報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「ユタの脱講」

2014-11-22 17:31:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月22日14:00.埼玉県さいたま市大宮区 自治医大さいたま医療センター ユタの病室 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、ユタの母親]

 ユタが脱講届にサインをしたことで、母親はとても喜んでいた。
「偉いわ。よく決心できたわね。じゃあ早速、これは郵送してくるからね。速達&書留で」
「えっ、そんなに……!?」
「お父さんが『なるべく早く』って言ってたからね。この病院、郵便局はあるのかしら?」
「いや、無いね」
 ユタが答えると、
「じゃあ、どうせ駅まで行くし、そこから出してきましょうか」
「出してきましょうかって、土曜日にやってるの?」
「高島屋内の局なら、郵便とATMは10時から18時まで営業してるみたいです」
 マリアは水晶球を見ながら言った。
「じゃあ、大丈夫ね。出してくるからね。じゃあ、またね。マリアちゃんはゆっくりしてていいからね」
「はい。ありがとうございます」
 母親が出て行くと、
「本当にいいの?今回の事件は、魔道師絡みが大きい。それにユウタ君が巻き込まれただけのことだ。まさか、大師匠様が直接謝りに来られるとは思っていなかったけど……」
 マリアが言った。
「どっちにしろ、僕1人の信心では力及ばずだったってことです。ここまで来たら、もうしょうがない。御本尊様が返納されていないことに誰もツッコミを入れないのは何故でしょう?」
「さあね。恐らく御両親は本尊下附のことを宗門からの貸与ではなく、譲渡という認識なのかもしれない。もし問題なら、ユウタ君の寺から指摘があるだろう」
「そうですね。ただ脱講するだけならまだしも、御本尊様に御不敬があってはいけません。そうなる前に、どうせなら返納すべきだと思うんです」
「……か、もしくは早めに回収してしまって、ユウタ君が保管しているかだな。はっきり言って、無信心だと焼却処分や可燃ゴミに出してもおかしくない」
「ええ。マリアさん、この通り僕はまだ自由に動けません。今日明日に退院できるわけでもないですし、もし良かったら……」
「分かった。妖狐のような不浄な妖怪より、まだ無宗教の私の方が不敬も小さいだろう。稲荷明神の威を笠に着るようなこともしているしな」
「そこは『していた』という過去形にしてやってください」
 ユタは少し悲し気な顔をして言った。

[同日14:30.埼玉県さいたま市大宮区天沼町 マリア]

「んん?」
 ユタの母親に先回りする為に、病院前からタクシーに乗ったマリア。
 しかしそのタクシーが、駅まで向かう一本道の途中で渋滞にハマってしまった。
「この道、いつも混んでるんですか?」
「空いてはいないんですけど、ただ、ここまでヒドい渋滞も珍しいですよ。工事でもしてるのかな?いや、午前中通った時は何も無かったんですが……」
 マリアの質問に運転手も首を捻っていた。
 ようやく裏道に入り、そこから回復運転を行う。
 するとタクシー搭載の無線機から、運行管理者からと思われる無線が飛んできた。

〔「……旧中山道スクランブル交差点にて事故発生中のため、付近の道路は大変混雑しています。付近の車は、十分注意して走行してください。繰り返します。……」〕

「ああ、事故があったみたいですね」
「なるほど……」

[同日15:00.さいたま市中央区 ユタの家 マリア、威吹邪甲、威波莞爾]

 威吹は庭でカンジの剣の稽古をしていたが、家の前に1台のタクシーが止まったのに気づいた。
 そこから降りて来たのはマリア。
「何用だ?」
「ユウタ君から頼まれ事だ。本尊を回収してほしいとな」
「本尊だと?」
「上がらせてもらう」
 マリアは家の中に入った。
 ユタが仏間として使用している部屋に向かう。
 その間、威吹はマリアからユタがついに脱講届にサインし、母親がそれを出しに言ったことを聞いた。
「そうか。やっと、元のユタに戻ってくれるか。これでまたユタの霊力も元の強さに戻って……」
 威吹は正直ホッとした気持ちだった。
「稲生さんには申し訳無いですが、彼の信仰に対する周囲の旨味はありませんでしたからね。それは魔道師達も同じはず……」
 カンジが同調するように言った。
「私はどっちでもいい。ただ私の場合、神は手を差し伸べてくれなかっただけだ」

