」
 そこで目が覚めた。
 ベッドではなく、よく人形作りや魔道書を読みふける時に使うリビングのソファの上だ。
 いつの間にか眠ってしまったのだろうか。
 誰かが掛けてくれたのか、毛布が掛けられていた。
「う……」
 頭が重い。
 ドリーム・ワーカーの素質が出て来たと師匠のイリーナは言っていたが、自分はドール・ワーカーのままでいいとさえ思う。
 魔道師としてのスキルが高いのは、ドリーム・ワーカーの方ではあるが。
 よろよろと立ち上がると、とにかく夢の内容をノートに書き出すことにした。
 夢の記憶を書き出す。
(京浜東北線が何だって言うの?)
 確かにユタと一緒に乗ったことはある。
 1番最後の映像は……どこか、少し小高い所から見たと思うもの。
 また電車の画像が横向きになっていた。

 

「え……?」
 また横向きの画像じゃなくて、電車が横向き……?
 マリアは机の上にあった水晶球を手元に寄せ、夢で見た映像を鮮明に映し出す魔法を使った。
 それはまず水晶玉に映し出され、それがプロジェクターのように白い壁に投影される。
「な、何これ……?事故……?」
 マリアは思わず、更に机の上にある洋風のダイヤル式の電話を取った。
 掛けた相手は、ユタ。
 だが、

{只今、公共交通機関を利用中のため、電話に出られません。……}

「!」
 電話を切って、今度は稲生家に掛ける。
 さすがに真夜中のせいか、なかなか出なかった。
{「はい、稲生です」}
 カンジが出た。
「わ、私、魔道師のマリアンナ・スカーレットだ。ユウタ君は、そっちにいるか?」
{「こんな時間に、いきなりだな。あいにくと、稲生さんはここにはいない。急用なら言づけるぞ?」}
「今、どこにいる!?」
{「あいにくとオレも威吹先生も鉄道に詳しくはないので分からんが、京浜東北線のどこかだろう。それしかもう電車は無いとのことだ」}
「ちくしょうっ!」
 マリアはガチャンと電話を切った。

[同日01:00.東京都江東区森下 ワンスター・ホテル エレーナ・マーロン&マリア]

 真夜中、1人でフロント業務を行っているエレーナ。
 イリーナの姉弟子であるところのポーリン・ルシフェ・エルミラの弟子であり、マリアとは同じ大師匠の孫弟子に当たる。
「ヒマだニャー……」
 フロントの上に寝転がる黒猫のクロ。
 ぬいぐるみなのだが、今では随分と本物の猫のような姿になっている。
 パッと見、喋る黒猫だ。
「あんたは寝てていいよ。どうせもうこんな時間、お客の出入りは無いし」
 エレーナは机の上のPCを眺めていた。
 あくまでアナログに魔道書を読むマリアとの違いは、その内容をPCに取り込んでいること。
 だからマリアが魔道書を待ち歩くのに対し、エレーナはPCを持ち歩く。
 ホウキで飛ぶ魔法使いだが、それが無ければ、とても魔法使いに見えない。
 口に運ぶ飲み物も、ロビーの自販機で買ったペットボトルだ。
「エレーナ!ホウキ貸して!!」
「ぶっ!」
 いきなり瞬間移動(ル・ウラ)でやってきたマリアにびっくりするエレーナ。
 思わず口に含んだお茶を吹き出してしまった。
「ちょ……ちょっと!いきなりフロントに来るなんて!お客がいたらどうするのよ!?」
「それどころじゃない!この時間、京浜東北線の下り最終電車がどこを走ってるか教えてくれ!」
「はあ!?」
「説明は後だ!ホウキを貸してくれ!それに案内させる!」
「あんた、使えないでしょ!」
「エレーナも来い!」
「あのね!あたしゃ、あんたみたいなニートと違ってこっちは仕事中だっつの!」

 しかしフロントで言い争っていると、仮眠中のオーナーが起きてきて、事情を理解してくれた。
 こうして、マリアはエレーナの操縦でホウキを使うことができたのである。

[同日01:13.東京都の城北付近 マリア&エレーナ]

 ホウキの先に座るクロ。
 背中にはGPSを背負っている。
 ウェーブのかかった鮮やかな金髪に、よく魔女が被る黒い三角帽子を被ったエレーナは、左耳にインカムを付けていた。
「もうこの時間、そろそろ終電は終点に着く頃よ?あんたの取り越し苦労じゃない?」
「それならそれでいい」
「それに付き合わされた私が大損よ」
「後で謝礼はする!」
「マジ?いくら出す?」
「聞いて驚け!お前の言い値だ!」
「飛ばすよ、クロ!」
「エレーナ、金に弱いニャ」
 満月の夜空を滑空する魔女2人。
 だが!

 ピー!(GPSから発せられるアラーム音)

「な、何だ!?」
「はあっ!?」
 エレーナは画面をタップした。
「う、そ……?で、電車が消えた……!?」
「誰がそんな魔法を!?お前の師匠か!」
「うちの師匠はそんなヒマ人じゃない!イリーナ師だろ!?」
「んなワケあるか!」
「2人とも落ち着くニャ!消えたのは『電車そのもの』じゃなく、『線路の上から電車が消えた』んニャ!」
 クロが後ろを振り向いた。
「一体、どういうこと?」
「消えた場所はどこ!?」
「えーと……」
 エレーナが履歴を追う。
「さいたま新都心駅と大宮の間だね。取りあえず、そこに向かってみよう」
 2人は現場に向かった。
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