報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「脱出」

2015-01-10 19:56:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月3日12:00.地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 稲生ユウタ、蓬莱山美鬼、蓬莱山魔鬼]

 ユタは蓬莱山家での逗留を続けていた。
 表向きは拘置である。
 その為、与えられた部屋は木格子の付いた座敷牢だった。
「昼食の時間や」
 しかし蓬莱山家からは歓迎されているようで、食事も普通に人間界で食べているものと同じ和食がメインだった。
「ありがとうございます。でも、いいんですかね?僕、何か労働した方がいいんじゃ?」
「そう言うてもなぁ……。家の修理はウチらでやることになってるき、人間のユタはんにやってもらうわけにもなぁ……」
 美鬼は西日本訛りで首を傾げた。
「あ、そや」
 ポンと手を叩く。
「ウチんとこのな、魔鬼の勉強見たってや」
「えっ?」
「ユタはん、大学生やろ?中学3年生の冬休みの宿題と受験勉強教えられへん?」
「家庭教師のアルバイトはしたことがないですが……」
「ええからええから。それで“労役”ってことにしとくがなー」
「いいんですか?」
「閻魔庁には、『しっかり労役やってもろてます』って報告しとくわ」
「なるほど……」
「姉のウチが言うのも何やけど、美鬼は飲み込み早うて楽やで」
「そうですか。それなら……」
 ユタが納得しかけると、美鬼が更にヒソヒソと耳打ちしてくる。
「オトコに関しては未体験やき、処女の飲み込みもオススメやで?」
「すいません、あなたの妹さんですよね?」
 ユタがツッコミを入れると、
「失礼します」
 蓬莱山家の使用人の青鬼がやってきた。
「姐さんにお客人です」
「ウチに?……ああ、ユタはん。ゆっくり食べたってや」
「ありがとうございます」
 美鬼は立ち上がって、青鬼の後をついていった。
「客人って誰なん?」
「それが……」

[同日同時刻 魔界高速電鉄1号線 17番街駅・2番線ホーム 威波莞爾&栗原江蓮]

 師匠の威吹から後衛並びに江蓮の護衛を任されたカンジ。
 彼は車内でやり残したことの続きを始めた。
「まだ切替スイッチを『前』にしていません」
 カンジは逆走時、先頭車となる車両の前部運転台の切替スイッチを『前』にした。
 すると、それまでテールランプが点灯していたのが消灯し、代わりに一灯式のヘッドライトが点灯した。
「これでOKです。あとは、師匠方がノミどもを退治して下さるだけです」
「はい」

 ピンポンパンポーン♪

〔まもなく1番線に、電車が到着します。白線の内側まで、お下がりください〕

「は!?」
 何故か接近放送が隣のホームに鳴り響いた。
 さすがのカンジもポーカーフェイスを崩して、首を傾げた。
「こんな時に電車が走ってるの?」
 江蓮も目を丸した。
「ま、まさか!」
 カンジは運転席横の窓を開けた。
 この時点では、まだ電車の姿は見えない。

「電車が来るわ!待避して!」
 イリーナが剣客達に警告した。
「一体、何のイベントだ!?」
 冗談ではないことは、妖狐や鬼の鋭い耳で分かった。
 地下鉄ならでの電車接近時に起こる風、そしてノミの化け物達の背後から近づいてくる電車のヘッドライト。
「かなりスピード出てんぞ!」
「どけっ!」
 威吹は待避を邪魔するノミを一匹斬り伏せた。
 そして、1番線ホームに這い上がる。

 その直後、ノミ達を轢きながら対向電車が突っ込んで来た。
 線路上にも張り巡らされた繭に車輪を絡め取られ、脱線する。
 だが、図体のデカいノミの親玉は逃げ切れずに、脱線した暴走電車と2番線の電車の間に挟まれて、血しぶきや体液を噴き上げることとなった。
 暴走電車は反動でトンネルの壁に激突し、また反動で2番線電車にぶつかったりし、更にホームにいる威吹達を巻き添えにしようとするかのように大きく傾いた後、またその反動で2番線の電車に側面衝突し、やっと止まった。
「な、何たるちゃあ……!」
「ったく!このステージ最大のイベントだぜ!全く!」
 暴走電車はもちろん全損したが、巻き添えにした2番線電車は2両から後ろを破壊した。
 つまり、これから動かそうとしている1両目に関しては何とか衝突から免れたわけだ。
 暴走電車は渋谷側から開通したばかりの銀座線車両に似ていた。
「誰も乗ってなかったのか?」
 マリアは煙を上げている暴走電車の中を覗き込んだ。
「人の気配は無いわね。ま、おかげで、ノミ共も一掃かしら」
 イリーナは辺りを見回して言った。
「そのようだ」

