[11月2日11:30.福島県福島市北部 廃ホテル“クイーン・エミリア”『プロムナード』(レストラン街) 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]
メーデー……メーデー……メェェェェェデェェェェェ……ッ!こちら……クイーン・エミリア……ッー!救難……信号……。メーデー……メーデー……メェェェェェェデェェェェェ……イ!
「……お、おい。これって……」
エレベーターのドアが開くと、どこからともなく救助を呼ぶ声が聞こえて来た。
「いいのか、このネタ?カ◯コンからクレーム来ないか?」
「何の話よ?」
敷島の突拍子も無い話に、アリスが眉を潜めた。
プロムナードもまた非常灯というか、常夜灯や非常口表示灯等が点灯しているだけで薄暗かった。
で、やはりというか、店舗の名前などは若干違うが、その配置などは北東北の“クイーン・シンシア”によく似ている。
「あの時はこの辺でテロリストに襲われたんだったな。確か、ケンショー・ブルーとかいう……」
「そうね」
「博士、プロデューサー。下がってください」
その時、シンディの右目がオレンジ色に光った。
スキャンをしているのである。
ピロティの上に差し掛かると、敷島達の付近に1発の銃弾が飛んできた。
「な、何だ!?」
敷島達のいる場所とその反対側は、橋で繋がっている。
その上から、1機のバージョン4.0がこちら側に向かって銃口を構えていた。
「生意気」
シンディは自分の右手をライフルに変化させると、照準を合わせ、4.0の電子頭脳がある頭部を撃ち抜いた。
頭部を撃ち抜かれた4.0は、火花と煙を噴き出してそのまま動かなくなった。
「こんな所にバージョン4.0がいるなんて!」
しかしそれでも尚、プロムナード中に響く密教のお経のようなメーデーは止まなかった。
「識別番号は?」
「確認してみます」
3人が近づくと、
「ちっ!今度は3.0か!」
4.0とは一世代前の旧型機、バージョン3.0も敷島達に気づいて銃を構えた。
が、これもシンディによって頭脳を撃ち抜かれ、その稼働を終えた。
「3.0の識別番号は……。4.0は識別不能です」
3.0は行方不明になっていた番号だ。
「識別番号が不明の個体がいるなんて……」
「誰かが勝手に作ったってことか?」
「誰が?」
敷島の言葉に、半ば睨むようにして見つめるアリス。
「えっと……そりゃあ……」
敷島は答えに詰まってしまった。
バージョン・シリーズはフォレスト家の専売特許なだけに、パクリは絶対に許されないとアリスは思った。
「と、とにかく先へ進もう。何かさっきからメーデーメーデーうるさいから、それを静めてからだ」
敷島は取り繕うように言った。
「メーデー……メーデー……メェェェェェデェェェェェ……ッ!こちら……クイーン・エミリア……ッー!救難……信号……。メーデー……メーデー……メェェェェェェデェェェェェ……イ!」
ドンドンッ!ドンドンドンッ!
