報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東京へ」

2023-12-09 20:42:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月3日05時47分 天候:晴 栃木県宇都宮市川向町 JR日光線822M列車最後尾→JR宇都宮駅]

 3両編成のワンマン列車は、ほぼダイヤ通りに走行していた。
 始発電車と言えども、そこは平日の上り電車。
 乗客を増やしていき、宇都宮駅に接近する頃には座席は全て埋まり、ドア付近に立つ乗客や吊り革に掴まる乗客も出ている。
 なるほど。
 始発電車でこれでは、朝ラッシュのピーク時は満員電車と化すかもしれない。

〔まもなく終点、宇都宮、宇都宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線と烏山線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 リサは私に寄り掛かるようにして眠っている。
 幸い、黒いマスクをしている為、牙が周りの乗客に見えることはない。
 電車は宇都宮駅5番線ホームに入線した。
 ここは日光線専用ホームである。

 愛原「リサ、起きろ。そろそろ降りるぞ」
 リサ「うーん……」

 リサは目を擦った。
 やはりどうしても、爪は尖っているし、瞳は赤いままだ。
 角は引っ込めているし、耳も人間と同じ形だから、本当に中途半端だ。

 リサ「お腹空いた……」

 リサが呟いた。

 愛原「そうだな。宇都宮駅なら、何か買えるかもしれない」

 電車がホームに停車する。

〔うつのみや、宇都宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ローカル用ワンマン列車であることを除けば、殆どが首都圏で使用されている電車とほぼ同じ。
 地方ならではの特色というものが、無くなりつつあるのは時代の流れか。

 愛原「降りられるか?」
 リサ「うん……。大丈夫」

 やっぱり具合が悪そうだなぁ……。
 空腹を訴えるということは、食欲はありそうだが……。
 それとも、腹が一杯になれば、元気になるだろうか?
 エスカレーターを上がって、在来線コンコースに向かう。
 新幹線に乗り換えるには、そこから新幹線乗換改札を通過する必要がある。
 だが、その前に……。

 愛原「高橋、ちょっといいか?」
 高橋「は?」

 私は新幹線改札口横の券売機に向かった。
 在来線から新幹線に乗り換えようとする客が、まだ特急券を持っていない時などはここで買う他、手持ちの特急券の変更なんかもできる。

 愛原「ちょっと新幹線特急券を貸してくれ」
 高橋「は、はい」
 愛原「リサのも」
 リサ「?」

 私は指定席券売機のタッチパネルを操作した。

 愛原「まあ、やっぱり空いてるか。まあ、この方が確実だからな。……で、当然差額が発生すると……」

 私の操作で、追加料金が発生した。
 事情を話せば、これもデイライトから支給してもらえるだろうか?
 まあ、ダメならしょうがない。
 事務所の経費で落としてみよう。

 愛原「はい、これ」
 高橋「何スか、これ?」
 愛原「『指定席』に変更したから」
 高橋「指定席?これから俺達が乗る新幹線は、自由席しかないはずじゃ?」
 愛原「宇都宮始発で確実に座れるならいいんだけどね。いや、多分大丈夫だと思うんだけど、リサが具合悪いからさ」
 リサ「ゴメン……」
 愛原「どれ、まだ時間があるし、そこのベンチで休んでいよう」
 高橋「新幹線乗り場に行かないんスか?」
 愛原「オマエは先に行ってていいよ。タバコ吸うだろ?喫煙所は新幹線ホームにしか無いから」
 高橋「先生達は後から行くと」
 愛原「そういうことだ。改札内のNewDaysで、1番早くオープンするのは、在来線コンコースの店なんだ。そこでリサが食べたい物を買ってやって、それから新幹線ホームに行く。結構ギリギリになりそうだから、それでさ……」
 高橋「はあ……分かりました」
 愛原「オマエも何か食いたい物があれば、ついでに買って行くぞ」
 高橋「あざっス。まあ、パンとかで大丈夫っス」
 愛原「分かった。適当に買って行くぞ」
 高橋「了解です」
 愛原「“なすの”254号な?後ろの秋田新幹線の方、赤い車両の方だ」
 高橋「分かりました」