 ピンポンパンポーン♪

〔まもなく2番線から、電車が発車します。ご利用のお客様は、お急ぎください〕

「あ!?」
「皆さん、自動運転装置が今の事故の衝撃で作動したみたいです。急いでください!」
 カンジが運転席の窓から呼び掛けた。
「マジかよ!」

 しかもどういうわけだか、“第三の男”が流れ始めた。
 JR恵比寿駅の発車メロディとしてアレンジされたものではなく、もっとローテンポのものだった。
「何だこの音楽は?」
 威吹が眉を潜める。
「阪急梅田駅じゃねーんだからよ……」
 キノが呆れる。
 阪急梅田駅では各線終電の時間になると、そのメロディが流れるという。

 最後っ屁というわけでもないが、最後のノミの一匹が2番線ホームにいて、それをカンジが斬り捨てていた。
「これでようやくこの駅ともおさらばだな」
「ええ」

〔2番線、発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 威吹達が電車に乗り込むと、大きなエアーの音がして片開きのドアが閉まった。
 そして、運転室からハンドルがガチャンと動く音がして電車が走り出した。
 カンジは貫通扉の前に立っているだけで運転席は無人であり、まるで透明人間が運転しているかのようだ。
 そこへ、閉鎖された地上出入口をやっと突破できたのか、魔王軍が突入してきたが、後の祭りである。
「ざまぁみろ!おとといきやがれ!バーロ!!」
 キノは魔王軍達にファッキングポーズを取って言い放った。
「これで魔王城まで直行だな。やれやれだ」
 威吹は溜め息をついた。
「1番街駅には何がいるかしらね」
 イリーナはクスクスと笑った。
「場所が場所だけにさっきの17番街駅より大きいし、魔王城への最寄り駅だから、もっと強い敵が潜んでるかもよ」
「マジかよ」
 キノは嫌そうな顔をしたが、威吹は、
「これも、ユタを生き返らせる為だ。何だってやるさ」
 意を決したかのように言い、マリアも無言で頷いた。

 たった1両の電車は、暗い闇のトンネルを突き進んで行った。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“ユタと愉快な仲間たち” 「地下鉄の中は異界」 2

2015-01-10 14:40:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月3日11:30.17番街駅 男子更衣室 威吹、カンジ、マリア、イリーナ、キノ、江蓮]

「ぐる……ぐるる……ぐるるるる!」
 ロッカールームの中にいたのは、双頭の化け物。
 2足歩行なのだが、下半身は酷く肥大化し、大木の幹のような太い足が目立つ。
 威吹達から向かって左側は大きな人喰い鮫のような口が生えており、向かって右側は人の上半身があった。
 化け物側の腕は太いトゲが何本も生え、更に手の先は鋭い爪が生えている。
 逆に人側の手は退化しているのか、ただ肉体にぶら下がってるだけのような感じだ。
「うおっ!」
 その化け物は威吹達の姿を見るや、その鋭い爪で襲って来た。
「何だコイツは!?」
「気をつけろ!今までのザコとは違うぞ!」
「タスケて……ひひ……」
 人側の方は辛うじて顔が残っているが、そこから発せられる言葉は虚ろなものだ。
 目も虚ろで、焦点が合わない。
「ジョニー駅員……」
 化け物は殆ど裸だったが、辛うじて残る人側の方は破れた服をまとっており、左胸のポケットの所には『ジョニー』と書かれた名札がぶら下げられていた。
「何だって!?どういうことだ!?」
「ははぁ……。こりゃ、アレだね」
 イリーナは化け物の攻撃を交わしながら、その正体について心当たりがあった。
寄生獣に寄生された人間のなれの果てだね。ここまで来たら、もう人間側は死んでるも同然だよ」
「寄生獣だ!?」
「普通はここまで変化する前に対応するものなんだけど、この非常時じゃそうも行かなかったみたいだね」
 鋭い爪で駅長の腹を抉ったのも、ジョニー駅員だろうか。
 で、しかも、
「意外と速ェ!」
 図体がデカい割には、普通の人間の動きと似ていた。
 そういうこともあってか、
「あのコの頭のお肉、美味しそう……」
 江蓮に突進して行くのを、
「しまった!」
「抜かれたぞ!」
 突破された威吹達。
「はーっ!」
 ゴッ……!
「!?」
 それを止めたのはイリーナ。
 手持ちの魔法の杖で、直接化け物の頭をブン殴る。
「ああっ!これよ、これっ!久しぶりのナマモノの感触っ!たまにはこうじゃなくっちゃねー!」
 イリーナは目を細めながら、恍惚な顔を浮かべた。
「さあ!どんどんいらっしゃいな!どーんとお回し!」
「し、師匠……また悪いクセが……」
 気合の入る師匠に溜め息をつくマリア。
 目を点にさせる江蓮。
「……その化け物、あの女に任すか」
「おっかねぇヤツだな!」
「化け物、フラついてますよ」
 そう。カンジの指摘通り、人間側の頭をボコッとやられた化け物は、脳震盪を起こしたのか、千鳥足状態になっていた。
「み、ミカエラ!クラリス!」
 マリアは今のうちにと、手持ちの人形を人間形態にした。
 で、人形達が持っているのは刃物ではなく、マシンガンとショットガン。
「ここで撃つな!流れ弾が当たるぞ!」
 キノが慌てて江蓮だけを連れて、部屋の外に避難する。
 人形達はこぞって、化け物の人間側の方に集中砲火を浴びせた。
 人間心理として、つい化け物側を攻撃したくなるところだが、それはミスリード。
 こういった化け物は、実は人間側の方が弱点であることが多い。
 イリーナの攻撃でそれを確信したマリアと人形達。
 化け物は断末魔を上げ、血しぶきを上げながらついに倒れた。
 致命傷を食らった化け物は、やはりその体型に無理があったのだろうか、破裂した。
 そして、破裂した体の中から何か出て来た。
 1つは鍵と、
「キキッ!」
 ネズミのような生き物だった。
「おっと!逃がしゃしねーよ!」
 部屋の外に慌てて逃げ出そうとするが、そこで待ち構えていたキノの刀に串刺しにされた。
「これが寄生獣?」
「そう。ネズミ型のね」
 キノに串刺しにされた寄生獣はその生命活動を止め、煙のようになって消えた。
「それより、鍵は!?」
「ビンゴ!探し求めていた件の鍵よ!」
 と、イリーナ。
「よっしゃあ!これで電車が動かせるってもんだ!」

