報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋の釈放」

2023-05-14 20:19:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月1日18時11分 天候:晴 東京都墨田区押上1丁目 東武鉄道とうきょうスカイツリー駅]

〔♪♪♪♪。まもなく、とうきょうスカイツリー、とうきょうスカイツリーに到着致します。お出口は、左側です。京成線押上線、都営地下鉄浅草線、東京メトロ半蔵門線はお乗り換えです。とうきょうスカイツリーを出ますと、次は終点、浅草です〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は改めて、南会津へ行ったところである。
 尚、今日は1人だ。
 リサは学校がある為。
 それにしても、交通が不便な山奥の村へ日帰りはキツいものがある。
 何しろリサの単独行動は一部の例外を除いて認められていない為、リサが学校に行っている間ということになった。
 実は桧枝岐村で、また白骨遺体が見つかったこともあり、それが南会津町の警察署に運ばれて検死を受けた。
 その結果、その白骨死体は暴力団員の牛窪勝五郎であることが分かった。
 私はこの事件を追う探偵として、行かざるを得なかったのである。
 死後50年経っているということもあって死因は不明だが、山中に埋められていたので、死体遺棄事件として警察が捜査することになったのである。
 私の予想だが、犯人は上野医師辺り。
 牛窪の執拗な攻撃に反撃して、つい殺してしまったのだろう。
 そして、死体を埋めたわけだ。
 いわき市で牛窪に協力した奥州虹元組も、縄張り外のことには興味が無いらしく、牛窪が姿を現さなかったことには何の関心も無かったようだ。
 あくまでも無関係の組織のヤクザが、必死に協力を頼んで来たので、お情けで捜索に協力してやったに過ぎない。
 なので、縄張り外で何かあっても、あとは知らんというわけだ。
 結局のところ、上野医師の勝利で終わったということだな。
 もっとも、後に白井に襲われるとは思わなかっただろうが。
 ところで、私が乗っているこの東武スカイツリーライン。
 高橋が収容されている東京拘置所の近くを通るのだが、実は今日、高橋の起訴猶予処分が決定し、釈放されることになった。
 本来は迎えに行きたいところだったのだが、白骨死体が牛窪の物だと分かったということで、それができなくなった。
 不起訴ではなく、起訴猶予ということは、あれか。
 まだ、高橋のことは疑われているということだ。
 起訴猶予になる理由にはいくつかあるが、『嫌疑不十分』というのもかなりある。
 不起訴と違うのは、再び嫌疑が十分に出てきたら、また起訴される恐れがあるということである。
 色々と拮抗した挙げ句、起訴猶予で落とし所となったようである。

〔ご乗車ありがとうございました。とうきょうスカイツリー、とうきょうスカイツリーです。……〕

 愛原「あれ?」

 電車を降りると、ホームに高橋とリサがいた。

 高橋「お疲れさまっス!先生!」

 高橋が平身低頭の最敬礼で出迎えた。

 愛原「高橋、おま……」
 高橋「お出迎えに上がりました!この通り、リサも連れて来てますんで!」
 リサ「わたしも行きたかったー」
 愛原「いや、俺は仕事だし。わざわざ南会津警察署に行って、いわき市で仕入れた情報とかを提供しに行ったんだから」

 死体が見つかれば、あとはもう警察の仕事である。
 私達は上野医師の軌跡を追っていたのであって、ヤクザの軌跡を追っているわけではない。

 愛原「とにかく、家に帰ろう」
 高橋「うっス!」

[同日18時21分 天候:晴 同地区 とうきょうスカイツリー駅前バス停→都営バス業10系統車内]

 私達は駅前から、都営バスに乗り込んだ。
 平日でも東京の観光地の1つである東京スカイツリーは賑わっている。
 都営バスを利用する観光客は、あまりいないようだが、平日の夕方のラッシュということもあって、逆方向でも賑わっていた。

〔発車致します。お掴まりください〕

 私達は後ろの席に座っている。
 バスは発車の時間になり、前扉を閉めて発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは菊川駅前、東京都現代美術館前経由、深川車庫前行きでございます。次は言問橋、言問橋でございます。日蓮正宗妙縁寺へは、本所吾妻橋でお降りになると便利です。次は、言問橋でございます〕

 愛原「悪かったな。迎えに行けなくて」
 高橋「とんでもないっス!先生方のおかげで、無事に娑婆に出られました!もう感謝しかないっス!」
 愛原「そうか。まあ、軽く出所祝いと行こうか」
 高橋「いいんスか?あざーっす!」
 愛原「リサも高橋のいない間、色々と頑張ってくれたからな、その労いの意味もあるから」
 リサ「あざーっす!」

