[11月2日10:40.仙台市地下鉄南北線・長町南駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]
〔長町南、長町南。ドア付近にお立ちのお客様は、開くドアにご注意ください〕
電車がホームに滑り込む。
「ここで降ります。イリーナさん、起きてますよね?」
「あいよ。ちゃんと起きてるよー」
イリーナが席から立とうとすると、
グキッ!(腰からニブい音)
「こ、腰がぁぁ……!」
イリーナは自らの腰を手で押さえた。
「アホか。外見だけ若作りするからだ。このまま終点まで乗って行け。いや、その先の車両基地まで乗って行きやがれ」
威吹は鼻を鳴らして、ドアへ向かった。
ギロッと威吹を睨みつけるマリア。
さすがに師匠への嘲りは許せないか。
「イリーナさん、立てますか?」
ユタもイリーナに手を貸した。
「うう……すまないねぇ……」
何とか電車から降りる。
〔1番線から、富沢行き電車が発車します。ドアが閉まります〕
長町南駅でほとんどの乗客が降りてしまい、ガラガラの状態で発車していく電車だった。
「待てよ、威吹!さっきのイリーナさんに言ったこと……」
「何だよ?」
ユタがマリアの代わりに、イリーナに対する暴言を注意するか。
「何で富沢駅の先に車両基地があるって知ってるんだ?僕、教えてないぞ?」
「そっちかい!」
魔道師の師弟は同時に突っ込んだ。
尚、イリーナの腰痛は自分の回復魔法で治した。
[同日11:00.ザ・モール仙台長町 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
「ほほー。こりゃまたイオンとはまた違うモールだねぃ……」
イリーナが感心した様子で、モール内を見回した。
「ええ。ここならゆっくり買い物できます」
「うんうん」
「というか、ゴールデン・ウィークの時にここ通ったな」
マリアも続けて言う。
「分かりました?そうなんです。あの時はイリーナさんが、仙台市の外に出た方がいいということで……」
「ああ。そんなこともあったわねぇ……。それじゃ、ここで色々と買い込んで行くかね」
「ユタと2人っきりにさせてやるんじゃないのか?」
「もちろんだけど、その前にマリアに買ってあげるものとかあるからね。ちょっと待っててね」
「それはいいですね。僕も威吹の買い物に付き合ってますから」
「ボクの?」
「前に、『新しい草履と足袋をそろそろ新調したい』って言ってたじゃんか」
「た、確かに……。でも、ここで売ってるのかい?」
「まあ、ゆっくり探してみましょうや」
威吹の着ている着物は特殊なものだが、それ以外は普通の市販品。
草履には爪先を保護する透明のプラスチックカバーが付いているが、これはユタの登山に同行した時、大石寺の僧侶がその草履を履いているのを見て気に入り、威吹も所望した次第。
(うー、本当はアイツに、さくらのことについて詳しく聞きたいんだけどな……)
威吹はもどかしさを感じつつも、ユタについていった。
それを見送りながら、
「師匠が昨夜、酔っぱらって変な事を言うから、妖狐のヤツ、師匠を狙ってますよ?」
マリアが呆れたように言った。
「いやあ……何言ったんだか、さっぱり覚えてないんだけどねぇ……」
「それで引っ込むようなヤツには見えませんが?」
「まあ、ユウタ君もそこは読んでくれたみたいだね。感謝だね」
「はあ……」
「じゃあ、私達も行こうかねぃ」
「どこへですか?」
「もちろん、買い物さ」
[同日12:00.同場所パート2・うまい鮨勘 上記メンバー]
「いい買い物したねぇ……」
イリーナはご満悦。
「何を買ったんですか?」
「服とか靴とか、まあ、ファッション関係かな。私はもうこの歳だからともかく、マリアに関してはもう少し人間界の空気に触れさせておかないとね」
「……こんな暗くて汚い世界、もういいです」
「その暗い世界の中で、一筋の光を見たじゃないか。ユウタ君という光が」
「フン、それだけか?」
威吹は鼻を鳴らしながら、マグロ寿司を頬張った。
「オレにとっては、光以上の存在だけどな」
「あら、そう?じゃあ、何なの?」
「何で人間共が列車の名前に、あれを付けたのかが分かった」
「ま、まさか……」
「“ひかり”より速いのは“のぞみ”。オレにとってはユタは光ではなく、希望(のぞみ)だったがな」
「上手いこと言うねぇ……。さっきの富沢車両基地といい、何か威吹君もユウタ君に感化されてるってカンジ?」
「まあ、そんなところだ」
威吹は今度はタコを頬張る。
