[4月7日22:30.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]
(稲生勇太の一人称です)
僕が2話目を話すんですね?
では、僕は顕正会員だった頃に遭った怖い話をしましょう。
もちろんこれは、僕の自業自得なわけですが……。
今となっては恥ずかしい、黒歴史な怖い思い出です。
僕はその時、妖狐の威吹邪甲と同居していました。
今ここで僕達が話をしている、この部屋で寝泊まりしていたんです。
僕が顕正会に入った時、威吹は当初、良い顔をしませんでした。
稲荷信仰をすることによって僕の霊力が高まっていたことを知っていたので、それが下手に仏教なんかに手を出して削がれてしまったら……ということを懸念していたようです。
でも、その心配は無くなりました。
何故か顕正会で信仰していても、霊力は高まったからです。
威吹は霊力の強い人間を喰らって、自らの妖力を高めたいという邪悪な希望がありましたから。
もちろん、僕の前では良い妖怪たるよう振る舞っていましたよ。
そういう盟約にさせましたから。
少なくとも、僕の目の届く範囲において、彼は一切の人喰いを止めたんです。
だけど、顕正会の会館には付いて来ていました。
『付いて』というよりも、『憑いて』と表現した方がいいでしょうか。
威吹自身もまた、僕に『ボクはキミに取り憑いているんだ』なんて冗談交じりに言ってましたから。
もちろん、目は笑っていませんでしたよ。
当時の顕正会は誓願がとても厳しく、達成できない組織は容赦無く上長に罵倒されるということが日常的に横行していました。
もちろん、組織によって温度差が激しかったらしいですが。
作者のいた組織は、その中でもとても優しい所だったみたいですね。
もちろん、僕のいた所も比較的優しい方だったと思います。
新潟のサトー様の組織が一番地獄だったのではないでしょうか。
ま、それはさておき……。
僕はその頃になると、威吹の能力について大体知っていました。
そして、なかなか誓願を達成できずに悩んでいたんです。
え?法華講も似たようなものなんじゃないのかって?他の支部のことは知りませんよ。
正証寺ではそんなことはないです。
どうしてもというのでしたら、大沢克日子さんやトチロ〜さんに聞いてみては如何でしょう?
「絶対にそんなこと無い!」
と、答えるだけだと思いますよ。
僕がその禁断の一線を越えてしまったのは、ある時でした。
折伏の席に威吹が同席していたんです。
もっとも、威吹は離れた所から見ていただけでした。
ちょっと強面の……そう、藤谷班長みたいな人を相手にしなくてはならなくなり、もし相手がキレて襲ってきた場合、守ってもらう為に威吹を呼んだんです。
彼は妖狐族の中でも剣豪な上、体術にも秀でていましたから。
その強面の対象者ですが、意外とあっさり僕の話を聞いてくれました。
そして、入信しようかどうか迷っていたんです。
やはり、宗教に入るということは相当な覚悟が要りますから。
威吹:「ユタがそう言ってるんだから、いい加減入信しちゃったら?」
突然、背後から威吹の声がしました。
その声に背中を押されるようにして、対象者は入信を決定(けつじょう)したんです。
それからというもの、威吹は僕の折伏に際し、入信を迷う対象者の背中を押す役目をしてくれました。
そして僕は気付いたんです。
威吹はただ単に背中を押すだけではなく、実は妖術を使っていたことを……。
そして僕は、ついに禁断の一線を超えることにしてしまったのです。
[200×年7月15日15:30.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 大宮公園]
勇太:「よし。あの人にしよう」
僕は本部会館の近くにある大宮公園に行き、そこで対象者を探しました。
街頭折伏と言えば聞こえは良いですが、到底そんなものではありません。
ただの誓願稼ぎです。
勇太:「あのー、ちょっとすいません」
中年男:「ん?」
勇太:「ちょっとお時間よろしいですか?」
中年男:「なに?何なの?」
勇太:「威吹!」
威吹は対象者の前に現れ、対象者と目を合わせます。
中年男:「うぁ……!」
威吹:「いいよ、ユタ」
勇太:「うん。……これから顕正会に入信しましょう。いいですね?」
