報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「因みに仏教では幽霊の存在を認めていない」

2018-04-18 19:25:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日02:15.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家2F稲生勇太の部屋]

 

 稲生勇太:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」

 勇太は咄嗟にダンテ一門の呪文を唱えた。
 人間界では神曲として語り継がれている魔法書も、この部分だけは訳できない。

 勇太:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」

 河合有紗の幽霊は冷たい手を勇太の首に伸ばした。

 有紗:「それは何……?まさか……あれだけ御題目は大事だと言っていたのに……違う宗教やってるの……?」

 ギュウウウ……!!

 勇太:「うげ……!」

 有紗が両手に力を込めた。
 女の子の力とは思えないほどの握力だった。

 有紗:「私も勇太君のことが好きだったの……。地獄で一緒に暮らそうね……」

 やはり顕正会員の行く先は地獄界か!

 勇太:(だったら……御題目にしておくんだった……)

 勇太の視界が次第にボヤけていく。
 その中には、嬉しそうな笑みを浮かべた有紗の姿があった。
 が!

 ナディア:「ア・ヴァ・カ・ムゥ!!」

 どうやらそれまで、勇太の部屋のドアは霊的な力で押さえ付けられていたらしい。
 それを魔道師が解錠の魔法でこじ開けたようだ。

 有紗:「!?」
 マリア:「キサマ!勇太に何てことを!!」

 マリアは魔法の杖を持って、ナディアが魔法でこじ開けたドアから飛び込んで来た。
 有紗は勇太から手を放した。
 激しく咳き込む勇太。

 ナディア:「ゴローは御両親達と1階に避難してて!」
 稲生悟郎:「わ、分かった!伯父さん、伯母さん、早く1階へ!」
 稲生宗一郎:「威吹君がいなくなったと思ったら、また別の者の襲撃かね!?」

 尚、勇太の両親は悪質妖怪達の夜襲を何度も経験している。
 なので、すぐに状況が飲み込めたようだ。
 但し、今回は妖怪ではなく、幽霊であるが。

 有紗:「ジャマするの……?だったら、アンタも殺してあげるわ……!」
 マリア:「やってみろ!霊体ごとジェシカの私設地獄に送ってやる!!」
 ナディア:「ここは狭いから、外でやろう!」
 マリア:「了解!パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……ベリーショート、ルゥ・ラ!」

 マリアの唱えた超短距離ルゥ・ラにより、戦闘場所は稲生家の屋根の上となった。

 ナディア:「初めて悪霊と対峙するよ。なかなかいないものねぇ……」

 ナディアはあえて参戦せず、まるで検分役のように少し離れた所で見た。

 エレーナ:「なになに?面白いイベント?」

 そこへ、ホウキに跨ったエレーナが舞い降りて来た。

 ナディア:「エレーナ!?何してんの!?」
 エレーナ:「魔女宅深夜便だよ。夜中のうちに運んで欲しいって依頼もあったりするんだよ。その帰り」
 ナディア:「勇太君の寝込みを女の幽霊が襲ってきて、それをマリアンナが退治しようとしてるんだ」
 エレーナ:「アタシら女魔道師に気に入られたり、女幽霊に気に入られたり、ほんと人外にモテるねぇ、稲生氏は」
 ナディア:「ちょっと待って。魔道師を人外扱いしないでくれる?読者が誤解するから」
 エレーナ:「人間辞めた時点で、似たようなもんじゃないの。で、何で稲生氏は幽霊なんかに?」
 ナディア:「あー……っと。勇太君、あの幽霊は何なの?」
 勇太:「僕の初恋の……河合有紗さんの幽霊です。何で……こんなことに……」
 エレーナ:「何だって!?……おい、マリアンナ!聞いたか!?オマエの恋敵だぞ!?」
 マリア:「

 次の瞬間、本来ならローマスター(Low Master 一人前に成り立て)の魔道師が使えないはずの大爆発魔法をぶっ放したマリアがいた。
 河合有紗の幽霊はネクロマンサー系魔道師ジェシカの私設地獄に送られることもなく、そのまま滅されてしまった。

 勇太:「あ、あれって……イオナズン!?」
 ナディア:「私の階級(ミドルマスター)でないと使えない魔法をマリアンナが……」
 エレーナ:「稲生氏、分かったか?浮気しようものなら、ウィ・オ・ナ・ズゥム飛んでくるからw」

 エレーナはあくまでコミックリリーフ役を装う為、稲生の茶化しに専念していたが、それでも冷や汗を流していた。

 マリア:「さっきの幽霊……勇太が呼んだわけじゃないよな?」

 マリアは稲生に詰問するように言った。

 稲生:「ま、まさか!勝手に来たんです!」
 マリア:「……そうか」
 エレーナ:「意識体を消し飛ばすなんて、派手にやるねぇ。ほら、さすがに騒ぎになったみたいだよ。どうするの?」

