新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

1月16日 その2 ビジネスマンの服装学

2023-01-16 15:19:31 | コラム
私の「ビジネスマンの服装学」:

以下は15日に掲載した「アメリカの現場で学んだ服装学」を加筆訂正したものと思ってお読み頂ければ幸甚である。

私はアメリカの典型的な上流階級でありビジネスの世界を支配する階層の人たちの会社で22年以上を過ごしたので、彼らからその厳格な服装学を現場で学ぶ事が出来たという事。

今や今や忘れてはならない事は「アメリカのこれという企業では、最早管理職にまで生き残る為にはMBAは最低の条件であること」なのだ。それも、州立大学ではなく、授業料だけでも年間5~7万ドル(総額では年間に15万ドルにも達すするかも)にも達する東海岸ならばIvy Leagueで、西海岸に来ればスタンフォード大学や州立ではあるUCのバークレー校のビジネススクールの修士号でなければならない。という事即ち、それほどの四大から大学院までの高額な学費を負担出来る家庭の子弟しか企業の管理職から経営者にはなれないという事のようだ。

アメリカの大手企業の中で20年以上を過ごしたお陰で「ビジネスマンの服装学」を習得する事が出来たのは私にとっては僥倖だったかも知れない。我が国には「お洒落」と「服装学」は同じ事では、と見ている方もおられるかと思うが、実は全く別の事であると悟った次第だった。確かに、お洒落の要素は十分に入っているが、それと厳格な規範とは別個な事であると言った誤りではないだろう。

アメリカのビジネスの世界の仕来りを知らなかった転進した始めの頃は、ただ単に色彩感覚を豊富に取り入れるとか、ブランド物を着用するとか、ブランド品のロゴマークをひけらかす事がお洒落であり、一流のビジネスマンの証しになるのだろうと信じていた。それは、例えば近くに寄って見れば直ぐにそれと解る、高価なフランスのHermes(「エルメス」だが、アメリカの発音は「ハーミーズ」だ)の多色で細かい柄が入ったネクタイを愛用するような事。

では、いきなり?John Molloyが説いた「出世する服装」の決め事を覚えている限り書き出してみよう。先ず、「スーツから靴までは小物も含めて、同系色を一色と計算して、3色以内に収める事」から始まる。しかも、スーツの色は当然上下揃いで「紺」(=navy blue)か「濃灰」(=charcoal grey)に限定され、茶系統は遊び着の色であり、10着も正統なスーツを備えれば手を出しても良いと聞かされた。なお、「茶色」については別な意味があるので、別途説明しようと思う。

ワイシャツは「白」の無地のみが許されており、それもオックスフォードでボタンダウンである事なのだそうだ。縞柄(ストライプ)などを着用すれば「サンドイッチマンか」と揶揄される。しかし、週末などにキャジュアル(casualの発音は「カジュアル」ではないが)な寛いだ遊び着ならば色物も許される。ネクタイは3色以内の縛りに入る色しか締められなくなる。ここでも原則としては、ネクタイの表面にロゴマークなど見せてはならなくなる。

と言う事は「靴」は黒のみに限定されてしまう。そうなれば紐を結ぶ(lace up shoeと言うが)が基本になるが、私は着脱が面倒ではなくなる所謂「スリップオン」(Loafer)の靴を多用していた。ここまで来れば、靴下の色も完全に限定されて「黒」しかあり得ない。しかも、決め事はリブ織りなのである。これは実は楽な縛りで、靴下を買うときには「同じ物」を沢山買っておけば良くなるのだから。

決め事はここで終わりではないのだ。次に来る決まりは「スーツ」、「シャツ」、「ネクタイ」の何れか一つにしか「縞柄」を使えない事。この点だけには、アメリカの由緒正しきMBAの幹部たちの中にも守っていない者が散見される。だが、我が国の政治家、経営者、学者、所謂専門家等々のテレビに登場される方々は、アメリカにはこんな決め事があるとはご存じないようだ。即ち、ストライプ入りのスーツにネクタイでワイシャツは「おかしい」と看做されるのだ。

次はアクセサリー。既に指摘してあった事。仕事の場面に何でも石が付いたタイバー(「タイピン」というのは誤り)や「カフリンクス」(=カフスボタン)は罷り成らんとなっている。宝石付きは夜の正式な宴会の場のみであるべきだそうだ。この意味は「値が張る宝石類を見せびらかすのは田舎者」という事のようだ。私はタイバーが表に見えないように内側に着用していた。

アメリカ人の世界に入って不思議だった事は「スーツでもワイシャツでも名入り(personalizeというようだ)の習慣がない事。私はそうと知ってからは、スーツの裏地に名字かイニシャルを入れる事は止めた。だが、こうする事でかえって珍しい上着になってしまって、上着を脱いだ宴会の後などは「はい、名入りでないのは貴方」と直ぐに渡して貰えるようになった。また、「ポケットチーフ?」も必需品のようだ。

