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国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展

2012-10-08 10:21:38 | ART
昨日、かねてから気になっていた、19世紀後半のロシアを代表する画家イリヤ・レーピンの作品約80点が観られる、日本での初の本格的な回顧展のために、Bunkamura ザ・ミュージアムに行って参りました。

会期は2012/8/4(土)-10/8(月・祝)、ということで、滑り込み・・・。
この記事を読んでご興味をもたれた方には申し訳ないタイミングではありますが、その後巡回して
最後は神奈川で・・・ということですので、お許しください^^;。

浜松市美術館 2012年10月16日(火)~12月24日(月・祝)
姫路市立美術館 2013年2月16日(土)~3月30日(土)
神奈川県立近代美術館 葉山 2013年4月6日(土)~5月26日(日)[予定]


19世紀後半から20世紀初頭の混沌としたロシアを生きたイリヤ・レーピン(1844‐1930)。
地方の農家の出身ですが、19歳のときにサンクトぺテルブルクの美術学校で学び、その卓越した才能を開花させ、フランスへの留学資格を得、印象派の台頭を目の当たりにします。

帰国後、進歩的グループ「移動展派」に加わり初期の代表作、「ヴォルガの舟引き」など労働者をテーマに、活き活きとその人物と生活を活写した作品で注目を集め、人の内面までを写し出すリアリズムを持った肖像画の傑作の数々、重厚な歴史画などの作品で名声を得、美術アカデミーでも重鎮として活躍。
晩年のエピソードとして、高齢のため、一度は辞したアカデミー付属美術学校の講座が学生の嘆願によって復活したことなど(翌年には終了)年表を観ているだけでも、彼の人となりがほの見える感じがしました。

その一方で、フランスでマネなどの作品に新しい潮流を見てとり、そのエッセンスを組入れた家族をモデルにした軽やかな作品などもあり、卓越した技術をベースにした確かな画力と、その実験的な精神とがあいまって、この時代のロシアの雰囲気も感じ取ることが出来、大変に観ごたえのある展覧会でした。



愛妻ヴェーラの肖像。
ポーズをとるうちにうたたねしてしまった妻を起こさず、その様子を描いています^^
ちなみに実弟の青年期の肖像画もありましたが、音楽家となった彼の弟は、レ―ピンの妻ヴェーラの姉と結婚したのだそうです。
ちなみにヴェーラはレ―ピンが美大に入るにあたっての下宿先である建築家のお嬢さんだったとか。

妻と2人の小さな娘が、逆光でその輪郭が輝くように表現された、「あぜ道の散歩」という作品は日傘を持った夫人の姿、セーラー服姿の小さな子どもたちが愛らしく、ロシアの夏空の広がりが感じられる、清々しい作品で、とても心惹かれるものでした。
ちょっとモネの「ひなげし畑」に似た雰囲気で、フランス留学の影響が感じられたり・・・。

また、長命で晩年まで活躍した彼は、同時代にムソルグスキーをはじめとするロシア音楽の5人組や、レフ・トルストイとじかに接してその肖像画を描く、というロシア文化に興味のある人なら身を乗り出してしまうテーマも画題としており、ここも見どころ。



アルコール中毒で入院中の最晩年のムソルグスキー。
死の10日前?
全く美化することなく、乱れた髪もそのままに描いていますが、いかにも「はげ山の一夜」の作曲家という感じですね^^;

トルストイの大きな肖像は、あまり丹念に書き込まれておらず、初対面でそのオーラに圧倒されたという、その人物から受ける印象を大切に、印象が残っているうちに一気に仕上げた・・・という感じでした。


今回のコレクションは、モスクワの国立トレチャコフ美術館から選りすぐりのものが展示されている、ということでしたが、トレチャコフと言う人は、当時の紡績工場で巨富を得て、その財力で、音楽、絵画などの芸術のパトロンとなって、特に絵画はロシアの作家のコレクションを充実させた人。
彼への感謝の意をこめての、コレクションに囲まれた「トレチャコフの肖像」の展示もありました。
ちなみにこの私設で一般公開されていた美術館はトレチャコフ家によって市に寄贈。国立となってからはトレチャコフ・コレクションのうち、外国人画家の作品はプーシキン美術館やエルミタージュなどに移し、モスクワにあるこの美術館にはロシア人作家の作品だけを収集することにして、今は中世のイコンから始まるロシア美術の殿堂として収蔵品10万点を超える一大コレクションを収集しているそうです。
個人の趣味ではなく、時代の美術の潮流を正しく伝えるためのコレクションを心がけていたというトレチャコフの遺志がしっかりと受け継がれているようですね。

著名な文化人は勿論ですが、それ以外にも、当時の文化人のたまり場となった芸術サロンの女主人として社交界の華であった男爵夫人、5人組のロシア音楽に感銘を受け、その音楽を演奏によって広げようと活動していた美貌のドイツ人ピアニスト、新しい文化の潮流を旧弊な体制から毅然と保護する評論で支えた高名な評論家など・・・。
当時のロシア文化をそれを支える厚い文化人の層が存在したことが、肖像画に込められた当時の人々の面影からあますところなく伝わってきて、ロシアという国の懐の深さに感銘を受けた、趣の深い展覧会でした。

個人的には、4月から始めたロシア語学習の成果?で、額縁や素描に書き込まれたタイトルなどの一部が(キリル文字でしたが)読めたのがちょっと嬉しかったです^^



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