 そう言って、高橋は新幹線改札口の方に歩いて行った。
 まだ、外は暗い。

 愛原「ちょっと缶コーヒー買って来る。リサも飲むか?」
 リサ「うん。わたしはブラックじゃないヤツ」
 愛原「分かった」

 私は待合所のベンチの後ろにある自販機で、缶コーヒーを2つ購入した。
 取りあえずはこれで目覚ましと、腹の虫を誤魔化す。

 愛原「ん?」

 その時、善場主任からメール着信があった。
 画面を見ると、東京駅に着いてからの私達の行動に対する指示だった。

 善場「東京駅に着きましたら、そのまま浜町の診療所までお越しください」

 とのことである。
 どうやらここで、リサの治療や検査をするらしい。
 案の定、リサは今日は学校を休むようにとのことだ。
 まあ、しょうがないな。
 私は承知の旨と、これから新幹線に乗車するに当たって、車両を指定したいことと、その理由についても返信した。
 それに対しては、『愛原所長が必要と判断したのであれば、了承とします』ということだった。

[同日06時15分 天候:晴 JR宇都宮線・在来線コンコース→東北新幹線ホーム]

 6時15分になり、在来線コンコースのNewDaysがオープンした。
 6時を過ぎると、多くの通勤客が宇都宮線上りホームに向かっている。

 愛原「よし、リサ。パパッと買っちゃうぞ」
 リサ「うん!」

 お土産などは売っているが、駅弁までは売っていない。
 駅弁はもっと遅くにオープンする、別の売店で販売されるからだ。
 私は高橋の分のパンやサンドイッチを購入した。
 あとはお茶。
 リサはサンドイッチはカツサンドで、他にはビーフジャーキーなどを購入した。

 愛原「よし、行こう」

 購入すると、私達は高橋を追って新幹線乗り場に向かった。
 新幹線乗り場の方も、新幹線通勤客で賑わっている。
 それからエスカレーターで新幹線上りホームに上がると、始発列車を待つ客が列を成して待っていた。

 高橋「先生!」

 そして、ホーム上で高橋と合流。

 愛原「ほら、お前の分の朝飯。ランチパックとアンパンでいいか?」
 高橋「あざっス!」
 愛原「飲み物は、そこの自販機で適当に買ってくれ」
 高橋「分かりました。……てか先生、このキップってもしかして……?」
 愛原「そうだよ。リサの具合が悪いから、今回だけ特別にグリーン車だ。何しろ、普通車の指定席が無いもんだから、グリーン車しか無いんだ」
 高橋「よく善場のねーちゃん、許可しましたね?」
 愛原「まあ、今回だけ特別だろう。料金の安い在来線のグリーン車くらいだったら、2つ返事で了承してくれるんだがな」

〔ピン♪ポン♪パン♪ポン♪ 4番線に、6時27分発、“なすの”254号、東京行きが、17両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。グランクラスは、10号車。グリーン車は9号車、11号車です。尚、全車両禁煙です。まもなく4番線に、“なすの”254号、東京行きが参ります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 愛原「おっ、そろそろ列車が来るぞ。行こう」
 高橋「はい」

 自由席の方は長蛇の列ができていたが、グリーン車には僅か2~3人しか先客がいなかった。
 グランクラスに至っては、誰も待っていない。
 乗車時間も短いから、そこまで贅沢するほどではないのかもしれない。
 そもそもが、新幹線通勤というだけで十分な贅沢だと思うが。

 愛原「善場主任から、連絡があった。東京駅に着いたら、浜町まで来てくれってさ」
 高橋「あの病院っスね。分かりました」

 東北新幹線と秋田新幹線の車両を併結した長編成の列車、その11号車に私達は乗り込んだ。
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“私立探偵 愛原学” 「日光からの離脱」

2023-12-09 14:04:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月3日04時00分 天候:晴 栃木県日光市某所]

 国道に近づくとスマホの電波が入るようになった。
 私は早速それで、善場主任に電話を入れることにしたが、その前に場所を確認しておきたいと思った。

 愛原「なあ、鶴田君」
 鶴田「何でしょう?」
 愛原「国道に入ったら、どこか休憩できる場所は無いかな?コンビニとか、もしくは自販機や公衆トイレのある駐車場とかでもいい」
 鶴田「分かりました。見つけ次第、そこに入ります」
 愛原「頼む」