中年男:「入信シマス……」
勇太:「やった!」
対象者の目は虚ろになり、焦点が合いません。
威吹の妖術の中には幻術を掛けるものがあり、まあ、催眠術みたいなものですね。
それを悪用したものです。
それでも僕は簡単に入信が決まったことが嬉しくて、すぐに支隊長に電話しました。
そして、すぐに入信勤行が行われました。
導師:「……この度は、入信おめでとうございます」
中年男:「入信……入信……」
終わったら彼を再び大宮公園に連れて行き……。
勇太:「威吹」
威吹:「あいよ」
威吹は虚ろな目をした男の前に右手を翳すと、パンッと猫だましのように手を叩きました。
すると、対象者はハッと我に返りました。
中年男:「……はっ!お、俺は今まで何を……!?」
勇太:「じゃあ、そういうことで」
僕はそうやって威吹の妖術を悪用し、次々と誓願を達成させて行ったのです。
もちろん、仏法上許されることではありません。
妖術とまでは行かなくても、催眠術自体は実在します。
でも、誰もそれを悪用して入信に持ち込んだなんて話、今の顕正会でも聞きません。
でも、催眠術が得意な人も中にはいると思います。
にも関わらず、それを悪用して入信に持ち込ませたなんて話は聞きません。
それだけ悪どいことなんですよ。
それを僕は平気でやってしまったんです。
そして、その罰はちゃんと僕に下ることになりました。
勇太:「もしもし、有紗さん?もうすぐ会館に着く?じゃあさ、これから一緒に夕勤行受けようよ。それから、茶寮で夕食でも……」
マリアさんと出会う前、僕には人生で初めて好きになった人がいたんです。
名前を河合有紗さんと言いました。
地元の高校に通う人で、僕と歳は同じでした。
仏罰というのは……罪障を積んだ本人だけに下るものではなかったんですね。
でも……僕にとっては、十分過ぎるほどの仏罰でしたよ。
……ええ、過去形だからもうこの世の人ではありません。
何で死んだと思いますか?
1:交通事故
2:威吹が殺した
3:僕(稲生勇太)が殺した
4:悪い妖怪が殺した
5:想像もつかない
(稲生勇太の一人称です)
僕が2話目を話すんですね?
では、僕は顕正会員だった頃に遭った怖い話をしましょう。
もちろんこれは、僕の自業自得なわけですが……。
今となっては恥ずかしい、黒歴史な怖い思い出です。
僕はその時、妖狐の威吹邪甲と同居していました。
今ここで僕達が話をしている、この部屋で寝泊まりしていたんです。
僕が顕正会に入った時、威吹は当初、良い顔をしませんでした。
稲荷信仰をすることによって僕の霊力が高まっていたことを知っていたので、それが下手に仏教なんかに手を出して削がれてしまったら……ということを懸念していたようです。
でも、その心配は無くなりました。
何故か顕正会で信仰していても、霊力は高まったからです。
威吹は霊力の強い人間を喰らって、自らの妖力を高めたいという邪悪な希望がありましたから。
もちろん、僕の前では良い妖怪たるよう振る舞っていましたよ。
そういう盟約にさせましたから。
少なくとも、僕の目の届く範囲において、彼は一切の人喰いを止めたんです。
だけど、顕正会の会館には付いて来ていました。
『付いて』というよりも、『憑いて』と表現した方がいいでしょうか。
威吹自身もまた、僕に『ボクはキミに取り憑いているんだ』なんて冗談交じりに言ってましたから。
もちろん、目は笑っていませんでしたよ。
当時の顕正会は誓願がとても厳しく、達成できない組織は容赦無く上長に罵倒されるということが日常的に横行していました。
もちろん、組織によって温度差が激しかったらしいですが。
作者のいた組織は、その中でもとても優しい所だったみたいですね。
もちろん、僕のいた所も比較的優しい方だったと思います。
新潟のサトー様の組織が一番地獄だったのではないでしょうか。
ま、それはさておき……。
僕はその頃になると、威吹の能力について大体知っていました。
そして、なかなか誓願を達成できずに悩んでいたんです。
え?法華講も似たようなものなんじゃないのかって?他の支部のことは知りませんよ。
正証寺ではそんなことはないです。
どうしてもというのでしたら、大沢克日子さんやトチロ〜さんに聞いてみては如何でしょう?