 ガラッと仏間の襖を開ける。
「ん?」
 入ってすぐ正面に仏壇があるのだが、その中にあるはずの御本尊が無くなっていた。
「あれ?無いぞ?」
「どこかにしまったのか?」
 マリアは妖狐達を見た。
「いや、オレは知らない。こういうのに触れるのは禁忌だからな」
「オレも勝手な真似は致しません」
「では、御両親か。先を越されてしまったか」
 マリアは残念そうな顔をした後で続けた。
「ユウタ君のダディに電話して聞いてみよう。電話を借りるぞ」
 マリアは家の固定電話の受話器を取った。
「何でお前、御尊父殿の電話番号知ってるんだ?」
 威吹は変な顔をした。
 しかしカンジは、
(オレはむしろ、威吹先生がダディの意味をご存知だということに驚きだ)
 と思った。
「……あ、もしもし。私、マリアンナ・スカーレットです。実はユウタ君の本尊のことで……」
{「ああ、そうだ。忘れてた。家内も先ほど書類を出しに行くところだっていうし、それも処分しておいてもらえないか?」}
「? では、お父様が持ち出したわけではないのですね?」
{「仕事が忙しくてそれどころじゃないよ。もしかしたら、家内がついでに持ってるのかもしれないな。聞いてみるといい。……あ、ゴメン。他から電話が入った。とにかく、そういうことだから、よろしく」}
「は、はい」
 マリアは電話を切った。
「どうやら、お母様がお持ちのようだ」
「そうなのか」
「一応、確認してみよう。ユウタ君もだいぶ気にしていたしな」
 マリアは今度はユタの母親に電話を掛けた。
「ん?あれ?電話に出ないな」
 マリアは首を傾げた。
「今、郵便局にいるのかな?」
 電話を切る。
「脱講届と一緒に寺に送ってるのかもしれんぞ?」
 威吹が言った。
「それもまあ、ユウタ君も希望していたことだから、それならそれでいいのだが……」
 マリアはそうは言ったが、どことなく胸騒ぎがしてしょうがなかった。
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本日の雑感 1122

2014-11-22 15:57:30 | 日記
 先週、今週と歯肉炎の治療で歯科へ行ってきたのだが、どうも私は磨き方が下手らしい。
 普通の固さの手動ブラシを使っているのだが、電動歯ブラシの方がいいのかとさえ思う。
 取りあえず、あと1回。
 今現在のところ、通院はこの歯科と潰瘍性大腸炎の消化器科の2つである。

 そういえば少し前、顕正新聞に潰瘍性大腸炎の会員が登壇していた。
 私が読んだ限り、添削(という名の誤魔化し、改竄、捏造、もみ消し)されたような箇所は無く、山門入り口さんも槍玉に挙げなかったことから、たまには真実を書く登壇も混ぜているのだろうと思った。
 教学や信心については添削する顕正会幹部も、病気のことに関しては手出しができなかったか。
 同じ病気の患者として、その後の動向が気になるところだ。
 私のように一進一退を繰り返しているのか、はたまた最悪ガン化してしまったのか、それとも、私よりも早々と通院回数や投薬数を減らすことに成功したのかだ。
 私がこの病気になって、今よりも症状がひどかった時、当時の支隊長が言っていたことは今でも覚えている。
 いや、別に何も冷たく、
「そんな病気になるのは信心が足りないからだ!」
 とか、
「ここで爆発してガンガン折伏ねーと、ガンになって死ぬぞ!」
 とか、そんなこと言われたわけではない。
 サトー様の所はどうだか知らないけどw
 ただ、にこやかに、
「誓願を毎月達成していけば、いつの間にか病気は治ってるよ」
 とだけだ。
 ただ、他人の振り見て我が振り直せとはよく言ったもので、顕正会には私以上に重い病気を抱えている人がいる。
 その人が一生懸命折伏に当たっていることは、これが法華講であったとしても、褒め称えられるものなのだろうが、私は何か違うなぁと思ったものだ。
 何がかって?
 私もそうだが、その人はもっと顔色も悪いし、私以上にヘモグロビンが足りないのか、よく貧血を起こしておられた。
 私は倒れることはなかったが、いつもより血中栄養素の数値が足りないと、なかなか真っ直ぐ歩きにくかった。
 そんな人に折伏されて、果たして健康体の人達は納得するのだろうかと。
 案の定、成果が思うようにままならず、いつしか本部会館で見かけることもなくなった。
 法華講で元気にしておられれば良いのだが……。

