八月の終わりにあたり、句集『光芒』より、俳句をご紹介します。作者の松本光史さんは、「童子」の会員だった方ですが、すでにお亡くなりになっています。(もう10年以上前かもしれません)生前に出したこの一冊の句集はおそらくもう他では手に入れることはできないでしょう。現在の「童子」会員でも持ってる方は少ないのではと思います。持っている人間が紹介しなければ、埋もれていくだけ。(それでも、読んだ方の心には刻まれていますが)
句集をまとめられたのが晩年だったこともあり、病床の句や日常の句にも佳句がたくさんあるのですが、圧巻なのは戦争を読んだ句です。
アッサムの山が墓標ぞほととぎす
生きる身に死臭あるらし蠅がつく
砲弾の頭上飛びゆく秋の空
毒茸食ひ戦病死とぞなりぬ
敵の追跡かはす若葉の地獄谷
彷徨の果てを餓死せり梅雨明けず
蠅の卵孵化して動く骸かな
軍旗焼き捕囚となりぬ炎天下 松本光史
芭蕉や子規や虚子のように、俳人として後世に名前が残るわけではないと思います。(それは私も同様)でも、生きていらした証しがここにある。
この句集を残してくださったことに感謝したいと思います。
他には、
生身魂放屁に力ありにけり
元日の溲瓶光にかざしけり
病院のベッドに居れどサングラス
煤籠ともなく来たり理髪店 松本光史