古き良き時代を偲ばせる古典的な指導者を目指しているのか:
読売ジャイアンツの阿部慎之助は二軍監督(だったと思うが)に任命されたときに先ずやったことはと言えば、所謂「千本ノック」式な猛練習と、ミスをした者に罰走を課したことだと報じられていた。昭和30年代に最も遍く実施されていた「絞る」型の練習法である。この方式は嘗てかの長嶋茂雄氏が静岡県の伊東にキャンプを張って、巨人軍を徹底的に鍛え上げたときの歴史的な練習法である。
その成果は目覚ましく、長嶋ジャイアンツには光り輝く黄金時代が到来した。現在のようなウエイトトレーニングなど影も形もなく、アメリカ仕込みのトレーナーが各選手の身体能力に合わせた体幹や体力の強化のメニューを作り出して、自発的に自らを鍛えてくるようにすることなど、誰も夢想もしていなかった。だが、21世紀の現在に、これらの科学的且つ合理的な練習法を取り入れていない集団はあるまい。
また、フットボールのように細分化されたポジション別のコーチが、綿密に緻密に選手たちを指導するようになり、数多くの分野の専門のコーチが存在するようになってきた。これが時代の流れであり、自然な現象だと認識している。
だが、阿部慎之助新監督は早速秋季キャンプを張られて、監督自らが手取り足取りで打者たちにバッテイングの指導をしたと報道されていた。私は記者さんたちが認識不足で「NPBの野球では監督(アメリカには「ヘッドコーチ」という名称が普通だが)がコーチを差し置いて実技の指導をも為さるものだと思い込んでいる」のか、阿部新監督は「自分が育った時代の指導法から未だに離れられていないのか」の何れかなと思ってみていた。
長嶋茂雄氏は病に倒れられた後でも、「グラウンドに登場されては、将来有望な若手のバッテイングの指導をされた」と何度も何度も報じられていた。熱心に指導されようとの熱意は解らないでもないが、球団はそれなりにそれ専門の打撃のコーチを任命してあるのだ。そこに過去の名選手が現れて、古式豊かな指導法で介入されて、良い結果に結びつくのだろうか。23年のジャイアンツは好成績を収めていただろうか。
阿部慎之助新監督はもしかして「新コーチ陣は球団側が決めたことであり、自分の意志ではない」などと言うのかも知れない。だが、監督たる者は選手の指導は細分化して任命したコーチらに任せて、自分はゆったりとベンチに座って選手たちがコーチ陣の指導宜しく上達する様を見守って、来季の布陣の構想でも練って楽しんでいれば良いのではないか。私は監督がノックをしているのでも時代錯誤の越権行為だと思うが。
話は少し違うようなことを言うと、「レイトヒット」の反則で物議を醸して、一時は下部リーグに落ちた日大フェニックスを立て直して、就任3年目に甲子園ボウル出場を果たした橋詰前監督の専門分野は「オフェンス」であり「ディフェンス」の指導者ではなかったのだ。だが、そのアメリカコーチ留学等の豊富な経験を活かした監督として、フェニックスを短時日で復活させたのだ。
ここで強調することは「監督には監督が担うべき特殊な専門の分野の任務と仕事がある。選手指導の担当者ではない」という点だ。それが近代の指導法の特徴である。故に、阿部慎之助も監督の任務のみに専念した方が宜しいのではないのかという事。