 私のような持病持ちというか、欠陥を自覚している人間には悩ましいのが折伏というもので、特に自分より優れている人間を相手にするとなると大変だ。
 私の本業もまた人を相手にする仕事があり、私もよくそこに駆り出されるのだが、今ではどの人間が折伏して入信させやすいかまで見極められるようにはなった。
 顕正会では重宝するスキルだろう。
 法を下げることも辞さないやり方を含むので、今の法華講ではあまり使えないスキルだ。
 折伏していくうちに人間性が磨き上げられるもので、欠陥だらけの人間がそんなことはできないということはない。
 とはいうものの、本当に欠陥だらけの人間が多い顕正会にいればともかく、そうではない法華講にいると、却って退いてしまうんだな。
 新卒採用者と中途採用者とでは、入社後の扱いが違う日本の企業文化を理解していればいいんだけどね。
 どういうわけだか、功徳に関してもプロパーか否かで差が付いているという……のが、私の感想。
 いや、実に悩ましい。

 “ユタと愉快な仲間たち”で、ついに主人公・稲生ユウタが脱講届にサインをしてしまった。
 これも本人も意思なので仕方が無いと、作者の私は弁護してやる。
 しかし、いくら両親が泣いたり怒ったりして申し訳ない、一代法華の辛いところだとしても、稲生ユウタは1つ大きな間違いをしていることにお気づきですかな?
 いや、脱講届にサインをしたこと自体が間違いだなんて言わないでよ。それを言われたら、身も蓋も無いから。それ以外にね。
 1度脱講したことのある私だから分かるものだ。はっはっは!
 もっとも、作中で稲生ユウタの大きな間違い1つを明らかにしたら、所属寺院にバレた際、呼び出し食らう恐れがあるので、【お察しください】。

 そろそろ“アンドロイドマスター”も、再開したいな。
 あっちは宗教色が無いから、物凄く楽なんだ。楽なんだけど、仏法ネタは使えないから、その分苦しい面もあるにはある。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「意外な結末」

2014-11-22 00:59:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月20日16:00.埼玉県さいたま市大宮区 ユタの病室 稲生ユウタ&???]

「もう少しやれるコ達かと思ったが、ここで挫折してしまったか……。しょうがない。もう少し、ヒントをあげるとしよう」
 手持ちの水晶球に手をかざす魔道師。
 それをユタは、目を丸くしながら見ていた。
「いや、どうも失礼」
「あの……どちら様で……?」
 ユタの横に座るのは男性。
 しかし、顔はよく分からない。
 黒いスーツの上に黒いコートを羽織っているが、深く被っているハットだけはグレーだ。
 水晶球を使えるくらいだから、魔道師ではあろうが……。
 帽子の下から覗く口から発せられる言葉は、穏やかな口調の紳士であった。
 しかし、年恰好は分からない。
 老人のようなしわがれた声でも無ければ、青年のような声でも無かった。
 まあ、間を取って中年か。
「あいにくと名前は名乗れないんだけど、キミに悪い事をしに来たわけでないという事は断言するよ」
「じゃ、何の御用ですか?」
「その前に、もう少し自己紹介させてもらうと、私はイリーナに魔道師の何たるかを教えた者だ」
「え……?」
「だから、イリーナは私のことを知っているだろう」
「イリーナさんの……先生?」
「イリーナの師として、被害者であるキミに謝りに来た。うちの弟子達が、とんだ迷惑を掛けてしまったね」
「え?あの事故はイリーナさんが?」
「いや、それは違う。犯人は別にいる。だが、私の手の中にいる者ではない。ただ、あのコがもう少し本腰を入れて動いてくれたら防げた事故だった。まだ当の本人は謝りに来ていないだろう?だから私が謝りに来た。申し訳無い」
「それは一体、どういうことなんですか?」
「敵は私が始末しておいた。だから、キミは安心してケガの養生に専念するといい。後で、マリアンナにも見舞いに来させるからね」

[同日17:00.東京都江東区森下 ワンスター・ホテル マリアンナ・スカーレット&エレーナ・マーロン]