 爆発音を聞いた誰かが通報したらしい。
 パトカーや消防車のサイレンの音が近づいて来た。

 マリア:「知らんぷりしてりゃいいさ。早く寝よう」
 ナディア:「結構、神経太いのね」
 マリア:「こう見えても、私も修羅場を生き抜いたクチですから」
 ナディア:「……了解。ゴロー、済んだからもう2階に戻っても大丈夫よ」
 悟郎:「わ、分かった」

 悟郎は悟郎で、今更ながらにとんでもない魔女集団と知り合ってしまったと実感してしまったようだ。
 だが、もう遅い。
 例え魔道師になる素質は無いとはいえ、こうしてまた悟郎もナディアとは恋仲となった時点で運命は決しているのだ。
 悟郎の様子を見たエレーナは再びホウキに跨ると、騒がしい地上から飛び立った。
 そして、思った。

 エレーナ:(鈴木弘明のヤツ、随分と私にモーション掛けてるけど、この状況を目の当たりにさせてみたらどんな反応をするかしら?)

 と。
 翌日、朝の情報番組で大きく取り上げられるだろうが、あくまで実害は勇太が幽霊に絞め殺されそうになったことと、マリアがイオナズンをぶっ放したこと。
 しかし、それで近隣に物的・人的な被害が出たわけではないのだから、警察や消防が徒労になったというのが実質的な被害だっただろうか。
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“大魔道師の弟子” 「『どちらでもない』を選んだルート」 2

2018-04-16 19:26:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日00:15.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]

 『こっくりさん』の上をスススッと動き始めるルーブル硬貨。
 まず最初にやってきたのは『ち』。

 稲生勇太:「『ち』!?『ち』から始まる名前に知り合いは……!」
 ナディア:「しっ!黙って!」

 そしてまたスススッと硬貨が動く。
 今度は『よ』だった。

 勇太:「『よ』!?……千代田線?」
 稲生悟郎:「何でやねん!?犯人の名前やろ!」
 勇太:「それもそうか……」

 スススッ……。
 『つ』

 スススッ……。
 『と』

 スススッ……。
 『わ』

 スススッ……。
 『か』

 スススッ……。
 『り』

 スススッ……。
 『ま』

 スススッ……。
 『せ』

 スススッ……。
 『ん』

 勇太:「『ちよつとわかりません』?」
 悟郎:「『ちょっと分かりません』!?」
 ナディア:「エリゴス!」

 勇太達の目にはゴエティア系悪魔エリゴスの姿は見かけなかったが、ナディアのツッコミに『てへぺろ』しているのがマリアには見えた。

 マリア:「ナディアさん、困りますよ、こういう悪魔」
 ナディア:「そうねぇ……」
 悟郎:「本当に大丈夫なのかい?」
 ナディア:「悪魔にも得手不得手ってあるからね、何でも万能ってわけでもないのよ。それじゃ……せめて、犯人が何者なのかは分かる?」

 するとまた硬貨がスススッと動いた。

 『わ』……『か』……『る』……『分かる』

 マリア:「犯人の特定までは無理だけど、一応どんなヤツかまでは分かるということか」
 ナディア:「それじゃ、教えてもらいましょう。河合氏殺しの犯人は何者なの?」

 スススッ……。
 『よ』

 スススッ……。
 『う』

 スススッ……。
 『か』

 スススッ……。
 『い』

 勇太:「妖怪が犯人だったのか!」
 マリア:「じゃ、やっぱりイブキが犯人なのか?特典よりもプライドを選んだか」
 勇太:「そんな……!」
 悟郎:「でも、待てよ。ナディアの契約悪魔の力がどんなものなのかは知らんけど、威吹君の話なら俺も聞いてる。1度も会ったことは無いけどね。そんな俺でも知ってるくらいなのに、わざわざこんな魔法占いまでできる悪魔が知らないなんてことあるかい?」
 ナディア:「それもそうね」
 勇太:「妖怪にも色々います。どんな妖怪までか分かるといいんですけど……」

 するとまたスススッと硬貨が動く。

 勇太:「『よ』……『う』……『こ』……妖狐だって!?」
 マリア:「やっぱり犯人はイブキか!あの時、カンジはいなかっただろ?」
 勇太:「え、ええ……」

 もっとも、後に威吹の押し掛け弟子、威波莞爾はダンテの化身であったことが魔王城最終決戦の時に知ることとなる。

 マリア:「勇太。やっぱり魔王城の後で、威吹の家に行ってみよう。そして、真相を聞き出すんだ」
 勇太:「は、はい」

 それでも勇太には、やっぱり威吹がどうしても犯人だとは思えなかった。
 威吹が以前、酒に酔って言っていたのを思い出していたからだ。
 もしも河合有紗が本当に勇太と結婚できたら、彼女もついでに被盟約者の中に入れることができる。
 それは妖狐にとっては、合法的な獲物を2人手に入れることができるも同然なのだと笑っていた。
 ついでに子供ができれば、その子供も同じことだと。
 そんなことを喜びながら言っていた威吹が、稲生に殴られたくらいで手放すだろうかと。
 もちろん、高等妖怪である妖狐が人間なんぞに顔面を殴られた屈辱は大きいものだったろう。
 しかし、それにしてもだ。