「絶対にそんなこと無い!」
と、答えるだけだと思いますよ。
僕がその禁断の一線を越えてしまったのは、ある時でした。
折伏の席に威吹が同席していたんです。
もっとも、威吹は離れた所から見ていただけでした。
ちょっと強面の……そう、藤谷班長みたいな人を相手にしなくてはならなくなり、もし相手がキレて襲ってきた場合、守ってもらう為に威吹を呼んだんです。
彼は妖狐族の中でも剣豪な上、体術にも秀でていましたから。
その強面の対象者ですが、意外とあっさり僕の話を聞いてくれました。
そして、入信しようかどうか迷っていたんです。
やはり、宗教に入るということは相当な覚悟が要りますから。
威吹:「ユタがそう言ってるんだから、いい加減入信しちゃったら?」
突然、背後から威吹の声がしました。
その声に背中を押されるようにして、対象者は入信を決定(けつじょう)したんです。
それからというもの、威吹は僕の折伏に際し、入信を迷う対象者の背中を押す役目をしてくれました。
そして僕は気付いたんです。
威吹はただ単に背中を押すだけではなく、実は妖術を使っていたことを……。
そして僕は、ついに禁断の一線を超えることにしてしまったのです。
[200×年7月15日15:30.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 大宮公園]
勇太:「よし。あの人にしよう」
僕は本部会館の近くにある大宮公園に行き、そこで対象者を探しました。
街頭折伏と言えば聞こえは良いですが、到底そんなものではありません。
ただの誓願稼ぎです。
勇太:「あのー、ちょっとすいません」
中年男:「ん?」
勇太:「ちょっとお時間よろしいですか?」
中年男:「なに?何なの?」
勇太:「威吹!」
威吹は対象者の前に現れ、対象者と目を合わせます。
中年男:「うぁ……!」
威吹:「いいよ、ユタ」
勇太:「うん。……これから顕正会に入信しましょう。いいですね?」
中年男:「入信シマス……」
勇太:「やった!」
対象者の目は虚ろになり、焦点が合いません。
威吹の妖術の中には幻術を掛けるものがあり、まあ、催眠術みたいなものですね。
それを悪用したものです。
それでも僕は簡単に入信が決まったことが嬉しくて、すぐに支隊長に電話しました。
そして、すぐに入信勤行が行われました。
導師:「……この度は、入信おめでとうございます」
中年男:「入信……入信……」
終わったら彼を再び大宮公園に連れて行き……。
勇太:「威吹」
威吹:「あいよ」
威吹は虚ろな目をした男の前に右手を翳すと、パンッと猫だましのように手を叩きました。
すると、対象者はハッと我に返りました。
中年男:「……はっ!お、俺は今まで何を……!?」
勇太:「じゃあ、そういうことで」
僕はそうやって威吹の妖術を悪用し、次々と誓願を達成させて行ったのです。
もちろん、仏法上許されることではありません。
妖術とまでは行かなくても、催眠術自体は実在します。
でも、誰もそれを悪用して入信に持ち込んだなんて話、今の顕正会でも聞きません。
でも、催眠術が得意な人も中にはいると思います。
にも関わらず、それを悪用して入信に持ち込ませたなんて話は聞きません。
それだけ悪どいことなんですよ。
それを僕は平気でやってしまったんです。
そして、その罰はちゃんと僕に下ることになりました。
勇太:「もしもし、有紗さん?もうすぐ会館に着く?じゃあさ、これから一緒に夕勤行受けようよ。それから、茶寮で夕食でも……」
マリアさんと出会う前、僕には人生で初めて好きになった人がいたんです。
名前を河合有紗さんと言いました。
地元の高校に通う人で、僕と歳は同じでした。
仏罰というのは……罪障を積んだ本人だけに下るものではなかったんですね。
でも……僕にとっては、十分過ぎるほどの仏罰でしたよ。
……ええ、過去形だからもうこの世の人ではありません。
何で死んだと思いますか?
1:交通事故
2:威吹が殺した
3:僕(稲生勇太)が殺した
4:悪い妖怪が殺した
5:想像もつかない