[12月5日10時00分 天候:晴 東京都江東区某所 某運送会社営業所]
月曜日になり、私は高橋が運転する車に乗って、高橋の知り合いが務めているという運送会社に向かった。
車はリース契約している日産NV200バネットである。
地味な車ではあるが、荷物は積めるし、逆にどこにいても不自然ではない車なので、隠密行動を取る時とかは便利なのである。
引越しの時も、ある程度は使えるだろう。
高橋「えーと……。ここっスね」
愛原「そうか」
運送会社は、東京メトロ東西線の東陽町駅と南砂町駅の間くらいの所にあった。
この辺は物流街であり、佐川急便の本社があったり、そのトラックターミナルがあったりするものだから、大型トラックが列を成して走行している。
東陽町駅寄りにはJRバス関東の支店や車庫がある為、高速バスの姿もよく見かける。
高橋の知り合いの運送会社も、その界隈に営業所を構えているということは、佐川急便の仕事も委託されているのかもしれない。
会社の敷地内に入り、来客用駐車場に車を止める。
車を降りると、ちょうど大型トラックが入場してくるところだった。
そのまま私達の前を通り過ぎて、他のトラックが止まっている駐車場へ向かうのだろうと思いきや、いきなり私達の前で止まる。
そして、軽くクラクションを鳴らしてきた。
さすがに大型ダンプカーなどが搭載している『ヤンキーホーン』ではなく、普通のエアホーンだったが。
愛原「ん?」
私がバッと振り向くと、運転手が降りて来るところだった。
会社のユニフォームである作業服は着ているが、頭はツーブロックにしている。
運転手「よお、マサシ」
高橋「マサヨシっス!センパイ!」
運転手「そうだったっけ?マサシにしとけよ。メンド臭ェ」
高橋「俺に言われても……」
愛原「知り合いって、高橋の先輩なのかよ?」
高橋「俺に走り屋について、色々と教えてくれたセンパイです」
愛原「ど、どうも」
高橋「どもっ。……あ、マサシが言ってた、お客さん?」
高橋「だから、マサヨシっス」
愛原「ええ、まあ……」
運転手「じゃあ、所長の所へ案内しますよ。営業所の中だと思うんで」
愛原「あ、ああ。よろしく……」
すると、営業所の建物の入口から、白髪頭に眼鏡を掛けた60代くらいの男性が出てきた。
所長「いいから、オマエはさっさと車置いてこい!タイヤ交換は済んだんだろうなぁ!?」
運転手「いや、だから今、行ってきたとこっス」
所長「今夜、青森に行ってもらうから、しっかり休めよ」
運転手「ういーっス」
愛原「青森……」
どうやら、長距離トラックの運転手のようである。
所長「あ、これはこれはどうも、お見苦しいところを……。手前、こちらの営業所の責任者でして……」
所長は私の方を見ると、コロッと態度を変えた。
愛原「あ、はい。ちょっと引越しの相談で、お伺いした愛原と申します」
所長「愛原さんですね。どうぞ、中へ」
愛原「お邪魔します」
中に入ると、事務所になっていた。
その一角に、衝立で仕切られた簡単な応接セットがある。
1人用のソファが2つずつ向かい合わせになっている部分がある。
所長「どうぞ、そちらへ」
愛原「失礼します」
すると所長、所内にあった無線機を取り出した。
所長「梅、聞こえるか?車を置いたら、伝票持ってくるついでに、お客さん達にお茶を用意してこい」
愛原「梅?」
高橋「さっきのパイセンのことっス。梅津さんって言うんスよ」
愛原「そうなのか」
所長「すいません、今お茶をご用意しますので、少々お待ちを……」
愛原「いえ、お構いなく」
所長「手前、営業所の責任者の畑中と申します。この度は、当社を御用命頂き、ありがとうございます」
愛原「いえいえ。私は菊川で探偵事務所をやっております愛原です。今回はここにいる助手の高橋が、先ほどのドライバーさんの知り合いなもので、それで紹介してもらったといった感じです」
畑中「そうでしたか。何事も縁というのは大事ですな」
愛原「全くです」
すると、営業所の勝手口のドアが開いた。
梅津「失礼しまーす。伝票とお茶お持ちしましたー」
畑中「このバカ、自販機で買ってきただけじゃねーか!」
梅津「えっ?だってお茶買ってこいって言ったじゃないスか?」
畑中「せめて、茶碗に移して持ってくるんだよ!」
梅津「そんなの先に言ってくださいよ!」
