[1月3日12:00.地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 稲生ユウタ、蓬莱山美鬼、蓬莱山魔鬼]
ユタは蓬莱山家での逗留を続けていた。
表向きは拘置である。
その為、与えられた部屋は木格子の付いた座敷牢だった。
「昼食の時間や」
しかし蓬莱山家からは歓迎されているようで、食事も普通に人間界で食べているものと同じ和食がメインだった。
「ありがとうございます。でも、いいんですかね?僕、何か労働した方がいいんじゃ?」
「そう言うてもなぁ……。家の修理はウチらでやることになってるき、人間のユタはんにやってもらうわけにもなぁ……」
美鬼は西日本訛りで首を傾げた。
「あ、そや」
ポンと手を叩く。
「ウチんとこのな、魔鬼の勉強見たってや」
「えっ?」
「ユタはん、大学生やろ?中学3年生の冬休みの宿題と受験勉強教えられへん?」
「家庭教師のアルバイトはしたことがないですが……」
「ええからええから。それで“労役”ってことにしとくがなー」
「いいんですか?」
「閻魔庁には、『しっかり労役やってもろてます』って報告しとくわ」
「なるほど……」
「姉のウチが言うのも何やけど、美鬼は飲み込み早うて楽やで」
「そうですか。それなら……」
ユタが納得しかけると、美鬼が更にヒソヒソと耳打ちしてくる。
「オトコに関しては未体験やき、処女の飲み込みもオススメやで?」
「すいません、あなたの妹さんですよね?」
ユタがツッコミを入れると、
「失礼します」
蓬莱山家の使用人の青鬼がやってきた。
「姐さんにお客人です」
「ウチに?……ああ、ユタはん。ゆっくり食べたってや」
「ありがとうございます」
美鬼は立ち上がって、青鬼の後をついていった。
「客人って誰なん?」
「それが……」
[同日同時刻 魔界高速電鉄1号線 17番街駅・2番線ホーム 威波莞爾&栗原江蓮]
師匠の威吹から後衛並びに江蓮の護衛を任されたカンジ。
彼は車内でやり残したことの続きを始めた。
「まだ切替スイッチを『前』にしていません」
カンジは逆走時、先頭車となる車両の前部運転台の切替スイッチを『前』にした。
すると、それまでテールランプが点灯していたのが消灯し、代わりに一灯式のヘッドライトが点灯した。
「これでOKです。あとは、師匠方がノミどもを退治して下さるだけです」
「はい」
ピンポンパンポーン♪
〔まもなく1番線に、電車が到着します。白線の内側まで、お下がりください〕
「は!?」
何故か接近放送が隣のホームに鳴り響いた。
さすがのカンジもポーカーフェイスを崩して、首を傾げた。
「こんな時に電車が走ってるの?」
江蓮も目を丸した。
「ま、まさか!」
カンジは運転席横の窓を開けた。
この時点では、まだ電車の姿は見えない。
「電車が来るわ!待避して!」
イリーナが剣客達に警告した。
「一体、何のイベントだ!?」
冗談ではないことは、妖狐や鬼の鋭い耳で分かった。
地下鉄ならでの電車接近時に起こる風、そしてノミの化け物達の背後から近づいてくる電車のヘッドライト。
「かなりスピード出てんぞ!」
「どけっ!」
威吹は待避を邪魔するノミを一匹斬り伏せた。
そして、1番線ホームに這い上がる。
その直後、ノミ達を轢きながら対向電車が突っ込んで来た。
線路上にも張り巡らされた繭に車輪を絡め取られ、脱線する。
だが、図体のデカいノミの親玉は逃げ切れずに、脱線した暴走電車と2番線の電車の間に挟まれて、血しぶきや体液を噴き上げることとなった。
暴走電車は反動でトンネルの壁に激突し、また反動で2番線電車にぶつかったりし、更にホームにいる威吹達を巻き添えにしようとするかのように大きく傾いた後、またその反動で2番線の電車に側面衝突し、やっと止まった。
「な、何たるちゃあ……!」
「ったく!このステージ最大のイベントだぜ!全く!」
暴走電車はもちろん全損したが、巻き添えにした2番線電車は2両から後ろを破壊した。
つまり、これから動かそうとしている1両目に関しては何とか衝突から免れたわけだ。
暴走電車は渋谷側から開通したばかりの銀座線車両に似ていた。
「誰も乗ってなかったのか?」
