新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

私が内側に入って20年以上も経験したアメリカを語ろう #1

2023-01-03 14:16:24 | コラム
二進法的にしか物事を考えられない人たちなのだ:

 今年で私がアメリカの会社に転進してから51年も経ってしまったことになった。この機会に「私以外に誰が経験し、見ることが出来ていたかと言っても良いだろうと思うアメリカ」を、あらためて語って見ようと思う。そう自信を以て言う根拠は「私は外国人としてアメリカに接してこられた方々とは違って、飽くまでも彼等アメリカ人に極力同化して、彼らの一員として経験してきたアメリカを語れば、権威がある評論家、ジャーナリスト、学識経験者とは異なる実際の体験談になると信じているから」である。

アメリカ人のビジネスの世界に入って暫くして痛感させられたことがあった。それは「アメリカの管理職は何故あれほど簡単に即断即決するのか」だった。それは「この有望に見える事業部を何故これほどアッサリと決断して売却してしまうのか」であり「何故、この前途有望と見える若手の切れ者をバッサリと斬って捨てて“You are fired.”のように宣告出来るのか」のようなことである。

この背景にあるのが「彼らの二進法的思考体系で、自分たち経営陣が予め設定してあった基準を達成出来なかったとか、それに違反したのだから、その事業部を売却乃至はそこから撤退するし、馘首するのは当然である」と、何ら感情を交えずに簡単に決められるような思考体系の持ち主が経営しているのだということなのだ。そのような決定権を持つ者が下(シモ)は事業部長であり、上(カミ)はCEOなのだ。国家ならば大統領なのである。

思いつくままに実例を挙げてみれば、ウエアーハウザーが嘗てはアメリカ最大の紙おむつ(Paper diaper)のメーカーだった。だが、その大きな売上高の過半数がOEMだったと知ったCEOが激怒して、その場で売却処分を決め、実行したのだった。より私に近いところでは「我が事業部は牛乳パックとその原紙の両方を手がけていて、原紙は外部にも販売していた。だが、新任の事業部長は牛乳パックの市場占有率が40%に届く見込みが無いと判断した途端にパックの事業からの撤退を決め、アメリカ全土の6箇所にあった工場の閉鎖か売却を即決し実施した。

このような決断が恐ろしいとか凄いとか惨いとか考えるのは寧ろ日本的というか情緒的であると彼らは言う。彼らは予め「ここまで達成出来なかった場合にはこうする基準」か「この利益目標を決めてあったので、基準も目標も達成しなかったのであれば処分するとの規定に従っただけというのだ。

例えば、「この事業部のこの工場には総投下資本率15%を5年以内に達成出来なければ閉鎖」と決めて稼働を開始したのであれば、極端に言えば14.9%では閉鎖となってしまうのだ。これなどは即断即決では無く、ただ単に事前に設定してあった目標値を達成しなかったから閉鎖しただけで、冷たいとか非人情的であるというような見方は当たらないのだ。要するに「イエスかノーかしかしかない」のである。

このようにしか物事を考えられない国の人たちに向かって「両者の主張の中を取ってこういう妥協点は如何でしょうか」などと言っても受け入れる素地など無いのだ。彼らは「100ドルで売ると決めて我が国までやって来たのだから、我が方は90ドルを希望しているのだから95ドルで手を打ってくれ」などという交渉は通用しないのだ。彼らは「100ドルがイヤというのならば、他の100ドルで買うところに売るだけ」と言って引き上げていく、仮令そんな見込み先が無くても。

そういうのがアメリカ人だったということを、トランプ前大統領はイヤと言うほど示してくれていた。彼はアメリカの自動車産業が一敗血にまみれて輸入車かトヨタのような現地生産に依存する以外ないと知ってか知らずにか「日本は自動車の輸出を削減しろ」と無謀な要求を突きつけてUAW等の組合の労働者の機嫌を買おうとした。私は如何にトランプ氏が物を知らずとも、そんな無理無体を日本が受け入れる訳は無いと承知でも大統領としては要求する以外ないと判断したのだろうと読んでいた。

トランプ前大統領は南アメリカからの移民が合法であろうと非合法であろうと、アメリカの国益に反していると判断されたのだろうから、あの非難囂々のメキシコ国境の壁を建設すると打ち出されたのだと思って見ていた。国益に叶い、大統領に対する信頼度が上がり、再選への道が開けると判断出来れば、「やれ!」との大号令をかけるのは、不思議でも何でもないと思う。彼は大統領であり再選を狙っているのだから。

この妥協を許さず、二進法的に「イエスかノー」で判断して突き進むのが、白人というか西欧諸国の人たちの思考体系の基調をなしているのだと考えれば解りやすいと思う。時には我々には高飛車に聞こえ、強引であると、不快に感じることさえある彼らの交渉の態度は、非常に単純な二進法的思考体系にあると思えば、対処しやすくなると思う。彼らの頭ごなしの要求を素直に受け入れないで「ノーだ」と明確に意思を表示してから、あらためて討論というか交渉に進めば良いだけのことだ。

20数年間の実地の体験を語ればキリがないが、先ず「彼等アメリカ人とはここが違うのである」の一例として「二進法的思考体系」を取り上げた次第だ。彼らはいとも簡単に即断即決することもあるが、基本的には「こういう場合にはこのように処置する」と決めてあり、それに従って厳しいと見えることもある決定を下すものであると認識しておけば、彼らとの難しい交渉事で苦労せずに済むと思うのだ。

ここから先はまた実体験に基づいて、更に次回以降彼らとの違いを取り上げていこうと思っている次第。