 因みに県道を進んでいる時に、サイレンを鳴らしたパトカーや消防車とすれ違った。
 今頃、出動していたのだろうか。
 とにかく現着が最優先の彼らだから、すれ違う私達の車が止められることはなかった。
 国道に入ってしばらくした所で、無料駐車場付きの公衆トイレがあるところに到着した。
 周りにはホテルや旅館が立ち並んでいる。
 それもそのはず。
 奥日光の観光地では恐らく最も有名であろう、中禅寺湖がすぐ近くにある場所だからである。

 愛原「トイレに行きたかったら行っていいよ」
 高橋「あそこの自販機で飲み物買ってきます。先生はどうしますか?」
 愛原「ああ。俺のも頼む」
 高橋「うス!行ってきます!」

 私はやかましいロックのBGMが掛かっている車内から外に出た。
 まだ真っ暗闇に包まれている中禅寺湖が……暗くてよく見えない。

 愛原「あ、もしもし、善場主任ですか!?愛原です!」
 善場「愛原所長!やって連絡が着きました!御無事ですか?」
 愛原「はい。今、既に現場から離れています!」

 私は手短にリサは無事であったこと、現場が栗原家に関連する施設であったこと、モールデッドが発生したこと、そして……。

 愛原「栗原蓮華は、鬼……BOWとなったようです」
 善場「そうですか。こちらも都内の栗原家に立ち入りを行いました。既にリサの誘拐・略取の容疑で、被疑者を既に何名か逮捕しております」

 さすがはデイライト、仕事が早い。

 愛原「私達は今、『協力者』と合流し、その車で移動中です。現在は、中禅寺湖すぐ近くにいます」
 善場「かしこまりました。リサの具合はどうですか?」
 愛原「ちょっと……大量に血を流したことがあったのと、今、生理が来ているようで、その関連で貧血気味です。今、トイレに行っている最中です」
 善場「分かりました。愛原所長方の方で、何とか自力で帰京することは可能ですか?」
 愛原「はい。協力者に頼んで、日光駅まで送ってくれることになっています。そこから始発電車で、都内に向かおうと思っています」
 善場「かしこまりました。交通費につきましては、後で精算して頂ければ結構です。とにかく、1番安全な方法で来てください。もしも途中でリサに異変があるようでしたら、すぐに連絡してください」
 愛原「分かりました」

 そうこうしている間にも、私達が来た方向へサイレンを鳴らして走って行くパトカーなどがいた。
 あとは上空にヘリコプターとか。
 何も知らずにホテルに泊まっている観光客とかは、それで起きたりしたんじゃないかな?
 私は電話を切った。
 吐く息が白い。

 高橋「先生、水です。あと、温かいコーヒーとか飲みますか?」
 愛原「ああ、ありがとう。取りあえず、コーヒーはもっと街に近づいてからにしよう。リサの分も買ってきたか?」
 高橋「はい」
 高橋「よし。リサが戻ってきたら、再出発しよう」
 高橋「はい」

[同日05時00分 天候:晴 同市相生町 JR日光駅→日光線822M列車最後尾]

 夏場ならもうそろそろ空も明るくなってくる頃だが、真冬の今はまだ暗い。
 リサは私に寄り掛かって寝息を立てている。
 やかましいロックのBGMが車内に掛かっているというのに、それでも寝てしまうとは、よほど疲れたのだろう。
 今日は金曜日だが、さすがに学校に行くのは無理だろうな。

 鶴田「着きました!」
 愛原「ありがとう」

 車はまだ人も疎らなJR日光駅前のロータリーに到着した。

 愛原「これ、少ないけど、お礼。……あとは、これでガソリン入れてくれよ」

 私は2人の協力者に謝礼金を渡した。

 鶴田「あざざざーっす!」
 木村「毎度ありー!」
 愛原「おかげで始発電車に間に合いそうだ」
 高橋「良かったっスね」
 愛原「リサ、降りられるか?」
 リサ「うーん……」