マリアは煙を上げている暴走電車の中を覗き込んだ。
「人の気配は無いわね。ま、おかげで、ノミ共も一掃かしら」
イリーナは辺りを見回して言った。
「そのようだ」
ピンポンパンポーン♪
〔まもなく2番線から、電車が発車します。ご利用のお客様は、お急ぎください〕
「あ!?」
「皆さん、自動運転装置が今の事故の衝撃で作動したみたいです。急いでください!」
カンジが運転席の窓から呼び掛けた。
「マジかよ!」
しかもどういうわけだか、“第三の男”が流れ始めた。
JR恵比寿駅の発車メロディとしてアレンジされたものではなく、もっとローテンポのものだった。
「何だこの音楽は?」
威吹が眉を潜める。
「阪急梅田駅じゃねーんだからよ……」
キノが呆れる。
阪急梅田駅では各線終電の時間になると、そのメロディが流れるという。
最後っ屁というわけでもないが、最後のノミの一匹が2番線ホームにいて、それをカンジが斬り捨てていた。
「これでようやくこの駅ともおさらばだな」
「ええ」
〔2番線、発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください〕
威吹達が電車に乗り込むと、大きなエアーの音がして片開きのドアが閉まった。
そして、運転室からハンドルがガチャンと動く音がして電車が走り出した。
カンジは貫通扉の前に立っているだけで運転席は無人であり、まるで透明人間が運転しているかのようだ。
そこへ、閉鎖された地上出入口をやっと突破できたのか、魔王軍が突入してきたが、後の祭りである。
「ざまぁみろ!おとといきやがれ!バーロ!!」
キノは魔王軍達にファッキングポーズを取って言い放った。
「これで魔王城まで直行だな。やれやれだ」
威吹は溜め息をついた。
「1番街駅には何がいるかしらね」
イリーナはクスクスと笑った。
「場所が場所だけにさっきの17番街駅より大きいし、魔王城への最寄り駅だから、もっと強い敵が潜んでるかもよ」
「マジかよ」
キノは嫌そうな顔をしたが、威吹は、
「これも、ユタを生き返らせる為だ。何だってやるさ」
意を決したかのように言い、マリアも無言で頷いた。
たった1両の電車は、暗い闇のトンネルを突き進んで行った。
ユタは蓬莱山家での逗留を続けていた。
表向きは拘置である。
その為、与えられた部屋は木格子の付いた座敷牢だった。
「昼食の時間や」
しかし蓬莱山家からは歓迎されているようで、食事も普通に人間界で食べているものと同じ和食がメインだった。
「ありがとうございます。でも、いいんですかね?僕、何か労働した方がいいんじゃ?」
「そう言うてもなぁ……。家の修理はウチらでやることになってるき、人間のユタはんにやってもらうわけにもなぁ……」
美鬼は西日本訛りで首を傾げた。
「あ、そや」
ポンと手を叩く。
「ウチんとこのな、魔鬼の勉強見たってや」
「えっ?」
「ユタはん、大学生やろ?中学3年生の冬休みの宿題と受験勉強教えられへん?」
「家庭教師のアルバイトはしたことがないですが……」
「ええからええから。それで“労役”ってことにしとくがなー」
「いいんですか?」
「閻魔庁には、『しっかり労役やってもろてます』って報告しとくわ」
「なるほど……」
「姉のウチが言うのも何やけど、美鬼は飲み込み早うて楽やで」
「そうですか。それなら……」
ユタが納得しかけると、美鬼が更にヒソヒソと耳打ちしてくる。
「オトコに関しては未体験やき、処女の飲み込みもオススメやで?」
「すいません、あなたの妹さんですよね?」
ユタがツッコミを入れると、
「失礼します」
蓬莱山家の使用人の青鬼がやってきた。
「姐さんにお客人です」
「ウチに?……ああ、ユタはん。ゆっくり食べたってや」
「ありがとうございます」
美鬼は立ち上がって、青鬼の後をついていった。
「客人って誰なん?」
「それが……」
[同日同時刻 魔界高速電鉄1号線 17番街駅・2番線ホーム 威波莞爾&栗原江蓮]
師匠の威吹から後衛並びに江蓮の護衛を任されたカンジ。
彼は車内でやり残したことの続きを始めた。
「まだ切替スイッチを『前』にしていません」
カンジは逆走時、先頭車となる車両の前部運転台の切替スイッチを『前』にした。
