![]() | 神々の山嶺〈上〉 (集英社文庫) |
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集英社 |
夢枕獏というと、「サイコダイバー・シリーズ」「陰陽師」「餓狼伝」等のエログロの伝奇バイオレンス的な作品しか知らなかった。ほとんど読んだことはなかったが、しばらく前に読んだ「大江戸恐龍伝」は面白かったので、これからちょっと読み始めてみたい作家には、なっていた。そんななか、新田次郎の後を継ぐ山岳小説家が夢枕獏であるという話を聞いて驚いた。私は、そんなことは今まで知らなかったのだが、近年ではこの作品は、山岳小説の最高峰とも呼ばれ、コミック化もされ全世界で100万部を超えるベストセラーになっていたのだ。さっそく、図書館で借りてきて、上下巻で1000ページ近い長編を一気に読んでしまった。
内容は、登山家でカメラマンである深町誠が、前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む羽生丈二を追っていく姿が描かれる。この作品のキーポイントは、ジョージ・マロリーはエベレストに登頂したのか?という実際の登山界の謎を絡めている点だ。ジョージ・マロリーは実在の人物で、1924年のイギリス第3次エベレスト遠征隊でアンドリュー・アーヴィンと頂上にアタックしたが遭難し、登頂したかが謎となっていた。深町が、マロリーのカメラを見つけることからその謎が明らかになっていくのも見どころである。ただし、その部分はフィクションであり、本当のところは未だに謎らしい。
登場人物は、この二人が主役だ。一人は、天才的クライマーである羽生 丈二(はぶ じょうじ)だ。谷川岳一ノ倉沢をはじめとする国内の数々の難所を攻略しているが、知名度がなく金もないので海外遠征もままならなかった。しかも、協調性がないことと、あまりにも登山を優先させるその生き様に、ザイルパートナーは長続きせず、弟子の岸文太郎を事故で失ってからは単独登攀を好むようになっていく。1979年グランドジョラス冬季単独登攀中に滑落して負傷するも、驚異的な精神力と体力で生還する。その経験を買われ、1984年の冬季エベレスト登山隊に参加するが、第1次アタック隊に参加出来ないことを不満に下山、失踪する。その後ネパールに不法滞在し、シェルパとして働きながらエベレストの冬季単独登攀を計画していた。その間にマロリーの遺体とカメラを発見しており、これが深町と縁を結ぶきっかけとなる。エピソードモデルは森田勝という実際にいた登山家である。(ウィキペディアより)
そして、もう一人はクライマー兼カメラマンの深町誠(ふかまち まこと)だ。1993年のエベレスト遠征で仲間を失い、カトマンズに滞在中に故買屋でマロリーのヴェストポケット・オートグラフィック・コダック・スペシャルを入手したことがきっかけで羽生丈二を追いかけることとなる。(ウィキペディアより)
そして、羽生のライバルとして名前が良く上がってくるのが、長谷 常雄(はせ つねお)である。羽生に先駆けて鬼スラや海外の高峰を単独登攀するライバルだったが、1985年のK2無酸素単独登山で雪崩に巻き込まれて死亡したとされている。モデルはトレイルランニングレース ハセツネ(長谷川恒男)カップ 日本山岳耐久レースで知られる、あの長谷川恒男のことだ。
世界最高峰の山に魅せられたふたりの男の交錯する人生を軸に、険しくそびえ立つ山々に命を賭けて挑む姿と、彼らを取り巻く人々の思いを壮大なスケールで描いた大作である。最後のシーンでは、読みながら魂が震えるような感動でみたされてしまった。山に何故登るのか!山に登れば何が得られるのかといった疑問にも何らかの回答が得られるのかもしれない。それが何であるかは、読んだ人ごとに違うだろうが…。
そして、小説だけにとどまらず、この作品の映画化が最近決まったそうだ。スケールの壮大さがネックとなり映像化が難しいとされていただけに、作者本人が「なんということであろうか。この物語が、現実に映画化される日が来ようとは」と興奮していたという。タイトルは、『エヴェレスト 神々の山嶺(かみがみのいただき)』として、ロケハンは既に始まっており、2015年春にはネパール他にて撮影を予定し、2016年に公開になるらしい。公開されれば、かつてない規模の日本の山岳映画になる事は間違いない。