畑中「だいたい分かんだろ!……すいません、ホント。こう見えてもドライバーとしては優秀なんですが、アタマが……」
愛原「いえいえ、大丈夫です。どうぞ、お気になさらず」
梅津「伝票、ここに置いときますんで」
畑中「分かった分かった」
梅津「んじゃ、そゆことで」
おもしろ愉快な運転手、梅津氏は先ほどの勝手口から出て行った。
畑中「すいません、話の腰を追ってしまいまして……」
愛原「いえ……」
畑中「引越しの御用命ということですが、具体的にはどのような引越しを御希望で?」
愛原「それが、事務所とマンションの引越しを同時に行いたいのですよ」
畑中「同時にですか!?」
愛原「はい」
私は詳細を所長に説明した。
畑中「なるほど。手前どもでは、少し難しい面も正直ありますな」
愛原「ですよねぇ……」
畑中「まず、確実にお約束できるのは、お荷物を運ぶのに、車はご用意できます。弊社には先ほどの梅津が乗っている10トン車の他、4トン車や2トン車、それにハイエースなどもございますので」
愛原「そうですか」
畑中「あとは梱包材ですね。弊社は家具や什器の運搬を主に行っておりますので、そのノウハウはあります」
愛原「それは助かります」
色々と話を突き詰めて行く中、やはり事務所とマンションの引越しは別々に行った方が良いということになった。
そして、新事務所の前の道は狭いが、幸い高さ3メートルまでなら入れるガレージがあるということで、そこに2トントラックなら入れるということで、それを使ってピストン輸送するとか、そういう話にもなった。
畑中「後ほど現地調査して、お見積りを出させて頂きます」
愛原「よろしくお願いします」
畑中「段ボールなどの梱包材も、こちらで用意させて頂きますので」
愛原「ありがとうございます」
やはり引っ越し専業会社ではないということもあり、そういった会社がやっている、きめ細かいサービスまでは難しいようだ。
もっとも、そういった面での人手なら、こちらで確保できる。
問題は引っ越しの時期だが……。
畑中「それで、ちょっとおあいにくですが、今年は一杯予定が詰まっておりまして、お引き受けできるのが、年明けになりますが、よろしいでしょうか?」
愛原「分かりました。それでお願いします」
これで話は決まった。
月曜日になり、私は高橋が運転する車に乗って、高橋の知り合いが務めているという運送会社に向かった。
車はリース契約している日産NV200バネットである。
地味な車ではあるが、荷物は積めるし、逆にどこにいても不自然ではない車なので、隠密行動を取る時とかは便利なのである。
引越しの時も、ある程度は使えるだろう。
高橋「えーと……。ここっスね」
愛原「そうか」
運送会社は、東京メトロ東西線の東陽町駅と南砂町駅の間くらいの所にあった。
この辺は物流街であり、佐川急便の本社があったり、そのトラックターミナルがあったりするものだから、大型トラックが列を成して走行している。
東陽町駅寄りにはJRバス関東の支店や車庫がある為、高速バスの姿もよく見かける。
高橋の知り合いの運送会社も、その界隈に営業所を構えているということは、佐川急便の仕事も委託されているのかもしれない。
会社の敷地内に入り、来客用駐車場に車を止める。
車を降りると、ちょうど大型トラックが入場してくるところだった。
そのまま私達の前を通り過ぎて、他のトラックが止まっている駐車場へ向かうのだろうと思いきや、いきなり私達の前で止まる。
そして、軽くクラクションを鳴らしてきた。
さすがに大型ダンプカーなどが搭載している『ヤンキーホーン』ではなく、普通のエアホーンだったが。
愛原「ん?」
私がバッと振り向くと、運転手が降りて来るところだった。
会社のユニフォームである作業服は着ているが、頭はツーブロックにしている。
運転手「よお、マサシ」
高橋「マサヨシっス!センパイ!」
運転手「そうだったっけ?マサシにしとけよ。メンド臭ェ」
高橋「俺に言われても……」
愛原「知り合いって、高橋の先輩なのかよ?」
高橋「俺に走り屋について、色々と教えてくれたセンパイです」
愛原「ど、どうも」
高橋「どもっ。……あ、マサシが言ってた、お客さん?」
高橋「だから、マサヨシっス」
愛原「ええ、まあ……」
運転手「じゃあ、所長の所へ案内しますよ。営業所の中だと思うんで」
愛原「あ、ああ。よろしく……」
