報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「帰りの旅とフラッシュバック」

2025-01-10 20:08:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月19日14時45分 天候:雨 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅・新幹線ホーム→東北新幹線144B列車・2号車内]

〔14番線に、停車中の電車は、14時45分発、“やまびこ”144号、東京行きです。この電車は、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に、止まります。グリーン車は、9号車。自由席は、1号車から、5号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 リサやパールへのお土産を購入した私は、帰りの新幹線のキップを手に、ホームへ上がった。
 上り副線ホームに、私の乗車する列車が発車を待っていた。
 リサが一緒に乗っているわけではないので、2号車に乗り込む。
 先頭車より中間車の方が座席が多く、着席できる確率は高くなる。
 もっとも、仙台始発の“やまびこ”では、そんなに混んでいなかったが。
 発車の時間が迫っていても、自由席で2人席の窓側に座れたくらいだ。
 荷物と土産物を網棚に置く。

〔「ご案内致します。この電車は14時45分発、東北新幹線“やまびこ”144号、東京行きです。発車の時刻となっておりますが、遅れております仙山線からの接続待ち合わせを行っております。発車まで少々お待ちください。次の停車駅は、福島です」〕

 ん?少し遅れている?
 私が首を傾げながら座席に腰かけると、ホームからオーケストラが聞こえて来た。
 もちろんBGMではなく、発車メロディである。
 地元の管弦楽団『仙台フィルハーモニー管弦楽団』の生演奏を録音したもので、曲名は“青葉城恋唄”である。

〔「14番線から、“やまびこ”144号、東京行き、まもなく発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 甲高い客扱い終了ブザーが鳴ってドアが閉まる頃には、列車は2分ほど遅れていた。
 まあ、2分遅れくらいなら、新幹線なら取り戻せるだろう。
 ようやく列車は走り出し、カーブを曲がりながら、上り本線に入る。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線、やまびこ号、東京行きです。福島で、山形新幹線、つばさ号を連結致します。次は、福島に、停まります。……〕
〔「“やまびこ”144号、東京行きです。大雨の影響により、遅れておりました仙山線からのお乗り換えを待ちました為、この電車、仙台駅を2分ほど遅れて発車を致しております。発車待ち合わせにご協力、ありがとうございました。次の福島で山形新幹線つばさ号を連結する関係で、停車時間が多く取られてございます。福島発車は、定刻を予定しております。……」〕

 仙山線が遅れている?
 そういえば車で宮城川崎インターから山形自動車道に入ろうとした時、『笹谷IC~山形蔵王IC間、大雨走行注意』とか表示が出てたな……。
 梅雨前線による雨だろうに、山の方は交通障害が出るほどの大雨なのか。
 私はスマホで運行情報を見た。

 『【遅延】仙山線は大雨の影響により、一部列車に遅れが発生しています』

 山の天気は変わりやすいというからなぁ……。
 そういえば昔、1人で洋館の主からの仕事の依頼を引き受けに行った時も大雨……あれ?
 ……雨降ってたか?

 愛原「うっ……!」

 また私の頭に激しい頭痛と、脱力、そしてフラッシュバックが起きた。
 そのせいで、手に持っていたスマホを落としてしまった。

 警備員「大丈夫ですか?」
 愛原「え……?あ、は、はい!だ、大丈夫です!ちょっと、手が滑って……」

 たまたま警乗中の警備員が目撃していて、私に声を掛けて来た。
 私が笑顔を作って答えると、警備員は私に落としたスマホを渡して去って行った。
 私はスマホをポケットにしまうと、座席をリクライニングしてもたれかかった。
 東北新幹線では古株のE2系の普通車座席は、背もたれと座面がそれぞれ独立して動くタイプである。

 愛原「今のは……CSPの警備員だな……」

 あいにくと、私が昔働いていた警備会社ではない。
 私が働いていた警備会社も、業界では大手の……。

 愛原「!!!」

 私が警備会社で働いていた時、長く派遣されていたビルがあった。
 それこそが、日本アンブレラのビル……!
 日本アンブレラの本社ビルは、意外なことに自社ビルではなかった。
 超大手の地所が建設したビルをまるっと一棟借りし、自分達で好きなように内装をアレンジしていた。
 まるっと一棟借りているとはいえ、オーナーは超大手の地所、そして管理会社もその地所のグループ会社。
 私が働いていた警備会社は、その管理会社と契約して防災センターの業務を行っていた。
 だが、日本アンブレラは日本アンブレラで、USS(アンブレラ・セキュリティ・サービス)の日本法人、JUSS(日本アンブレラ警備保障)を専属警備として配置した。
 防災センター業務との境界線、管轄を巡って何度もトラブルがあったのを……何で今思い出すんだ!?
 ……ちょっと、トイレに行って、それから善場係長に電話してみよう。
 私は座席に鞄だけ置いて席を確保すると、スマホを持ってデッキに出た。

 善場「……なるほど。そういうことですか」

 電話で報告すると、善場係長は納得している感じだった。

 善場「脳から異物を除去したことで、欠損していた記憶が戻りつつあるのかもしれませんね」
 愛原「それはどういうことなんですか?」
 善場「愛原所長、無理はなさらなくて結構ですから、少しずつ思い出してください。あなたが警備員時代、日本アンブレラのビルで働いていた時、何があったのかを……。今、そのビルはもうありませんので、調べようがありません。が、取り壊される前に関係者として働いていた方の記憶、証言が頼りでもあるのです」

 そして善場係長は、『元研究員達を締め上げてもなかなか吐かないが、もしかしたら警備員なら証言してくれるかもしれない』と、呟いた。
 本来、警備員には守秘義務があるのだが、私はもう警備会社を辞めて何年も経つ上、勤務先のビルも、テナントもこの世に存在しないとあらば、その守秘義務は解除で良いだろう。

 愛原「はい……」
 善場「あの……少しずつで構いませんので。いきなり全てを無理やり思い出そうとすると、脳に負担が掛かるでしょうから。所長にはまだ仕事の依頼がございますし、それをこなしながら思い出して行って頂ければ結構ですので」
 愛原「承知致しました……」

 私は電話を切った。
 それから、小便器の個室に入った。
 先にトイレに行こうとしたら、先客がいたのである。

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