[同日18時45分 天候:晴 東京都墨田区菊川 某焼肉店]

 菊川駅前でバスを降りた私達は、その足で新大橋通り沿いの焼肉店に向かった。
 この辺には焼肉店は何店舗かあるのだが、食べ放題はやっていない。
 その代わり、飲み放題付きの宴会コースはあって、高橋にとっては、食べ放題よりも飲み放題の方がいいだろうと思ったのだ。

 愛原「さあさあ、乾杯しよう、乾杯」
 高橋「先生も飲みたいんスね?」
 愛原「いや、ハハハ……」
 リサ「わたしも飲みたーい」
 愛原「リサはあと3年待て」

 肉より先に飲み物が来た。
 私と高橋は、まずはビールで乾杯。

 高橋「ぷはーっ!久しぶりのアルコールっス!」
 愛原「だろう?」

 当たり前の話だが、警察の留置場や拘置所では酒は飲めない。
 不起訴や起訴猶予処分で釈放された犯人が、祝い酒をするのは鉄板だそうだ。

 愛原「いいか?いくら起訴猶予とはいえ、嫌疑が完全に晴れたわけじゃないんだ。ここだけの話、善場主任達は、お前をヴェルトロの関係者ではないかと疑っている」
 高橋「もちろん、ガチ否定っスよ」
 愛原「だから、尚更疑われるような行動は控えなければならない」
 高橋「もちろん、分かってますよ」
 愛原「起訴猶予にしたのは、その為の保険だ。1度不起訴にしてしまうと、もう2度とその容疑で再び起訴はできなくなるからな」
 高橋「分かりました」
 愛原「さすがに起訴されたら、俺もオマエをクビにしなけりゃいけなくなる」

 そうでなくても、多くの場合、起訴猶予で解雇する企業が大部分だと聞く。
 不起訴でもそうだし、逮捕の時点で解雇という所も多々ある。

 愛原「ま、気を付けないとな」
 高橋「はい」
 愛原「それと今度、付き合って欲しい所があるんだ」
 高橋「どこっスか!?」
 愛原「不動産屋。新しい事務所兼住宅への引っ越しの話だよ」
 高橋「ああ、あれっスか!」
 リサ「確かにお兄ちゃんがいない間、家とか事務所とか誰もいない時とか勿体なかったもんね」
 愛原「ああ。専用の事務所を構えるのは、もっとうちの事務所が大きくなってからでいいと思っている。今は、家の中に1室あるだけで十分」
 高橋「で、いいのが見つかったんスか?」
 愛原「ちょっとね。で、皆で内見しようと思って、その予約を入れてあるんだ」
 高橋「そういうことでしたか」
 愛原「家と事務所を統一すれば、維持費も節約できるから、その分、もっと生活費に回せるぞ」
 高橋「それはいいっスね!」

 そこまで話して肉が来たので、私達は早速焼き始めた。
 リサが生のまま食べようとするのを抑えるのは、いつも通りである。
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“私立探偵 愛原学” 「善場への報告」

2023-05-14 11:51:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月14日13時00分 天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 私は先日の調査の報告書を作成し、善場主任を訪ねてデイライトの事務所へと向かった。
 実はその前、午前中に、高橋が収容されている東京拘置所にも行ってみたのだが、既に誰かが面会した後だった為、面会できなかった。

 善場「愛原所長、先日はお疲れ様です」
 愛原「こちらこそ、恐れ入ります。先日の調査に関する報告書をお持ち致しました」
 善場「拝見致します」

 善場主任は満足そうにその報告書に目を通していたのだが、ある所で目が止まった。
 そして、眉を潜めた。

 善場「愛原所長。暴力団事務所にまで、話を聞きに言ったのですか?」
 愛原「ええ。上野医師を追っていたのは警察だけではなく、暴力団員もだったということで、そこから辿れば新たな発見があるのではないかと思いました」
 善場「……今後は危険なことは控えてくださいね」
 愛原「あ、はい。でもまあ、今回はリサも一緒でしたし」
 善場「指定暴力団奥州虹元組は、『東北の工藤会』と呼ばれるほどの武闘派暴力団です。今回は若頭の不祥事を内密にするという取引で上手く話を聞けたようですが、金品のやり取りでもしようものなら、愛原所長が逮捕されますよ?」