 勇太:(でもやっぱり、僕の知ってる威吹が犯人だとは思えないんだよなぁ……)

 あとはマリアの話があったのだが、もう夜も遅いということで、この場はお開きとなった。
 元々1番やる気の無かったマリアだから、むしろ自分の番が無くなって清々したことだろう。

[同日02:00.天候:曇 稲生家2F・勇太の部屋]

 勇太は2階の自室に1人で寝ていた。
 2階にはもう1つ部屋があり、悟郎はそっちの部屋で寝ている。
 マリアとナディアが客間で寝ていた。

 稲生:「う……ううん……」

 その時、勇太は寝苦しさで目が覚めた。
 勇太は寝る時は室内の照明を全て消灯して真っ暗にするタイプだ。
 なのでまだ夜中のこの時分、目を開けてもそこに広がるのは闇であるのは当たり前だ。
 枕元に置いたスマホの時計を見ると、まだ丑三つ時。
 丑寅勤行を行うにしても、まだ早い時間である。
 尚、丑寅勤行とは日蓮正宗の法主上人が午前2時半から大石寺客殿で行うものを言うのであって、それ以外の者が行う場合は例え時間帯が丑寅の刻であったとしても、丑寅勤行とは本来呼ばない。
 勇太はそんなことを考えながら、スマホの明かりを消そうとした。
 時間を確認する時、画面が光るわけだから、それで部屋全体がうっすらとボンヤリ照らされるからだ。

 勇太:「!?」

 その時、勇太は一瞬室内に誰かがいるような気がして、1度消したスマホの明かりをもう1度点けた。
 もちろん、本来なら気のせいだろう。
 仮に誰かが入って来るとしたら、当然勇太を起こしてからだから……。
 だが、気のせいなんかではなかった。
 ボウッと光るスマホの明かりに映し出されて、勇太の視界に入ってきた者は……。

 

 勇太:(わああああああああっ!!)

 それは少女であった。
 勇太にいきなり寒気が走る。
 霊気だ!
 すると今、勇太を見下ろしているこの少女は幽霊なのだ!
 勇太はビックリして大声を上げたが、声が出なかった。

 幽霊:「やっと……会えたね……」
 勇太:「……!……!!」
 幽霊:「私のこと……忘れてたでしょう……?……だけど、思い出してくれたみたいね……。だから、こうして出てこれた……!」

 勇太はこの時、気づいた。

 勇太:「有紗さん!?」

 そう、この幽霊は河合有紗に似ていた。

 幽霊:「ようやく気づいてくれたようね……」
 勇太:「ど、どうして今頃……!?」
 有紗の幽霊:「あなたが会いに来てくれないからよ……。だから、会いに来ちゃった……」
 勇太:「そ、そんな……!冥鉄は……」
 有紗:「会いに来てくれたと思っていたのに……あなただけいなくなるなんて……!」
 勇太:「ど、どういうこと!?」

 確かに勇太は魔道師として、冥界鉄道公社の列車に乗り、この人間界と魔界を行き来したりしたことがある。
 本来、冥界鉄道公社とはこの世とあの世を結ぶ幽霊列車を運行する鉄道会社である。

 有紗:「迎えに来たのよ……。こっちの世界は寂しいから……」

 有紗がゆっくりとこちらに手を伸ばしながら近づいてくる。
 勇太は……。

 1:「南無妙法蓮華経」と題目を唱えた。
 2:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ」と呪文を唱えた。
 3:「やめてくれ!」と叫ぶ
 4:「消えてくれ!」と叫ぶ
 5:逃げる
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“大魔道師の弟子” 「『どちらでもない』を選んだルート」

2018-04-16 10:20:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日23:45.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]

 外は相変わらずの雨だ。
 風も強くなってきたのか、時々外からそれらしい音が聞こえる。
 尚、室内には時計の秒針が動く規則正しい音も聞こえている。

 ナディア:「聞きたいの?聞きたくないの?どっち?」
 稲生悟郎:「まあまあ。俺は部外者だけど、何だか勇太の過去について、その真相が分かりそうなものじゃないか。キミ達は何か分かるんだろう?」
 マリア:「それを言うと、私はまだ森の中に引き籠っていた部外者だ。勇太の思い出の中には入れないしな」
 ナディア:「まあ、うちの先生なら、そういう魔法が使えるけどね。イリーナ先生も」
 マリア:「ああ……まあ、そんな気がします。多分、乗り気じゃないでしょうけど」
 悟郎:「なるほど。罰なぁ……。でも、何だか皮肉な話だ」