「こ、こりゃ……!」
「絶対何かいるし」
メーデーの声が段々と大きくなり、とあるレストランの倉庫のような部屋の前からそれが聞こえてくるのだと分かった。
で、頑丈な鉄扉が、その向こうから乱暴に叩かれている。
「どうする?開けてみます?」
と、シンディ。
敷島は冷や汗をかきながら言い掛けた。
「スキャンしてからの方……が!?」
ダァン!……バタンッ!!(←ドアがぶち破られた音)
「うわっ!出たっ!?」
「!!!」
「メーデー!メーデー!」
「こ、こいつ!?」
中から出て来た者に、シンディは見覚えがあった。
それは台風接近の時、財団本部ビルの屋上に現れた不格好なロボット。
あの時は機械の駆動音やエアの排気音が耳に付いただけだったが、
「抱きしめてェェェェ!」
と、今度の個体はやけに多弁のようである。
「な、何言ってんだ、こいつ!?」
「助ケテくれェェ……ッ!」
「どう見ても救助じゃなくて獲物を呼んでるって感じ。どうします、博士?」
「破壊して!」
「了解です!」
アリスがそう命令したのは、このロボット、言動はもちろんのこと、行動もおかしい。
救助を呼んでいた割には、敷島達に突進してきて、勢い余って壁やら窓ガラスやらを破壊している。
「悪いけど、あんたの弱点はお見通しよ!」
シンディは間合いを取って、ライフルを構えた。
「くっ……!」
だが、本部にも現れた個体と同様、図体の割には意外と素早く、なかなか照準が定まらない。
「うろちょろ動くなってのに!」
「あ、そうだ」
物陰に隠れている敷島夫妻。
アリスが何かを思い出し、バッグの中からある物を出した。
「これで、どう!?」
それはロボット・デコイ。
特殊な電波や信号を発し、破壊活動ロボットの気を引くもの。
バージョン・シリーズはもちろん、動物型のロボットに効くことが確認されている。
高い人工知能を持つマルチタイプやボーカロイドなどには効かない。
「何だこれェェ……!?」
見事!そのロボットもデコイにおびき寄せられた。
で、爆発に巻き込まれる。
一応、目的としては奴らの動きを止めるためだけであり、手榴弾よりも爆発力は弱い。
「ブホッ……!」
少しはダメージがあったようだが、それでもロボットは何が起きたのか分からず、きょとんとするだけだった。
だが、それで十分。
ズダーン!!
「メェェェェデェェェェ……!」
シンディによって頭部を撃ち抜かれ、ロボットは断末魔を上げた。
だが、最後に……。
「ウィリアム……博士……!」
「なにっ!?」
その言葉を最後に、ロボットは爆発した。
「ウィリアム……ドクター・ウィリーのことか!?」
「アタシ、こんなロボット知らないよ!?」
敷島がアリスを見たので、アリスは大きく否定した。
「こんな不細工なロボット、見たことない!」
「孫にも秘匿の機種とか?」
「だとしても、アタシやエミリーも知らないのはおかしいわね」
シンディは爆発したロボットの残骸の中から、1本の鍵を拾い上げた。
「この鍵……本部の屋上のヤツの中から出て来たのとは違うね」
本部屋上に現れたヤツは古めかしい形のものだったが、こちらは比較的新しい。
このホテルのどこかの鍵かもしれない。
「……Shit!電子頭脳も粉々で、メモリーもダメになってる!」
アリスは正体不明のこのロボットの正体を探ろうと、まずはこの個体のメモリーを確保しようとしたが、それも破損しているようである。
「シンディ。今度こいつと会ったら、動力炉だけを破壊しなさい。なるべく頭脳部分は無傷でね」
「……かしこまりました」
シンディは一瞬、不平そうな顔をしたが、すぐに大きく頷いた。
もう2度と会いたくないタイプだからなのか、それとも倒すのに面倒だからなのか……。
「どうする?プロムナードは静かになったけど?」
アリスが敷島に聞いた。
「そうだな……。もし基本構造が“シンシア”と同じなら、この“エミリア”にも秘密の研究施設があるかもしれない。そこへ行ってみよう」
「OK.もしかしたらこの鍵も、そこのかもしれないわね」
「そうだな。……って、もしかして、またエレベーターの起動からやんなきゃいけないって話か?」
「平賀教授が先に行ってるんだったら、もうその必要は無いかもだけど……。取りあえず行ってみましょう」
「……だな」
3人はその為に、まずはホールに向かった。
案の定、大きな吹き抜けのホールには“クイーン・シンシア”同様、時計台とも言える大きな振り子が特徴の天文時計があった。
その天文時計、やっぱり時間はデタラメの表示をしていたが、
「非常電源だけでも生きていれば、取りあえず時計は動くようになってるのかね?」
「どうだろうね」
それと、ここに来てから気づいたことがある。
“クイーン・シンシア”では変なドロドロの体のクリーチャー・ロボットが襲ってきたが、ここではまだ遭遇していない。
プロムナードのバージョンが2機だけである。
研究施設に向かう敷島達に待ち受けるもの、特に敷島に訪れる試練について、この時はまだ知る由も無かった。
メーデー……メーデー……メェェェェェデェェェェェ……ッ!こちら……クイーン・エミリア……ッー!救難……信号……。メーデー……メーデー……メェェェェェェデェェェェェ……イ!
