新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

大学生の就職希望先の調査を見て思うこと

2023-01-20 08:20:31 | コラム
総合商社希望とは「我に七難八苦を与え給え」か、と思った:

去る18日に産経新聞社がワークス・ジャパンと調査した2024年卒業予定の大学生の就職希望先を調査した結果を発表していた。予想通りに文系の学生の総合では伊藤忠商事が第1位だったし、文系女子でも伊藤忠商事だった。私には最早商社の中のリクルーターたちの声を聞ける機会もないが、学生たちがどのような物の見方と、個人の希望と、会社という存在をどれほど理解し認識した上で、総合商社を選んだのか訊いてみたい気もする。

生産現場の勤務がある製造業の会社を希望しない学生が増えたという流れは、もう覆しようもない所まで来ていると認識しているが、「文系総合」の上位10業種には製造業は1社もなく、伊藤忠商事、住友商事、三菱商事、三井物産という順番で4社が入っていた。他には損保ジャパン、東京海上、アクセンチュア、みずほファイナンシャルグループ、博報堂、三菱UFJ銀行の順になっていた。

私に言わせて貰えば恐るべき現象は「理系総合」で、第1位がNTTデータ、3位が野村総研、8位がアクセンチュアと物を作っていない会社が占めていたこと。製造業の範疇に入るのは2位のソニーグループ、4位のトヨタ自動車、5位の富士フイルム、6位の富士通、7位のパナソニック、9位の日立製作所、10位の村製作所だった。残念と言うか当然というべきか知らぬが、100位までに製紙会社は発見出来なかったし、この点は「文系総合」でも同様だった。

これが時代の流れだと痛感させられたことは「理系総合」の13位に伊藤忠商事、27位に三菱商事、45位に三井物産、56位に住友商事が入っていたこと。これは、時代は商社という業種は右から左への売り繋ぎで済ましているのではなく、技術的な知識と経験がなければ新規プロジェクトを開発するとか、見込み客の技術面の相談役も出来なければならないことを示しているのだ。

商社は自社で製造した製品を販売するのではなく、多くの場合にはメーカーの代理店としてユーザーに販売するか、最終ユーザーの要求を正確に理解してメーカーに伝えて、需要(ニーズとも言うが)を間違いなく満たす製品を納入する責務を負うのだ。しかも、ユーザーが希望する価格は厳しく、同業他社との競合は熾烈を極める。

それだけではない、社内での生存競争などは製造業の会社の比ではない。高給取りという事は「それに見合う働きが出来なければ」どういう事になるかという事。私はその辺りを捉えて「学生たちは『我に七難八苦を与え給え』という山中鹿之助の境地を目指しているのか」と言ったのだ。

私自身が元はと言えば戦前の三井物産の第二会社から、旧国策パルプの商事部門となった会社で育てて頂いたので、商社の存在と仕事は多少理解しているつもりだが、21世紀の現在の総合商社の在り方は1950年代とは全く異なった業態になったのだろうと思ってみている。余り知ったかぶりをしてはならないと思うが、学生たちに認識しておいて欲しいことは「業績が良く成長を続け給料も高い会社」に勤務すれば、その厳しさは予想を遙かに上回るだろうという事。

総合商社論も兎も角、私が危機感を覚えるのは「製造業が不人気」である事なのだ。我が国はつい先頃までは技術的には世界の最高水準を行く国だったが、最早その影は薄れ、嘗ての後進国というか発展途上国に追い付かれ追い抜かれ、最早見る影もなくなった感が否めないのだ。そういう状態だからと言って、若手の技術者が入ってきてくれなければ、衰退の流れを止められなくなるだろう。

私はアメリカの製造業の中に入って痛感したことは「嘗ては大量生産による低コスト活かした大量販売」で世界最大の経済大国だったアメリカは「古く、小さく、遅い製造設備と世界的に見れば質の低い労働力を抱え、並み以下の品質の製品しか作り出せない国」になってしまっていた実態だった。

中国を筆頭に東南アジアの諸国、ブラジル等の南アメリカでは「新興国なるが故に製造業に進出すれば、世界最新で最高の水準にある生産設備を導入出来て、元々安価な労働力を活かす必要もなく、高品質で経済的な価格の製品を世界市場に送り込むこと」に成功したのである。

アメリカの衰退は嘗て批判された「製造業の空洞化」を見れば明らかだった。だが、アメリカはGAFAMで活路を開いた。しかしながら、我が国は「これから追いかけていく」準備段階にあるのかも知れない。

こんな事を論じ始めればキリがないが、理系というか技術者の待遇を改善し、世界最新の技術の研究開発が出来る態勢を整えない限り、製造業種の不人気の流れは断ちきれないと危惧している。