 悟郎は腕組みをして言った。

 悟郎:「せっかく信仰をしていて、その見返りがこれじゃ、死んでも浮かばれんだろうな」
 勇太:「マリアさんと出会う前は、墓参りに行っていたものです。今はマリアさんがいるから……」
 悟郎:「それでも、命日には墓参りに行ってもいいんじゃないかな?」
 マリア:「……私も、1度は『挨拶』をしておいた方がいいかもしれないと思う」
 勇太:「はあ……」
 ナディア:「ただ、壮絶な死に方だったでしょうね。車に2回も跳ねられるなんて。勇太君はその彼女の遺体を見た?」
 勇太:「いいえ。とても、見られるものではありませんでした」
 ナディア:「だよねぇ……。死体がグチャグチャになったら、魔道師にもなれないし……」
 勇太:「え?」
 ナディア:「いや、あなたと気が合うコだったんでしょう?もしかしたら、そのコも霊力が強かったのかなぁ……なんて」
 勇太:「ああ。そういえば、そんな感じでしたね。威吹が反対しなかったのも、それが理由でしたし」
 ナディア:「『契約相手は1人だけ。しかし、その契約相手に伴侶ができた場合、その伴侶も契約の範疇に入れても良い』か。悪魔にとっては、1度の契約で2度美味しい内容だもんね」
 勇太:「威吹は悪魔じゃないですよ?」
 ナディア:「分かってる。でも契約内容は、悪魔が持ち掛けて来るものと同じみたいだね」
 マリア:「ということは……!」

 マリアは何かに気づいた。

 マリア:「イブキは犯人じゃないのか?」
 勇太:「何ですって?」
 マリア:「いや、私は河合氏殺しの犯人はイブキだと推理したんだ。勇太に殴られた腹いせに、妖術を使って河合氏殺しの事故を引き起こしたんだってね」
 勇太:「い、威吹はそんなヤツじゃ……ないですよ」
 マリア:「その言い方。確信は持てないだろう?でも、どうやら違うみたいだ。私もイブキとは何回か会っているけど、あいつはそんなにリスクを取るヤツじゃない」

 マリアの言う通り、威吹ほどの妖狐なら、河合をまず最初に跳ねたドライバーに妖術を掛けて幻惑し、それで河合を車で跳ね飛ばすように仕向けることは簡単だっただろう。
 だが、河合は威吹にとって『1度で2度美味しい』相手であったのだ。
 せっかくのオマケをみすみす捨ててしまうようなヤツかというと、そうではない。
 また、もしそれが勇太にバレでもしたら、今度こそ殴られるだけでは済まないだろう。
 威吹は大胆不敵に人喰い活動をして、それで巫女のさくらに封印されてしまった過去を持つ。
 その反省から、慎重派に転じたわけだ。
 だから、勇太に更に妖術による不正勧誘を持ち掛けられても断ったのである。
 勇太に殴られても我慢したのは、偏にその慎重さによる。

 マリア:「もちろん、本人に聞かないと分からないけどね、真相は」
 勇太:「そうか……。威吹が犯人ではないけども、でも犯人を知ってはいたんだ……」
 マリア:「まだ私の予想だよ。あえて勇太に殴られた後、すぐに消えたのが気になってね。多分、頭を冷やす為であるとは思うんだけど……」
 ナディア:「犯人は知っていたけど、勇太君にそれは教えなかったとしたら、どうしてだろうね?」
 悟郎:「やっぱり本人に聞いた方がいいんじゃないのかな?ここであれこれ考えるよりは」
 勇太:「そうですね」
 悟郎:「そのイブキ君とやらは、今どこにいるんだい?」
 勇太:「魔界です」
 悟郎:「はい?」
 勇太:「いや、まあ……その……」
 マリア:「どうせ明後日、魔王城に行くんだ。その時、師匠に言って少し時間をもらおう。その足でイブキの家に行って来ればいい」
 勇太:「そうですね」
 ナディア:「じゃ、文字数が余ったんで、あとは私が話しておくからね」
 勇太:「文字数!?」
 悟郎:「またメタ発言を……」
 勇太:「ここの魔女さん達って、皆こうですよね」
 マリア:「悪かったな」
 ナディア:「まあまあ。私の場合は話ではないね。ちょっと、占いをやってみようと思って」
 勇太:「占い?」
 ナディア:「そう。今の話、犯人が誰かを当ててみようっての」
 勇太:「なるほど!早く、水晶球を!」
 ナディア:「ああ、いや。水晶球では占えないよ。あんなピンポイント、それこそうちの先生やイリーナ先生でないとダメだって」
 勇太:「そ、そうか……。で、どうするんです?」
 ナディア:「これを使ってみようと思うの」