「もう少し、今風のコの服なんかいいと思うんだけど……」
「いえ。私は魔道師……見習です。人間を辞めたんです。人間と同じ姿をしている必要はありません」
「その割には、こうやって人間界を楽しんでいるように見えるが?」
威吹は揚げ足取りをした。
「人間界を楽しんでいるのではなく、ユウタ君との時を楽しんでいるのだ」
マリアは再び威吹を睨みつけた。
「あー、ハイハイ。お昼食べ終わったら、2人で遊んできな。ユウタ君、プランはあるんだよね?」
「も、もちろん……」
「私は師匠同士、威吹君と話があるから別行動したいんだけどいいかな?」
「え、ええ……」
「大丈夫。ちゃんと集合時間までには戻って来るさー」
「血の雨が降らないといいけどな」
と、マリアの言葉に、
「それはこっちのセリフだ」
と、言い返す威吹だった。
[同日13:00.モール屋上 威吹&イリーナ]
「どうやらユウタ君、観たい映画があったみたいだね。マリアを連れて映画館デートか。てことは、正味2〜3時間は帰って来ないってことになるね」
「それで、オレに何の話だ?」
「うん。単刀直入に言うね。ユウタ君から手を引いて」
スラッ!(無言で妖刀を抜刀する威吹)
「待ちなさい待ちなさい。今のはあくまで結論だから。ほら、よく『結論から話せ』って言うじゃない?」
「フザけたことを抜かすと、女でも斬るぞ!」
しかし、結論は結論である。
「さくらが生きてるって話はどうなった?魔界にいるだと?しかし、この時代はオレが封印されてから400年は経っているのだろう?どうやって400年も生き続けてるというのだ?」
「簡単な話よ。あなたと同じ、封印されれば老いることも死ぬことも無い。あなたは人間界で封印され、さくらさんは魔界で封印された。それだけのこと。ポーリンが話をややこしくする為に、わざと彼女に化けたり、人形を使って動きをかく乱したりしたことがやっと分かったの」
「さくらはどうして、魔界に連れて行かれ、封印された?」
「あなた、魔界のことはどれだけ知ってる?」
「オレが生まれるよりもずっとずっと大昔、西洋の大魔王が統治を始めた。それくらいしか知らん。何しろ多くの妖狐は魔界の外れ、人間界にほど近い魔境に里を作って住んでいるからな」
「まあ、それが大魔王バァルなんだけとね。じゃあ、大水晶のことは?」
「……知らんな」
「魔界や人間界をも震撼させる力を持っているというのに、威吹君みたいな高等妖怪が知らないなんておかしいよね?」
「悪かったな。情報に疎くて」
「そうじゃないの。ウワサくらいは聞くはずでしょう、それでも?」
「む?」
「ぽっと出の話なのよ、大水晶って。それもそのはず。大水晶が発明されたのは、今からほんの400年前くらいのことなの」
「ま、まさか……」
「それまでも、それに似たものはあったわ。だけど、不完全体だった。それが今や不安定とはいえ、世界を震撼させ……るどころか、本当にアルマゲンドンを呼び起こすまでの力を持つようになった。それが、今から400年前のこと。そして、その材料は強い霊力……Sクラスの霊力を持った人間よ」
「嘘つくな!オレとユタは向こうの魔王と会ったが、魔王のヤツ、何も言わなかったぞ!?ユタの霊力を即座に見抜いたのに!」
「ええ。ルーシー女王は知らないでしょうね。バァルからその辺、何も聞かされていないはず。管理だけは注意するように、くらいしか聞いていないはずよ」
「……魔王城へ案内しろ。オレが真相を確かめてやる」
「手っ取り早い方法が1つある。それが正に、魔王軍の正規兵になることね。しかも威吹君ほどの実力派なら、いきなり士官クラスになれるでしょうから、その力を使って魔王城の警備隊に配属希望ができるはず。あとは威吹君が上手くやればいいわ」
「だ、だが……!」
「そう。そこでさっきの結論よ。正規軍の兵士……士官も含めて、いかなる人間界との繋がりを持ってはいけないという軍規がある。威吹君がユウタ君を“獲物”にしているというのは、その軍規に引っ掛かる恐れがある」
「キノが魔界への仕官を断り、あくまで地獄界の官吏を志望しているのは、そこに理由があるわけか……」
「シンキングタイム入る?まあ、急ぎではないけどね。よーく考えてね。大丈夫。少なくとも、私達ならユウタ君を粗末にはしないから。魔道師になれば永遠に生きることになるわけだから、いずれまたどこかで再会できるはずよ」
「…………」
と、そこへ、
「すいません、お客さん!ここは関係者以外、出られないんですけど?」
巡回中の警備員がやってきた。
「あっ、ゴメンナサーイ!すぐに戻りまーす!早く行こ!」