 リサは眠気と格闘した。
 眠い目を擦って、私を見たその瞳は鬼の目。
 さすがに今は角が引っ込んだ人間形態になっているが、どうも調節が難しいようだ。

 高橋「先生、俺がリサを連れて行きますから、先生はキップを」
 愛原「ああ。悪いな」

 私は駅の中に入ると、券売機に向かった。
 改札口の先には、既に始発電車がドアを開けて乗客を乗せている。
 まだそんなに乗っていないようだ。
 幸い、普通乗車券だけでなく、新幹線のキップも買える。
 なるべく急いで帰る必要があるだろうから、宇都宮駅からの新幹線のキップを購入した。
 乗り換え先の新幹線は、グリーン車以外は全部自由席という列車だった。
 通勤時間帯の各駅停車タイプの新幹線は、だいたいどこもそう。
 全部指定席となる速達列車とは、対照的である。
 私が3人分のキップを購入し、お釣りと領収証を受け取っていると、高橋とリサがいた。

 愛原「来たか。これ、キップな。宇都宮駅から新幹線に乗り換えるから」
 高橋「分かりました。ほら、キップ受け取れ」
 リサ「うん……」

 改札口は自動である。
 そこを通過すると、目の前の1番線ホームには3両編成の電車が停車していた。
 一応、トイレのある最後尾に乗り込んだ。
 まだ座席には余裕があるので、そこで3人並んで座る。

 愛原「リサ、トイレはあそこだから」
 リサ「うん、分かった」

 心なしか、リサの顔色が悪い。

〔この電車は、日光線、普通電車、宇都宮行き、ワンマンカーです〕
〔「おはようございます。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は5時7分発、日光線、普通列車の宇都宮行きです。終点、宇都宮まで各駅に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 ワンマン列車なので、肉声放送は運転士が行う。
 私は一応善場主任に、リサの健康状態は緊急ではないものの、あまり余裕は無いとメールを送っておいた。
 返信はすぐに来て、対策を考えるというものだった。
 少なくとも、帰京までには対策を講じるということである。
 そんなやり取りをしているうちに、始発電車は発車時刻になり、定刻通りに日光駅を発車した。
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“私立探偵 愛原学” 「脱出した後は……」

2023-12-09 11:38:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月3日03時30分 天候:晴 栃木県日光市某所(奥日光) 某県道]

 愛原「だぁーっ!」

 大きな力士もかくやと思わせるほどの巨体を持ったファットモールデッド。
 大型ダンプカーと鉄製の門扉に挟まれ、そのまま圧し潰された。
 同時に門扉が大きな音を立てて、外側にこじ開けられる。
 どうやら、脱出に成功したようだ。

 高橋「やりましたね!さすが先生です!」
 愛原「ああ。だが、追手が来るかもしれない!このまま街まで逃げよう!」

 だが!

 愛原「うっ!?エンジンが掛からん!」
 高橋「ええっ!?」

 元々、バスと同様、このダンプカーも中古で購入したのだろう。
 確かに型落ちの古い年式であった。
 恐らく、公道上では排ガス規制に引っ掛かるのではないかと思うくらい。
 無茶な使い方をしたせいで、エンジンがイカれてしまったようである。

 愛原「と、とにかく降りよう!ここなら、善場主任に連絡できるかもしれない!そんで、BSAAに助けを……」
 高橋「は、はい!」

 私達は車を降りた。
 車高の高い大型トラックから乗り降りする際は、梯子を昇り降りするような感覚で乗降するのだが、高橋はもちろん、リサも飛び下りるような形で降りた。
 リサの場合、スカートが大きく捲れて、中の黒いプーマのショーツが見えてしまった。
 ブルマは穿いてなかったのだろうか?

 愛原「ウソだろ?ここですら、アンテナが入るかどうかだと?どんだけ山奥だよ」

 私はそれでもなけなしの電波に期待して、善場主任に連絡しようとした。

 高橋「せ、先生!追手が来ました!」
 愛原「早っ!」

 敷地の方から、黒カビを飛ばし、呻き声や独特の鳴き声を上げながらこちらへ向かって来るモールデッドの大群が見えた。
 高橋のマグナムは既に弾切れだ。
 私もまさか、ここでBOWと遭遇するとは思わなかったので、銃は持ってきていない。
 リサは貧血寸前だ。
 ば、万事休すか!