 ナディアはとある紙を取り出した。
 それはA3サイズほどある。
 そして、そこには……。

 勇太:「これ、『こっくりさん』じゃないですか!」
 悟郎:「うん、『こっくりさん』だね」
 ナディア:「やっぱり日本人には有名なのね。ヨーロッパでは『ウィッチ・ボード』って言うんだけど、ちょっと形式は違うかな」
 マリア:「あえて日本式ですか?」
 ナディア:「そうよ。ここは日本だからね。……あっ、悟郎。リビングに大きな灰皿があったでしょ?それ、持って来てくれる?」
 悟郎:「はいはい」

 確かにリビングには、白い透明のクリスタル製の灰皿がある。
 稲生家に限らず、応接間などを持つ家庭によくあるあれだ。
 悟郎はそれをすぐに持って来た。

 ナディア:「スゥパスィーバ。そこに置いといて」
 悟郎:「あい」

 悟郎は灰皿をテーブルの脇に置いた。

 マリア:(何でお礼の言葉だけロシア語なんだ?それに、師匠とは少し発音が違うな……)

 ロシアは世界一広大な国土を持つ国だ。
 その中でもモスクワやサンクトペテルブルグに住んでいたイリーナやアナスタシアと、ウラジオストクのナディアとでは少し違うのかもしれない。

 ナディア:「それじゃ、始めましょう」

 ナディアは鳥居の所にコインを置いた。
 それは10円玉ではなく、ロシアの5ルーブル硬貨だった。
 日本式と言いつつ、硬貨はロシアのルーブル硬貨を使うようである。

 ナディア:「じゃ、ここに指を置いて」

 ナディアを含む4人が全員、硬貨の上に人差し指を置いた。

 ナディア:「呼び出すのは私の契約悪魔よ。その方が確実だから」
 マリア:「なるほど」

 ナディアの契約悪魔はゴエティア系悪魔のエリゴス。
 因みに一覧表にするとナンバリングがされていることがあるが、このナンバーは別にランキングというわけではない。
 
 ナディア:「それじゃエリゴス、お願い」

 エリゴスの姿は勇太には見えなかった。
 そこはたまに姿を現し、自らモブキャラなどを演じる7つの大罪系悪魔とは少し違う。

 ナディア:「あなたはすぐ近くにいて、私達の話を聞いていたでしょう?早速だけど、河合有紗氏を殺そうと画策した犯人の名前を教えてくれないかしら?」

 すると、スススッと硬貨が動き出した。
 右手の人差し指を置いていた勇太は、何だか不思議な感じだった。
 果たして、エリゴスはどんな名前を刻むのだろうか。
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“大魔道師の弟子” 「稲生の怖い話」 3

2018-04-15 20:22:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[200×年7月31日19:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 大宮公園]
(何度も書きますが、稲生勇太の一人称です)

 僕は威吹の後を追いました。
 しかし、彼は妖怪です。
 茶寮を出た後、僕もすぐに出たのに、彼の姿は煙のように消えてしまっていたのです。
 僕は後悔に苛まれながら、彼の姿を必死に追いました。
 威吹は怒って、僕との盟約を切ってしまうだろうか?
 もしそうなったら、どうなるのだろう?
 それとも、盟約違反(殴っても良いとは言ってないし、書いてもいない)と呵責して、僕にどんな仕返しをするのか考えているのだろうか。
 30分以上も捜したでしょうか?
 僕はようやく大宮公園の中で、威吹の姿を見つけました。
 彼は公園内のベンチに座っていましたよ。
 僕は急いで彼の傍に駆け寄りました。
 幸い、僕に殴られた後、顔はそんなに腫れていなかったようです。
 それも、妖怪ならではなのでしょうね。
 僕は彼の隣に座りました。
 彼は僕を一瞥すると、大きな溜め息を吐きました。
 それは僕に対して憤っているようにも、呆れているような溜め息にも思えました。

 稲生:「ご、ごめん……。その……殴っちゃって……」

 僕が何とかそれだけ絞り出しました。
 すると威吹は今度は小さく溜め息を吐いて言いました。

 威吹:「鬼だな」
 勇太:「ごめん……」
 威吹:「いや、違うな。ユタ、修羅の形相をしてた」
 勇太:「修羅……」

 そう言われても、仕方の無いことです。
 そうそう、余談ですが、どういうわけだか、威吹は僕のことを『ユタ』と呼ぶんです。
 威吹に限らず、蓬莱山鬼之助やそのお姉さんの美鬼さんもそう呼ぶんですよ。
 妖怪にとって、何か意味のある呼び方なんでしょうね。
 結局、僕はその意味について知ることはできませんでしたが。