 そう言われて、私は改めて冷や汗をかいた。
 落とし前の金、断っといて良かったー。

 愛原「で、ですが、上手いこと話は聞けましたし……」
 善場「牛窪勝五郎ですね。この暴力団員が、どこの組織の者だったのか、警視庁に照会しましょう。恐らく、今はもう無い組織だとは思いますが」
 愛原「はい。その牛窪が虹元組の組長に言っていた、『アニキが化け物にされた』というのは、やはり想像通りなんでしょうか?」
 善場「私と愛原所長、想像通りだと思います」
 愛原「上野医師とは、一体何者なんでしょうか?本当に、ただの医者だったのでしょうか?」
 善場「分かりません。上野医師が勤務していたという病院も、今はありませんし」
 愛原「そうですか。しかし、もしも上野医師が治療したという暴力団員が化け物になったとしたら、その後はどうしたのでしょう?病院に都合良く銃火器などが置いてあるとは思えませんが……」
 善場「恐らく、BOWではなく、単なるクリーチャーの類だったのでしょう。Tウィルスのゾンビよりも弱いくらいの。ただ、見た目は化け物だったので、牛窪はそう言っていたのではないでしょうか」
 愛原「なるほど。上野医師はどこに住んでいたのでしょうね?」
 善場「世田谷区のどこかだったようです。病院も世田谷区内にあったそうですが、今は経営破綻して廃病院になり、その後は取り壊されて別の建物が建っています」

 私立の病院だったのか。
 それなら金次第で、ヤクザでも受け入れたかもしれないな。

 愛原「なるほど、そうですか」
 善場「上野医師には妻がいたようですが、正式には離婚していなものの、ずっと別居状態だったようですね」
 愛原「正式には離婚していない!?それじゃ、重婚罪も?」
 善場「いえ。斉藤玲子とも正式には入籍していないので……」
 愛原「え?え??」
 善場「更には桧枝岐村の未亡人とされる女性とも、当たり前ですが、入籍していません」
 愛原「3股!?……あーあ。何か、上野医師に同情できなくなってきた」
 善場「しなくて結構ですよ。もうお気づきだと思いますが、時代が時代なら、アンブレラの研究員として暗躍していてもおかしくない人物ですから」
 愛原「アンブレラにも前身があったんですかね?」
 善場「日本アンブレラには、前身があったようですね。社長の五十嵐皓貴は、かつて別の製薬会社に勤務していた経歴がありますから」
 愛原「別の製薬会社?」
 善場「これもまたキナ臭い話なのですが……。五十嵐皓貴は、高畑製薬という会社に勤めていました」
 愛原「高畑製薬?聞いたことないな……」
 善場「ええ。今はもう別の製薬企業に吸収されて、存在しない企業ですから。その高畑製薬も、薬害事故などを起こしておりまして、それで製薬企業としての信用を失い、経営が傾いた所を、別の製薬企業に吸収されたという経緯があります」
 愛原「因みに、その吸収した製薬企業というのは……?」
 善場「大日本製薬(現・ダイニチ)です」
 愛原「ここで繋がってたのか!」

 その大日本製薬も、斉藤秀樹社長の不祥事により、会社再編を余儀無くされている。
 社名もダイニチと変わって今に至る。

 善場「取りあえず、ここまではありがとうございました」
 愛原「いえいえ。お役に立てて、何よりです」
 善場「リサも助手としては、上手く立ち回れるようになりましたかね」
 愛原「そのようです。あとは、高橋が復帰してくれればと思っています」
 善場「その高橋助手ですが、不起訴または起訴猶予になる可能性が高いです」
 愛原「本当ですか!?」
 善場「高橋助手はまだ若いですし、愛原所長の下で働いているという環境もあります。また、暴走行為について、高橋助手はリアシートに乗っていただけというのと、結果的にはヴェルトロの残党を拘束できたという事を踏まえまして、検察側が起訴しない可能性が出てきました」

 日本では起訴されると有罪率が99%であるが、これはそもそも検察官が、有罪に持ち込めないと判断したケースにおいては起訴しないからである。

 愛原「そうですか。それは良かった。弁護士の先生にも感謝です」
 善場「そうですね。ところで、新しい事務所と住居移転の話はどうなりましたか?」
 愛原「いやあ、なかなかいい物件が無くて……。今の所からなるべく近い所と限定していることもあって、なかなか思うようには……」

 私は苦笑いした。

 愛原「まあ、高橋が戻ってきたら、また探してみますよ」
 善場「頑張ってください」

 なるべく今住んでいる所の近くで、事務所と住居が一体となった建物か……。
 ありそうでないんだよなぁ……。
 まあ、今回の調査も一段落したし、もっと集中的に探してみることにするか。
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