 高橋「あ、あれは!」

 その時、高橋が反対側を見た。
 それは雪が積もった道路。
 恐らく、往路の時に通った県道だろう。
 雪が降ったせいか、轍は消えてしまっているが。
 街灯1つ無い真っ暗な県道なのに、それでもうっすら明かりがあるのは、冬だからだろう。
 幸い天候は回復し、空には満月に近い状態の月が輝いている。
 その月の光が積もった雪に反射し、それで全体的にうっすらとした明るさを出しているのだ。
 高橋はダンプカーのキャブに戻った。
 そして、中から何かを取り出す。

 愛原「発炎筒!?」
 高橋「そうです!」

 高橋はダンプカーに積まれていた発炎筒を焚いた。
 赤い眩い光が放たれる。

 高橋「おーい!ここだここだー!!」

 高橋は発炎筒を道路に向かって振った。
 その理由は私にも分かった。
 こっちに向かって走って来る1台の車がいたからだ。
 いくら月明かりがあるといっても、何の合図も無しに止まってくれるとは思えない。
 そこで発炎筒を使ったわけではある。

 愛原「ん!?」

 その車には見覚えがあった。
 JR日光駅から、栗原家関連施設の門まで乗せてくれた、高橋の知り合いのキャラバンだった。
 あいつら、帰ったはずじゃ……?

 高橋「って、おーい!」

 キャラバンは減速が遅れたのか、私達に気づいて急ブレーキを踏んだという形だ。
 こんな雪道で急ブレーキなど踏んだりしたら、当然スリップする。
 キャラバンは右回りで半回転し、進行方向とは逆向きになった所で止まった。

 鶴田「マサさん!?どうしたんスか、ここで!?」
 高橋「悪い!また駅まで乗せてってくれ!タクシー代なら出す!」
 鶴田「へ、へい!」
 高橋「先生!早く車に!」
 愛原「あ、ああ!分かった!」

 高橋が助手席後ろのスライドドアを開ける。
 そこに私達が乗り込んだ。

 高橋「ほらよ!バールとチェーンカッター、返してやる!大いに役立たせてもらった!レンタル料は後で払うぜ!」
 鶴田「ま、マジっスか!」
 暴走族D「何か、向こうから来るぜ!?」

 ついにモールデッドの大群が、門の所までやってきた。

 鶴田「何スか、あの黒いの!?」
 高橋「俺達、あれと戦ってたんだよ!さすがにもう相手できねーから、さっさと逃げるぞ!早く出してくれ!」
 鶴田「へ、へい!」

 鶴田は再びエンジンを掛けた。
 こちらはすぐに掛かった。

 愛原「街の方まで行ってくれないか!?」
 鶴田「街っスね!了解っス!」

 鶴田は後ろのタイヤをスリップさせながら、車を急いで出した。
 獲物を取り逃がしたモールデッド達は県道に出ながら、車の方を見て何やら喚いていた。

 愛原「とにかく!最低でも、ケータイの電波が入る所まで!何なら、公衆電話でもいい!」
 暴走族D「国道に出れば、さすがに電波は入りますよ」
 高橋「つーかお前、誰だ!?」
 鶴田「ああ、一緒にあのバスに絡まれた仲間っス。木村って言うんスよ。俺達はキムって呼んでます。金にうるさいヤツですよ」

 在日朝鮮人の中には、語感が似ているからという理由で、『金』という者が『木村』という通名を使うことがある。
 それで、『キム』なのかと思ったが……。

 木村「マサさんを迎えに来れば、高い報酬が得られると思って、それでツルを説得してここまで来たんです」
 高橋「けっ、守銭奴がw」

 鶴田が坊主頭に近い髪型、往路で一緒だった下野が赤いツンツン頭だったのに対し、こちらの木村は黒髪をツーブロックにしている。

 高橋「あー、その通りだ!だが、道具のレンタル料は鶴田だぜ?これは鶴田のもんだ。なあ?」
 鶴田「まあ、そうっスね。親父の仕事道具です」

 キャラバンもヘッドライトは眩い青白い光、テールランプも派手な形の物に交換されてはいるものの、仕事で使うからか、あまり派手には改造されていない。
 車には金文字・明朝体で、『(有)鶴田工業』と書かれている。

 木村「それはザンネン」
 愛原「まあ、とにかく、迎えに来てくれるというアイディアを出したことは評価するよ。この分の御礼はちゃんとさせてもらうからね?」
 木村「やった!」

 まあ、協力者に対する報酬もまた、デイライトに請求できるからな。
 尚、木村の渾名、『キム』はただ単に木村の省略形であると同時に、『金にうるさいから』→『金』→『キム』というからだとのこと。
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