私は、案外、
優しい人と言われる。
その度、そうだろうか?と心苦しくなるんだ。
おはようございます。
そりゃあ、私にだって心に優しさの泉は湧いている。乾くことはない。
ひとたび好きになった人間は、決して嫌いにはならない。
なるものかと意地になる訳ではなく、嫌いになれないのだ。
騙されてるな~っと気付いても、そんな時は知らぬ顔で騙される。
それが、今、その人が望んでいることなら、嘘にも付き合う。
そもそも、私には嫌いだなって思える人がいない。
無類の人間好きなわけでは無い。
どちらかというと、人間は苦手だ。
苦手だけれど、嫌いじゃない。とても好きだ。
俗にいう嫌われ者にも、きらりと輝く魅力がある。
もちろん、わざわざ嫌われ者に近寄らないが、魅力は見逃さない。
ただ、優しさの泉が溢れてしまうと、私は危険な人物になる。
後先考えず、猫を拾ってくるのも、傍から見れば危険人物だ。
6匹の飼い猫と暮らすこの狭い部屋に、3匹の子猫を拾って来たこともあった。
あれは、楽しかった。
「なんですか?ここは楽園ですか?」って思ったもんな~。
しかし、6匹や同居する男や、近所の両親は、いい迷惑だ。
実際、母は
「お前、あかん。頭おかしい」と口にしたけれど、
その直後、プニプニの子猫をほいっと手渡したら、
母はすっかりメロメロになったから、何の問題もない。
問題だったのは、柴犬を保護した時だ。
迷子かと思いきや、首輪がボロボロできつそうだ。
それ以外にも、その犬には何某かの違和感を感じ、
私は警察に『迷子の犬』と連絡したが、捨てられたかもと思った。
そこで、さすがに猫屋敷の我が家へ連れて行けず、私は迷わず実家へ向かった。
「柴犬を、しばらく、ここに置いてやってください。」
父はすかさず返した。
「なんで?」と。
そりゃそうだ。
唐突に、犬を飼えと言われれば、そうなる。
それでも、私は泣きながら、頭を下げた。
もう、大泣きだった。
「お前は、そういうとこが弱いんだ。
迷子の犬に会っただけだろう?
なんで、お前がそんな泣きながら右往左往するんや?
お前は、そういうとこが、脆い。」
父は、そう言ったが、私は違うっと断言した。
「違うよ、父さん。
私は泣きながら苦しみながらでも、逃げない。
苦しいな~っと思いながらも逃げない。
逃げ腰の父さんの方が、ずっと弱いんだ!」
そう言ったが、強いも弱いもあったものじゃない。
突然、犬を飼えと強制されている人に言う言葉とは思えない。
私の犬を助けんとする優しさの泉の津波によって、父の日常が床上浸水だ。
いわれなき暴挙に他ならない。
私の優しさは、とてもアンバランスで危険だ。
ちなみに、柴犬は動物愛護センターで保護してもらい、
その後、譲渡会で見事、新たな家族に出会えた。
3匹の子猫も、今は申し分のない家族と暮らしている。
ここでも、熱心な愛護センターの職員さんと、
3匹一緒に引き取ってくれた里親さんの、
冷静かつ適正な優しさが無ければ、今どうなっていただろうかと、
我ながら、ぞっとする。
しかし、我が家のおじさんも、危険なくらい優しい。
上記の一連にも、彼は文句も言わず付き合ってくれた。
おじさんは、いつだって、私の溢れる泉に脱力泳法で、ぷかぷか浮かんでいる。
クラゲのように。微笑みながら。
ただ、この男の優しさも危険だ。
というか、恐ろしいと感じる時がある。
私は、マドレーヌが大の好物な訳でない。
なのに、どういう訳か、男はこれでもかってくらい、
毎日毎日、私にマドレーヌを1個買って来た。
毎日マドレーヌ生活だ。
なんの健康法ですか?って思った。
思いながらも2週間食べ続けた結果、マドレーヌを見たくないとさえ思った。
これじゃ、心の健康が害される。
だから思い切って、男に言った。
「あのさ、毎日マドレーヌ1個あるじゃん?あたしさ、別に好きじゃないんだよね。
せっかく買いに行ってるなら、他のも買ってきてくれたらいいじゃん?」
男は、
「そうだったんですね。分かりました。」
と、微笑んで言ったが、その表情は寂しげだった。
そんな男を見て、私の胸はチクリと痛くなったが、ごめんねとは言えなかった。
ごめんって言えばよかった。
その日は、ずっと「ごめん」と心の中で連呼し続けた。
しかし、仕事から帰宅してみて「ごめん」が天高くぶっ飛んでいった。
「マドレーヌ、2個に増えとるやないかーーー!」
戦慄が走った。
しかしよく見れば、別の種類のマドレーヌだ。
でもマドレーヌだ。
そういうことじゃない!
そういうことじゃない!!
私は思わず、2度同じことを叫んだが、
まだ、このことを男には伝えていない。
更に、男の優しさが暴走する気がするからだ。
だから、このことも伝えていない・・・。
皆さんは覚えておられるだろうか
猫によって壁紙が剥がされた壁に、
おじさんは、こういう優しさを発揮してくれた。
この優しさが、今、
不意に見ると、ホラーに感じる状態に仕上がっている。
なんか、怖いよ~
べローンとしてて、無意識に見ると
「うわっ!」ってなるよ~。
たれ蔵、これは言った方がいいのかな?
たれ蔵「大丈夫、残りはボクがやっとくよ~」
君がさらに、剥がしてくれちゃうということだね・・・