すると、それまでテールランプが点灯していたのが消灯し、代わりに一灯式のヘッドライトが点灯した。
「これでOKです。あとは、師匠方がノミどもを退治して下さるだけです」
「はい」
ピンポンパンポーン♪
〔まもなく1番線に、電車が到着します。白線の内側まで、お下がりください〕
「は!?」
何故か接近放送が隣のホームに鳴り響いた。
さすがのカンジもポーカーフェイスを崩して、首を傾げた。
「こんな時に電車が走ってるの?」
江蓮も目を丸した。
「ま、まさか!」
カンジは運転席横の窓を開けた。
この時点では、まだ電車の姿は見えない。
「電車が来るわ!待避して!」
イリーナが剣客達に警告した。
「一体、何のイベントだ!?」
冗談ではないことは、妖狐や鬼の鋭い耳で分かった。
地下鉄ならでの電車接近時に起こる風、そしてノミの化け物達の背後から近づいてくる電車のヘッドライト。
「かなりスピード出てんぞ!」
「どけっ!」
威吹は待避を邪魔するノミを一匹斬り伏せた。
そして、1番線ホームに這い上がる。
その直後、ノミ達を轢きながら対向電車が突っ込んで来た。
線路上にも張り巡らされた繭に車輪を絡め取られ、脱線する。
だが、図体のデカいノミの親玉は逃げ切れずに、脱線した暴走電車と2番線の電車の間に挟まれて、血しぶきや体液を噴き上げることとなった。
暴走電車は反動でトンネルの壁に激突し、また反動で2番線電車にぶつかったりし、更にホームにいる威吹達を巻き添えにしようとするかのように大きく傾いた後、またその反動で2番線の電車に側面衝突し、やっと止まった。
「な、何たるちゃあ……!」
「ったく!このステージ最大のイベントだぜ!全く!」
暴走電車はもちろん全損したが、巻き添えにした2番線電車は2両から後ろを破壊した。
つまり、これから動かそうとしている1両目に関しては何とか衝突から免れたわけだ。
暴走電車は渋谷側から開通したばかりの銀座線車両に似ていた。
「誰も乗ってなかったのか?」
マリアは煙を上げている暴走電車の中を覗き込んだ。
「人の気配は無いわね。ま、おかげで、ノミ共も一掃かしら」
イリーナは辺りを見回して言った。
「そのようだ」
ピンポンパンポーン♪
〔まもなく2番線から、電車が発車します。ご利用のお客様は、お急ぎください〕
「あ!?」
「皆さん、自動運転装置が今の事故の衝撃で作動したみたいです。急いでください!」
カンジが運転席の窓から呼び掛けた。
「マジかよ!」
しかもどういうわけだか、“第三の男”が流れ始めた。
JR恵比寿駅の発車メロディとしてアレンジされたものではなく、もっとローテンポのものだった。
「何だこの音楽は?」
威吹が眉を潜める。
「阪急梅田駅じゃねーんだからよ……」
キノが呆れる。
阪急梅田駅では各線終電の時間になると、そのメロディが流れるという。
最後っ屁というわけでもないが、最後のノミの一匹が2番線ホームにいて、それをカンジが斬り捨てていた。
「これでようやくこの駅ともおさらばだな」
「ええ」
〔2番線、発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください〕
威吹達が電車に乗り込むと、大きなエアーの音がして片開きのドアが閉まった。
そして、運転室からハンドルがガチャンと動く音がして電車が走り出した。
カンジは貫通扉の前に立っているだけで運転席は無人であり、まるで透明人間が運転しているかのようだ。
そこへ、閉鎖された地上出入口をやっと突破できたのか、魔王軍が突入してきたが、後の祭りである。
「ざまぁみろ!おとといきやがれ!バーロ!!」
キノは魔王軍達にファッキングポーズを取って言い放った。
「これで魔王城まで直行だな。やれやれだ」
威吹は溜め息をついた。
「1番街駅には何がいるかしらね」
イリーナはクスクスと笑った。
「場所が場所だけにさっきの17番街駅より大きいし、魔王城への最寄り駅だから、もっと強い敵が潜んでるかもよ」
「マジかよ」
キノは嫌そうな顔をしたが、威吹は、
「これも、ユタを生き返らせる為だ。何だってやるさ」
意を決したかのように言い、マリアも無言で頷いた。
たった1両の電車は、暗い闇のトンネルを突き進んで行った。