[同日11:45.17番街駅・プラットホーム 上記メンバー]

「急いで連結を外すぞ!」
 コンコースから階段をバタバタと下りて、電車に近づく。
「ま、待て!何かいる!」
 威吹が言うと、電車の屋根の上に何かいた。
 それは威吹達の姿を見つけると、ピョンとホームに飛び下りる。
「ダニだ!」
「いや、クモだろ!」
「ノミですよ!」
 すこぶる意見の合わない剣客達。
「カンジ君、当たり」
 後ろから続くイリーナが目を細めて言う。
 だが、そのノミの化け物は威吹達に味方するつもりはなく、むしろ敵対するつもりのようで、大きな口の牙を剥き出しにしながら向かってきた。
「虫系の化け物など、ザコ同然だな」
 その通り、ノミの化け物は威吹によって真っ二つにされ、血液や体液を噴き出して絶命した。
 見た目には普通のノミを巨大化させただけのような気がする。
 大きさは、大きな犬くらい。
「とにかく、早いとこ作業に取り掛かろう」
 威吹達は電車に乗り込み、1両目と2両目の間の運転台に向かう。
 その横にある自動解結装置の起動スイッチに鍵を差し込んだ。
 それで電源を入れると、レバーを連結器を外す方に回す。
「よーし!上手く行ったぞ!」
 ホームで連結器を見ていたキノが手を挙げた。
「カンジ、あとはどうするんだ?」
「ハイ。今度は運転台の方向レバーを『後ろ』にします」
 カンジはそのレバーを操作した。
「そして、今度は反対側の運転台に行って、『前』にします」
「よし」
 バタバタと逆走時、1番前の運転席となる運転台に向かう。
 だが、その時!

 ガッシャーン!

「!!!」
「!?」
「何だ!?」
 窓ガラスの割れる音がして、威吹が振り向くと、
「きゃあああっ!!」
 ノミの化け物が一匹侵入してきて、江蓮を連れ去った。
「な、なにいっ!?」
「くそっ!!」
 ノミの化け物は反対側の線路から侵入して江蓮を連れ去ると、来た道を引き返すように反対側の線路に飛び出す。
「待ちやがれ!」
 剣客達も後を追う。
 ノミは素早い動きで、電車の先頭車(順走時)に向かって行く。
「でやあっ!」
 キノは線路上のATS端子を踏み台にして、ノミに斬り掛かった。
 タチアナに強化された赤い刃の刀。
 キノの妖力を溜め込んだ妖刀は、そこから赤い光を放つ。
 赤い光は刃の形となって、ノミの化け物を斬り裂いた。
「! 栗原殿にも当たってないか!?」
 後を追う威吹が目を丸くした。
「大丈夫だ。この刀は妖怪しか斬れねーよ」
 その通り、ノミは体を真っ二つにされて絶命したが、江蓮は無事だった。
「大丈夫か!?どこもやられてないか!?」
「だ、大丈夫……」
 どうやらさっきのノミは江蓮を連れ去ることだけを目的にしていたようで、自分が吸血するつもりは無かったのか。
 では、どこへ連れ去ろうとしていたのか。
「……あれか」
「どうやら、ボスの登場のようです」
 電車の先頭車を絡めていた蜘蛛の巣だか繭だかの物体。
 これはノミの化け物の仕業のようで、そこからわらわらとノミの化け物が出て来た。
 そして、その奥にいる一際でっかいノミ。
「親玉か。素直に電車を見送ってくれる雰囲気じゃなさそうだぜ」
「やるしかないか」
「江蓮達は後ろにいろ!あいつはオレが倒す!」
「オレもやる!」
「先生の御意向に従います!」
「じゃあ、カンジ。栗原殿の護衛をしててくれ」
「は?はあ……」
 カンジは後衛を命令されて、ガクッとなった。
「行くぞ!」
 威吹達はノミの化け物達と対峙した。

 だが、ここでまたしても急展開が起きる。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする