[7月15日15時00分 天候:晴 東京都渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿→同都新宿区代々木 TS進学会]
バスは私の予想通り、羽田空港第1ターミナルで満席となった。
私の相席となったのは、私と大して歳の変わらぬスーツ姿のビジネスマンで、リサはホッとしていた。
ややもすれば、若い女が隣に座ったりしたら……。
このバス、新宿まで運行できなかったかも。
ホッとして少し機嫌が良くなったのか、リサは首都高を走るバスの窓側に座る太平山美樹に、車窓案内をしていたくらいだ。
但し、長い地下トンネルの山手トンネルに入ってしまうと、それもできなくなったが。
しかし、このトンネルのおかげで、新宿方面へのアクセスは各段に良くなったのだとか。
〔「ご乗車お疲れ様でした。まもなく終点、バスタ新宿、バスタ新宿です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意願います。本日もご乗車頂き、ありがとうございました」〕
バスはほぼ時間通りに、バスタ新宿の3階降車場に到着した。
リサ「先生、着いたよ」
愛原「おっ……と」
どうやら、バスの中で少し寝落ちしてしまったらしい。
前扉が開いて、乗客達が降り始めたことで、私の意識はうっすらと戻り始めたのだが、更にそこを後ろに座るリサに揺り起こされ、ハッと目が覚めた。
愛原「寝てたか。悪い悪い」
私はリクライニングを戻して立ち上がった。
バスを降りると、運転手や係員が荷物室のハッチを開けて、乗客達の荷物を降ろしている。
私やリサは小さなバッグしか無いから預けていないが、美樹は預けている。
愛原「さあ、後は予備校まで徒歩だ」
美樹「さすがは愛原先生スね。空港からだと、あたし1人じゃ、キツかったス」
愛原「そうだろう、そうだろう」
リサ「バスに乗るという発想がなかなか無いもんね」
リサは、私が菊川駅からもらってきた東京の地下鉄路線図を美樹に渡した。
リサ「東京に住むなら、これを覚えないと」
美樹「受験より難しっちゃねぇ……」
リサ「愛原先生は、それにプラス、バスの路線も頭の中に入ってるんだよ!」
リサはまるで自分の事のようにドヤ顔で言った。
美樹「色々教えて下せぇ」
愛原「あ、ああ。まあ、だいたいがググれば分かる範囲だけどね」
リサ「ググるという発想が出てこないし、本当に分かんなかったら、ググり方すら分かんない」
愛原「そういうレベルか……。ま、さすがに新宿駅はハードモードだからな。さすがの俺も避けたいくらいだよ。だから、バスに乗ったんだ。バスタ新宿からの方が分かりやい」
リサ「そういう情報も先生ならではだよね」
美樹「ンだべね」
バスタ新宿を出て、甲州街道を西に進む。
幸いなのは、帰りも楽だということだ。
実は甲州街道の下には、京王新線が通っている。
そしてその京王新線は、都営新宿線と繋がっているのだ。
その乗り場から地下に下りれば、難無く地下鉄に乗れるというわけだ。
リサ「あそこが台風中継とかで、よく出てくる新宿駅南口」
美樹「ほー!」
バスタ新宿の向かい側。
西新宿1丁目の交差点を越えて更に西に進む。
愛原「えー、ここの路地を入る……」
リサ「んん?」
路地を1本入って、裏道っぽい所に入る。
一方通行ではないのだが、車1台すれ違えるのがやっとといった広さの道。
それでも、その地下には京王本線が通っているという。
その沿道に建っている1軒のオフィスビル。
一見すると、何の変哲も無いテナントビルだが、その中に予備校の本部があった。
リサ「TS進学会?聞いたことない予備校だねぇ……。よくこんなマイナーな予備校見つけたね?」
リサは感心したような、呆れたような感じで美樹に言った。
それ自体は、私も同感である。
進学塾や予備校なんて、自動車学校の数よりも多いはず。
その中から自分に合った所を探すなんて、至難の業だ。
四年制大学受験失敗という私の学歴からしてみれば、そういう意味で私の親は学習塾ガチャに外れたと言える。
美樹「何か、うちの親が色々とツテを辿って、紹介してくれたみてェなんだ」
愛原「TSというからには、アンブレラとかは関係無さそうだな……」
ビルの中に入る。
それからエレベーターに乗り込んで、TS進学会の本部事務所があるフロアへと向かった。
リサ「これはエレベーターと言って……」
美樹「いや、そンくれェは知ってる。ま、あんま乗らねェけど」
何気に都会人マウントを取るリサだった。
愛原「街の方に出たりすることもあるでしょ?秋田市に行くの?」
美樹「秋田市さ行く機会は、あんま無いスね。鷹ノ巣さ出ることが多いス」
愛原「鷹ノ巣か。北秋田市だな」
美樹「そうス」
恐らく秋田内陸縦貫鉄道線を使っているのだろう。
南側の角館駅よりは、北側の鷹ノ巣駅周辺の方が買い物しやすいのかもしれない。
そして私達は、本部事務所に到着した。
私は保護者として、リサの合宿申込を。
美樹は保護者からの委任状を添えて、申込を行った。
私達はともかく、やはり美樹に関しては、地方からの参加というのは珍しいのか、社員も珍しがっていた。
社員「どなたからかの紹介なんですか?」
美樹「多分、そうです。……親が決めたもんで……」
社員「そうですか」
今日の申込者は私達だけのようなので、社員が事務所内の打ち合わせコーナーに案内してくれた。
うちの事務所のように、衝立で仕切られただけの簡易的な打ち合わせコーナーであったが、それでも冷茶は出してくれた。
社員が合宿の資料を持って来てくれて、色々説明してくれたのだが……。
リサ「ちょ、ちょっと!!」
その時、資料に目を通していたリサがびっくりした様子で立ち上がった。
愛原「どうした?」
美樹「なに?!なしたの!?」
リサ「合宿で泊まるホテルが、天長園ってどういうこと!?」
愛原「えっ、そうなの!?」
美樹「??? 天長園って、栃木のあそこだよね???」
美樹は、まだ私達の態度の理由が分からないようだった。
美樹自体も家族旅行(親族旅行?)で、ホテル天長園に泊まったことはあるようだ。
ただ、それは鬼族同士の親交を深める為の親善旅行であったとされる。
社員「あの……弊社は天長会が運営する企業の1つなんです」
愛原「えっ、そうなの!?」
社員「はい」
そういえば上野利恵、そんなこと言ってたような……?
まさか、予備校、学習塾の経営までしていたというのは初耳だが。
教祖が中小企業団を率いている。
その売り上げで天長会という宗教法人は運営されているので、基本的に信者からはお金を取らないのだと言っていた。
まさか、TS進学会がその1つだったとは……。
愛原「! まさか、TSのTって、『天長会』!?」
社員「はい。『Tencho Seminar』の略でTSです。元々は天長会内部で行われていたセミナーから始まったもので」
愛原「……美樹ちゃん?」
美樹「あー……多分、うちの親が、ホテル天長園のお偉いさんから紹介されたんでしょうねぇ……」
リサ「断る!わたしは行かない!!」
愛原「おいおい!もう申し込んじゃったんだぜ!?」
美樹「リサぁ~!一緒に行ぐっで約束したべでねがぁ~!」
や、ヤバい!
私と美樹で、リサを何とか宥めすかさないと大変なことになる!
愛原「お、俺も行くから!」
リサ「! ……ホント?」
社員「失礼ですが、保護者の方は同行できませんよ?」
愛原「合宿先のホテル、貸切にするんですか?」
社員「そういうことです。なので、一般の宿泊客が一緒ということはないです」
とはいえ、全ての客室が埋まるというわけでもないだろう。
こうなったら……。
愛原「リサ、任せろ。俺が何とかする。だからここは呑んでくれ!」
リサ「くっ……」
美樹「リサぁ~!」
リサの頭から角が少し覗いたような気がしたが、何とかここの社員達に見られずに済んだ。
バスは私の予想通り、羽田空港第1ターミナルで満席となった。
私の相席となったのは、私と大して歳の変わらぬスーツ姿のビジネスマンで、リサはホッとしていた。
ややもすれば、若い女が隣に座ったりしたら……。
このバス、新宿まで運行できなかったかも。
ホッとして少し機嫌が良くなったのか、リサは首都高を走るバスの窓側に座る太平山美樹に、車窓案内をしていたくらいだ。
但し、長い地下トンネルの山手トンネルに入ってしまうと、それもできなくなったが。
しかし、このトンネルのおかげで、新宿方面へのアクセスは各段に良くなったのだとか。
〔「ご乗車お疲れ様でした。まもなく終点、バスタ新宿、バスタ新宿です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意願います。本日もご乗車頂き、ありがとうございました」〕
バスはほぼ時間通りに、バスタ新宿の3階降車場に到着した。
リサ「先生、着いたよ」
愛原「おっ……と」
どうやら、バスの中で少し寝落ちしてしまったらしい。
前扉が開いて、乗客達が降り始めたことで、私の意識はうっすらと戻り始めたのだが、更にそこを後ろに座るリサに揺り起こされ、ハッと目が覚めた。
愛原「寝てたか。悪い悪い」
私はリクライニングを戻して立ち上がった。
バスを降りると、運転手や係員が荷物室のハッチを開けて、乗客達の荷物を降ろしている。
私やリサは小さなバッグしか無いから預けていないが、美樹は預けている。
愛原「さあ、後は予備校まで徒歩だ」
美樹「さすがは愛原先生スね。空港からだと、あたし1人じゃ、キツかったス」
愛原「そうだろう、そうだろう」
リサ「バスに乗るという発想がなかなか無いもんね」
リサは、私が菊川駅からもらってきた東京の地下鉄路線図を美樹に渡した。
リサ「東京に住むなら、これを覚えないと」
美樹「受験より難しっちゃねぇ……」
リサ「愛原先生は、それにプラス、バスの路線も頭の中に入ってるんだよ!」
リサはまるで自分の事のようにドヤ顔で言った。
美樹「色々教えて下せぇ」
愛原「あ、ああ。まあ、だいたいがググれば分かる範囲だけどね」
リサ「ググるという発想が出てこないし、本当に分かんなかったら、ググり方すら分かんない」
愛原「そういうレベルか……。ま、さすがに新宿駅はハードモードだからな。さすがの俺も避けたいくらいだよ。だから、バスに乗ったんだ。バスタ新宿からの方が分かりやい」
リサ「そういう情報も先生ならではだよね」
美樹「ンだべね」
バスタ新宿を出て、甲州街道を西に進む。
幸いなのは、帰りも楽だということだ。
実は甲州街道の下には、京王新線が通っている。
そしてその京王新線は、都営新宿線と繋がっているのだ。
その乗り場から地下に下りれば、難無く地下鉄に乗れるというわけだ。
リサ「あそこが台風中継とかで、よく出てくる新宿駅南口」
美樹「ほー!」
バスタ新宿の向かい側。
西新宿1丁目の交差点を越えて更に西に進む。
愛原「えー、ここの路地を入る……」
リサ「んん?」
路地を1本入って、裏道っぽい所に入る。
一方通行ではないのだが、車1台すれ違えるのがやっとといった広さの道。
それでも、その地下には京王本線が通っているという。
その沿道に建っている1軒のオフィスビル。
一見すると、何の変哲も無いテナントビルだが、その中に予備校の本部があった。
リサ「TS進学会?聞いたことない予備校だねぇ……。よくこんなマイナーな予備校見つけたね?」
リサは感心したような、呆れたような感じで美樹に言った。
それ自体は、私も同感である。