このような決め事というのか約束事があるので、アメリカの本部に出張するときは大変だった。私の在職中の1993年末まではトローリーケース(カタカナ語では「キャリーケース」)のような便利な製品が存在していなかったので、スーツケースの他に最低でも2着のスーツ、ブレザーに替えズボン、多数の洗濯に出さずに済むワイシャツ、下着等々に靴は2~3足入るガーメントバッグに加えて、必要な書類を詰め込んだブリーフケースを抱えて空港に赴くのだから。故に、空港でもホテルでも何処でも、荷物を運んでチップを貰うボーイという職業が成り立つのだ。

最後に、支配階層にいる幹部たちが週末や休日に外出する際の服装を簡単に語っておこう。これは上から“「濃紺のシングルブレストのブレザー」、「ブルー(青色)のシャツ」、ズボンは英語では「カーキ色」(=khaki)と呼ばれている色のチノパンか、灰色のグレーのズボン」”となるのだそうだ。このような色の合わせ方であれば、靴は黒とはいかなくなって茶色のローファーになる。運と崩そうと思えば思いきり高価な“tennis shoes”(=スニーカー)でも通用するか。

私はアメリカ行きの飛行機に搭乗する際は、このブレザーに替えズボンの形にしていたが、ジャケットはPoloのダブルのブレザーを着込んでいた。また、ネクタイは数本ほど持って行ってから、シアトルに着いて現地の顔馴染みになった紳士用品店で専門の店員に選んで貰って追加分を調達していた。余計な事かも知れないが、為替レートの悪戯でアメリカに行って買えばこの種の高級品は国内のほぼ半額で買えるのだ。

これでも、簡単に纏めたつもりなのだが。後年、ジョン・モロイの翻訳本を読んで、彼が言う決まりと私が現場で習い覚えた知識が殆ど合致していたので大いに安心したし「俺も捨てたものではなかった」と胸をなで下ろしていた。

なお、この服装学は何年か前にも紙パルプ業界の専門誌にも寄稿した事があったし、12年間も続けさせて貰えたSBS静岡放送のラジオでも語った事がある。それ故に、もしかすると「もう聞いた話だよ」と思われた方がおられるかも知れない。


所変われば品変わる

2023-01-16 07:49:07 | コラム
アメリカには「エルメス」はなかった:

アルファベットを使っているアメリカやヨーロッパの諸国では、我が国には独得のローマ字読みがあるのと同じで、その国独特の読み方があるので面白い。先日も我が国の紳士たちが尊重されるフランスのブランド“Hermes”(=エルメス)をアメリカではアッサリと英語読みで「ハーミーズ」となっている事を取り上げたばかりだった。言ってみれば「所変われば読み方も変わる」のである。

一般論として、アメリカ人たちは平気でアメリカ語式に読むのだから、“Christian Dior”は「クリスチャン・ディオーア」になってしまう。同様に“Gucci”を「グーシ」のようにいう人は多い。こういう調子だからRoppongi(六本木)は「ロッパンジ」になってしまうし、大坂なおみ(=Osaka Naomi)は「オサーカ・ネイオミ」になるし、「アイサオ・エイオキ」というプロゴルファーが存在したりするのだ。

なお、これは私が何度も取り上げてきた「“a”の発音に注意」の例であり、アメリカ語では多くの場合にローマ字読みのような「ア」ではなくて「エイ」になってしまう事を表している。

スペイン語というのかラテン系の名字であるHernadezは「エルナンデス」ではなく「ハーナンディズ」になるし、Fernandesは「ファナンディス」になっている。Gomezが「ゴームズ」となったりするのだ。阪神にいた「マルテ」(Marte)の場合は、MLBにいる同姓の選手は「マーティー」と呼ばれている。

私が最も気に入ったのがJesusという南アメリカ出身のサッカーの選手は、Jリーグに来れば「ジーザス」ではなくて「ヘスス」だったこと。キリスト教の国の人なのに「イエス様」を「ヘスス」というのが凄いと思わずにはいられなかった。実は、これはJesusをスペイン語読みにしただけの事だが。

英語の読み方しか知らないと、曲者なのが“j”や“g”や“h“の扱い方。スウエーデン人はJujo Paper(十條製紙)を「ユーヨー・ペーパー」と発音したし、スペインに行けば「非常口」の意味の“salida emergencia”は「サリダ・エメルヘンシア」と発音するのだった。ご存じの方は多いと思うが、“h”は「サイレント」になるから「エルメス」であり「エルナンデス」なのだ。

私が最も気に入らなかったのがJリーグのブラジル出身のDouglas選手が「ドウグラス」とよばれていたこと。ウエアーハウザーに永年在籍していた者にとっては到底認めがたい話で、我が社の主力である樹種のDouglas firを「ダグラス」ではなくて」「ドウグラス」というとは何事かと怒り心頭だった。そうかといって「ベイマツ選手」とする訳にも行かないだろうが。