 威吹:「だが、ユタの拳で覚悟はできたよ。分かった。オレ……ボクも地獄まで付き合おう」

 威吹は僕の前では大人しい妖怪であるようにする為、一人称は『ボク』ですが、感情が昂ったり、自分と同等や下等と見なした者には『オレ』に変わります。
 目上の人の前で緊張している場合は『某(それがし)』となり、侍言葉になりますが。

 勇太:「地獄じゃないよ。成仏だよ」
 威吹:「成仏?あの修羅の形相がか?敢えて言うなら、不動明王といったところか」

 威吹はせせら笑うように言ってきました。
 でも、仕方がありません。

 勇太:「まだ修行が足りないみたいだ。もっともっと折伏しなきゃ……」
 威吹:「どうする?この辺の人間どもに、根こそぎ妖術を掛けるか?それとも駅の方がいいか?」
 勇太:「えーと……」

 と、その時でした。
 仏罰は突然現れたのです。

 女子部員:「あっ、ここにいたの!?」

 30代の女性が、僕達の所に走ってきました。
 確かこの人は……有紗さんの……上長さん?

 勇太:「えっと……確か、有紗の上長の……」
 女子部員:「支区長の加藤です!芙蓉茶寮に行ったら、大宮公園に向かったって聞いて……」
 勇太:「ええ。まあ、ちょっと……。で、何の御用ですか?」
 加藤:「大変なの!河合さんがここに来る途中、暴走車とトラックに跳ねられて……!」
 勇太:「ええーっ!?」

[2018年4月7日23:30.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
(三人称に戻ります)

 勇太:「顕正会の害毒には、色々なパターンがあります。ジワジワと来るパターン。突然来るパターン。顕正会在籍時に来るパターン。辞めてから来るパターン。様々なパターンがありますが、往々にして害毒がやってきた時には既に遅しということも散見されます。正法に背きし異流儀団体。そこに身を置くことの、何たる罪障か。ましてや更に、仏法に名を借りた妖術による不正入信勧誘は、いずれ己自身だけでなく、大事な人をも巻き込み、その身を亡ぼすのだと、どうして早く気づけなかったのか……」

 勇太はそう言うと、ボロボロと涙をこぼした。
 あの時の悲しさを思い出してしまったのだろう。
 従兄の稲生悟郎が勇太の肩を叩いた。

 稲生悟郎:「うんうん、辛かったな。かわいそうにな……うんうん」
 マリア:「その話は私もチラッと聞いたことがある。だけど……」
 ナディア:「いくらBuddhaの罰とはいえ、何かタイムリー過ぎるわね」
 勇太:「えっ……?」

 稲生にとってはとても悲しく、辛い思い出であるが、第三者の魔女達は冷静に考えられたようだ。

 ナディア:「あのさ、あなた自身が引き起こしたことなんでしょう?それなのに、どうして赤の他人が代わりに死ぬの?」
 勇太:「有紗さんは……その……僕の初恋の人でしたし、彼女が死んで絶望のどん底に叩き落されたので、僕にとっては大罰そのものだったんです」
 マリア:「違うよ。多分、罰なんかじゃないよ」
 勇太:「ええっ?有紗さんも顕正会の班長でした。彼女もそれなりに罪障を大きく積んでいたはずです」
 マリア:「お寺で何か吹き込まれたか?勇太自身が命の危機に瀕しないと、辻褄が合わないんだよ。勇太、私に仏法の話をしてくれたじゃないか」
 勇太:「えっ……と……」
 マリア:「勇太の宗教の機関紙なんかも見せてくれただろう?大白法とか妙教とかいう……」
 勇太:「え、ええ……」
 マリア:「あれの体験発表を読んだけど、大抵は自分自身に罰が下った、或いはいいことがあったとかいう話しか書いてないよ」
 勇太:「……あ!」

 勇太はようやく気づいたようだ。

 マリア:「つまり勇太の言う仏法の法則に照らし合わせると、勇太がやったことが仏の教えに反するのであれば、勇太自身に罰が下らないとおかしいってことになる。その……河合氏とやらは、直接勇太の不正勧誘に関わっていたわけじゃないんだろう?」
 勇太:「そうです!威吹の妖術を悪用するというアイディアも、それを全部実行に移させたのも僕1人です」
 ナディア:「あなたの1番最初の彼女さんは、あなたの不正について知ってた?」
 勇太:「知らないと思います。男子部と女子部は、基本的に活動は別ですから」
 ナディア:「じゃ、やっぱりおかしいね」
 勇太:「ど、どういうことです?」
 マリア:「河合氏は、誰かに殺されたんだよ」
 勇太:「えっ!?」
 悟郎:「勇太、その彼女さんはどういう事故で死んだんだ?」
 勇太:「車の事故です。横断歩道を渡っていたら信号無視の乗用車に跳ねられて対向車線に飛ばされ、そこへやってきたトラックにも轢かれて……」
 悟郎:「最初に跳ねた車のドライバーは?」
 勇太:「もちろん逮捕されました。でも、何だか『よく覚えていない』とか言って……」
 悟郎:「居眠り運転か?」
 勇太:「多分……」
 ナディア:「別の意味で怖い話になってしまったね。私やマリアは、もっと怖い話を知ってるよ。どう?聞きたい?」

