報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 番外編 「卒業旅行 The 3名様」

2015-01-31 10:45:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月20日15:11.JR新宿駅・埼京線ホーム 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。1番線に停車中の電車は、15時16分発、各駅停車、大宮行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕

 言ってしまえば喧騒の一言で片付いてしまう駅。
 JR東日本の本社があり、乗降客数で言うなら東京駅よりも多い。
 初めて本格的に「駅メロ」と呼ばれる、発車ベルがメロディー化した駅として有名。
 90年代導入当初の単調なピアノ曲や、鐘の音だけのシンプルな発車メロディを覚えておられる方も多いだろう。
 作者は中央・総武線各駅停車ホームで流れていた鐘の音が好きだったのだが。
 その次が、眠くなるような埼京線ホームのピアノ曲かな。
 今では、殆ど目が覚めるようにパンチの効いた曲ばっかりだ。

 さて、その中を歩く3人連れがいた。
 1人はスーツを着ている
 もう2人は外国人。
 そのうちの1人はモデルと見間違えるほどに背が高い。
「じゃあ、ここにしましょう」
「ユウタ君は運転室の付いた車両が好きねー」
「いや、ここが1番空いてるんですよ」
 スーツを着ているのは稲生ユウタ。
 そのユタに、からかうように言った背の高いのはイリーナ。
「はは……」
 小さく笑うのはマリアだった。
 乗り込んだのは大宮方面では最後尾となる車両。
 朝のラッシュ時には、女性専用車に指定される車両だ。
 無論、冒頭の時刻をご覧頂ければ分かるが、今は指定時間ではない。

〔「この電車は15時16分発、埼京線各駅停車の大宮行きです。途中の武蔵浦和で、後から参ります快速、川越行きに接続致します。……」〕

「ユウタ君、卒業証書見せて」
「あ、はい」
 ユタはイリーナに言われると、カバンの中から2つ折りのホルダーを出した。
 それを広げると、片面に卒業証書が平面の状態で保存されている。
「僕の大学では、こういう状態で渡されるんです」
「“ベタな卒業証書の法則”だと、円筒か角筒に入れるのにねぇ……。でもこの方が変に丸まったり折れたりしないから、保存状態は良くなるわけか」
「そのようで……」
「じゃあ、私も免許皆伝の儀式はこれにしようかな」
「イギリスに魔法学校みたいなものができてからにした方がいいんじゃないですか」
 マリアは冷静に突っ込んだ。

 りんかい線の電車はパンチの効いた発車メロディの後、定刻通りに発車した。

[同日15:58.JR北与野駅 上記メンバー]

 ユタ達を乗せた電車が北与野駅に滑り込む。

〔きたよの〜、北与野〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 各駅停車しか止まらない駅ではその各駅停車でさえ、発車メロディもそこそこに、すぐに発車して行ってしまう。
「そうそう。ユウタ君、魔道師の修行なんだけどね。基礎教養の為に、最初のうちはマリアの家に泊まり込んでもらうって話は聞いてるよね?」
「え?ええ、まあ……」
「すぐに来いとは言わないわ。ただ、場所が場所だけに、休みの日であっても、なかなか遊びには行けなくなるから、今のうちに卒業旅行とか行きましょう」
「実は、何の準備もしてないんですが……」
「準備ならできてるよ。ま、ご家族と楽しむ方が優先だからね。その後でいいからね」
「ど、どうも……。(どこへ連れて行かれるんだろう……?)」

[同日16:15.ユタの家 上記メンバー]

「まあ、どうぞ」
「お邪魔しまーす」
「失礼します」
 2人の魔道師師弟を招き入れるユタ。
「威吹君が魔界に行っちゃって、寂しくない?」
「いえ、大丈夫です。こまめにマリアさんが来てくれるようになりましたし……」
「うんうん。ユウタ君は何も心配しなくていいからね」
「お茶、入れますので」
 ユタはスーツの上着にネクタイを外すと、台所へ向かった。
 その間、師弟コンビが話す。
「威吹君と、さくらさんは新婚生活スタートか」
「いや、まだでしょう。大水晶に長年閉じ込められていたということで、そのケアをすると大師匠様が……」
「どうせジジィ世代の責任なんだから、そっち側に責任取らすわよ」
 で、続けて、右手の人差し指を自分の唇に当てる。
「大水晶のことは、威吹君には内緒ね」
「魔界に神社を建ててあげて、そこに住まわせるというのもその一環ですか……」
 マリアは呆れた。
「あなたも1人前になれば分かるわよ」
(1度は1人前になったんですが)
 という言葉をマリアは飲み込んだ。
 その資格を剥奪されたのは、自分のせいではあるから。

 しばらくしてユタが紅茶を入れて来た。
「ありがとうね」
「いえ、どうぞ。それでその……旅行というのは……。まさか魔界に?」
「魔界には、あなたが正式に魔道師見習になったら連れて行ってあげる。カリキュラムの課程上、どうしても魔界に行かないといけない所があるからね。まずは基礎教養を身に付けてから。次のステップで、魔界に行く所が出て来る。威吹君にもその時、会いに行けばいいよ」
「なるほど……」
「逆を言えば見習とはいえ、魔道師になった時点で、人間界とは一歩さよならすることになる。だから、今のうちに人間界を満喫するといいと思うわけ」
「何か、凄いなぁ……」
「まあ、別に今生の別れってわけじゃないけどね。むしろ、魔道師になると今生も来世も無くなるから。ただ、普通の人間を辞めることになるから、もう2度と普通の人間の視点で人間界を見ることはできなくなるってことかな」
「はあ……」
「どこか行きたい所ある?」
「そうですねぇ……」
「ユウタ君の好きなパターンで、鉄道もいいかもよ」
「鉄道ねぇ……。あ」
 ユタも一緒にズズズと紅茶を飲んで、ふと思った。
「北海道。大学に入ってから行こうとしたんですけど、結局行けなかったんですよ」
「北海道ね。幸い、私の知り合いもいるから何とかなりそうだわ」
 イリーナはニヤッと笑った。
「色んな所にお知り合いがいるんですねぇ」
 ユタが感心していると、
「まあ、1000年も生きてるとね、世界中のあちらこちらに知り合いができるわけよ」
 イリーナは得意げに答えた。
「良くも悪くもね」
 ボソッとマリアが補足したかのように言ったのを、イリーナは華麗にスルーした。
コメント (2)
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