イリーナは沈んだ顔になった威吹を引っ張って、館内に戻った。
〔長町南、長町南。ドア付近にお立ちのお客様は、開くドアにご注意ください〕
電車がホームに滑り込む。
「ここで降ります。イリーナさん、起きてますよね?」
「あいよ。ちゃんと起きてるよー」
イリーナが席から立とうとすると、
グキッ!(腰からニブい音)
「こ、腰がぁぁ……!」
イリーナは自らの腰を手で押さえた。
「アホか。外見だけ若作りするからだ。このまま終点まで乗って行け。いや、その先の車両基地まで乗って行きやがれ」
威吹は鼻を鳴らして、ドアへ向かった。
ギロッと威吹を睨みつけるマリア。
さすがに師匠への嘲りは許せないか。
「イリーナさん、立てますか?」
ユタもイリーナに手を貸した。
「うう……すまないねぇ……」
何とか電車から降りる。
〔1番線から、富沢行き電車が発車します。ドアが閉まります〕
長町南駅でほとんどの乗客が降りてしまい、ガラガラの状態で発車していく電車だった。
「待てよ、威吹!さっきのイリーナさんに言ったこと……」
「何だよ?」
ユタがマリアの代わりに、イリーナに対する暴言を注意するか。
「何で富沢駅の先に車両基地があるって知ってるんだ?僕、教えてないぞ?」
「そっちかい!」
魔道師の師弟は同時に突っ込んだ。
尚、イリーナの腰痛は自分の回復魔法で治した。
[同日11:00.ザ・モール仙台長町 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]
「ほほー。こりゃまたイオンとはまた違うモールだねぃ……」
イリーナが感心した様子で、モール内を見回した。
「ええ。ここならゆっくり買い物できます」
「うんうん」
「というか、ゴールデン・ウィークの時にここ通ったな」
マリアも続けて言う。
「分かりました?そうなんです。あの時はイリーナさんが、仙台市の外に出た方がいいということで……」
「ああ。そんなこともあったわねぇ……。それじゃ、ここで色々と買い込んで行くかね」
「ユタと2人っきりにさせてやるんじゃないのか?」
「もちろんだけど、その前にマリアに買ってあげるものとかあるからね。ちょっと待っててね」
「それはいいですね。僕も威吹の買い物に付き合ってますから」
「ボクの?」
「前に、『新しい草履と足袋をそろそろ新調したい』って言ってたじゃんか」
「た、確かに……。でも、ここで売ってるのかい?」
「まあ、ゆっくり探してみましょうや」
威吹の着ている着物は特殊なものだが、それ以外は普通の市販品。
草履には爪先を保護する透明のプラスチックカバーが付いているが、これはユタの登山に同行した時、大石寺の僧侶がその草履を履いているのを見て気に入り、威吹も所望した次第。
(うー、本当はアイツに、さくらのことについて詳しく聞きたいんだけどな……)
威吹はもどかしさを感じつつも、ユタについていった。
それを見送りながら、
「師匠が昨夜、酔っぱらって変な事を言うから、妖狐のヤツ、師匠を狙ってますよ?」
マリアが呆れたように言った。
「いやあ……何言ったんだか、さっぱり覚えてないんだけどねぇ……」
「それで引っ込むようなヤツには見えませんが?」
「まあ、ユウタ君もそこは読んでくれたみたいだね。感謝だね」
「はあ……」
「じゃあ、私達も行こうかねぃ」
「どこへですか?」
「もちろん、買い物さ」
[同日12:00.同場所パート2・うまい鮨勘 上記メンバー]
「いい買い物したねぇ……」
イリーナはご満悦。
「何を買ったんですか?」
「服とか靴とか、まあ、ファッション関係かな。私はもうこの歳だからともかく、マリアに関してはもう少し人間界の空気に触れさせておかないとね」
「……こんな暗くて汚い世界、もういいです」
「その暗い世界の中で、一筋の光を見たじゃないか。ユウタ君という光が」
「フン、それだけか?」
威吹は鼻を鳴らしながら、マグロ寿司を頬張った。
「オレにとっては、光以上の存在だけどな」
「あら、そう?じゃあ、何なの?」
「何で人間共が列車の名前に、あれを付けたのかが分かった」
「ま、まさか……」
「“ひかり”より速いのは“のぞみ”。オレにとってはユタは光ではなく、希望(のぞみ)だったがな」
「上手いこと言うねぇ……。さっきの富沢車両基地といい、何か威吹君もユウタ君に感化されてるってカンジ?」
「まあ、そんなところだ」
威吹は今度はタコを頬張る。
「もう少し、今風のコの服なんかいいと思うんだけど……」
「いえ。私は魔道師……見習です。人間を辞めたんです。人間と同じ姿をしている必要はありません」
「その割には、こうやって人間界を楽しんでいるように見えるが?」
威吹は揚げ足取りをした。
「人間界を楽しんでいるのではなく、ユウタ君との時を楽しんでいるのだ」
マリアは再び威吹を睨みつけた。
「あー、ハイハイ。お昼食べ終わったら、2人で遊んできな。ユウタ君、プランはあるんだよね?」
「も、もちろん……」
「私は師匠同士、威吹君と話があるから別行動したいんだけどいいかな?」
「え、ええ……」
「大丈夫。ちゃんと集合時間までには戻って来るさー」
「血の雨が降らないといいけどな」
と、マリアの言葉に、
「それはこっちのセリフだ」
と、言い返す威吹だった。
[同日13:00.モール屋上 威吹&イリーナ]
「どうやらユウタ君、観たい映画があったみたいだね。マリアを連れて映画館デートか。てことは、正味2〜3時間は帰って来ないってことになるね」
「それで、オレに何の話だ?」
「うん。単刀直入に言うね。ユウタ君から手を引いて」
スラッ!(無言で妖刀を抜刀する威吹)
「待ちなさい待ちなさい。今のはあくまで結論だから。ほら、よく『結論から話せ』って言うじゃない?」
「フザけたことを抜かすと、女でも斬るぞ!」
しかし、結論は結論である。
「さくらが生きてるって話はどうなった?魔界にいるだと?しかし、この時代はオレが封印されてから400年は経っているのだろう?どうやって400年も生き続けてるというのだ?」
「簡単な話よ。あなたと同じ、封印されれば老いることも死ぬことも無い。あなたは人間界で封印され、さくらさんは魔界で封印された。それだけのこと。ポーリンが話をややこしくする為に、わざと彼女に化けたり、人形を使って動きをかく乱したりしたことがやっと分かったの」
「さくらはどうして、魔界に連れて行かれ、封印された?」
「あなた、魔界のことはどれだけ知ってる?」
「オレが生まれるよりもずっとずっと大昔、西洋の大魔王が統治を始めた。それくらいしか知らん。何しろ多くの妖狐は魔界の外れ、人間界にほど近い魔境に里を作って住んでいるからな」
「まあ、それが大魔王バァルなんだけとね。じゃあ、大水晶のことは?」
「……知らんな」
「魔界や人間界をも震撼させる力を持っているというのに、威吹君みたいな高等妖怪が知らないなんておかしいよね?」
「悪かったな。情報に疎くて」
「そうじゃないの。ウワサくらいは聞くはずでしょう、それでも?」
「む?」
「ぽっと出の話なのよ、大水晶って。それもそのはず。大水晶が発明されたのは、今からほんの400年前くらいのことなの」
「ま、まさか……」
「それまでも、それに似たものはあったわ。だけど、不完全体だった。それが今や不安定とはいえ、世界を震撼させ……るどころか、本当にアルマゲンドンを呼び起こすまでの力を持つようになった。それが、今から400年前のこと。そして、その材料は強い霊力……Sクラスの霊力を持った人間よ」
「嘘つくな!オレとユタは向こうの魔王と会ったが、魔王のヤツ、何も言わなかったぞ!?ユタの霊力を即座に見抜いたのに!」
「ええ。ルーシー女王は知らないでしょうね。バァルからその辺、何も聞かされていないはず。管理だけは注意するように、くらいしか聞いていないはずよ」
「……魔王城へ案内しろ。オレが真相を確かめてやる」
「手っ取り早い方法が1つある。それが正に、魔王軍の正規兵になることね。しかも威吹君ほどの実力派なら、いきなり士官クラスになれるでしょうから、その力を使って魔王城の警備隊に配属希望ができるはず。あとは威吹君が上手くやればいいわ」
「だ、だが……!」
「そう。そこでさっきの結論よ。正規軍の兵士……士官も含めて、いかなる人間界との繋がりを持ってはいけないという軍規がある。威吹君がユウタ君を“獲物”にしているというのは、その軍規に引っ掛かる恐れがある」
「キノが魔界への仕官を断り、あくまで地獄界の官吏を志望しているのは、そこに理由があるわけか……」
「シンキングタイム入る?まあ、急ぎではないけどね。よーく考えてね。大丈夫。少なくとも、私達ならユウタ君を粗末にはしないから。魔道師になれば永遠に生きることになるわけだから、いずれまたどこかで再会できるはずよ」
「…………」
と、そこへ、
「すいません、お客さん!ここは関係者以外、出られないんですけど?」
巡回中の警備員がやってきた。
「あっ、ゴメンナサーイ!すぐに戻りまーす!早く行こ!」
イリーナは沈んだ顔になった威吹を引っ張って、館内に戻った。