進学塾や予備校なんて、自動車学校の数よりも多いはず。
その中から自分に合った所を探すなんて、至難の業だ。
四年制大学受験失敗という私の学歴からしてみれば、そういう意味で私の親は学習塾ガチャに外れたと言える。
美樹「何か、うちの親が色々とツテを辿って、紹介してくれたみてェなんだ」
愛原「TSというからには、アンブレラとかは関係無さそうだな……」
ビルの中に入る。
それからエレベーターに乗り込んで、TS進学会の本部事務所があるフロアへと向かった。
リサ「これはエレベーターと言って……」
美樹「いや、そンくれェは知ってる。ま、あんま乗らねェけど」
何気に都会人マウントを取るリサだった。
愛原「街の方に出たりすることもあるでしょ?秋田市に行くの?」
美樹「秋田市さ行く機会は、あんま無いスね。鷹ノ巣さ出ることが多いス」
愛原「鷹ノ巣か。北秋田市だな」
美樹「そうス」
恐らく秋田内陸縦貫鉄道線を使っているのだろう。
南側の角館駅よりは、北側の鷹ノ巣駅周辺の方が買い物しやすいのかもしれない。
そして私達は、本部事務所に到着した。
私は保護者として、リサの合宿申込を。
美樹は保護者からの委任状を添えて、申込を行った。
私達はともかく、やはり美樹に関しては、地方からの参加というのは珍しいのか、社員も珍しがっていた。
社員「どなたからかの紹介なんですか?」
美樹「多分、そうです。……親が決めたもんで……」
社員「そうですか」
今日の申込者は私達だけのようなので、社員が事務所内の打ち合わせコーナーに案内してくれた。
うちの事務所のように、衝立で仕切られただけの簡易的な打ち合わせコーナーであったが、それでも冷茶は出してくれた。
社員が合宿の資料を持って来てくれて、色々説明してくれたのだが……。
リサ「ちょ、ちょっと!!」
その時、資料に目を通していたリサがびっくりした様子で立ち上がった。
愛原「どうした?」
美樹「なに?!なしたの!?」
リサ「合宿で泊まるホテルが、天長園ってどういうこと!?」
愛原「えっ、そうなの!?」
美樹「??? 天長園って、栃木のあそこだよね???」
美樹は、まだ私達の態度の理由が分からないようだった。
美樹自体も家族旅行(親族旅行?)で、ホテル天長園に泊まったことはあるようだ。
ただ、それは鬼族同士の親交を深める為の親善旅行であったとされる。
社員「あの……弊社は天長会が運営する企業の1つなんです」
愛原「えっ、そうなの!?」
社員「はい」
そういえば上野利恵、そんなこと言ってたような……?
まさか、予備校、学習塾の経営までしていたというのは初耳だが。
教祖が中小企業団を率いている。
その売り上げで天長会という宗教法人は運営されているので、基本的に信者からはお金を取らないのだと言っていた。
まさか、TS進学会がその1つだったとは……。
愛原「! まさか、TSのTって、『天長会』!?」
社員「はい。『Tencho Seminar』の略でTSです。元々は天長会内部で行われていたセミナーから始まったもので」
愛原「……美樹ちゃん?」
美樹「あー……多分、うちの親が、ホテル天長園のお偉いさんから紹介されたんでしょうねぇ……」
リサ「断る!わたしは行かない!!」
愛原「おいおい!もう申し込んじゃったんだぜ!?」
美樹「リサぁ~!一緒に行ぐっで約束したべでねがぁ~!」
や、ヤバい!
私と美樹で、リサを何とか宥めすかさないと大変なことになる!
愛原「お、俺も行くから!」
リサ「! ……ホント?」
社員「失礼ですが、保護者の方は同行できませんよ?」
愛原「合宿先のホテル、貸切にするんですか?」
社員「そういうことです。なので、一般の宿泊客が一緒ということはないです」
とはいえ、全ての客室が埋まるというわけでもないだろう。
こうなったら……。
愛原「リサ、任せろ。俺が何とかする。だからここは呑んでくれ!」
リサ「くっ……」
美樹「リサぁ~!」
リサの頭から角が少し覗いたような気がしたが、何とかここの社員達に見られずに済んだ。
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