「……お、おい。これって……」
エレベーターのドアが開くと、どこからともなく救助を呼ぶ声が聞こえて来た。
「いいのか、このネタ?カ◯コンからクレーム来ないか?」
「何の話よ?」
敷島の突拍子も無い話に、アリスが眉を潜めた。
プロムナードもまた非常灯というか、常夜灯や非常口表示灯等が点灯しているだけで薄暗かった。
で、やはりというか、店舗の名前などは若干違うが、その配置などは北東北の“クイーン・シンシア”によく似ている。
「あの時はこの辺でテロリストに襲われたんだったな。確か、ケンショー・ブルーとかいう……」
「そうね」
「博士、プロデューサー。下がってください」
その時、シンディの右目がオレンジ色に光った。
スキャンをしているのである。
ピロティの上に差し掛かると、敷島達の付近に1発の銃弾が飛んできた。
「な、何だ!?」
敷島達のいる場所とその反対側は、橋で繋がっている。
その上から、1機のバージョン4.0がこちら側に向かって銃口を構えていた。
「生意気」
シンディは自分の右手をライフルに変化させると、照準を合わせ、4.0の電子頭脳がある頭部を撃ち抜いた。
頭部を撃ち抜かれた4.0は、火花と煙を噴き出してそのまま動かなくなった。
「こんな所にバージョン4.0がいるなんて!」
しかしそれでも尚、プロムナード中に響く密教のお経のようなメーデーは止まなかった。
「識別番号は?」
「確認してみます」
3人が近づくと、
「ちっ!今度は3.0か!」
4.0とは一世代前の旧型機、バージョン3.0も敷島達に気づいて銃を構えた。
が、これもシンディによって頭脳を撃ち抜かれ、その稼働を終えた。
「3.0の識別番号は……。4.0は識別不能です」
3.0は行方不明になっていた番号だ。
「識別番号が不明の個体がいるなんて……」
「誰かが勝手に作ったってことか?」
「誰が?」
敷島の言葉に、半ば睨むようにして見つめるアリス。
「えっと……そりゃあ……」
敷島は答えに詰まってしまった。
バージョン・シリーズはフォレスト家の専売特許なだけに、パクリは絶対に許されないとアリスは思った。
「と、とにかく先へ進もう。何かさっきからメーデーメーデーうるさいから、それを静めてからだ」
敷島は取り繕うように言った。
「メーデー……メーデー……メェェェェェデェェェェェ……ッ!こちら……クイーン・エミリア……ッー!救難……信号……。メーデー……メーデー……メェェェェェェデェェェェェ……イ!」
ドンドンッ!ドンドンドンッ!
