報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「埼玉からの帰り」

2019-08-02 19:07:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月20日15:35.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 西武バス上落合八丁目停留所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事の依頼を受けに、埼玉県さいたま市の斉藤秀樹社長の御宅を訪れた。
 契約は即日締結。
 簡単に言えば、夏休みも忙しい社長方に代わって、御令嬢の面倒を看て欲しいというものだ。
 おおよそ探偵業とかけ離れた仕事であるが、契約数が廃業レベルの弱小事務所とあってはなりふり構っていられないのが実情だ。
 この前、銚子に行った時みたいに、いきなりの仕事の依頼なんてあるかもしれないし。
 で、契約をした後は色々と話をした。
 多分、少しでも長く娘さんの機嫌を取る為だろう。
 リサが長く娘さんといられる為に。

 高橋:「先生、バスが来ました」
 愛原:「うん」

 片側2車線の県道を大型の路線バスがやってきた。
 西武バスの東京都区内の路線は前乗りであるが、埼玉県内と東京都区外は後ろ乗りである。
 中扉が開いて、私達はバスに乗り込んだ。

 リサ:「それじゃサイトー、また月曜日、学校で」
 斉藤:「うん。絶対、絶対だよ」
 リサ:「ん。……分かったから、そろそろ手を放して」
 斉藤:「あっ……!」

 まるで長距離バスでの別れみたいだな。

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 斉藤さんがリサの手を放すと同時に、中扉が閉まった。
 車内はガラガラで、私達の他に2〜3人しか乗っていない。
 1番後ろの座席に3人並んで座った。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 次は上小小学校、上小小学校。……〕

 進行方向左側の窓側に座ったリサは、大きく手を振る斉藤さんに大きく手を振り返した。

 高橋:「結局、車での送り迎えは無しでしたねぇ……」
 愛原:「別にいいじゃないか」
 高橋:「しかも探偵の仕事とはほとんど関係無い内容っスよ?いいんですか?」
 愛原:「もしも目的が斉藤絵恋さんの護衛なんだとしたら、これは探偵業というより警備業だな。作者の会社に依頼した方がいい」
 高橋:「だったら……!」
 リサ:「私はサイトーと一緒に旅行できるから楽しみ。サイトーも喜んでた」
 愛原:「つまり、こういうことだよ。斉藤社長は宿泊代も交通費も全部込みで報酬を支払ってくれると仰った。もしもまだバイオテロを企んでいる組織や団体があったとするならば、だ。BSAAや新生アンブレラに出資する企業や団体をウザいと思うだろう。もちろん、全日本製薬もそんなテロ組織からウザがられる企業さんの1つだ。もしも斉藤社長のお嬢さんが誘拐にでも遭ったら、エラいことになる。それを防止する為の仕事だ」
 高橋:「え、でも、北与野駅に迎えに来た時、あいつ1人でしたよね?」
 愛原:「クライアントの御令嬢を『あいつ』呼ばわりするんじゃない」
 高橋:「サーセン。ていうかあいつ、今さっきもバス停から家まで1人で帰ることになりますけど?」
 リサ:「サイトーは空手を習っているから大丈夫」
 愛原:「そ、そうだった。中学生にして空手黒帯なんだろ?だったら大丈夫」

 武闘派令嬢だ。
 ああいった富豪の御令嬢が習いがちな茶道や華道については、話すら聞かない。
 しかし、躾そのものはよくされているのだろう。
 言葉遣いや端々に見える仕草に、育ちの良さが見受けられる。
 そこは高橋と比べれば大違いだ。
 もちろん、日本の武道でも礼儀作法は教わるから、そういう所から学んだ部分もあるだろう。
 空手も一対一で正々堂々と戦うのを是とするわけだから、高橋のとにかく勝てば何でもいいケンカ殺法とは相反する。

 高橋:「だったら俺達の護衛、いらないんじゃ?」
 愛原:「報酬の為だ。高橋は納得できない仕事かもしれないが、我慢してくれ。行きたくないのなら無理しなくていいぞ。お前は事務所で留守番だ」
 高橋:「地獄の果てまでお供します!」

 こいつは……。

[同日15:55.天候:晴 さいたま市大宮区 JR大宮駅西口]

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 大変お待たせ致しました。まもなく終点、大宮駅西口。終点、大宮駅西口。毎度、西武バスをご利用頂きまして、ありがとうございました。どなた様も忘れ物の無いよう、ご注意ください。……〕

 バスは多くの人や車で賑わう大宮駅西口に近づいた。

 高橋:「先生、何だか夕立フラグが立っているらしいですよ?」
 愛原:「そうか。梅雨もそろそろ明けるし、そうしたら夕立やゲリラ豪雨、そして台風のシーズンだ。雨に当たる前に帰りたいな」

 ぶっちゃけ、駅の中に入ってしまえば、いくら降ろうが全く構わない。
 バスはロータリーの中に入らず、高架歩道の階段の前の降車場で止まった。

 愛原:「よし、降りよう」

 両開きのグライドスライドドアが開いて、私達は他の乗客に続いてバスを降りた。
 私達と一緒でないと電車やバスに乗らないリサは、Pasmoを読取機にタッチするのも新鮮のようだ。
 高校生になったら地下鉄通学になるだろうから、否が応でも慣れることになると思うけどな。
 バスを降りて、すぐ前の階段を上る。

 高橋:「先生、アネゴからLINEです」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「暑くなってきたことだし、第1回目の暑気払いをしませんかってことです」
 愛原:「まあ、確かに梅雨明けと同時に暑くなってるな」
 高橋:「アネゴが飲みたいだけですよ、きっと」
 愛原:「何かきっかけでもあったんじゃない?」
 高橋:「この前、リサが駅近くの桜鍋屋でゴキブリとネズミ駆除やったじゃないですか?」
 愛原:「店長が『バイオハザードで化け物がー』って騒いでたヤツ?」

 何のことはない。
 美味い残飯を貪り食ったゴキブリやネズミが大きく成長しただけのことで、別にバイオハザードは関係無かった。
 リサが持ち前の触手などで次々と駆除していき(もちろんそのシーンは誰にも見せなかった)、あとは市販のトラップを仕掛けるだけで良かった。

 高橋:「御礼に半額セールやってくれるそうです」
 愛原:「今更かよ。どうせ週末のフードロス対策だろ」
 高橋:「先生を残飯処理に使うとはいい度胸ですね。今度、あの店にサルモネラ菌や黄色ブドウ球菌をバラ撒いてやりましょう。ふふふ、永久営業停止処分です」
 愛原:「別に、他の客の食べ残しを食わされるわけじゃないからな?」

 私は高橋に呆れてツッコミを入れた。
 全く、人は誰でもテロリストになれるものだ。
 取りあえず、旅行は8月に行くこととし、宿泊先や交通手段などは斉藤社長にお任せすることになった。
コメント
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