高学年~
喜樹の家は兼業農林家。喜樹は宿題の仕事調べで、自分の家の職業はと考えたとき、祖父は林業、祖母は農業、父は、町役場、母はJAの団体職員と見事に「ばらばらだ」だと気づきます。それで、兼業農林家と書くのですが、学校で友人から兼業農家というのはあるが、兼業農林家っていうのはないだろと言われ、そっと消しゴムで林を消してしまうのです。でもある日、祖父のところに喜樹の家の百年杉を買いたいというお客さんがやってきます。「相対(あいたい)」と称するその取引の一部始終を目にした喜樹は、日頃「干物」のような存在の祖父の誇り高い姿に、それまで全くなかった林業への興味がわいてきます。また大学受験を控えている姉の楓は、今時の高校生でしたが、ちょうどその「相対」のあたりから様子が変わってきてもいます。
家業に対する誇り。そして輸入木材に押されている林業の現状。作りものではない現実がベースにある物語の強さに、どんと心が押されるような思いがしました。
堀米さんは農業、酪農を営みながら児童文学をやってられる方。そして実際に山を持ってもいらっしゃいます。さすがというよりほかなりません。堀米さんのお宅も、この物語に出てくるように実際にご自分の山の木で建てられていると伺ったことがあります。そのとき、山の北側にある木は、家の北側に使い、山の南側にあった木は家でも南側に使うという話を聞いて、私はしみじみと感動しました。
「木は、眠りに入る冬に伐るもんだ。春や夏の間は水を吸い上げて、木が盛んに動いているからな」
これは、百年杉を伐る前に祖父庄蔵が言う台詞。そして、
「百年杉……こいつはたしかに生きている!」と、喜樹は、杉の木肌に触り、ハッとするのするのです。
スカイエマさんが描く表紙が、かっこいい!
私は木が大好き人間ですが、こういう本を読むと、大好き加減が「甘い」なとも思わされてしまいます。(ただ、私のような立場で木が「好き」人間はいてもいいとも思っていますが)ですから、百年山で生きてきた杉は、こんどは家の材料となって生き続けるという描写には、思わず大きくうなずきました。
『チョコ青(チョコレートと青い空)』同様、多くの子どもとそして大人にも読んでほしい一冊です!!
*蛇足ですが……。今自分の句集を作ることを考えていて、いろいろ表紙が気になっています。この『林業少年』の表紙。イラストがかっこいいのはもちろんですがタイトル文字の入れ方、帯の色具合なと、私的にベスト3に入るかも。とある出版社の装丁を褒めちぎったところ、どちらも同じ方が作ったもの(ブックデザインですね)とわかりました。ブックデザイナー、名久井直子さんの講演を聴いたこともあるのですが、作家は文字だけで勝負するわけですが、それを「物」化する(もっとはっきり言えば商品にする)のがブックデザイナー。奥の深い分野だと思います。『林業少年』、装丁中嶋香織さんとありました。