 失意のうちにホテルに戻って来た2人。
 天気予報通り、冷たい雨が降ってきた。
「とんだオチになっちゃったねー」
「もう手掛かりは無いのか……」
「マリアンナさん、夕食食べて行くかい?」
 オーナーが聞いてきた。
「あ、どうもすいません」
「部屋で少し休んでいよう」
 2人はエレーナの部屋に向かった。

「ん?」
 部屋に入ると、電源が切れていたはずのタブレットPCが起動していた。
「あれ?これって……」
 エレーナはキーボードを叩いた。
「どうした?」
 マリアもPCを覗き込む。
「……なるほど。そうだったんだね」
「何か分かったのか?」
「ある意味では……。答えを得る手段はただ1つ。その当人に聞いてみましょ」
 エレーナは水晶球を取り出すと、右手をかざした。
 水晶球が光り、そこにとある人物が映り出た。
「はーい!イリーナでーっす!」
「は!?何それ!?師匠が犯人!?」
 マリアは驚愕した。
 エレーナは努めて冷静に言った。
「イリーナ先生、だいたい分かりました。あの最終電車脱線事故、それに関わったのはあなたですね?と、同時にあの事故を引き起こしてまで、揺さぶり動かしたかった人物がいた」
「うーん……。半分当たりで、半分ハズレかな」
「師匠、どういうことですか!?場合によっては、師匠でも許しませんよ!?」
「ゴメンゴメン。えーとね……まず、私があの事故に直接は関わっていないよ。それじゃまるで、私も犯人みたいじゃない?」
「犯人じゃないんですか?」
 エレーナとマリアは同時にツッコんだ。
「違う。私はただ、大師匠から命令を受けて、ある事件の調査をしていただけよ」
「事件?」
「魔道師の中に、監察役でありながら、公社の金を横領していたヤツがいたの。それが、あなた達も会おうとしていたベルフォレスト師」
「ベルフォレスト?」
「あー、日本語に直せば『鈴木』になりますね……」
「死んだようですが?」
「もう1人、私以外に調査していた、公社内部の調査員がいてね。ヘマして、内偵調査バレたみたい。それで、抹殺されたわけね。電車の事故にかこつけて
「そういうことだったのか」
「じゃあ、マリアンナの彼氏さんは、やっぱり不幸の巻き添えですか」
「まあ……そういうことになるのかな」
「でも師匠、そこまで分かっているのなら、事故は防げたのでは?」
「冥鉄に計画成功をさせることで出る隙を狙う為だったのよ。まさか、その電車にユウタ君が乗っているとは思わなかったけど……」
「そこまでして、なのに、当の悪徳魔道師は死んで……」
「魂は補縛されたでしょう。今頃、大師匠様が然るべき所に連行してるんじゃない?」
「大師匠様が?」
「んん?」
「大師匠様から、マリアへ伝言。『なるべく早く、ユウタ君の所へお見舞いに行け』だって」
「わ、分かりました」

[11月21日07:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]

「今日の記事は凄いな」
 威吹はカンジが用意した朝食を取りながら、カンジが購読している新聞、“異世界通信”を読んでいた。
 一面記事には、
『冥界鉄道公社の外部監査役員が経費横領!』『東北本線(電車線)脱線事故も、冥鉄のしわざか?』『唯一の死亡者は、冥鉄の内部告発者だった!』
 と、大きく取り扱っていた。
「ええ。何でも、横領の魔道師はイリーナ師の師匠さんが始末したらしいですよ」
 カンジが威吹にご飯を装いながら答えた。
「しかし、この新聞読んでると、やっぱりユタは事件に巻き込まれただけの被害者だ。やはり、御両親の意向に従い、信仰を辞めるべきだと思うな」
「ええ……」
「いっそのこと、オレが代筆してやろうか?」
「それでは無効ですよ」
「ちっ……」

[同日同時刻 ユタの病室 稲生ユウタ]

 カリカリ……。(脱講届にペンを走らせ、ついに名前を書いた)

「……そうなんですよ。稲生さんのお食事が……ええ。何かの手違いで……」
 慌てて手持ちの内線用携帯電話で、担当者に連絡しているスタッフ。
 スタッフが使用する内線用携帯電話は、医療機器に影響が出にくい電波を使用している。
 スタッフの言によれば、朝食にユタの分だけ届いてないという。
 入院患者の楽しみの1つである食事を奪われたユタは、衝動的に脱講届にフルネームでサインをしてしまったのである。
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