「こ、こりゃ……!」
「絶対何かいるし」
メーデーの声が段々と大きくなり、とあるレストランの倉庫のような部屋の前からそれが聞こえてくるのだと分かった。
で、頑丈な鉄扉が、その向こうから乱暴に叩かれている。
「どうする?開けてみます?」
と、シンディ。
敷島は冷や汗をかきながら言い掛けた。
「スキャンしてからの方……が!?」
ダァン!……バタンッ!!(←ドアがぶち破られた音)
「うわっ!出たっ!?」
「!!!」
「メーデー!メーデー!」
「こ、こいつ!?」
中から出て来た者に、シンディは見覚えがあった。
それは台風接近の時、財団本部ビルの屋上に現れた不格好なロボット。
あの時は機械の駆動音やエアの排気音が耳に付いただけだったが、
「抱きしめてェェェェ!」
と、今度の個体はやけに多弁のようである。
「な、何言ってんだ、こいつ!?」
「助ケテくれェェ……ッ!」
「どう見ても救助じゃなくて獲物を呼んでるって感じ。どうします、博士?」
「破壊して!」
「了解です!」
アリスがそう命令したのは、このロボット、言動はもちろんのこと、行動もおかしい。
救助を呼んでいた割には、敷島達に突進してきて、勢い余って壁やら窓ガラスやらを破壊している。
「悪いけど、あんたの弱点はお見通しよ!」
シンディは間合いを取って、ライフルを構えた。
「くっ……!」
だが、本部にも現れた個体と同様、図体の割には意外と素早く、なかなか照準が定まらない。
「うろちょろ動くなってのに!」
「あ、そうだ」
物陰に隠れている敷島夫妻。
アリスが何かを思い出し、バッグの中からある物を出した。
「これで、どう!?」
それはロボット・デコイ。
特殊な電波や信号を発し、破壊活動ロボットの気を引くもの。
バージョン・シリーズはもちろん、動物型のロボットに効くことが確認されている。
高い人工知能を持つマルチタイプやボーカロイドなどには効かない。
「何だこれェェ……!?」
見事!そのロボットもデコイにおびき寄せられた。
で、爆発に巻き込まれる。
一応、目的としては奴らの動きを止めるためだけであり、手榴弾よりも爆発力は弱い。
「ブホッ……!」
少しはダメージがあったようだが、それでもロボットは何が起きたのか分からず、きょとんとするだけだった。
だが、それで十分。
ズダーン!!
「メェェェェデェェェェ……!」
シンディによって頭部を撃ち抜かれ、ロボットは断末魔を上げた。
だが、最後に……。
「ウィリアム……博士……!」
「なにっ!?」
その言葉を最後に、ロボットは爆発した。
「ウィリアム……ドクター・ウィリーのことか!?」
「アタシ、こんなロボット知らないよ!?」
敷島がアリスを見たので、アリスは大きく否定した。
「こんな不細工なロボット、見たことない!」
「孫にも秘匿の機種とか?」
「だとしても、アタシやエミリーも知らないのはおかしいわね」
シンディは爆発したロボットの残骸の中から、1本の鍵を拾い上げた。
「この鍵……本部の屋上のヤツの中から出て来たのとは違うね」
本部屋上に現れたヤツは古めかしい形のものだったが、こちらは比較的新しい。
このホテルのどこかの鍵かもしれない。
「……Shit!電子頭脳も粉々で、メモリーもダメになってる!」
アリスは正体不明のこのロボットの正体を探ろうと、まずはこの個体のメモリーを確保しようとしたが、それも破損しているようである。
「シンディ。今度こいつと会ったら、動力炉だけを破壊しなさい。なるべく頭脳部分は無傷でね」
「……かしこまりました」
シンディは一瞬、不平そうな顔をしたが、すぐに大きく頷いた。
もう2度と会いたくないタイプだからなのか、それとも倒すのに面倒だからなのか……。
「どうする?プロムナードは静かになったけど?」
アリスが敷島に聞いた。
「そうだな……。もし基本構造が“シンシア”と同じなら、この“エミリア”にも秘密の研究施設があるかもしれない。そこへ行ってみよう」
「OK.もしかしたらこの鍵も、そこのかもしれないわね」
「そうだな。……って、もしかして、またエレベーターの起動からやんなきゃいけないって話か?」
「平賀教授が先に行ってるんだったら、もうその必要は無いかもだけど……。取りあえず行ってみましょう」
「……だな」
3人はその為に、まずはホールに向かった。
案の定、大きな吹き抜けのホールには“クイーン・シンシア”同様、時計台とも言える大きな振り子が特徴の天文時計があった。
その天文時計、やっぱり時間はデタラメの表示をしていたが、
「非常電源だけでも生きていれば、取りあえず時計は動くようになってるのかね?」
「どうだろうね」
それと、ここに来てから気づいたことがある。
“クイーン・シンシア”では変なドロドロの体のクリーチャー・ロボットが襲ってきたが、ここではまだ遭遇していない。
プロムナードのバージョンが2機だけである。
研究施設に向かう敷島達に待ち受けるもの、特に敷島に訪れる試練について、この時はまだ知る由も無かった。