すると、営業所の建物の入口から、白髪頭に眼鏡を掛けた60代くらいの男性が出てきた。
所長「いいから、オマエはさっさと車置いてこい!タイヤ交換は済んだんだろうなぁ!?」
運転手「いや、だから今、行ってきたとこっス」
所長「今夜、青森に行ってもらうから、しっかり休めよ」
運転手「ういーっス」
愛原「青森……」
どうやら、長距離トラックの運転手のようである。
所長「あ、これはこれはどうも、お見苦しいところを……。手前、こちらの営業所の責任者でして……」
所長は私の方を見ると、コロッと態度を変えた。
愛原「あ、はい。ちょっと引越しの相談で、お伺いした愛原と申します」
所長「愛原さんですね。どうぞ、中へ」
愛原「お邪魔します」
中に入ると、事務所になっていた。
その一角に、衝立で仕切られた簡単な応接セットがある。
1人用のソファが2つずつ向かい合わせになっている部分がある。
所長「どうぞ、そちらへ」
愛原「失礼します」
すると所長、所内にあった無線機を取り出した。
所長「梅、聞こえるか?車を置いたら、伝票持ってくるついでに、お客さん達にお茶を用意してこい」
愛原「梅?」
高橋「さっきのパイセンのことっス。梅津さんって言うんスよ」
愛原「そうなのか」
所長「すいません、今お茶をご用意しますので、少々お待ちを……」
愛原「いえ、お構いなく」
所長「手前、営業所の責任者の畑中と申します。この度は、当社を御用命頂き、ありがとうございます」
愛原「いえいえ。私は菊川で探偵事務所をやっております愛原です。今回はここにいる助手の高橋が、先ほどのドライバーさんの知り合いなもので、それで紹介してもらったといった感じです」
畑中「そうでしたか。何事も縁というのは大事ですな」
愛原「全くです」
すると、営業所の勝手口のドアが開いた。
梅津「失礼しまーす。伝票とお茶お持ちしましたー」
畑中「このバカ、自販機で買ってきただけじゃねーか!」
梅津「えっ?だってお茶買ってこいって言ったじゃないスか?」
畑中「せめて、茶碗に移して持ってくるんだよ!」
梅津「そんなの先に言ってくださいよ!」
畑中「だいたい分かんだろ!……すいません、ホント。こう見えてもドライバーとしては優秀なんですが、アタマが……」
愛原「いえいえ、大丈夫です。どうぞ、お気になさらず」
梅津「伝票、ここに置いときますんで」
畑中「分かった分かった」
梅津「んじゃ、そゆことで」
おもしろ愉快な運転手、梅津氏は先ほどの勝手口から出て行った。
畑中「すいません、話の腰を追ってしまいまして……」
愛原「いえ……」
畑中「引越しの御用命ということですが、具体的にはどのような引越しを御希望で?」
愛原「それが、事務所とマンションの引越しを同時に行いたいのですよ」
畑中「同時にですか!?」
愛原「はい」
私は詳細を所長に説明した。
畑中「なるほど。手前どもでは、少し難しい面も正直ありますな」
愛原「ですよねぇ……」
畑中「まず、確実にお約束できるのは、お荷物を運ぶのに、車はご用意できます。弊社には先ほどの梅津が乗っている10トン車の他、4トン車や2トン車、それにハイエースなどもございますので」
愛原「そうですか」
畑中「あとは梱包材ですね。弊社は家具や什器の運搬を主に行っておりますので、そのノウハウはあります」
愛原「それは助かります」
色々と話を突き詰めて行く中、やはり事務所とマンションの引越しは別々に行った方が良いということになった。
そして、新事務所の前の道は狭いが、幸い高さ3メートルまでなら入れるガレージがあるということで、そこに2トントラックなら入れるということで、それを使ってピストン輸送するとか、そういう話にもなった。
畑中「後ほど現地調査して、お見積りを出させて頂きます」
愛原「よろしくお願いします」
畑中「段ボールなどの梱包材も、こちらで用意させて頂きますので」
愛原「ありがとうございます」
やはり引っ越し専業会社ではないということもあり、そういった会社がやっている、きめ細かいサービスまでは難しいようだ。
もっとも、そういった面での人手なら、こちらで確保できる。
問題は引っ越しの時期だが……。
畑中「それで、ちょっとおあいにくですが、今年は一杯予定が詰まっておりまして、お引き受けできるのが、年明けになりますが、よろしいでしょうか?」
愛原「分かりました。それでお願いします」
これで話は決まった。