 1:聞きたい
 2:聞きたくない
 3:どちらでもない

 ※バッドエンドはありませんが、どれを選択してもそれぞれストーリーが分岐します。
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“大魔道師の弟子” 「稲生勇太の怖い話」 2

2018-04-13 19:12:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[200×年7月31日17:45.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区寿能町 宗教法人顕正会本部会館・芙蓉茶寮]
(引き続き稲生の一人称です)

 稲生勇太:「いやあ、威吹のおかげで今月も誓願達成できたよ。ありがとう」
 威吹邪甲:「こんなんでいいのか……」

 威吹は腑に落ちないといった顔をしていました。

 勇太:「何が?」
 威吹:「いや、仏門に下る割には、随分と淡白な宗派なんだな」
 勇太:「というと?」
 威吹:「いや、仏門に下るわけだから、こう剃髪して得度するのが普通だろ?」

 威吹は長い銀色の髪の生えた自分の頭を指さしました。
 マリアさんは御存知でしょうが、結婚前の威吹は長髪でしたね。
 長髪を後ろに結んで……。

 勇太:「そんなのは謗法の坊主のやることだよ。顕正会は坊主なんか要らない。御本尊様に縁することが大事なんだ」
 威吹:「しかし、このケンショーカイという信徒衆の概要すら教えないとは……。さっき入った男、仏について何か知ってるのか?」
 勇太:「今も言ったろ?御本尊様に縁させることが大事なんだ。つまり、仏種を蒔くことだね。それから芽が出るのか出ないのか、出るとしてもいつなのかはその人の更なる縁次第だよ」
 威吹:「そういうものなのか……?」
 勇太:「そう。誓願だってね、数をこなすようになっているように見えるけど、それもそのはずで、如何に多くの人を御本尊様の前に連れて来るかが勝負なんだ」
 威吹:「…………」
 勇太:「ま、あいにくと威吹は人間じゃないから入信はできないけど、こうして僕の……引いては浅井先生のお手伝いをしていれば、来世では人間に生まれ変わって、そこで罪障消滅ができるようになるよ。ま、難しい話はここまでにして、夕飯食べよう。この後、ビデオ放映があるからね」
 威吹:「夏休みの宿題が控えてるんじゃなかったのか?」

 当時の僕は高校生1年生でしたから、夏休みの宿題がありました。

 勇太:「何で知ってるの?」
 威吹「河合殿がそう言ってた。河合有紗殿」
 勇太:「ええっ?参ったなぁ……」

 僕は頭をかいた。
 因みに威吹は僕と有紗さんが付き合うことに関しては、特に反対はしていませんでした。
 マリアさんと付き合うのは、猛反対だったんですけどね。
 これは有紗さんが純粋な人間だったからですね。
 その方が、威吹にとっても都合が良かったようです。
 その理由は……まあ、そんなことはいいじゃないですか。

 威吹:「『ユウタ君、誓願達成もう少しみたいですけど、宿題を全然やっていないみたいで心配です』ってさ」
 勇太:「有紗もなぁ……。誓願達成できれば、宿題もいつの間にか片付いているようになるんだって」
 威吹:「でも、せっかくのユタの彼女なのにねぇ……」
 勇太:「あっ、ちょっと待って。電話」

 僕はケータイを取り出しました。
 ええ、当時はまだガラケーです。

 勇太:「はい、もしもし。……あ、隊長。お疲れさまですー。……あ、はい。先日、誓願達成しましたよ。支隊長には報告したはずですが……?」
 隊長:「ああ、その支隊長から聞いてる。もうすぐでキミも、副長に抜擢されそうだ。来月に誓願達成……じゃなくて、誓願を大きく突破すれば、副長も夢じゃないぞ」
 勇太:「本当ですか!?」
 隊長:「部長がそう言ってた。こりゃ俺も、うかうかしてられないな」
 勇太:「いえ。僕なんかまだまだです」

 因みに威吹はキツネうどんを啜りながら、僕の電話を黙って聞いていました。
 時々ニヤッと笑ったりしていましたが、きっと彼なりに思う所があったのだと思います。
(※尚、“妖狐威吹”ではこの辺りの回想シーンがあって、その時威吹が何を考えていたのか、再現されている)

