うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

夏の虫

2022年07月30日 | 日記

不意に、ハッと閃いた。

まるで、虫の知らせみたいに、閃いたんだ。

 

金曜日は、燃えるゴミの日だ。

小さな運送会社だからといって、ゴミ出しの日までには、

パンパンに詰め込まれたゴミ袋が、3つは出来上がっている。

これが重いのだ。

午前8時半、空は青い、真っ青だ。

そこに浮かぶ雲は、白い油絵具を何層にも塗り重ねて、

丁寧に描かれた絵のように様になっている。

美しい朝だ。社内の窓から覗けば、まったく美しい朝だけれど、

外は、「あっつーーーー」

としか、言い表しようのない、暑い朝だった。

 

ゴミ収集場までは、100メートルもない。

100メートルは、平均150歩でたどり着けるという。

たった、150歩、されど150歩だ。

そんな朝、私はゴミ袋だけでなく、スマホも持って行くと決めた。

社内でゴミを纏めながら、不意に閃いたのだ。

「私は、これからチョウトンボに会える。」

そう閃いたから、この大荷物の中、スマホも持って社を出た。

 

チョウトンボとは名前通り、蝶々のような羽根をしたトンボだ。

ヤフーニュースに、その写真が載っていて、私はくぎ付けになった。

まるで、蝶の形をした黒蝶貝みたいに美しい。

羽根の色が、光によって、

虹色に煌めく海みたいだったり、星々が散りばめられた夜空みたいに見える。

まるで、小さな宇宙だ。

調べてみれば、それほど希少種でもないらしいが、

私は、チョウトンボに会ったという記憶は無い。

少なくとも、その存在を知らずに50年もぼけっと生きて来てしまった。

 

とにかく、まずは、100メートルだ。

ゴミを収集場に出すべく、150歩完歩しなければならない。

ゴム袋を3つぶら下げ、一歩踏み出すごとに、全身から汗が絞り出される。

会社の敷地から出ると、細い道路に沿って行く。

両脇には、休耕田が広がっている。

人の手の入らない休耕田は、様々な草が生い茂る野原のようだ。

目を凝らすと、紫色の小さな花も咲いていた。

見上げれば、空は相変わらず、青い。

栗の木には、緑の毬栗が生っていて、

花が咲いていない桜の木は、桜だなんて到底分からない。

「桜の木って、こんな葉をしていたのか」

鮮やか過ぎて、作り物みたいに見える葉が茂る枝の隙間には、

タコ糸で作られたみたいな、頑丈な蜘蛛の巣が見えた。

そろそろ、ジョロウグモが繁殖の準備をしている。

冬に見たイチョウは落葉し果て、まるで老人のような佇まいだったのに、

今では、無数の緑の蝶々が集っているように葉が茂り、若々しく見える。

「あっ?!」

そのイチョウの木のてっぺんから、ヒラヒラと黒い影が南へ飛んで行った。

「チョウトンボだ!」

私は、咄嗟にゴミ袋をその場に捨て置き、

スマホのカメラを起動させ、その影を追った。

ヒラヒラ優雅な羽根の動きに反して、早いスピードだ。

「さすが、トンボだ!」

トンボは、羽根の構造が、素晴らしくよく出来た虫だから早く飛べる。

さすが、トンボだ・・・さすが・・・・

撮影はおろか、影としてしか見ることが叶わなかった。

だけど、本当に会えたんだ。

 

私は、その日の前夜、虫を助けた。

部屋の天井近くの壁に張り付いている、1cmの虫だった。

私は、虫は好きだが触れない。

あの、夢にまで見たチョウトンボであっても、

目前に迫ってきたら、悲鳴を上げて一目散に逃げるだろう。

それくらい、好きだけれど、怖いんだ。

わざわざジェットコースターに乗って、

泣き喚き、少量ちびりながら、「いえーーーい」と言ってる人の心理と似ている気がする。

けれど、壁に固まる虫が哀れに思えた。

ここで、好きという感情が怖いを負かした訳だ。

私は決死の覚悟で、グラスで捕獲し、外に逃がしてやった。

その間、私はおそらく、ずっと無呼吸運動だったと思う。

これほど息をせずいられるのなら、

プールで50メートル息継ぎ無しで泳ぎ切れるのではないだろうか。

私は、息継ぎが苦手だからカナヅチになった訳だが、

今なら息継ぎ無しで、それなりの距離を泳ぎ切れる気がした。

本当に、虫をグラスに入れた、今なら・・・。

 

そして、その翌日の金曜日の朝、またしても我が家に入り込んだ虫を助けた。

今度は、2cmを超えるカナブンだ。

コロンとした2cmが、部屋の床にいる。

コロンとした2cmが、侵入できる隙間が、この家にあることに、

まず衝撃を受けた。

たしかに、数年前は、アオダイショウも侵入した。

かなり大きなアオダイショウだった。

窓に佇むアオダイショウを発見した時の、第一声は、

「かかかかかかかか、かっこいい」だった。

私は、爬虫類も大好きで、そしてやっぱり触れないのだけれど、

あの時は、アオダイショウの美しさに魅せられて、

つい、家中の隙間を探すことを、忘れていた。

アオダイショウが入れる家だもの。

そりゃ、2cmのカナブンなら、

手に手を取り合って2匹並んで楽々入れる隙間があるのだろう。

そのカナブンは、A4の書類の上に乗せて、外へ逃がしてやった。

なぜか、夜の1cmより、恐怖心が低かったのは、

カナブンが、コロンとしていたおかげだろう。

夜の1cmはスリムで、すばしっこそうだったから。

 

チョウトンボは、民家の塀の奥へと飛んで行った。

せっかく持って出たスマホでの撮影も出来なかった。

「でも、会えた。」

私は、来た道を戻りながら考えていた。

どうして、今日会えるって、さっき閃いたのだろう?

もしかして、あれは、

私が助けた2匹の虫が寄こした、虫の知らせだったのじゃないかしら。

 

これは妄想。

でも、今後も出来る限り、虫は助けておいて損はないかもしれないと、

浅ましく思った私であった。

さて、我が家ののん太が、おじさんに撮影されている。

のん太「なんら?おじさんめ、のんを見りゅな!」

 

のん太「ねえ、かかぁ。たちゅけて」

 

のん太「こいちゅめ、まだ見てりゅのか?!やっちゅけるぞ」

 

のん太「ねぇねぇ、かかぁ。のん、怖いら~」

この二重猫格、助けるべきなのだろうか?