新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

我が国の経済を外側から眺めると

2023-11-13 08:27:51 | コラム
何故世界第4位の経済大国になってしまったのだろう:

結論めいたことを先に述べておくと「責任は政治だけにあるのではなかろうという事で、経済界と経営を担う方々の奮起も促したい」のである。

先ずアメリカから見ていこう。アメリカでは若手の精鋭たちが成長発展を妨げるような条件ばかりが整ってしまった製造業の現状を見て将来に見切りをつけて、製造業を避けて物作りではないGAFAMの方向を目指していたとも思えないが、そうだったのだと推測して当たらずとも遠からずだと思っている。

彼らが職能別労働組合(Craft union)のありように見切りをつけていたかどうかは解らないが、組合という組織が労務費の高騰を招き、職能別の労組の欠陥がGAFAMを産み出す重要な要素だったのは間違いないと思う。

私が何故自信を持ってアメリカ式のCUが宜しくなかったと言うのは、外国人(日本人としても良いだろうが)として、あの組合の組織の実態に触れ、組合員たちと頻繁に接触して語りかけ、話し合ってきた経験があったからである。私が自信を持って言えることは「アメリカの会社側の者は滅多に労働組合員と交流しないが、私は言うなれば選ばれてある目的を持って彼らに接して来たこと」である。

それは昇進の競争などなく年功式に時間給が上がっていく組合の仕組みの中にいる者たちには、我が国の現場の人たちのような向上心と勉強する心掛けは一般的ではないのだ。そのような環境にいる者たちに向かって「技術の向上を心がけ品質を改良しよう。それが君らのjob securityに通じる」と、何度も説き聞かせて来たのだった。

何故そうしたかと言えば、国内だけにしか受け入れられず世界に通用する品質の紙を作り上げないことには、世界と日本の市場では生き残れないことが明らかだっただからだ。アメリカの「製造業」は品質的に世界の市場での競争力を失っていたので、現状のままで安閑としていれば将来がないと言い切れたのだ。具体的な例を挙げれば、自動車産業界、鉄鋼業界、繊維産業界があるではないか。

このような沈滞したアメリカ産業界の実情を語ると「紙パルプ産業界だけのことでは」と反論する方もおられた。だが、多くの産業が上記のように輸出市場で負けていたのは紛れもない事実だ。トランプ前大統領はその事実を認めようとしなかっただけのことだ。アメリカ全体の製造業、即ち「職能別労働組合」という宿痾を抱えていたのでは、競走能力を失わざるを得なかったのだ。嫌みを言えば「経営陣に有名私立大学のMBAの秀才が多いから良い」とはならなかったという事。

管理職の地位にある者が法的に保護されている組合を改革するとか、彼らを教育することなどあり得ないのが難しい点なのだ。私は組合員たちと頻繁に接触したので、外国人でありながら彼らの中には本当に英語も解らず、識字率も低いと承知するようになったので、このような問題点を取り上げて指摘するのだ。あの労働力の質では誰かが四六時中付き添って叱咤激励しないことには、中国・韓国や東南アジア等の新興勢力に負けるのは明らかだった。

我が国の問題点はこのように組合にはなく、古き良き製造業に産業界を何時までも牽引させた事があると見ているが、現実的には問題はそれだけではないと思っている。経営者たちが製造業の行く末に容易に見切りをつけきれず、何とか現状の創意工夫で乗り切ろうとしていた為ではないかと疑っている。

即ち、現状から離れずに革新的な新規産業を育てる方向に進まなかったのではなく、新規の「製造業ではない産業」を見いだせないままに失われた20年を過ごしてきたからではなかったのか。しかも、アメリカの労組では不可能で、優れて、均一の質が高い労働力を備えていたので、高価格になっても優れて質の高い製品を作り上げていた事が、かえって新機軸を産み出す事への思わぬ妨げになっていた感がある。

そこに、私が繰り返して引用してきた1990年代の若手たちが「そこまで言うのか」と思ったほど言いきっていたことは「現在の部課長(=団塊の世代)が役員になる頃には、我が社はお先真っ暗だ」と嘆いていた通りになってきたとしか思えないのだ。私と同年代の某社の元社長は現代の景気低迷の主たる要因に「経営者の劣化」があると指摘された。

極言すれば、上記のような状態が続けば、ドイツどころかインドにも負ける訳だと思えてしまうのが怖い。上記の悲観的な予測をしていた往年の若手たちは異口同音に「そう予告したでしょう」と言って嘆いている。だが、彼らに現状を立て直す気力も見えない気がするのは何故だろう。

今さら「GAFAMに志向したらどうか」などと言っても無意味だろう。全てが急速に変化し、新規の製品や事業が続々と現れてくる時代に即応できるような人物が牽引せねばならない時代だと思う。私には大前研一氏が指摘していた「技術者も営業職も同じ年に採用して同じように年功序列で昇進させ昇級させていく方式に拘泥していては、革新的で世界を驚かすような研究・開発をする技術者が現れることは望めないのでは」には一理も二理も、イヤそれ以上の理がある気がする。

BSフジの反町理が「TSMCが新工場建設予定地に熊本を選んだ理由が、人件費が安いからだと聞いたときには震えが来た」と語ったことも、我が国の経済沈滞の重大な要因を指し示していると思うのだ。第4位に沈んだ責任は勿論政治だけにあるのではないと見ている。経済界と経営担当者の奮起と、無数にある極小企業を何とかする必要もあるのではないのか。