新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

時は流れて

2022-06-02 09:19:53 | コラム
コンビニエンスストアの苦境に見る時代の流れ:

先日の事だった。何気なく読んでいたPresident誌でファミリーマート社長・細見研介氏が増加する経費が経営を圧迫していると述べておられた。それは概ね「このストアの経営では終夜営業があるので電気代と人件費が自ずと嵩むし、何とかpay等による支払いが増加すれば手数料の負担が増加するし、仕入れ価格の上昇傾向も圧迫材料になる。そこに、ロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー問題から電力料金の上昇傾向が更なる悪材料となってきた」という事だった。

時代に遅れてしまった超後期高齢者としては、非常に広く普及しているようにしか見えない「何とかpay」とやらは「スマートフォンの普及により成長したものだろう」くらいの知識しかなかった。だが、そう聞かされて考えて見れば、決済代行業務であれば手数料が発生するのは当然だったのだと、漸く認識できたのだった。

この号だったかの記憶は定かではないがPresident誌では、あるエコノミストが賢いクレデイット・カードの利用法として「物皆上がるこの時期にはどんな少額の支払いでも躊躇わずにカードを使ってポイントを稼ぎ出して、特典を利用する事」を薦めていた。尤もであると思って読んだ。現金払いは希な事であるアメリカでは、カード払いは遍く普及しているし、私はスーパーマーケットで$3の買い物に小切手を切っていた老婦人を見た事があった。

私はコンビニエンスストアを滅多に利用しないのだが、偶に通販で購入した商品の支払いでは利用はしている。その際に何気なく確かめてみた限りでは、我が家の目の前にあるイオン系の食品に特化したスーパーマーケットと較べれば、明らかに10~15%ほど割高なので、何故、コンビニの存在を有り難がる人が多いのかと不思議に思っていた。

そして、細見社長の話を読んで「その割高の原因」が理解できたのだった。即ち、彼らはコストを商品代に転嫁せざるを得ないと言う事。コンビニエンスストアでもイオンのスーパーマーケットでも、カード払いをする人は偶にしか見かけないが、スマートフォンをかざして支払っている若い世代の人は多いと思う。要するに、時代はクレデイット・カード払いから、何とpayの時代に移行しつつあるのだ。

このクレデイット・カードの普及には思い出す事があった。それは80年代だったかと記憶するが我らの副社長が某商社の常務さんに「アメリカの信用膨張の経済の問題点」と題したプリゼンテーションを行った事があった。彼はいきなりwalletから数枚の銀行のカードとクレデイット・カードを抜き出してテーブルに並べて「これらのカードは頼んでもいないのに送られてきたのだ」と語った。そして「これぞアメリカの信用膨張の経済の典型的な例だ」と指摘した。

どういう事かといえば、副社長は「クレデイット・カードでは借り入れも可能だから、1社で借り入れて他社から借りて返済すれば回していけるのだが、これはカード所有者の資金力か資産が増えた訳ではない。銀行のカードも同様で、複数の支店からカードが送られてくるのだから、順繰りに使うか借り入れては返済して回しておけば良いので、当人の信用状況が勝手に膨張しているだけで、経済が成長した訳ではなくて膨張しているだけ。これは決して喜んではいられない信用の膨張に過ぎない」と説明した。

その頃だったと記憶するが、ある日突然にAMEXのアメリカと東京からほぼ同時に、頼んでもいないゴールドカードが送られてきた事があった。両社に「何故、申し込んでもいないにも拘わらず送ってきたのか」と問い合わせると「アメリカの有力な企業であるウエアーハウザーのマネージャーだから当然ゴールドカード保有の資格がある」と、自尊心をくすぐるような事を言ってきた。どちらか一方から来たカードを暫く持っていたが年会費が徒に高いし、会社がAMEXをCorporate cardに採用した際に返却した。

また我が友YM氏がスタンフォード大学のビジネススクールの教員だった10年ほど前に、AMEXから先ずプラチナカードが送られてきて、次にはそれよりも格が上とされているブラックカードも送られてきたそうだった。彼は両方とも申し込んでいなかったそうだった。アメリカのカードか会社の調査網がどれほど発達しているか知らないが、彼らはこのようなシステムで市場の拡大を図っているとあらためて解ったのだった。

私にはクレデイット・カード時代から「何とかpay」の時代に移行しつつあるのか、あるいは両者の同時進行かどうかなどは解るはずもないが、時代はドンドンとキャッシュレスとやらの方向に流れているのは間違いないと思って見ている。だが、少なくとも、我が国ではクレデイット・カード払いはアメリカのように普及せず、上記のアメリカのような「信用膨張の経済の時代」は来た事がなかったと思っている。