 勇太:「……はい。じゃあ、そういうことで。……はい、失礼します」

 僕は喜んで電話を切りました。

 勇太:「威吹」
 威吹:「ん?」
 勇太:「ビデオ放映はまた今度にしよう」
 威吹:「え?」
 勇太:「もう1度……今度は、大宮競輪場辺りで折伏するんだ」
 威吹:「でも、誓願は達成したって……」
 勇太:「いや、達成で満足しててはダメなんだ。誓願を大きく突破してこそ、支隊副長……じゃない。浅井先生へお応えしていく最良の手段だ。引いては一閻浮提広宣流布、僕達の成仏の為なんだよ」
 威吹:「……いや、今日はやめておこう。あまりあの妖術を使い過ぎると、怪しまれる」
 勇太:「え?」
 威吹:「いや、実際怪しまれつつあるんだ。何しろ、いんたーねっととやらで、『催眠術を掛けて入信させる顕正会員の噂』なんて出てるそうなんだ。“あっつぁの顕正会体験記”とやらを見てみなよ?しっかりと書かれてるよ?」
 勇太:「ネットなんて、ただの便所の落書きさ。先生もそう仰ってる。それに、威吹のは催眠術じゃない」
 威吹:「その通りだが、やっぱりマズいって。本来、妖術ってのは伝家の宝刀なんだ」
 勇太:「伝家の宝刀も抜かなきゃ錆びる」
 威吹:「そりゃそうだけど、抜き過ぎるのも問題なんだって」
 勇太:「どこが問題だ!御書のどこに、『妖術を持って折伏するべからず』なんて書いてある?先生だって、普段の御指導で禁止されていない!」
 威吹:「ユタ、前みたいにちゃんと連絡を取ってから、仏法の話をする方法に戻そうよ?何か、仏の教えに妖術を用いるのはおかしいって」
 勇太:「それだと間に合わないんだ。キミも知ってるだろ?最近では顕正会という名前を聞いただけで、通報されるようになった。それじゃ、折伏にならない。何としてでも火宅の中にいる人々を御本尊様の前に連れ出すには、キミの妖術しか無いんだ!」
 威吹:「たまにならいいが、毎回はダメだ」
 勇太:「威吹は何を恐れてる?封印前に君を封印したヤツのことか?」
 威吹:「あの時は刀よりも妖術をよく使っていた。それが為、巫女のさくらに見つかったからな」
 勇太:「大丈夫。今の世の中、浅井先生以外に大信力をお持ちの方はいらっしゃらない。仮に先生が君の噂を知ったとしても、先生は大慈大悲のお方だから、むしろ喜んでくれるはずだよ」
 威吹:「浅井昭衛殿とやらは、生き仏なのか?日蓮大聖人とやらと、どう違う?ただの人間ではないのか?」

 この時、僕の頭の中で何かがキレる音がしたのを覚えています。
 次の瞬間、頭の中が真っ白になりました。

 勇太:「四の五の言ってんじゃねぇッ!!」

 そして、僕は右手に拳を作り、あろうことか威吹の顔面を殴り付けたのです。
 思いっ切り……。

 威吹:「ぶっ……!」

 ガッシャーンという音が響き、威吹は椅子から転げ落ちました。
 当然ながら、賑やかな茶寮が静まり返ります。

 勇太:「あ……」
 威吹:「……!」

 僕も威吹も、互いが信じられないという顔をしていました。
 僕は右手を真っ赤に腫らし、威吹は左の鼻から真っ赤な鼻血を出していました。
 如何に妖怪と言えど、妖狐の流す血も、人間と同じで赤いものですね。
 何故かそのことが少し安心したのと、しかしとんでもないことをしてしまったという後悔が同時に押し寄せてきました。

 福田衛護隊長:「何だ何だ!?何の騒ぎだ!?」

 そこへ福田衛護隊長が、2人の衛護隊員を引き連れて飛び込んできました。

 福田:「何をしてるんだ!?ここをどこだと思ってる!?何のつもりだ!?」
 稲生:「あっ、あの……その……」

 僕がパニックになっていました。
 そこへ威吹が鼻血を手持ちの手ぬぐいで拭うと、代わりに衛護隊長に言ってくれたんです。

 威吹:「何でもない。ちょっとした小突きあいだ」
 福田:「小突きあいって……!」
 威吹:「仏法の話をしていて、つい熱が上がっただけのこと。大したことはない」
 福田:「しかし……」
 威吹:「だが、この騒ぎを引き起こしておいて、このまま夕餉の続きというわけには行かぬだろう。失礼する」

 威吹は席を立ちました。

 勇太:「ま、待ってよ!」

 僕も後を追いました。

 威吹はすぐ僕に仕返しはしてきませんでした。
 しかし、仏罰と妖怪に手を出してしまった報いはもうそこまでやってきていたのです。
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